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クレジット
タイトル: SCP-791-JP - 善きことのため
著者: stengan774 stengan774 ,terukami terukami
作成年: 2025
SCP-791-JP [画像検閲済]
アイテム番号: SCP-791-JP
オブジェクトクラス: Euclid Neutralized
特別収容プロトコル: SCP-791-JPの残骸はサイト-8141の専用保管室で冷凍保存されます。SCP-791-JPから取得された映像の記録については、現在新たに進行中の作戦行動に関連する事由から閲覧制限が設けられています。閲覧の際には適切な専用クリアランスの下、サイト-8141のRAISA分室から請求を行ってください。
説明: SCP-791-JPは頭部がブラウン管型テレビモニターへと置換されている人型実体です。外見は多くの点で男性的特徴を有し、体長170cm前後の身体に紺色のスーツを着用しています。
SCP-791-JPの頭部モニターは不明な送信元を起源とする映像を常時映し続けており、モニターに付属するスイッチやツマミの操作、SCP-791-JP周囲の電波遮断などによりこの映像を停止する試みは現在まで成功していません。
映像は"帝国"とのみ呼称される不明な国家に関連したニュースを伝えており、多くの場合全体主義的な国家体制の強調、各種生産活動の躍進、最前線における帝国軍の華々しい勝利などといったプロパガンダ放送と思しき内容がその大半を占めています。特筆すべき点として、これらには帝国の指導者もしくは象徴と推測される"光芒"なる存在に対する賛美、"宵の国"あるいは"夜"と呼ばれる何者かへの侮蔑・敵意に関する言及が頻繁に確認されました。
多くの場合SCP-791-JPの頭部モニターは上記の映像を周期的にループ再生していますが、不定期にSCP-791-JPはこのサイクルから逸脱した映像を流し始める場合があります。この状態はSCP-791-JP特異性の"活性化"と定義されています。
SCP-791-JPによって映し出された██研究員の顔。歪みが確認できる。
活性化状態となったSCP-791-JPは、しばしば「無数の歯車が軋むような」と形容される過剰に不快な研削・摩擦・機械音を発し続けるとともに、ランダムな個人の顔を自身の頭部モニターへと歪んだ形で映し出します。
この個人が選定されるプロセスは判明しておらず、過去の事例においては最小範囲でサイト-8141のSCP-791-JP収容室にほど近いオフィスにて勤務していた██研究員が、最大ではサイト-8141から24km離れた民家に居住していたSCP-791-JPと何ら関連を持たない一般人が選ばれています。
SCP-791-JPを視認できる範囲の人物はこの活性化とほぼ同時に、モニターへと表示された人物に対する唐突かつ不合理な憎悪の感情を抱き始めます。曝露者の反応は対象人物への正当性のない非難・怒りから始まり、多くの場合は暴力的な手段により対象人物を排除する試みにまで発展します。
財団心理学研究者のダニエル・ウォーヴェ教授の分析によれば、こうした曝露者の一連の行動には異常な強制力が存在していると推測されており、曝露による対照実験からSCP-791-JPの特異性が作用しにくい人物の特徴を探り出すことを目的とした研究が進行しています。
活性化中のSCP-791-JPは曝露者たちに対し扇動者のように振る舞うことで、積極的に周囲へと破壊と混乱を引き起こすことを希望し、それを動機として行動していると考えられています。この被害は曝露者数が増加するに従ってより甚大なものとなっていきますが、過去の事例から全ての曝露者をSCP-791-JPから隔離することで時間経過によるSCP-791-JPの自発的な活性化状態の終了と曝露者の回復が可能であると判明しており、収容違反時の対処プロトコルの一部に組み込まれています。
補遺1: 標準的な人間の頭部が存在しないという点からは不可解なことに、活性化時の行動からSCP-791-JPが何らかの方法で視覚・聴覚的な外部の状況把握と発声を実行可能であるような様子を見せます。その点が注目されSCP-791-JPに対して背景情報の把握を目的とした対話の試みが数度に渡って行われました。以下はSCP-791-JPへのインタビュー記録です。
インタビュー記録791-JP-1
Record 19██/██/██
回答者: SCP-791-JP(以下対象)
質問者: 遠部博士
序: 本聴取はインタビュー人員の特異性曝露リスクを最小限とするため、収容室内と別室を繋ぐ有線の音声通信機器を設置した上で、非活性化状態のSCP-791-JPを対象として行われた。
[記録開始]
遠部博士: それではインタビューを開始します。SCP-791-JP、これが聞こえるのであれば応答してください。
[監視カメラ映像: 対象は俯いたまま反応を示さない。十数秒間の沈黙]
遠部博士: もう一度言います。SCP-791-JP、これが聞こえるのであれば応答してください。これはあなただけに呼びかけています。
対象: ......気に食わない呼び名だ。
遠部博士: 呼びかけが理解できるのですね? 初めまして、私は遠部陽一郎という者です。今日はあなたに少し、お話を伺いたいと思っています。望むのであれば好きな名前でお呼びしますよ。
対象: 語らうに姿を見せないのがこの地での礼儀か。
遠部博士: あなたの特異な性質による被害を避けるための措置です、相互の安全を確保するためとご理解いただきたい。そちら側に特段の問題がなければ、我々は現在の状態での対話を継続します。
対象: 構わない。こちらの私に元より裁量の権など無い。あちらに許される限りであれば、貴君らの問いにはすべて答えよう。
遠部博士: その"あちら"、"こちら"とは何を指していますか?
対象: [ノイズ交じりの電子音で]『彼の岸を見よ。光は夜の向こうで輝いている』。
遠部博士: 私の質問に対する適切な答えとは言えませんね。
対象: 『万物を透き通す光源は閉じた瞼の裏さえ灼く』。
遠部博士: 話題を変えましょうか。あなたは自身の能力により周囲の人間を扇動し、度々暴動を起こしています。ご存じかとは思いますが、我々があなたをここに収容する以前からです。あなたの行動の目的を教えていただけますか?
対象: 望んでそうしているとでも言いたげだが、既に述べたはずだ、私に私の行動を裁量することはできない。かの憎むべき光翼が魂に射し込んだあの日よりな。
遠部博士: "あの日"について詳しく話してください。
対象: 了承しよう。語るべきことはそう多くない。1つの国があった。個としての存在を厭い、一糸乱れぬ規律と屈従をのみ求める国が。
遠部博士: それが"帝国"ですか?
対象: [沈黙] その後方には、限りない発展の下で築かれた犠牲の山があった。故に私はこの有様について学者として具申し、志を同じくする一党とともに声高に咎めたのだ、このようなCobelに反する方策は誤っていると。しかし彼らは、ただ圧殺と暴虐のみによってその声に報いた。
遠部博士: 彼らは一体何を?
対象: 反乱分子への矯正だ。獄に囚われ責め苦を受ける、それ自体は当然予期されていたことだった。元より同志は確固たる信念をもって臨んでいる。例え幾度となく爪を剥がれ打擲されようと、例え英知の結実たる書物の尽くを焚かれようと、死を以て他に我らの屈従を引き出すことなど出来はしないとな。だが、彼らは肉体を責めなどしなかった。一指をも用いず、最も恐るるべき方法で、我々の魂をその光によって犯したのだ。
遠部博士: 魂とは何を指すのですか?
対象: 『光芒の繁栄よ永久たれ。帝国の陽射に翳り無し』。
遠部博士: 何と?
対象: 比喩などではない。それは"魂"だ。
[以降、明確な回答なし]
[記録終了]
インタビュー記録791-JP‐6
Record 19██/██/██
回答者: SCP-791-JP(以下対象)
質問者: 遠部博士
序: 聴取状況は第1回と同一。
[記録開始]
遠部博士: こんにちは、SCP-791-JP。
対象: ああ、良い日和だ。暫時間隔が空いたようだが。
遠部博士: ええ。前回も前々回もそのまた前も......いつも肝心な部分は煙に巻かれていますからね。私の方でも1つ考えたことがありまして。
対象: そうか。何にせよそう長く放置してくれるな。博士とこうして言葉を交わすのは、私にとって少なからず慰みなのだ。
遠部博士: では、本日もいくつか質問をさせてもらいます。"帝国"という国家について、知りうる限りの全てを教えてください。
対象: 『条となり光は分かれ、それぞれの領域を己の色で染める』。
遠部博士: ......やはり同様か、仮説に確証が持てました。あなたは核心的な問いには答えられないのですね。恐らくは第三者によって、検閲のような形で発言にロックが掛けられている。それを裁量しているのが"あちら"ということでしょうか。
対象: 『思考を捨て、我らが意思を受け入れよ』。
遠部博士: あるいは、発言だけではなく思考そのものが妨害されているのでしょうか。確かにそれは恐れるべきことだ。学者として己の思慮に誇りを持っているならば、なおさら。だからあえて制限に抵触しない迂遠な表現をしていたのですか?
対象: 『陽光は最も強い星の光さえ搔き消す』。
遠部博士: 答えられないのであれば構いません。SCP-791-JP、あなたのやり方であなたが置かれている状況について説明してください。
対象: [沈黙] そうだな。博士、国家にとって最も確実な監視方法をご存じか? 頭上に広がる天蓋からも、足元に横たわる大地からも、忠実な臣民たちの目からも逃れ、良からぬことを為そうとする者を見張る方法を?
遠部博士: いいえ、存じ上げません。
対象: 簡単なことだ。他の誰が与り知らずとも、その者自身は常に己の考えを知っている。
遠部博士: 似たような言葉はこちらにもあります。天知る地知る人知る......そして、我知る。
対象: そうだ。ある者の思想を見張るなら、その者の中に見張りを
[監視カメラ記録: 対象の頭部モニターから流れるプロパガンダ放送の音量が上がる]
遠部博士: どうしました?
対象: もういい、やめろ。私はもう何も求めない。だから。
[監視カメラ記録: 対象はよろめきながら立ち上がり、壁に頭部を擦り付けるようにして蹲る]
[放送の音量は変化しない]
[記録終了]
遠部博士は第6回までのインタビューで得られた情報から、SCP-791-JPがかつて所属していた国家から思想犯として弾圧されたこと、そしてその刑罰の一環として当該オブジェクトが基底現実へと送られた可能性を指摘しました。"帝国"とのみ呼称されるその国家についてはSCP-791-JPの頭部モニターの映像から情報が得られつつありますが、合意上の歴史において完全に一致する特徴を示す政体は確認されていません。
"帝国"を構成する複数の異常なイデオロギー及び文化は、現行人類の存続に対しきわめて有害であると判断されています。将来的に財団が何らかの形で"帝国"と接触することを見据え、当該国家に関する他のアノマリーの捜索とSCP-791-JPから取得されるプロパガンダ映像をもとにしたオープンソース・インテリジェンス(OSINT)的調査を行うことが決議されました。取得済みの映像はサイト-8141のRAISA分室に複製・保管されています。
補遺2: 19██/██/██、SCP-791-JPは突如として前例の無い形で特異性を活性化させました。適切な防護措置を取っていたにもかかわらず複数の職員がSCP-791-JPのものと同様の異常な扇動効果を受けはじめ、サイト-8141管理官を標的として襲撃を開始しました。さらにSCP-791-JPが管理システムを財団の制御下から奪取した影響で、付随する多数の収容違反が記録されています。
当インシデントはサイト管理スタッフを含む██名の犠牲者が発生する事態となりましたが、現場に居合わせたエージェント・アオによるSCP-791-JPへの攻撃とサイト-8141保安職員の尽力により比較的短時間で収束しました。また収束の過程で頭部を破損したSCP-791-JPはいかなる点においても活動を示さなくなったため、標準の無力化判定予備期間の経過後にNeutralizedに再分類されました。
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SCP-791-JP 関連陳述記録-A
Record 19██/██/██
証言者: エージェント・アオ
ああ。確かに私がSCP-791-JPを無力化した。
その時、奴は曝露者に囲まれながら廊下を行進していた。確か『万物の身命、その一切合財は全てかの御在人に帰す』みたいなことを喚いていたと思う。ザラザラで歪んだ声だったから聞き取りづらかったが、サイト中に警報が鳴り響く中でも不思議とその声はよく通っていた。
厄介なことに、活性化中の奴に近寄った者は曝露者としてお仲間入りをしてしまう。管理システムが掌握されている状況で再収容が望めない以上、誰かが奴を無力化する必要があった。迷っている分だけ被害が増大することは分かっていた。
私がその役目を任されたのは、事前にウォーヴェ教授の心理テストを受けていたからだ。奴の特異性には何らかの抜け道がある......そのことは、初期収容の際に奴に扇動されなかった一般人がいたことからわかっていた。彼らの精神構造的共通点を分析して新たに考案された専用の試験で、私はそれなりの点数を記録した。どれだけの霊験があるのかは未知数だったが、何かに縋って賭けるしかなかった。
結論、作戦は首尾よく運んだ。曝露者の群れの隙をついて駆け寄り、銃で撃つ。銃弾は確かに奴の頭のモニターを叩き割った。奴は仰向けに廊下へ倒れ、その途端に扇動されていた連中も動きを止めた。私は尚も銃を構えながら、奴が死んでいることを確かめようとモニターを覗き込んだ。
その中には、巨大な目玉があった。ボウリング玉くらいのそれが、ギョロリとこちらに瞳を向けた。
『眼を見開け。世界を視認せよ、秘匿する者どもよ』とそいつは言った。SCP-791-JPのスピーカーを通して、中のそいつが言ったと何故か直感できた。『支配を恐れるな』と奴が続けた時、私は我に返って弾倉のありったけをその目玉にぶち込んだ。だが、微塵になるまでにそいつの最後の言葉は耳に届いた。
『諸君等は必ず、我らに迎え入れられるのだから』と。
SCP-791-JP 関連陳述記録-B
Record 19██/██/██
証言者: 遠部博士
私は、SCP-791-JPが基底現実へ偶然流れ着いたのだと思い込んでいました。国家は彼の思想を異常な方法で矯正し、その上で追放刑としたのだと。
しかし、「罪人を国の外へ送る」という行動には別の意味を見出すこともできます。国家にとっての悪を善きことのために再利用する方法です。先住民を淘汰した流刑者によってオーストラリアが開拓されたように。かの悪名高き第36SS武装擲弾兵師団が軍規違反者と犯罪者で構成された囚人部隊であったように。そして我々財団が、Dクラスに記録装置を持たせて異空間へと送り込むように。
思えばSCP-791-JPは確かに示していました。自分の中に自分を監視する見張りが居ると。それは私が考えたように特定の発言をロックしていたのではなく、リアルタイムでその内容を検閲し、割り込んでいた。そして......我々がSCP-791-JPを試験している間、それもまた我々の技術力を値踏みしていたのです。我々が少しでも多くの情報を得ようとモニターを覗き込んでいた間、それもまた我々を覗き見ていたのです。
幸か不幸か、我々は既に彼らが善しとするあり方を垣間見ました。思想・思考の統一に基づく過剰なまでの全体主義。彼らの価値観にとって非合理的で、野蛮で、未開なこの世界は、だからこそ征服し併合するに値するのでしょう。
もはや避けることはできません。あとはいかに抗うかではないでしょうか、新サイト管理官殿。