・二風谷ダム地点の計画高水流量4100m3/sのうち 500m3/sを軽減する。ダムの諸元は堤高32m、堤頂長 550m、堤堆積27.6万m3、総貯水容量3150万m3、型式は重力式コンクリートダムである。昭和57年に着手し、平成9年に完成した。
・既得用水の補給など流氷の正常な機能の維持と増進を図る。
・2350haの農地にかんがい用水最大 0.406m3/s(平均 0.083m3/s)の取水を可能にする。
・新規工業用水 270.000m3/日の取水を可能にする。
・二風谷発電所において最大出力3000KWの発電を行うものである。
【関係者数 153人、移転戸数9戸、土地取得面積 207.3haであり、田畑農地が約50%を占めている。今日的には珍しい軽種馬に対する補償であるが、水没地内に二つの牧場があり、農業補償として規模縮小補償を行った。主な生活再建対策については、前述してきたように水没地はアイヌ文化が存するところであり、アイヌ文化を守るために、二人の土地所有者貝沢正氏、萱原茂氏は、最終的に4筆の土地に係わる補償契約に応じなかった。止むなく北海道開発局は事業認定の手続きがなされ、北海道収用委員会は収用裁決を行ったが、これに対し、二人の土地所有者(原告)は、北海道収用委員会(原告)に対し、平成元年2月権利取得裁決の取消請求をおこし、裁判で争い、平成9年3月判決が下った。
・平取町役場に「営農指導係」を設置し、地区ごとに生産高い農産物(トマト、メロン)の指導
・野菜生産共同栽培施設の建設
・支障のない範囲で庭石の採取の許可
・ダム水没地内の砂利採取の活用が行われた。】
【先住少数民族の文化享有権に多大な影響を及ぼす事業の遂行に当たり、起業者たる国としては、過去においてアイヌ民族独自の文化を衰退させてきた歴史的経緯に対する反省の意を込めて最大限に配慮を成さなければならないところ、本件次儀容計画の達成により得られる利益がこれによって失われる利益に優越するかどうかを判断するために必要な調査、研究等の手続きを怠り、本来最も重視すべき諸要素諸価値を不当に軽視ないし、無視し、したがって、そのような判断ができないにもかかわらず、アイヌ文化に対する影響を可能な限り少なくする等の対策を講じないまま、安易に前者の利益が後者の利益に優越するものと判断し、結局本件事業認定をしたといわざるを得ず、土地収用法20条3号において認定庁に与えられた裁量権を逸脱した違法である。繰り返すことになるが、先住少数民族アイヌ民族の歴史と文化を軽視し、アイヌ文化に対する影響対策を怠り、ダム建設を進め、このような状況のもとで事業認定における収用裁決を行ったが、この収用裁決は裁量権を逸脱しており、違法であると判決が下った。しかしながら、二風谷ダムは完成しており、本件収用裁決を取り消すことは公共福祉に適合しないとして、原告の本訴を棄却し、二風谷ダム竣工は認められた。なお、裁判費用は国と被告の負担とされた。
以上のように本件事業認定が違法であり、その違法は本件収用裁決に承継されるから、本来であれば本件収用裁決を取り消すことも考えられるが、既に本件ダム本体が完成し、湛水している現状においては、本件収用裁決を取り消すことにより公の利益に著しい障害を生じる。他方チャシについて、一定限度での保存が図られたり、チプサンケについて代替場所の検討がなされる等、不十分ながらもアイヌ文化への配慮がなされていることなどを考慮すると、本件収用裁決を取り消すことは公共の福祉に適合しないと認められる。
よって、本件収用裁決は違法であるが、行政事件訴訟法31条1項を適用して、原告らの本訴訟をいずれも棄却するとともに本件収用裁決が違法であることを宣言することとする。】
・二風谷ダムのアイヌ民族文化の保存、伝承のための文化博物館の建築ここに、一宮判決によって、私達日本人がアイヌ文化を守り大切にするという「補償の精神」が芽生え、構築されたことは確かだ。これからの公共事業においてアイヌ文化に対し、十分考慮されることになる。そしてアイヌ人と日本人との共生、共存、共栄の道を歩み、さらにこのことは自然環境の悪化も防ぐことに繋がるだろう。それはアイヌの人たちこそ自然との共生を大切にする「持続可能な発展」の日常生活を送っているからである。
・発掘された文化財の展示のための歴史館建設や出土品の保存
・チプサンケの代替場所の確保
・アイヌ文化、アイヌ語地名由来の記録保存
・二風谷地区自然等の記録映画の作成