電力会社に電気を卸している会社、電源開発(J-POWER)
中野: まず電源開発に入社されたきっかけをお聞きしたいと思います。学生の頃から、すでに土木技術者としてダムを造ろうと思われていたのでしょうか?それとも会社に入ってからダムの担当になられたのでしょうか?
藤野: 私は、ダム好きというより山好きでして、学生時代はワンダーフォーゲル部におりましたので授業を受けているより、山に行っている時間の方が長かったのではないかという状況でした。なので、山に行くことが仕事に繋がればいいなと思っていたんです。その頃は、海外に行くこと自体が難しい時代でして、山登りで外国に行くなんて夢みたいなものですから、海外の山の中にいて仕事になればいいなとぼんやり考えていたんですね。そういう時、後に入社することになる電源開発会社から就職説明会で学校に来られた説明役がたまたま同級生のお父さんだったこともあり、親近感をもって話を聞くことができました。
水力発電所の建設ブームはすでに一段落していて、もうダムを伴う大規模な水力発電所の仕事はほとんどないというのが一般的な受けとめでした。しかし、その先輩が言われるには、世の中の流れはそういう方向にあるが、我々の会社が取り組んでいるのは「社会にエネルギーを供給していく」ことなので、形は変わるが土木の仕事は今後も必ずあるし、やりがいがあるので是非入社したらいいと。そのスケールの大きさになるほどと思い、水力でエネルギー開発をやりに海外の山へ行きたいと思って入りました。ダムについては、小学校の先生がダムの効用について熱く語ってくれた思い出があったのと、たまたま学生の時の勉強会でダムの基礎を担当したので若干の予備知識があった程度です。
中野: なるほど、社会にエネルギーを供給する会社ということですか、電源開発は。どういう事業展開をされておられるのでしょうか?
藤野: 電源開発という会社は最近はJ-POWERというコミュニケーションネームで知られるようになりましたが、簡単に言うと「電気の卸売会社」なんです。一般の電力会社は、電気の製造、卸、流通と全部やっているのですが、これが全国に10社ありまして、地域ごとに1社、地域独占が公益性という面から許されている特殊な業種です。しかし、一般の電力会社だけでは、資金力が足りない、独占状態が良くない、などいろいろ問題が出まして、「電気の卸売」をする国策会社をつくるべきだということになって、昭和27年に電源開発会社が発足しました。つまり戦後まもなくできた特殊法人なんですね。今から5年前に完全に民営化して上場会社になりました。これまでに造りました水力発電所は59ヶ所で最大出力は856万kW、 火力発電所が8ヶ所で782万kW、合計すると1,638万kWの発電所を、北海道から沖縄まで全国にもっていて、また2,400kmに及ぶ送電線網も別途もっていて、そういう設備を使って各地域の電力会社に電気を製造し卸売りをしています。おおざっぱに言って全国の10%弱のシェアになりますが、水力だけ取り出すと日本の電力会社の中で一二を争う規模だし、大きな発電用貯水池のほとんどはJ-POWERが所有し運用しています。電力各社と競争する面もあり、互いによくなっていくことが期待されています。また、海外でも様々な活動をしており、設立当初は国ベースの技術協力を主にしていましたが、最近では、外国で直接発電事業を営む事も多くなっています。
私が入社した時は会社創立15年目で、水力発電が華々しい時代はすでに一段落しておりましたので、会社に入った時には、なんで今頃こういう会社に入ってくるのかと不思議がられました。あまり人が行かない時期に入社したので、私たちの年代の土木屋はどこの電力でも比較的少なく、お陰でやりがいのある仕事に関与できたと思っています。
その時のエピソードなんですが、非常に危ない目に遭いました。水圧鉄管は傾斜が48°あり、直径は3〜4mなんですがその内側を現場で塗装します。その仕上り具合をゴムタイヤ付きのゴンドラに乗って検査するんですが、途中でどんどん下がっていくんです。上でウィンチを操作している作業員に笛で合図しても止まらない。真っ暗な管の中を下がり続けていきます。下はまだ数百メートルあるのにワイヤーの長さはそんなにないし、だんだんとワイヤーの重みが増してスピードが上がり、最後は抜けてしまうのです。実はウィンチのブレーキがすり減って効かなくなっていたんですね。機転の利く人がいて付近にあったアングル材をドラムに挟みこんで止めたので大事には至らなかったんですが、本当に怖かったのは完全に大丈夫なところに戻る直前でしたね。こういう話は時効にならないと言えないものです。(笑)
若い土木技術者への助言
中野: ダムによるエネルギー開発の将来性をどのようにとらえていらっしゃいますか、また、これから、そういう次世代のエネルギー開発を担っていく若い土木技術者に対して、どういうことを勉強して、どういうことに取り組んでいってもらいたいか、希望と助言をいただきたいと思いますが。
藤野: 私が入社したときに先輩から、あまり一般的な勉強をするよりも目の前にあるテーマを深く追求しなさい、そして常に疑問を持つことが大事だ、と言われました。徹底的に追求すると原理原則が分かるから、自分でいくらでも応用できるようになるんですね。
何でも言われたままにやればいいと思っていては、進歩がなくなってしまいます。常に疑いを持って自分できちんと考えていくことが必要なんです。一般的な勉強だけだと、後になって技術が進化した時にまた1から勉強する必要が出てしまい、実はつらいんです。
中野: そうですね。今は、分業化というか全体を見るということがなかなかできなくて、高度に専門化していて、自分が企業の中でどんな事をやっているのかわからなくなってしまうということもありますね。