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aff 2024 FEBRUARY 2月号

日本の伝統食を世界へ

特集
日本食材 輸出の最前線 03 日本の伝統食を世界へ
その国固有の伝統食を海外で認知してもらうのは容易いことではありませんが、日本の伝統食である梅干しや木桶仕込み醤油・味噌が 生産者の努力によって国際市場での評価を獲得し始めています。

世界に認められた昔ながらの梅干し

梅干し

「独特の酸味がある梅干しは海外では売れない」という常識を覆したのは、和歌山県西牟婁(にしむろ)郡上富田(かみとんだ)町にある小さな梅干し店でした。1940年創業の(有)深見梅店が作る有機梅干しは、ヨーロッパやアジア、中東、アメリカなどで人気となり、今では出荷先の3割以上が海外です。その人気とおいしさの理由を4代目の深見優さんにお聞きしました。

(有)深見梅店代表取締役社長 深見優さん
お話を聞いた方 (有)深見梅店代表取締役社長 深見優さん

梅干し 梅干し屋らしい梅干しをつくりたい

有機栽培を始めたきっかけを教えてください。

もともとはちみつ梅などの調味梅干しをつくっていたのですが、結婚して子どもが生まれたのを機に、「梅と塩だけで、梅干し屋らしい梅干しをつくりたい」と考えるようになったんです。そこから自社農園をすべて有機栽培に転換して、2013年に有機JAS認証を取得しました。

自社の農園では種から苗木を育て、接木をせず自然に任せて栽培しています。収穫時期になると畑にネットを張り、樹上で完熟して自然に落ちてきた梅を拾い集めるのが毎朝の日課。翌日には傷んでしまうほど完熟した梅で作る梅干しが、一番おいしいんですよ。すぐに水洗いして昔ながらの海水塩で3カ月間塩漬けにし、屋内専用施設でゆっくりと天日干しにすると、梅干しのできあがり。お客さまからも、しっかりとした酸味と甘みがあり、野生味にあふれていると評価をいただいています。

梅干しづくりの工程

  • 工程1 収穫

    畑に収穫ネットを張り、完熟して自然に落ちてきた梅が傷つかないように収穫する。木を棒で叩くことはせず、自然に任せるのがこだわり。

  • 工程2 塩漬け

    洗った後は乾かして専用タンクに入れ、海水から精製したミネラル豊富な塩だけで漬け込んでいく。

  • 工程3 天日干し

    専用の屋内施設に運び、セイロに並べて干し上げる。干しすぎると乾燥し、干しが足りないと水分量が多くなるので、取り込むタイミングが肝心。

  • 工程4 選別

    梅干しは一つひとつ手作業で選別。傷や変色などでそのまま販売できないものはねり梅などに加工し、種や皮は肥料として再利用している。

梅干しの3割以上が海外へ

売り上げは最初から順調でしたか。

いえ、最初の4年ほどは大赤字で在庫だけが積み上がっていました。有機食品を集めた国内外の展示会に何度も出展しましたが、まったく見向きもされませんでしたね。細々とつくり続けていた調味梅干しの売り上げで、なんとかやりくりしていた状況です。そこに新型コロナウイルス感染症拡大の影響を受け、調味梅干しの売り上げは30パーセント以上落ちたのですが、同じタイミングで有機の梅干しが売れ始めたんです。

「ステイホーム」の影響で、食にこだわる人が増えたということでしょうか。

まさにそうですね。オーガニックスーパーや自然食品店のバイヤーさんから次々と注文が入り、生産が追いつかないようになってきました。海外との取引も増えていて、今は3割から4割は海外に卸しています。自社の梅干しは梅と塩だけで作るというシンプルな製法。有機栽培の梅干しという商品価値に加え、ベジタリアンやヴィーガン、宗教上の理由で食事制限がある方でも食べられることが、海外で受け入れられている理由だと思います。

ヨーロッパではヴィーガンレストランでソースに使ったり、アメリカではソルティードッグの塩の替わりに使ったりと、それぞれの食文化に合わせて使っていただいているようで、生産者としてもうれしいですね。

自社農園

自社農園には、南高梅や雑種などさまざまな種が。深見さんの曾祖父が植えた木には今でも実がなる。

2022年に建て替えた新工場

2022年に建て替えた新工場で、梅干しや加工品の製造・梱包を行う。すぐ隣には農園と事務所があり、従業員は15名程度。

ふるさと・口熊野をオーガニック梅の里にしたい

最初は赤字でも、「いつかは売れる」という自信があったのでしょうか。

自信というより、私には梅干ししかないですから。何度ダメだと言われても、負けじとしつこく売り続けました(笑)。小さな会社が資本力の強い会社と同じことをやっていても勝ち目はないので、差別化をしないといけない。海外の消費者の嗜好に合わせた低塩梅干しなどを開発することで、オンリーワンになれるんじゃないか、という思いもありました。

今後の目標を教えてください。

今後も海外の見本市などに参加し、梅干しの知名度を高めていきたいですね。ただ、うちの農園だけでは限界があり、生産も追いついていないのが現状です。そこで、私のふるさと、口熊野(和歌山県田辺市・上富田町の地域)を「オーガニックの梅の里」にするべく、挑戦を始めています。有機栽培に興味はあっても、「売れないリスクが怖くて挑戦できない」という人は多い。そこで、有機栽培への転換期間中も含め、すべての梅をうちの会社が適正価格で買い取る仕組みをつくりました。その甲斐あって、現在は、30、40代の若い世代を中心に15人ほどの仲間が有機栽培に取り組んでいます。少しずつ目標に近づいているので、今後が楽しみです。

すっぱい梅

有機梅と海水塩だけを使った「すっぱい梅」は塩分18から20パーセント。肉厚でしっかりとした酸味と甘みがあり、白いご飯との相性は抜群。

「有機シソフレーク」「有機梅フレーク」「オーガニック梅酢」

「有機シソフレーク」「有機梅フレーク」「オーガニック梅酢」は、和洋中様々な料理に使いやすく、海外でも人気。

木桶仕込み醤油、木桶仕込み味噌を世界へ

木桶仕込み醤油 蔵元ごとの味や香りが楽しめる、“嗜好品”としての魅力を発信

ヤマロク醤油(株) 代表取締役 山本康夫さん
お話を聞いた方 ヤマロク醤油(株) 代表取締役 山本康夫さん

木桶仕込み醤油について教えてください。

木桶を使い発酵熟成させた醤油のことをいいます。江戸時代まで、和食に欠かせない醤油や味噌、酢、みりん、酒などの基礎調味料は木桶でつくられていました。弊社はおよそ150年前から、小豆島にて木桶で醤油をつくり続けています。

醤油をはじめとした発酵調味料は、乳酸菌や酵母菌といった微生物の力によってつくられます。そうした微生物にとって居心地の良い環境となるのが木桶であり、深い味わいや香りのある醤油ができあがります。蔵によって壁や梁、木桶に住んでいる菌の生態系が異なるので、醸造所ごとに味の個性が楽しめるのも魅力ですね。しかし、国内外で木桶仕込み醤油の流通は少なく、輸出においては日本の醤油輸出額の1パーセント程度に留まっているのが現状です(注1)。そこで、少ない市場を奪い合うのではなく、木桶で醤油を作っている仲間たちと協力し合おうと「木桶仕込み醤油輸出促進コンソーシアム」を結成しました。

注1:2022年の醤油輸出額は約93億9600万円(財務省「貿易統計」より)、木桶仕込み醤油の輸出額(木桶仕込み醤油輸出促進コンソーシアムメンバーに限る実績)

木桶が並ぶ、もろみ蔵

木桶が並ぶ、もろみ蔵。100年以上前に建てられた蔵で、天然醸造醤油を仕込んでいる。

蔵の土壁や梁、木桶に住み着く微生物がその蔵元特有の生態系を作り出す

蔵の土壁や梁、木桶に住み着く微生物がその蔵元特有の生態系を作り出し、“ここにしかない”味を作り出す。

輸出に関する取組みについて教えてください。

「木桶仕込み醤油輸出促進コンソーシアム」では、企業の枠を越えて木桶仕込み醤油のブランディングとマーケティングに取り組んでいます。まずは日本国内の木桶仕込み醤油のシェアを拡大していく、そして世界の醤油市場の1パーセント(金額ベース)を取りにいくことが目標です。現在は29社が参加し、海外からのバイヤーが多く訪れる食品展示会「FOODEX(フーデックス)」に出展したり、多言語化に対応したWebサイトを作成するなどしています。

また、自社ではSNSを使い、もろみ蔵の様子や、仕込みの作業などを動画とともに英語で発信するほか、醤油蔵の見学を随時受け付けており、新型コロナウイルス感染症の影響を受ける前は、年間約7000人の外国人旅行客が訪れてくれていました。じつはそのなかに、食品関連のバイヤーやシェフがいて商談につながることも。そうした地道な活動が実り、「木桶仕込み醤油はワインやウイスキーのように、蔵元ごとの味や香りが楽しめる高級品である」ということが認知され始めてきたことを実感しています。

抹茶は近年、需要が増している

木桶仕込み醤油の魅力を伝える海外向けWebサイト。英語、中国語、フランス語、スペイン語に対応している。
https://kioke.jp/

木桶仕込み味噌 木桶でつくった味噌のブランド価値向上を目指す

(有)河野酢味噌製造工場 代表取締役 河野尚基さん
お話を聞いた方 (有)河野酢味噌製造工場 代表取締役 河野尚基さん

木桶仕込み味噌について教えてください。

江戸時代から続く伝統的な製法で、木桶を使い温度調節を一切行わずに天然醸造された味噌のことをいいます。大量生産の味噌はタンクに微生物を添加してつくることが多いのですが、木桶の味噌は蔵や木桶についた微生物のみでゆっくり発酵・熟成を促します。その分時間はかかりますが、まろやかなうまみが出るんです。弊社では明治21年の創業当時から使われている杉桶を使用しています。

海外での認知度は上がっていますか。

2013年に「和食」がユネスコ無形文化遺産に登録されましたが、同じ伝統調味料の醤油と比較すると、味噌はまだ認知度が低いと言えるでしょう。海外での味噌マーケットに占める木桶仕込み味噌の割合は輸出額でいうと1パーセントにも満たしません(注2)。そのため2022年2月から同業15社で「木桶仕込み味噌輸出コンソーシアム」を結成し、海外に向けて品質をPRする取組みを行っています。

注2:2022年の味噌輸出額は約50億7700万円(財務省「貿易統計」より)、木桶仕込み味噌の輸出額(木桶仕込み味噌輸出促進コンソーシアムメンバーに限る実績)は約190万円

創業当初から100年以上使用されている木桶

創業当初から100年以上使用されている木桶。ここに住み着いた微生物が味噌をおいしく醸す。

蒸した大豆に麹と塩を混ぜ合わせる工程

蒸した大豆に麹と塩を混ぜ合わせる工程。機械は使わず、人の手で仕込んでいく。

木桶仕込み味噌輸出コンソーシアムの取組について教えてください。

海外では、まだ味噌の製法や白味噌や赤味噌といった種類があることがあまり認知されていません。このため、まずは国内外の展示会に出展したり、レストランのシェフなど料理のプロをメインターゲットに木桶仕込み味噌の魅力を伝え、料理に使ってもらったりSNSで発信してもらうなどしてブランディングを行なっています。

また、風味を保ったまま輸送する方法を確立するのも課題のひとつです。現在は、賞味期限を延ばすための冷凍・冷蔵流通など安定的な輸送方法の検証を進めています。様々な施策を行い、輸出額を2025年には3000万円にすることを目指しています。

木桶仕込み味噌のWebサイト

英語、フランス語に対応した木桶仕込み味噌のWebサイト。木桶仕込み味噌の歴史も分かりやすく掲載されている。
https://kiokemiso.jp/

イタリアでは食のプロを対象としたエデュケーションを開催

イタリアでは食のプロを対象としたエデュケーションを開催。試食をしてもらいながら、製法や文化的背景を伝えた。

脱プラスチック化が進む欧米のニーズに合わせ開発された瓶容器

脱プラスチック化が進む欧米のニーズに合わせ開発された瓶容器。空気穴のあるキャップが採用されている。

オランダで行われた即売会の様子

オランダで行われた即売会の様子。

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木桶職人と木桶を
増やしたい!
木桶職人
復活プロジェクト

伝統的な醤油や味噌づくりに欠かせない木桶。戦後は新桶がほとんどつくられない時期が続いたため、2000年代になると木桶職人は全国にわずかしか残っていませんでした。そこで2012年にヤマロク醤油(株)の山本さんは、当時醸造用の木桶を唯一製造できる桶屋であった「藤井製桶所」に小豆島の大工2人とともに弟子入り。自分たちで木桶を一からつくり上げられるまでになりました。

これをきっかけに、山本さんの呼びかけでスタートしたのが「木桶職人復活プロジェクト」。河野酢味噌製造工場の河野さんも参加しています。技術を共有することで新たな職人を育て、木桶と木桶職人を増やしたい。その思いを同じくする蔵元や料理人、大工などが企業や業界の枠を越えて集まり、毎年1月ごろに小豆島で新桶づくりを行っています。

https://kioke.pro/

木桶職人復活プロジェクト

板状になった木材の接地面から角度を付けて削り、竹くぎで合わせながら円形に組み立てていく。

木桶職人復活プロジェクト

竹を編み上げた「竹たが」を入れ、最後に底板を打ち込んだら完成。竹は小豆島のものを使用している。

お問合せ先

大臣官房広報評価課広報室

代表:03-3502-8111(内線3074)
ダイヤルイン:03-3502-8449

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