ショッピング、グルメ、文化エンタメの発信拠点「東京ミッドタウン日比谷」
ショッピングやグルメ、さらに映画や演劇など文化・エンタメの発信拠点として多彩なイベントで日々にぎわう「東京ミッドタウン日比谷」。でも実はここに、鳥や虫の声が聞こえる心地よい空間が広がっているのをご存じですか? 隣接する日比谷公園や皇居外苑と一体化した緑の景観は、心癒やされる隠れ家のようにも感じられます。ここでどんな生きものに出会えるのか。管理運営する三井不動産・日比谷街づくり推進部のお二人とともに、探索に出かけましょう。
東京の真ん中に、まるで広大な森があるかのよう――。
「東京ミッドタウン日比谷」の上層階にあがると、そんな景観が目に飛び込んできます。この広大な森を作っているのは、隣接する日比谷公園や皇居外苑の豊かな緑。都内有数の一大緑地であることが、上から見るとよくわかります。
その森の一角を構成しているのが、東京ミッドタウン日比谷に設けられた空中庭園や緑地です。管理運営している三井不動産・日比谷街づくり推進部事業グループの中島美緒さんと小野友暉さんに案内してもらいました。
2018年の竣工時から、総面積約2000m2に及ぶ緑地は、日比谷公園との連続性を意識して、公園と同じ在来種を中心にした植栽計画が立てられたそうです。
まず向かったのは、9階の「スカイガーデン」です。「ここはビルに勤務するオフィスワーカーの皆さんに提供しているスペースです。ベンチを置いて、働く皆さんがリフレッシュできる場所としてご利用いただいています」と中島さん。
ヤマザクラなどの木々が木陰をつくりだし、吹き抜ける風が心地よい遊歩道になっています。植栽を縫って流れる小川には、小鳥たちが水浴びにやってくるそうです。さらに剪定(せんてい)した枝や落ち葉などの素材を積み重ねた「生きものの隠れ家やすみか」を植え込みに設置し、ダンゴムシやコガネムシなど小さな生きものたちが集まりやすいようにしています。
また、棚田のような各階のバルコニーには壁面緑化が施され、美しい緑のカーブを描いています。ここは手入れをする人以外は立ち入れない、生きものたちのサンクチュアリ(聖域)になっています。
続いて向かったのは6階の「パークビューガーデン」。こちらは誰でも利用できる緑の芝生が広がる美しい空中庭園です。中島さんによれば、「ソファに座って本を読んだり、仕事をしたり、皆さん思い思いに過ごされていますね。映画を見た帰りに、興奮を冷まそうと寄っていかれるお客さまも多いですよ」。
空を見上げると、大きな鳥が悠々と飛んでいる姿が見えることも。東京の大きな空を独り占めできる特等席に座って、鳥たちが見ている景色に、思いを馳せました。
人目につきにくいバルコニーの緑の中には、鳥の巣箱を新たに設置しました。「鳥は人の来ないところに巣を作りやすいと専門家の先生に聞いて、ここに決めました。シジュウカラやヤマガラといった小さい鳥が住めるように巣箱の穴は28ミリにしています。今のところまだ空き家ですが、冬までに住み着いてくれるのではないかと期待しています」(中島さん)
あらためて耳をすましてみると、ガーデンのあちこちからはさまざまな生きものの声が聞こえてきます。草むらからはにぎやかと思えるほどの虫の音が聞こえ、芝生をついばむスズメのチュンチュンというさえずりも。
こうした鳥のさえずりから、どんな鳥がやってくるのかを分析し、自然を可視化してより身近なものに感じてもらおうという試みにも取り組んでいます。中島さんが木陰などに置かれた大きな卵のような物体を指さして、教えてくれました。
「実はこれマイクなんです。24時間録音し、AIで鳥の鳴き声を分析すると、どんな鳥がいつ何羽やってきたのかわかる〝KoeTurri(コエチュリー)〟というシステムを導入しています。2週間の観測だけでも、18種類の鳥が東京ミッドタウン日比谷にやってきていることがわかりました」
18種のうち半分近くは、日々の巡回などで姿を確認していますが、映画『君たちはどう生きるか』で有名になった体長1メートル近くにもなるアオサギや、日比谷公園に生息しているトビも鳴き声だけは確認されているそうです。「実は今日、自分でハクセキレイを初めて見つけることができて、ちょっと興奮しています」と中島さんは笑います。
鳴き声で確認できた鳥の情報は、館内のデジタルサイネージで紹介しています。運がよければ日比谷でお買い物や観劇だけでなく、カワセミやカワラヒワなどに出会える「バードウォッチング」も楽しめるかもしれません。さらに今後は、東京ミッドタウン日比谷を訪れる生きものをテーマにした観察会やイベントなどを地域やテナントも巻き込みながら開いていく予定だそうです。「私たちの取り組みで、こんな大都会にも珍しい鳥がいることなどが可視化され、『日比谷って生きものにも出会える楽しい街なんだ』という認識が広がって、訪れる人も増えて欲しいです」と小野さんは語ります。
東京ミッドタウン日比谷のガーデンを知り尽くした二人に、お気に入りのスポットを教えてもらいました。中島さんは「このビルで働く者としてスカイガーデンが気に入っています。木陰も多いですし、ちょっとコーヒーを飲んでリフレッシュしたり(笑)」
小野さんのおすすめはパークビューガーデンです。「皇居側のエリアに大きなL字型のソファがあります。実はここ、大学生のときに映画を見に来るたびに寄っては、いいなあと思っていた場所です。まさかここで働くことになるとは思わなかったけれど、毎日通うようになってさらに好きになりました」
日比谷といえば、明治期に鹿鳴館が置かれた国際外交の拠点であり、その後はビジネスの中心地、映画・演劇の街として栄えてきたエリアです。目の前に広がる日比谷公園も、明治時代に日本初の西洋風公園として誕生し、多くの人々の憩いの場所として親しまれてきました。
こうした地域の歴史や自然をベースに、東京ミッドタウン日比谷ではより良い街づくりを進めています。特に日比谷公園に連なる豊かな緑や生きものの多様性を守りながら、年を経るごとに成熟し、価値を高める「経年優化」の考え方でエリア全体の活性化を目指しています。
「珍しい鳥や生きものが来てくれるのはもちろんうれしいですが、本当の目的は訪れた人たちが、鳥のさえずりや虫の存在など、身近な自然に気づき、思いを寄せてもらうこと。そして誰もが、ちょっと空を見上げてくれるような街になったら、うれしいですね」と中島さんは日比谷の未来を語ります。
今度、日比谷を訪れた時には、ちょっとの間だけイヤホンを外して空を見上げ、自然の住人たちの息づかいに耳を傾けてみるのはどうでしょうか? あなたにとって大切な何かが見つかるかも知れません。
9月末には、生物多様性の取り組みを紹介するメディア向けのツアーも開かれました。ガイド役を務めたのは、東京ミッドタウン日比谷の生物多様性アドバイザーに就任した北村亘さん(東京都市大学環境学部准教授)です。
「日比谷公園や皇居方面に大きく開けて、周囲の緑と一体となった設計。このビルだけでなく、日比谷一帯の自然や生き物を守っていくという姿勢に感心しました」と北村さんはガーデンの第一印象について語ります。
緑が連続することで周囲の生きものたちを呼び込む可能性は高まります。「緑が守られることで虫が増え、その虫をついばむ鳥たちもやってくるようになる。将来的にはそんな循環する生態系が生まれることを目指しています」
カワセミやアオサギなど珍しい鳥たちにもっときてもらえるように、「植栽に工夫を加えるなどして、生きものにとっても、人にとっても、心地いい場所と認知されるといいですね」と今後の取り組みに大きな期待を寄せています。
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