開館70周年記念展示「本の玉手箱―国立国会図書館70年の歴史と蔵書―」
本節では、子どもの頃、胸を躍らせながら読んだであろう本を展示する。前半では、子どもの頃に読み聞かせてもらった童話が古くはどのような姿であったのか、そして現在とは異なる名前が付けられていた童話の主人公を紹介する。後半では、今でも人気が衰えないあのマンガの主人公を取り上げて、初登場時の姿を展示する。
実は、あの本です その1
〔ダニエル・デフォー 著〕横山由清 訳 安政4(1857)年【199-258】
71 魯敏遜(ロビンソン)漂行紀略の画像左側 71 魯敏遜(ロビンソン)漂行紀略の画像右側 デジタルコレクション
展示資料は、「ロビンソン・クルーソー」を翻訳したもの。子どものために翻訳された日本で最初の本と言われている。底本はオランダ語版。展示資料の挿絵を描いたのは、明治期の洋画発展を担った川上冬崖(かわかみ とうがい)である。ロビンソン・クルーソーがかぶる帽子が特徴的である。
明治、大正期には、登場人物の名前などを日本風に変える「翻案」が盛んに行われた。サンタクロースは「三太九郎」に、不思議の国のアリスは「愛ちゃん」に変えられている。展示資料の『おほかみ』では、和服のオオカミとヤギが登場する。子どもたちにも親しみやすいようにという、作者の優しさが感じられる。
実は、あの本です その2
上田万年 説話 鍾美堂編集部 編 鍾美堂 明治44(1911)年【329-94】
72 安得仙(アンドルセン)家庭物語の画像
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デジタルコレクション(白黒)
展示資料は「アンデルセン童話」である。「醜い家鴨の雛」とタイトルが付けられた「みにくいあひるの子」(展示箇所)をはじめ、「霞の衣」(はだかの王様)、「木燧売」(マッチ売りの少女)など25編を収録している。美しい挿絵を描いたのは橋口五葉(はしぐち ごよう)、訳者は現代国語学の基礎を確立した上田万年(うえだ かずとし)である。
実は、あの本です その3
グリム 原著 上田万年 訳 吉川半七 明治22(1889)年【特67-390】
展示資料は、今日、「おおかみと7匹のこやぎ」として知られているグリム童話の作品である。オオカミも子ヤギも和服を着て、日本家屋におり、独特のおかしみがある。なお、挿絵ではヤギが描かれているが、本文では「羊」と記されている。
今は、サンタクロースです
進藤信義 著 教文館 明治33(1900)年【特45-90】
展示資料は日本で最初のサンタクロースの絵を収録した書物と言われているもの。本文には、サンタクロースのことが「北國の老爺 三太九郎」と記されている。展示箇所の挿絵は、トナカイのそりに乗る姿ではなく、ロバと思われる動物の横を歩く姿で描かれている。
今は、アリスです
ルイス・キャロル 著 丸山英観(薄夜)訳 内外出版協会 明治43(1910)年【32-441】
75 愛ちやんの夢物語の画像
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デジタルコレクション(白黒)
展示資料は原作の全文を忠実に翻訳した点において、最初の「不思議の国のアリス」である。アリスは、日本人のような「愛ちゃん」という名前で登場する。挿絵は、原作中に見られるジョン・テニエルのものである。展示箇所は、チェシャ猫との会話シーンである。
今は、ミッフィーとも呼ばれています
ディック・ブルーナ ぶん・え いしいももこ やく 福音館書店 昭和39(1964)年【Y17-28-[4]】
76 ゆきのひのうさこちゃん
現在も人気のミッフィーは、昭和39(1964)年にオランダ語原著から翻訳刊行され、「うさこちゃん」として日本で初登場した。この年刊行されたうさこちゃんの本は、春、夏、秋、冬の巻の4冊あり、展示資料は冬の巻である。冬支度をしたうさこちゃんが愛らしく描かれている。
鬼太郎初登場!
妖奇伝 2 兎月書房 昭和35(1960)年【Y16-3113】
水木しげるの「鬼太郎」シリーズは、紙芝居で昭和29(1954)年に「墓場鬼太郎」として登場した。漫画本としての初登場は昭和35(1960)年に発売された貸本漫画『妖奇伝』第1巻である。展示資料は『妖奇伝』第2巻の「幽霊一家 墓場の鬼太郎」のタイトルページ、鬼太郎が土の下から手を出す場面である。
1950年代、本を買うことが贅沢だった時代には、本を借りる場所の一つとして貸本屋があった。そこには、貸本屋向けに流通する貸本漫画という、販売を目的とした本とは異なる、独特の雰囲気を持った漫画が存在した。本展示で紹介した水木しげるの「鬼太郎」も貸本漫画から生まれたキャラクターである。水木だけでなく、手塚治虫、白土三平、楳図かずおなど現在有名な多くの漫画家が貸本漫画に作品を残している。
アンパンマン初登場!
PHP 1969年10月号通号257号 PHP研究所 昭和44(1969)年10月【Z23-140】
昭和44(1969)年10月、『PHP』257号で、やなせたかしの「アンパンマン」が初登場する。当時は、顔はアンパンではなく、「ふくらんだおなか」や「マントの下」からアンパンを出し、子どもたちに配るなど、現在のアンパンマンとは姿が少し異なるが、「世界じゅうの」困っている人のために、という姿勢は変わらない。
アトム初登場!
少年 7巻4号 光文社 昭和27(1952)年4月【Z32-375】
おなじみの鉄腕アトムは、『少年』6巻5号(昭和26(1951)年4月)から1年間連載された「アトム大使」の脇役時代を経て、展示の号から「鉄腕アトム」の主人公として活躍した。昭和38(1963)年には、アニメ放映も始まった。これは国産テレビアニメの連続放映の始まりでもある。
ドラえもん初登場!
小学一年生 25巻11号 小学館 昭和45(1970)年1月【Z32-353】
小学二年生 25巻11号 小学館 昭和45(1970)年1月【Z32-359】
小学三年生 24巻10号 小学館 昭和45(1970)年1月【Z32-364】
小学四年生 48巻10号 小学館 昭和45(1970)年1月【Z32-372】
昭和45(1970)年1月、『よいこ』『小学館の幼稚園』『小学一年生』『小学二年生』『小学三年生』『小学四年生』の6誌で、藤子不二雄「ドラえもん」の連載が始まった。6誌それぞれに異なるストーリーを掲載している。ドラえもんの体格がのちの作品とは大きく違っている点も特徴的である。