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米国議会図書館本源氏物語

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米国議会図書館本源氏物語(べいこくぎかいとしょかんぼんげんじものがたり)または議会図書館本源氏物語とは、源氏物語写本のこと。現在米国議会図書館アジア部日本課の所蔵となっていることからこの名称で呼ばれる。

概要

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54帖の揃い本であり、室町時代から江戸時代にかけての書写と見られる。「正徳元年5月下旬」日付けの古筆了仲の極め札があり、それによると本文の筆者は五辻諸仲(1487年 - 1540年)であり、外題は三条西実隆によるとされる。濃青色の表紙を持つが、糊の跡や剥がされた和紙の一部が残っていること等からある時期に付け替えられたと見られる。本文系統は別本に属する。海外に流出した日本の文物によくあるような、美術的価値の高い塗り箱に入った非常に美しい写本である。2010年1月25日から27日にかけて豊島秀範(國學院大學)・伊藤鉃也(国文学研究資料館)・斎藤達哉(国立国語研究所)・高田智和(国立国語研究所)・菅原郁子(国文学研究資料館)・神田久義(國學院大學)によって調査が行われ、その成果として2011年3月より米国議会図書館側からの了解を得て国立国語研究所のウエブサイトにおいて本写本の翻刻本文が試験公開されている。

伝来

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本写本については2008年に米国議会図書館アジア部日本課の所蔵となったもので、「同館の所蔵となるまで学界未紹介の新出資料である。」とされることもある[1] ものの、それ以前には日本の古書店である八木書店のもとにあり、そのころ研究者によって調査された際に「八木書店本」と呼ばれていた[2] 。それ以前の伝来については、蔵書印等も無く伝来を示す資料などもないため不明である[3]

本写本には「正徳元年(1711年)5月下旬」日付けの古筆了仲の極め札があり、それによると本文の筆者は五辻諸仲(1487年 - 1540年)であり、外題は三条西実隆によるとされる。この鑑定の根拠は不明であるが、三条西実隆の日記「実隆公記」によれば、五辻諸仲は三条西実隆の饗宴にしばしば出席しており、また五辻諸仲が三条西実隆に和歌の添削を依頼する手紙が実隆公記の紙背文書となっているなど両者には一定の関係があり、五辻諸仲が書写した写本に三条西実隆が外題をつけることは不自然なことではないと考えられる。

特徴のある書写

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本写本の最も特徴的な点として、和歌が第2句と第3句、第4句と第5句などが、割り注のように 2行書きとなっていて、一見散らし書きのように書かれているものがあることである。これは、「非常にめずらしい例であり、従来知られていない装飾的な書き方と思われる。」とされる。この書き方は『源氏物語』の全54巻にわたって、このような書式で和歌が書かれているのではなく、また同じ巻にこの書き方と1行から2行にわたる普通の書き方が混在しており、この散らし書きのような書き方は、54巻中以下の13巻の中の以下の数の和歌のみに限られている[4] 。なお、このような和歌の書き方がみられるのは源氏物語の写本では現在確認されている限りでは本写本のみであるが、現在イギリスにある源氏物語画帖の一部の和歌に同様の表現が見られる[5] 。またなぜこのような現象が生じたかについて、もともとは書写のときに頁の変わり目に和歌の終わりを合わせるための操作だったのではないかとする説がある[6]

  • 本写本の特徴としてその他に以下のような点が確認できる。
    • 1面あたりの書写行数が一定せず、変動の幅が大きいこと。1面あたりの書写行数が8行から12行書きと、書写行数にバラツキがあること。1面9行や1面10行で統一されている巻も多くある一方で、1面あたりの書写行数が一定していない巻も多い。古写本で巻の中で9行から10行書きになったり、9行から8行になったりしているような書写行数にむらがあるものは時たまあるものの、変動の幅はほとんどの場合1・2行程度である。この写本の場合、「帚木」では、8行・9行と、10行、「横笛」では10行・11行と12行というように変動の幅が大きい例はめずらしいとされる。
    • 遊紙がない巻が多いこと。ほとんどの巻で、最終丁のオモテかウラに文字が書かれている。改装によって失っている訳でもない。何かの事情で、紙を節約する必要があったのではないか。少なくとも、人への献呈本ではなさそうである。
    • 墨筆・朱筆による書入れや擦り消しによる訂正が数多くみられること。これらは全帖にわたって平均的に現れるのではなく一部の巻に偏って現れる[7] [8] [9] [10]
    • 薄雲巻巻末のただ一か所にのみ、聞書のような注釈書類からの転記と思われる注釈が記されている[11]

翻字資料

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  • 斎藤達哉・高田智和編「米国議会図書館蔵『源氏物語』翻刻桐壺-藤裏葉 : 平成22年度人間文化研究連携共同推進事業「海外に移出した仮名写本の緊急調査」報告書」人間文化研究機構国立国語研究所、2011年(平成23年)3月。
  • 斎藤達哉・豊島秀範伊藤鉃也・小木曽智信・高田智和編「米国議会図書館蔵『源氏物語』翻字本文若菜上-幻 平成23年度人間文化研究連携共同推進事業「海外に移出した仮名写本の緊急調査(第2期)」報告書」人間文化研究機構国立国語研究所、2012年(平成24年)3月。
  • 高田智和・斎藤達哉・小木曽智信・伊藤鉃也・豊島秀範編「米国議会図書館蔵『源氏物語』翻字本文 : 匂宮-夢浮橋 : 平成24年度人間文化研究連携共同推進事業「海外に移出した仮名写本の緊急調査 (第2期) 」報告書」人間文化研究機構国立国語研究所、2013年(平成25年)3月。

参考文献

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  • 伊藤鉃也「古写本における書写者の心理を読む」(豊島秀範『科研研究成果報告書 源氏物語本文の再検討と新提言 第3号』2010年(平成22年)3月
  • 豊島秀範「アメリカ議会図書館本の和歌表記の特徴--和歌の一行散らし書きを中心に」『國學院大學大学院平安文学研究』第2号、國學院大學平安文学研究会、2010年(平成22年)9月、pp. 88-96。
  • 高田智和・斎藤達哉「米国議会図書館蔵『源氏物語』について 書誌と表記の特徴」国立国語研究所論集編集委員会編『国立国語研究所論集』第6号、国立国語研究所論集編集委員会、2013年(平成25年)11月、pp. 294-272

外部リンク

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国立国語研究所・国文学研究資料館のウエブサイト上で翻字資料が公開されている。

脚注

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注釈

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出典

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  1. ^ 高田智和・斎藤達哉「米国議会図書館蔵『源氏物語』について : 書誌と表記の特徴」国立国語研究所論集編集委員会編『国立国語研究所論集』第6集、2013-11 p.294-272
  2. ^ 加藤昌嘉「源氏物語本文搖動史」東京大学国語国文学会編『国語と国文学』第82巻第3号、至文堂、2005年(平成17年)3月、pp. 27-39。 のち「東屋巻の本文搖動史」として加藤昌嘉著「揺れ動く『源氏物語』」勉誠出版、2011年(平成23年)10月、pp. 3-25。 ISBN 978-4-5852-9020-9
  3. ^ 神田久義「米国議会図書館本『源氏物語』の書写形態に関する一試論」豊島秀範編『源氏物語本文の研究』國學院大學文学部日本文学科発行、2011年3月31日、pp. 180-199。
  4. ^ 神田久義・豊島秀範「米国議会図書館蔵『源氏物語』特殊表記和歌一覧」斎藤達哉・豊島秀範・伊藤鉃也・小木曽智信・高田智和編「米国議会図書館蔵『源氏物語』翻字本文若菜上-幻 平成23年度人間文化研究連携共同推進事業「海外に移出した仮名写本の緊急調査(第2期)」報告書」人間文化研究機構国立国語研究所、2012年(平成24年)3月、pp. 179-192。
  5. ^ 伊藤鉃也「在英源氏物語画帖の絵と詞」豊島秀範編『文部科学省科学研究費補助金研究成果報告書 源氏物語本文の研究』國學院大學文学部日本文学科、2011年(平成23年)3月、pp. 7-27。
  6. ^ 神田久義「「米国議会図書館蔵『源氏物語』の書写形態に関する一試論」豊島秀範編『文部科学省科学研究費補助金研究成果報告書 源氏物語本文の研究』國學院大學文学部日本文学科、2011年(平成23年)3月、pp. 180-199。
  7. ^ 神田久義・斎藤達哉・小木曽智信・高田智和「米国議会図書館蔵『源氏物語』書入一覧」高田智和・斎藤達哉・小木曽智信・伊藤鉃也・豊島秀範編「米国議会図書館蔵『源氏物語』翻字本文 : 匂宮-夢浮橋 : 平成24年度人間文化研究連携共同推進事業「海外に移出した仮名写本の緊急調査 (第2期) 」報告書」人間文化研究機構国立国語研究所、2013年(平成25年)3月、pp. 287-303。
  8. ^ 斎藤達哉・神田久義・豊島秀範・菅原郁子「米国議会図書館蔵『源氏物語』擦消一覧(桐壺-藤裏葉)」斎藤達哉・高田智和編「米国議会図書館蔵『源氏物語』翻刻桐壺-藤裏葉 : 平成22年度人間文化研究連携共同推進事業「海外に移出した仮名写本の緊急調査」報告書」人間文化研究機構国立国語研究所、2011年(平成23年)3月、pp. 393-425。
  9. ^ 神田久義・斎藤達哉「米国議会図書館蔵『源氏物語』擦消一覧(若菜上-幻)」斎藤達哉・豊島秀範・伊藤鉃也・小木曽智信・高田智和編「米国議会図書館蔵『源氏物語』翻字本文若菜上-幻 平成23年度人間文化研究連携共同推進事業「海外に移出した仮名写本の緊急調査(第2期)」報告書」人間文化研究機構国立国語研究所、2012年(平成24年)3月、pp. 155-178。
  10. ^ 神田久義・斎藤達哉「米国議会図書館蔵『源氏物語』擦消一覧(匂宮-夢浮橋)」高田智和・斎藤達哉・小木曽智信・伊藤鉃也・豊島秀範編「米国議会図書館蔵『源氏物語』翻字本文 : 匂宮-夢浮橋 : 平成24年度人間文化研究連携共同推進事業「海外に移出した仮名写本の緊急調査 (第2期) 」報告書」人間文化研究機構国立国語研究所、2013年(平成25年)3月、pp. 247-286。
  11. ^ 「薄雲巻末注記」高田智和・斎藤達哉・小木曽智信・伊藤鉃也・豊島秀範編「米国議会図書館蔵『源氏物語』翻字本文 : 匂宮-夢浮橋 : 平成24年度人間文化研究連携共同推進事業「海外に移出した仮名写本の緊急調査 (第2期) 」報告書」人間文化研究機構国立国語研究所、2013年(平成25年)3月、p. 303。
人物
光源氏と親兄弟
女君
子女
左大臣家
その他
宇治十帖
巻(帖)
総論
第一部
第二部
第三部
異名・外伝
関連項目
源氏物語の写本、注釈書、関連書
写本
(一覧
記号)
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(定家本)
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