(独)国立環境研究所
地域環境研究センター:
センター長 大原 利眞 (029-850-2491)
都市大気環境研究室
主任研究員 菅田 誠治 (029-850-2457)
広域大気環境研究室
主任研究員 清水 厚 (029-850-2489)
大気環境モデリング研究室
研究員 森野 悠 (029-850-2544)
国立環境研究所は、2013年1月から2月初めにかけて日本各地において観測されたPM2.5の高濃度現象を、現時点で入手可能な観測データとシミュレーションモデルをもとに調べました。その結果、全国の一般環境大気測定局における環境基準値超過日数(1日平均値35μg/m3を超過した日数)は16日であったこと、西日本で広域的に濃度が上昇し九州西端の離島でも高濃度が観測されたこと、観測とシミュレーションモデルの結果を総合すると越境大気汚染が影響していた可能性が高いこと、大都市圏では越境汚染と都市汚染が重合して濃度が上昇した可能性があること等がわかりました。
本発表は、PM2.5濃度の概況、越境汚染による影響について速報し、現時点での国立環境研究所としての知見を提供しようとするものです。本発表の一部は、2013年2月13日に開催された環境省の「微小粒子状物質(PM2.5)に関する専門家会合(第1回)」の資料として使用されました。
日本におけるPM2.5濃度の概況について
環境省の大気汚染物質広域監視システム「そらまめ君」のデータをもとに、2013年1月1日〜2月5日における日本全国のPM2.5濃度の概況を調べました。
(注)「そらまめ君」からダウンロードした速報値データを用いて解析したため、今後のデータ等の追加やデータ確定作業により、以下の数値は変化することが予想されます。
1 西日本4地域の一般環境大気測定局(以下、「測定局」という。)における日平均PM2.5濃度の平均値と最大値を見ると、期間中に何度となくPM2.5濃度が高くなっている特徴が認められます。特に、1月13日前後、1月21日前後、及び1月30日〜2月1日には4地域ともに濃度が上昇して、最大値が50μg/m3を超過する地域もありました。(図1)
2 全国の測定局における環境基準値超過日数(1日平均値35μg/m3を超過した日数;以下、同様)は16日でした。 1月13日、21日、30日、31日、2月1日には、それぞれ、27.0%、7.6%、12.0%、31.0%、21.1%の測定局で環境基準値を超過しました。(図2)
3 全国の測定局における環境基準値超過日数の地点分布を見ると、環境基準値を超過した測定局が多かったのは九州、中四国、近畿等の地域でした。(図3)
4 全国の測定局における環境基準値超過率(= 超過局・日数/有効測定局・日数)について、2011年から2013年の各1月の結果を比較すると、西日本では2013年は2012年とほぼ同程度であることがわかりました。(表1)
5 環境基準値超過局が多かった4日間におけるPM2.5高濃度地域は、1月13日は九州中部・瀬戸内・近畿・関東北部、1月30日は九州北部・北陸、1月31日は九州北部・瀬戸内、2月1日は九州中部・瀬戸内・東海でした。これらの結果から、主として九州北部や瀬戸内地域などの西日本で高濃度が発生し、東海や関東北部でも都市域スケールで高濃度になったと考えられます。(図4)
6 日本列島西端に位置する福江島観測サイト(長崎県五島列島)において国立環境研究所が測定したPM1.0相当の粒子状物質の成分5種の濃度を見ると、5成分合計のうち、硫酸塩粒子が約半分、有機粒子が約3分の1を占めており、これらはPM2.5においても主要な成分であったことが推定されます。(図5)
越境汚染の影響について
国立環境研究所が所有する東アジアスケールの大気シミュレーションモデル(注)による結果と「そらまめ君」データをもとに、我が国のPM2.5高濃度現象に対する大陸からの越境汚染の影響を検討しました。
(注)東アジアスケールの大気シミュレーションモデル(WRF-CMAQ)を使用しているために空間分解能が60kmと粗く、都市汚染を表現できない場合が多くみられます。
1 環境基準値超過局が多かった1月13日、30日、31日、2月1日におけるシミュレーションモデルで計算されたPM2.5地上濃度と地上風(いずれも日平均値)の結果から、これらの日には、大陸で発生したと考えられるPM2.5の高濃度気塊が北東アジアの広域を覆い、その一部が日本列島の一部に及んでいる様子が伺えます。(図6)
2 PM2.5(およびSPM)の観測値とモデル(WRF-CMAQ)による計算値をもとに、日本の8地域における2013年1月5日〜2013年1月31日のPM2.5濃度平均値の東西変化を解析しました。その結果、観測値と計算値ともに西高東低の分布を示しており、大陸からの越境汚染の影響が示唆されました。このモデルの結果は、他のモデル(CFORS)の結果と整合的です。(図7)
3 以上のシミュレーション結果は観測されたPM2.5濃度の基本的な時空間変動の特徴をほぼ捉えているものの、その再現性は必ずしも十分ではありません。例えば、図7で示すように、モデル値は実測値よりも5〜10μg/m3程度、過小評価しています。従って、今後、シミュレーションモデルを改良した上で越境汚染の影響について定量的な解析を行う必要があります。
4 【日本におけるPM2.5濃度の概況について】で示したように、西日本で広域的に高濃度のPM2.5が観測されたことや九州西端の離島(長崎県福江島)でも高濃度の微小粒子状物質が観測されたこと、上述したように東アジアスケールのシミュレーションの結果によって北東アジアにおける広域的なPM2.5汚染の一部が日本にも及んでいることを総合的に判断すると、本年1月から2月初めのPM2.5の高濃度現象には大陸からの越境大気汚染による影響があったものと考えられます。
以上のことから、本年1月から2月初めのPM2.5高濃度現象は、2011年2月上旬に発生したPM2.5高濃度現象(注1)、2007年5月に発生した光化学オキシダントの高濃度現象(注2)と同様に、大陸からの広域スケールの越境汚染と大都市圏スケールの都市汚染が複合したことによって発生した可能性が高いと考えられます。但し、その影響の割合は、地域と期間によって大きく異なる可能性が高く、今後、詳細な解析が必要です。
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