2017年9月
ガン細胞の栄養補給ルートを利用して、ラクトフェリンでガンを死滅させる
2017年09月28日 | 固定リンク
医薬品コースの佐藤 淳です。私の研究室で取り組んでいる研究の一つを簡単にご紹介したいと思います。ちょっと、難しいかもしれませんが、医薬品コースで目指している研究、教育の方向性を理解いただけるのではないでしょうか?
自然免疫で機能するラクトフェリン
私の研究室では、自然免疫という先天的に我々の身体が持っている免疫(感染やガンなどから我々を守っている仕組み)で機能するラクトフェリン (LF) というタンパク質に着目して、バイオ医薬品としての開発をバイオベンチャー企業と進めています。LFはミルクに含まれるタンパク質で、機能性食品としての開発が進んでおり(サプリメントはもちろんのこと、粉ミルクやヨーグルトなどに入っています)、耳にされた方も多いのではないでしょうか?そう、皆さんの身体の中でも、毎日LFがかなりの量作られていて、我々の身体を守ってくれているのです。
ラクトフェリンはガン細胞を攻撃する
LFはガン細胞を攻撃する機能を持っており、主に2つの方法でガン細胞を死滅させます。第1の方法は、ガン細胞を攻撃する免疫細胞を元気にして、元気になった免疫細胞がガン細胞を死滅させる方法。身体の中では、主にこの働きでガン細胞を攻撃します。もう一つは、LF自身がガン細胞を直接死滅させる方法。残念ながら、この働きは強くありません。研究室では、後者のLFのガン細胞を直接死滅させる機能に着目して、この機能を高めることで、より強力な抗癌剤を開発しようと、院生を中心に取り組んでいます。詳しいことは省略しますが、LFは分子まるごとの形でガン細胞に取り込まれると、細胞内に入って、ガン細胞を死滅させます。どうも、ガン細胞に取り込まれる量が少ないために、ガン細胞を上手く死滅させられないようなのです。それなら、ガン細胞に取り込まれるLFの量を増やせば良いのでは?・・・・と考えて研究を進めています。
どうやってガン細胞により多くのLFを取り込ませるのか?
では、どのようにしてもっと多くのLFをガン細胞に取り込ませるのか?・・・これが大きな課題です。ガン細胞は、その早い増殖を維持する為に栄養分が必要であり、細胞外からグルコースやアミノ酸、さらにはタンパク質などを大量に細胞内に取り込んで生きています。LFの細胞内取り込みのために、我々はこのガン特有の代謝様式に着目しました。詳しいお話しはしませんが、簡単に言えば、ガンが細胞外からいろいろな栄養分を取り込む代謝様式を使って、このルートでどさくさ紛れに?LFを細胞内に導入しようという作戦です。実際にこの作戦をヒト肺がん細胞株に対して試みたところ、ガン細胞に対するLFの増強した細胞増殖阻害が観察され、ガン細胞の形が変化しました。現在、実際に、ガン細胞内により多くのLFが導入されているのか?など、その増強効果をもたらすメカニズムを調べています。
我々の夢は、大学発のバイオ医薬品を開発することであり、大学院生を中心として日夜、この夢を追っています。現実は厳しく、難しいですが、これを夢に終わらせることなく、ぜひ現実のものにしたいと願っています。
医薬品コース 佐藤 淳
そのダイエット番組の結果で、本当にそのダイエット法に効果があると言ってよいのか?
2017年09月22日 | 固定リンク
今回は、効果があるかどうかをどう判定するという話について書きたいと思います。例えば、医薬品の開発などの研究では、その医薬品に効果があるかどうか確認するために実験を行います。この実験結果を種々の統計学的な手法を用いて解析することで、薬を使わなかった場合に比べて効果があるかどうかを判定します。統計学的手法の基本的な考え方は、薬を使ったときの変化が、偶然のバラツキに対して、明らかに差があるかどうかを判定するということになります。
ここで、ダイエット番組で、3人のモニターがそのダイエット法を実施して、体重の変化が次のようになったとします。
Aさん 実施前 75.0 kg→ 実施後 72.0 kg
Bさん 実施前 83.0 kg → 実施後 80.0 kg
Cさん 実施前 65.0 kg → 実施後 64.5 kg
この結果を見ると、全員の体重が減っているので、効果があったような気になりますが、統計学的に見るとどうなるでしょうか?そこで、"対応のある平均値の検定法(対応のあるt検定)"を用いて、解析してみると、p値:0.12という結果が得られます。これは、このダイエット法を実施しなくても12%の確率で、つまり、10回実験すると1回くらいはこのような結果が得られるということを意味しています。
統計学の考えでは、少なくともp値が0.05未満、すなわち、20回やっても偶然では1度も起きなきくらいの結果でないと効果があるとは認めないということになっていますので、この結果では、このダイエット法に効果があるとまでは断定できないということになります。 効果があるかどうかをはっきりさせるためには、人数を増やして、実験の精度を上げることが必要になってきます。
科学的に物事を判断するためには、得られた数値を直観的に判断するのではなく、きちんと統計学的な検証を行うことが重要といえます。ダイエット法の番組もこのような視点で見ると、安易にまねをしなくなるかもしれません。
応用生物学部 村松
恩師について
2017年09月15日 | 固定リンク
ブログ読者の諸君は恩師と言ったらどなたの顔を思い浮かべるだろうか?
小学校の担任の先生? 高校の部活の顧問? 家庭教師の先生? ピアノの先生? などなど。私の場合は博士の学位を戴いたときの指導教授を思い浮かべます。今日はこの恩師について少し書いてみましょう。
恩師は個人にとって人生の岐路を導く重要な位置づけになる場合があります。その人と出会わなかったら、全く別な人生であったかもしれません。人生はその方向を他人に決めてもらうべきではなく自分で決定すべきです。しかし、誰もがその方向を悩むのもまた当然の事です。悩んだ方向を的確なアドバイスを与え誘導してくれる方がその人にとっての恩師と言えるでしょう。
私は当時ある企業で遺伝子組換えを研究する研究員でした。それまで与えられていた研究が一段落し、新規なテーマを模索している最中でした。それまでは免疫学には全く関与しなかったのですが、免疫学、特にアレルギーに興味があり、文献を読み漁っていると寄生虫とアレルギーに深い関係があることを知りました。そこで次のテーマとして、寄生虫の成分をアレルギー薬に利用できるかを探る研究を思いつきました。しかし肝心の寄生虫サンプルは簡単には手に入れられそうにありません。そこで門戸を叩いたのが寄生虫学者で有名な東京医科歯科大学の藤田紘一郎先生(写真)です。藤田先生は私の申し出に快く応じ、寄生虫のサンプルを提供してくれました。更に、私に博士の学位をとる事を強く勧めてくれました。博士の学位はアカデミア(学究的世界)に進むには絶対条件です。当時の私は将来アカデミアへ進むとは思っていなかったので、その旨お伝えすると、「アカデミアに進まなくても学位が必要になる事が必ずある。是非この機会に取っておきなさい。」と言ってくださいました。現在アカデミアにいる私にとって重要なアドバイスでありました。先生からこのようなアドバイスが戴けたのは、私の研究アイデアに共感して戴けたからこそだと思います。
恩師と言える人に会えるかはまず自分磨きが肝要です。皆さんも是非これからでも遅くありませんので、自分磨きに努め、恩師と言える人に出会ってください。私も現在指導している学生から恩師と呼ばれるよう自分磨きに努め、より良い人材を見出し、社会に提供していこうと思います。
応用生物学部 今井
辛さを測る
2017年09月08日 | 固定リンク
みなさん、こんにちは。応用生物学部の横山です。
このブログの読者のみなさんならご存知かと思いますが、応用生物学部には、生命科学・環境、医薬品、先端食品、先端化粧品の4つのコースがあります。現3、4年生については、バイオテクノロジー、環境、先端食品、先端化粧品の旧コースで分けられています。私は旧バイオテクノロジーコースの教員なので、研究室に配属している学生は、バイオテクノロジーコースかと思いきや、環境、食品、化粧品と全てのコースの学生がたくさんいます。そのため、研究テーマはできるだけ各自のコースに合わせたものをと考えています。ということで、食品や化粧品の分析などを研究テーマとして取り上げるようになりました。
先端食品コースの学生向けのテーマとして、辛味成分の分析、辛味センサーの開発を行っています。具体的には、唐辛子の辛味成分であるカプサイシンを高速液体クロマトグラフィー(HPLC)(図2)や電気化学センサーチップで分析する研究です。
図1 辛味成分カプサイシンを含む市販の香辛料
クロマトグラフィーとは、物質の大きさ・電荷・疎水性などの違いを利用して、混合物を成分ごとに分離する方法です。分離した後に、紫外線(UV)の吸収を測定するUV検出器や、電気分解してその電流を測定する電気化学検出器などで測定対象物質を検出します。図3はHPLCで市販の一味唐辛子の抽出液を分析した結果です。唐辛子成分が分離、検出できていることがわかります。ただ、HPLCは少々大掛かりな装置なので、簡単に測れるセンサーの開発を行っています。小型なセンサーなら、いつでもどこでも辛さを測ることができますよね。一方、化粧品コースの学生は、美白化粧品成分(メラニン合成酵素阻害剤)などの分析に取り組んでいます。
図2 当研究室で使用している高速液体クロマトグラフィー(HPLC)装置
図3 HPLCで市販の一味唐辛子を分析した結果
以上、ちょっと話が長くなってしまいましたが、最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
東京工科大学 応用生物学部
横山憲二