国土強靱化するには
中野: それに、リスクをわかりやすく伝えることも大事ですね。もしも大型台風が来て堤防が切れたりしたらどれだけ大変か...?
石田: 3.11の時でも、想定外という言葉がいろいろな場面に使われたりしました。当時、土木学会会長であった阪田憲次先生は、「技術者は想定外を言い訳にしてはならない」と仰いましたが、全くその通りで、色々と想像力を働かせて色々な手を打つ、また想定外を超えた残余のリスクについてもハード・ソフト両者を総動員させて、トータルのシステムとしてリスクを減らしていくというのが大事だと思います。原子力発電所の事故でも問題になっていますが、縦割りで区分されている個別の要素とか、自分のカバーする範囲のみでいくら考えても、全体としてきちんと対応できているかどうか分かりませんから、総合的に考えることが非常に重要と思っています。我々の学科でも良く議論するのですが、「土木工学」「社会基盤学」の定義は何か?ということについて、一つの回答は「土木エンジニアは、目の前にある全ての仕事を自分のこととして認識する。決してこれは俺の仕事ではない、と言わない」といった話をしています。こういうことを考えても、土木に関わる人間は総合工学に関わるエンジニアとして、一つ上の視点でものを見るのが大事だと思います。
最近、藤井聡先生(京都大学大学院教授)が国土強靭化のお話を精力的にされていますが、強靱化にあたって必要なことの一つは、国土にインフラ機能を分散することと言われています。例えば東海、東南海、南海の連動地震が起こった場合、大津波で太平洋沿岸の港湾施設が壊滅的なダメージを受けることが考えられる。この時、バックアップ機能として、例えば日本海側の港湾施設を増強する必要がある。もし現状で太平洋沿岸の港湾が壊滅状態になったら、日本経済は完全に麻痺しますよ。その打撃の大きさはすぐにわかる話とは思うのですが、あらかじめリスク分散を考えて国土計画を行ったり、社会資本整備を行ったりする必要がある。しかし例えば、港湾施設に対する投資を増強するとか、高速道路ネットワークを整備するとかの話が出てくると、すぐにバラマキ予算だとかの批判が出てきます。しかし非常時におけるインフラの役割が極めて重要であることについて、東日本震災での教訓を踏まえても明らかですし、かなりの社会的合意が得られているように思いますから、今からどうやって備えるのかや、どこまで備えるかについて、それこそ建設的に議論しないと何にもなりません。様々な力を総動員していかないと...。
成果=×ばつ量という考え方
中野: 先生は、高校生にも出張授業をされているそうですが、何か若者に伝えたい言葉はありますか?
石田: 私自身が大学時代、恩師である岡村甫先生からお聞きした内容を、自分なりに咀嚼して、高校生に伝えるのですが、よく話す一つは、「手段」と「目的」を明確に意識しなさい、ということです。僕らは良く、目的を達成するための手段がいつの間にか目的になってしまうという、「手段の目的化」という罠に陥ります。高校生に対しては、受験勉強のやり方を例に上げるとスッと入ってもらえるのですが、例えば私は高校2年の時に、一日自宅で5時間勉強することを自分自身に課しました。山梨県の田舎の県立高校でしたし、部活動でトランペットばかりを吹いていましたので、まずは全国レベルに学力を上げることを目指したんですね。最初はそれなりに成果が上がりましたが、ある所から成績が伸び悩んだ。その理由を分析してみると、「5時間勉強をする」ということが目的となっていて、内容が必ずしも良くなかったのです。これは卑近な例ですが、常に様々な場面で、一体この本来の目的は何だろう?ということを考えるようにしています。
また岡村先生はご存じのとおり、東大野球部の歴代最多勝投手(17勝)という輝かしい成果を上げた方ですから、全ての教えが野球をベースにされています。研究も野球と関連付けて話をされます。先ほどの話に関連する教えとして、成果は量と質の掛け算である、ということを仰られます。例えば、質の悪い練習をどれだけやっても効果がないだけでなく、むしろマイナスになる例もあるということです。例えば、うさぎ跳びをたくさんやっても、膝を傷めてしまうだけでむしろ悪くなる、といった具合です。先ほどの事例をもう一つ出しますと、量をこなすことが目的となってしまうと、勉強の質としては最悪です。また量を倍にするのはすごく大変ですが、質を倍に高めるというのは考え方によってはできるということです。日常から、仕事を行う際にも、常に意識しているポイントです。その他にもたくさんあるのですが、また別の機会に...
(参考)石田哲也先生 プロフィール
石田 哲也 (いしだ てつや)
東京大学工学系研究科社会基盤学専攻准教授
<学歴>
平成2年3月 山梨県立都留高等学校理数科卒業
平成6年3月 東京大学工学部土木工学科卒業
平成8年3月 東京大学大学院工学系研究科社会基盤工学専攻修士課程修了
平成11年3月 東京大学大学院工学系研究科社会基盤工学専攻博士課程修了
<職歴>
平成11年4月 東京大学工学系研究科 助手
平成11年10月(財)日本学術振興会海外特別研究員,Department of Civil Engineering, University of Toronto(平成13年9月まで)
平成14年1月 東京大学工学系研究科 講師
平成15年10月 東京大学工学系研究科 助教授(平成19年4月より准教授)
<受賞歴>
平成9年 日本コンクリート工学協会論文賞(前川宏一博士,岸利治博士,ラジェッシュ・チョーベ博士と共同)
平成10年 土木学会論文奨励賞(単独)
平成12年 前田工学賞(年間優秀博士論文賞)(単独)
平成12年 土木学会吉田賞(論文部門)(前川宏一博士と共同)
平成13年 fib Awards: Diplomas to Younger Engineers (単独)
平成14年 土木学会論文賞(岸利治博士,前川宏一博士と共同)
平成16年 日本コンクリート工学協会論文賞(前川宏一博士,岸利治博士と共同)
平成17年 土木学会論文賞(前川宏一博士,朱銀邦博士,浅本晋吾博士と共同)
平成20年 土木学会論文賞(李春鶴博士と共同)
平成21年 社会マネジメントシステム学会最優秀論文賞(Raja Hussain博士と共同)
平成21年 IABSE Prize(単独)
平成23年 土木学会出版文化賞(前川宏一博士,岸利治博士と共同)
平成23年 土木学会吉田賞(論文部門)(佐川孝広博士,Yao Luan博士,名和豊春博士と共同)