3/2637-JP LEVEL 3/2637-JP
CLASSIFIED
classified-lv3.pngItem #: SCP-2637-JP
Object Class: Euclid
PoI-4056-2637
特別収容プロトコル
2021年以降は、多次元通信部門とPoI-4056-2637との間で交わされる1ヶ月に一度の定期連絡をもって、SCP-2637-JPの収容に替えます。2024年01月08日時点での担当責任者はR.オーヴニル博士となっています。PoI-4056-2637は現在の収容体制の継続に賛同しており、彼女が基底次元ならびに近隣の次元に出現した際に、収容担当者へ自動的に通知が送られることに同意しています。
PoI-4056-2637は定期連絡時に以下の情報を収容チームへ提供します。
- 自身が調査した他の次元の情報。内容は当人の裁量による。基底次元から一定以上の距離を有するものに限る。
- 1ヶ月にわたり記録された自身の体表ヒューム変動のモニター結果。
収容チームはPoI-4056-2637からもたらされる情報の誤りを確認するために、当該次元の調査を行います。また、基底次元および近隣の次元におけるヒューム素次元コード(Hedc)の配列変動をモニターし、PoI-4056-2637のヒューム変動と連動したHedc改変の検索を行います。これは部門としての平常業務内容に統合されています。
説明
SCP-2637-JPは、PoI-4056-2637が不特定の次元の内包物をテーマとして行ったプレゼンテーションが成立した時、それに付帯して生じる現実改変です。SCP-2637-JPが発生した際、PoI-4056-2637の体表を起点として体内へと収束する現実濃度の変動が観測されます。他方、プレゼンテーションに用いられた次元内の特定地点より、放射同心円状に拡大する現実濃度変動が観察されます。
SCP-2637-JPによる現実改変は、対象となる次元のヒューム素次元コード(Hedc)配列の一部を変動させる形で表出し、しばしばSCP-3543-JPの出現を伴います。SCP-2637-JPの発生の結果として、PoI-4056-2637が事前に行ったプレゼンテーション内容の一部あるいは全部が改変後の事実に反するものとなります。なお、現在確認されているPoIの経歴からは、SCP-2637-JPはPoI-4056-2637が現在滞在している次元を対象に発生することは無いと推測されています。
PoI-4056-2637自身は、現実濃度の変動を伴うことなく、基底次元からの消失と再出現を任意で可能としています。しかしこのプロセスにSCP-2637-JPは関与していないことが確認されています。PoI自身の供述によれば、この能力は本人が所持している"図書館"由来のデバイスに依拠するとされています。現在まで財団はこのデバイスの入手、観察、および機能の制御には成功していません。
交流記録
PoI-4056-2637が財団と邂逅したのは2019年であり、当時の対象はサンフランシスコに現れ、住民に対し街頭での聞き込みを行なっていました。しかしその内容は「サンフランシスコを直近で襲った津波の被害」に関するものであり、当時サンフランシスコにおいてそのような災害は発生していませんでした。聞き込み調査を不審に思った現地住民から警察への通報があり、これを傍受したサイト-19所属のエージェント・キーランがサンフランシスコ市警に代わってPoI-4056-2637と接触することに成功しました。以下はエージェント・キーランが記録した、両者の会話の音声記録の書き起こしです。
Record - PoI-4056-2637-1
第1回交流記録
担当者: エージェント・キーラン
補足: キーランはサンフランシスコ市警の警官を偽証している。
《記録開始》
PoI-4056-2637: よろしくお願いします。それでは、貴方もサンフランシスコの津波被害については存じ上げないということですか?
キーラン: 取り調べの警官にむけて逆に聞き込みしてくる奴があるか。サンフランシスコにいつ津波が起こったというんだ?
PoI-4056-2637: 2日前です。太平洋で発生した地震の余波が届いたのです。初期の緊急体制が少し和らいで、記者が入れるようになったので現場に向かいました。
キーラン: すると、貴女は記者なのか?
PoI-4056-2637: はい。KCBS-TVでニュースに携わっています、アリアドーナ・カサンドラと申します。こちらを見ていただければ。
[このとき、PoI-4056-2637が手持ちの社員証をキーランに見せる。キーランはそれを写真に記録する。KCBS-TVに同名の職員は在籍しておらず、職員番号も存在しない]
キーラン: これは記録しておこう。その後、現場で貴女は何をしていたのか?
PoI-4056-2637: 職務上の取材、調査です。まだ現場の被害は色濃く残っていましたので、それを写真に収めて、周辺に聞き込みへ向かいました。まだ人々の不安は大きく、私たちが率先して恐れの除去も行わないといけないと考えていました。写真はまだ私の手元にありますが、ご覧になりますか?
キーラン: 見せてもらえるのならありがたい。......これも記録だ。存在しない津波の記録が写真で残っているのは立派な物的証拠になるな。
[PoI-4056-2637が提示したカメラ記録には津波の被害を受けた集落が映っているが、後日照会したところカリフォルニアの海岸沿いに写真と同様の集落は見つからなかった]
PoI-4056-2637: 避難所で聞き込みを続けているうち、ふと気がつくと周りの景色が急に綺麗になっていました。崩れた建物は消え、何事もなかったかのような日常がありました。周りの人に何があったのか聞きましたが、誰も津波のことを把握していないようで、そのうちにこうして貴方と話すことになったのです。
キーラン: 大体の流れはわかった。もう少し聞きたいことがあるので、申し訳ないが私に同行してもらえないか。
PoI-4056-2637: ええ、仕方がありません。いま貴方と別れても、多分行くあてがないでしょうから。
キーラン: なぜ?
PoI-4056-2637: こういった現象があるということは、私も小耳に挟んだことがあるからです。貴方は財団という組織について知っていますか?
キーラン: いや。
PoI-4056-2637: それなら、いいです。私の父親は財団に勤めていて。父がどういった業務をしているかは部外者の私には教えてもらえませんが、それでも漏れ聞こえるものはあります。現実世界から離れた場所に急に移動させられることもあると言います。多分、今の私のように。
キーラン: ......貴女の父についてもあとで詳しく説明してもらおう。だが先に名前だけはお聞かせ願いたい。
PoI-4056-2637: 父はチャールズ・ギアーズという名です。ロサンゼルスで私の退勤を待っているはずですが、しばらくは会えそうにありませんね。
[このとき、エージェント・キーランが持っていたカント計測器に小規模なヒューム変動が記録される。PoI-4056-2637の体表から体内へ向けて指向された現実素子の流動が認められたが、外部にはヒューム変動がみられない]
キーラン: ......大変申し訳ないが、おそらくそうなるだろう。ご協力感謝する。
《記録終了》
エージェント・キーランにより身柄を確保されたPoI-4056-2637は、サイト-19に移送され、P-D/U-漂着イベント対処・収容プロトコルに基づいた初期調査がなされました。PoI-4056-2637が次元転移者であることは確定しましたが、その成因に関する情報は発見されませんでした。キーランが観測したヒューム変動が基底次元にもたらした影響は同定されませんでした。現在の仮説では、PoI-4056-2637の初回の次元移動は、SCP-2637-JPとは関連のない現象で生成されたSCP-3543-JP-3bが関与したものとされています。
PoI-4056-2637は初期収容の5日後にサイト-19から消失しました。収容室の出入りはなく、収容室内にヒューム変動も観測されませんでした。しかし、PoIとは別の不審な人物が瞬時に出現し、PoIを連れて即時に消失することで部屋を離脱していた記録が室内の監視カメラに残されています。
次にPoI-4056-2637が基底次元に出現したのは1年後、2020/██/██でした。サイト-19の多次元通信部門の局長室に直接出現した彼女は、「自身の父親の救出」を主題として、勤務していたオーヴニル博士に談話を要請しました。保安部隊が局長室に向かうも、PoIは瞬間的な消失と出現を繰り返して保安部隊の追走から逃れ、身柄の確保に成功しませんでした。オーヴニル博士が局長室から退出してからもPoIは博士の自室内部に出現し続けて対話を迫ったため、オーヴニル博士はこれを承諾し、以下の音声記録を残しました。
Record - PoI-4056-2637-2
第2回交流記録
担当者: サイト-19 多次元通信部門局長 オーヴニル博士
《記録開始》
オーヴニル: アリアドーナ・カサンドラ。5時間もぶっ通しで私のシャワールームに張り付き続けるのは見上げたジャーナリスト根性だ。君の存在は我々財団の警備システム全てを無に帰している。我々にもプライベートというものは存在するのだよ。
PoI-4056-2637: ドクター・オーヴニル、ことを荒立てた非礼をお詫びします。私は多次元通信部門に依頼をするために貴方のもとを訪れました。
オーヴニル: どこで私の名を聞いたのか?
PoI-4056-2637: 私の同僚からです。いや、テレビ局のではありません。私と志を同じくする、各自の肉親の捜索を行う互助団体の同僚です。
オーヴニル: そういうことだろうと思った。君が所属しているであろう団体の活動は我々もわずかなら把握している。チャールズ・ギアーズ管理官なら不在だが、君の狙いは彼ではないのだろう?
PoI-4056-2637: アリソンには不在だと伝えなければなりませんね。彼女には彼女の父がいて、そして私には私の父がいます。貴方は私の父に関する情報を持っているのではないでしょうか?
オーヴニル: 君がいた次元に対する調査はすでに始めている。君の父は君の時間でいう2019/██/██、ちょうど君がこの次元に来ていたときに忽然と姿を消した。君の自宅に荒らされた形跡はなく、ただ君の父だけが失踪したと伝わっている。合っているかな?
PoI-4056-2637: さすが、よくご存知で。父は次元に留め置かれませんでした。世界の枠組みの外へと出ていき、私の前から消え去りました。私がここに閉じ込められていた間にそのようなことが起こっていたのは、私にとって途方もなくショックだったのです。アリソンも、もう少し早く私を見つけていてくれたらよかったのに......。
オーヴニル: 気に障ったようであれば申し訳ない。我々としてもこのような現象は初めて経験するのだ。我々が君をこの世界に留め置いていたことと、君の父の失踪がどのように関連しているのか。解明されなければならない謎だ。
PoI-4056-2637: 同僚とも相談はしたのですが、私たちだけが有する知識量、情報量には限度があります。私と直接関係したこの次元の協力を得なければ、父は見つからないでしょう。それが私が今日ここに押しかけた目的です。
オーヴニル: そのためには対価を求めなければならない。我々の目標は君の収容であり、君が持つ次元移動能力の解明であり、君の有するヒューム変動の意味を確かめることである。貴女にはそれへの協力を求めたい。
PoI-4056-2637: 全面的には賛同できません。私にはこの世界の他でもやらなければならない仕事がありますし、帰りを待つ同僚もいます。私の身柄を貴方に預けることはできませんが、他の場所で得た情報をお渡しすることなら可能です。それから、貴方たちに不利になる情報を私の同僚から隠しておくことも。
オーヴニル: 君に無理強いはできないということは、先刻に君が見せてくれた見事な大立ち回り、それと今のストーカー行為とでよくわかっている。まずは君のやりたいようにやるといい。1ヶ月後に再びここに来ていただこう。君のヒューム変動の記録を取らせていただく。
PoI-4056-2637: 約束させていただきましょう。私とてジャーナリストの端くれですし、信用が全ての業界ですから。情報の提供は今もできますよ。
オーヴニル: では、聞かせてくれ。
PoI-4056-2637: 例えば、この隣の次元では、ここサイト-19への他組織の襲撃が頻回に起こります。しかしその全ては財団の備えにより打破され、現在までサイトは守り抜かれています。主に戦果をあげている設備は-
[オーヴニル博士が持つカント計測器に異常信号の記録が始まる]
オーヴニル: あー、悪いが中断だ、これは私の自室でやるべき話じゃない。後日正式な場でまた聞こう。
《記録終了》
これ以降、PoI-4056-2637は1ヶ月ごとにサイト-19を訪問し、多次元通信部門と定期的な連絡を行うようになりました。PoIは財団に対し概して協力的に接していますが、自身の次元移動の制限と次元移動に必要なデバイスの供出には現在まで同意していません。
補遺
PoI-4056-2637自身の次元移動能力は、基底次元と同一の物理法則を有するユークリッド幾何次元への移動に限定されるとみられています。すなわち、PoIが有する"図書館"のデバイスは、ヒューム素次元コードが同一である次元間の接続を行うものと仮定されています。したがって、PoI-4056-2637が移動可能な次元へのアプローチは原則として多次元通信部門でも可能です。
以下の資料は、定例報告でPoI-4056-2637が財団の多次元通信部門に通達した情報と、多次元通信部門の職員が自身で調査した情報の対照表の抜粋です。いずれも、PoI-4056-2637が当該事象を報告した際にPoIのヒューム変動が観測されました。多次元通信部門の調査内容はPoI側には伝達されていません。
次元(便宜名) | PoI-4056-2637の報告 | 多次元通信部門の報告 |
---|---|---|
TL-1021 | 2023年、財団に敵対的な超常組織が財団のサイト-19を襲撃する事件が発生した。 サイト-19はこれを撃退し、超常組織の幹部12名を捕縛した。 |
当該次元のサイト-19襲撃は成功裏に終了しており、財団は解体されている。 襲撃中に財団の機動部隊の一部が襲撃側にも予期しない次元変動によって消失させられた記録が残されていた。 |
TL-1682 | 太陽の表面に体長27,000kmのワーム型実体が棲息しており、2021年現在まで他の星とは干渉せず自己収容状態にある。 | 2011年に当該実体は太陽を離れ、太陽系外へと去っていったことが確認された。 実体の移動開始と同時期に、地球からさそり座アンタレスの方向へ500光年離れた宙域に時空間変動が検出されている。 |
TL-4150 | 1923年、虎ノ門事件の代替として、当時の大日本帝国の元首が襲撃された際の超常現象の余波により、日本列島全体が世界から切り離され孤立した状態となっている。 | 基底次元と同様の虎ノ門事件が発生しており、特に超常的なイベントは生じていない。 襲撃者が放った銃弾が途中で消失していたという風説が流布されている。 |
TL-8328 | 財団の戦術神学部門が日本の地下に存在する胎児型岩石神格の存在を察知し、1988年に当該存在を破壊し、K-クラスシナリオの発生を回避した。 | 当該の岩石神格が地表に存在しており、次元全体の荒廃がもたらされている。 後の調査により、日本地下での神格破壊は完了していたが、別の個体が他の次元から転送されてきていたことが判明した。 |
TL-2637 | PoI-4056-2637の父親が財団職員であり、PoIとともにロサンゼルスに在住している。 | 2019年に父親は痕跡を残さず消失した。 このとき発生したSCP-3543-JPは、物理定数の根本的に異なる次元との一過性の接続をもたらした可能性がある。 |
インシデント記録
2022/██/██、PoI-4056-2637が定例報告と異なる日時で基底次元に現れているのが発見されました。サイト-19内から3kmほど離れた平地(サイトと外界を隔てる緩衝地域)に、数万頭のサイガ(Saiga tatarica)が出現しており、突進するサイガの群れから徒歩で逃走中のPoI-4056-2637が確認されました。PoIが消失能力を使用する様子が見られないことを不審に考えたオーヴニル博士は、彼女の保護を目的とした緊急任務として、サイト-19多次元通信部門からPoIに対するアプローチを行いました。その後の経過は以下の記録を参照してください。
Record - PoI-4056-2637-█
インシデント記録
担当者: サイト-19 多次元通信部門局長 オーヴニル博士、機動部隊Γ-0("グングニル")から2名(アルファ、ベータ)
《前略》
[機動部隊の2名を載せたジープがサイガの群れを追い越し、PoI-4056-2637に追いつき、ジープ内に収容する。オーヴニル博士は機動部隊と無線通信を行なっている]
アルファ: オーヴニル博士に報告。PoIの確保に成功しました。
PoI-4056-2637: 無駄です、そんなことをしてもサイガからは逃げられません。
オーヴニル: PoI-4056-2637、アリアドーナ・カサンドラ!聞こえるか。状況を説明してくれ。
PoI-4056-2637: 説明するもなにも見ての通りです。"図書館"の叡智も数の前には敵いませんでした。奴らはあらゆる次元の私を追い回し、踏み潰そうとしています。
ベータ: さっきまでジープで追い越せていたはずだが、全く距離が空けられない。群れ全体が車に追いつく速度まで勢いを上げているようだ。
[ジープの後方から追ってくるサイガの群れのほかに、前方と左右からもサイガの群れが出現する。それらは瞬時に基底次元へ現れたものである]
アルファ: 前方に敵が出現、一気に囲まれました!避けられない!
ベータ: ジープが群れに飲み込まれる!
PoI-4056-2637: こうなるから私は一人で逃げていたのです。余分な犠牲を増やす必要はなかった。
[ジープに向けて四方からサイガの群れが到達し、ジープに乗り上げて踏み潰していく。PoI-4056-2637が次元移動による消失を図る]
オーヴニル: オーデンを起動しろ!PoIの次元移動についてゆけ。
[機動部隊の2名は携帯式オーデンHedc固定装置を起動する。その結果、PoI-4056-2637の移動に巻き込まれる形で機動部隊2名が次元の移動を開始する]
アルファ: 我々はPoIの保護を執り行います。一人にはさせない!
ベータ: 次元の移動中......いや、途中で止まった!博士、現在の状況が見えるか?
[機動部隊2名とPoI-4056-2637は、黒い空の下に多様な彩色がなされた無数の門が立ち並ぶ空間上に浮かびながら、緩徐に直線運動している。門は一直線に並び何重にも続いており、どの門の下にも走る多数のサイガの群れが見える。反対側にも門が続き、それぞれの下には立ちすくむPoI-4056-2637が並び、その奥にはサイガが押し寄せている]
PoI-4056-2637: 私についてきてしまったのですね。サイガは全ての私を同時に打ち倒そうとしています。私はどこへも戻ることはできません。貴方たちも一緒になってしまいます。
オーヴニル: それでいい。一人でないということが重要なのだ。
アルファ: PoI-4056-2637への指示を改めて要請します。現在の状況を報告してください。
PoI-4056-2637: 意図がわかりません。貴方たちは何を考えて-
オーヴニル: アリアドーナは直ちに、眼前に迫る敵の群れの詳細を伝えたまえ。......かつて君の父の名を我々に伝えてくれた、その時のように。
[PoI-4056-2637は少しの動揺を見せたあと、無言となる。門が立ち並ぶ空間は静寂に満たされる。10秒後、PoIは口を開く]
PoI-4056-2637: ......。私は現在、サイガの群れに襲撃されています。それらは私が立つことのできる全ての次元に押し寄せています。これは私、アリアドーナ......黒の女王・カルミナが確かめた情報であり、皆さんへお伝えするものです。
[SCP-2637-JPが発生する。PoI-4056-2637の体表から体内へ向かうヒューム変動が観測された直後、立ち並ぶ全ての門の下から同心円状のヒューム変動パルスが放射される。まだPoI-4056-2637の姿が見られる門では、その姿を中心として放射されている。数秒後、それぞれの門の下に球状のSCP-3543-JP-3aが展開され、門から観察される範囲のサイガ個体を飲み込んでいく。ポータルの内部は血液のような赤褐色の液体に満たされているのが見える]
ベータ: 博士の仮説は、これで検証されたか。
アルファ: 我々が飛び出してきた次元の敵性実体が消滅していくのを確認しました。今なら安全に戻ることができるでしょう。
[SCP-2637-JPが終了し、SCP-3543-JP-3aが消失していく。それぞれの門の下には広範な血痕のみが残される]
PoI-4056-2637: ......私がサイガに目をつけられた理由、ようやく理解できました。......私、どうしたらよいかわかりません。ドクター・オーヴニル。貴方はどうやって私の性質を把握したのですか?
オーヴニル: 君がいままで伝えてきてくれたものが答えだよ。君が我々に会いにきてくれて本当によかった。
[PoI-4056-2637と機動部隊Γ-0の2名が基底次元へ帰還する。PoI-4056-2637は動揺し、落涙している]
オーヴニル: カルミナか......私はよい名前だと思うよ。
《後略》
このインシデント発生まで、PoI-4056-2637は自身の異常性に無頓着であり、その存在を認識していなかったことが判明しました。PoI-4056-2637の排除を目的としてサイガの群れを差し向けた主体は、GoI-3693("犀賀派")であったことが後の調査で判明しています。GoI-3693がPoI-4056-2637の潜在的な能力を関知した手段は不詳です。
インシデント以降、PoI-4056-2637は自身の父親に関する全ての情報について、自身への記憶処理の実施を要請しています。周辺の現実性への影響が未知数であることから、現時点での記憶処理の施行は見送られています。