シーメンスS200形電車
S200は、シーメンスがアメリカやカナダのライトレール向けに展開する連接式 電車。1990年代から2010年代まで各都市に導入が行われたSD-100・SD-160を発展させた形式で、2023年現在2箇所の都市で営業運転に用いられている。製造はカリフォルニア州 サクラメントにあるシーメンスの工場で実施されている[1] [2] [3] 。
カルガリー
[編集 ]カルガリー交通局S200形電車 シーメンス S200 | |
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S200(Cトレイン) | |
基本情報 | |
運用者 | カルガリー交通局 (英語版) |
製造所 | シーメンス |
製造年 | 2015年 - |
製造数 | 63両(2401 - 2463) |
運用開始 | 2016年 1月6日 |
投入先 | Cトレイン |
主要諸元 | |
編成 | 2車体連接車、両運転台 |
軸配置 | Bo′(2)′Bo′ |
軌間 | 1,435 mm |
電気方式 |
直流600 V (架空電車線方式) |
最高運転速度 | 80 km/h |
設計最高速度 | 80 km/h |
起動加速度 | 0.95 m/s2 |
減速度(常用) | 1.32 m/s2 |
減速度(非常) | 2.75 m/s2 |
車両定員 |
最大247人(乗車密度6人/m2時) 着席60人 車椅子スペース2箇所 フリースペース2箇所 |
編成重量 | 40.8 t |
編成長 | 25,800 mm |
全幅 | 2,654 mm |
全高 | 3,850 mm |
床面高さ | 982 mm |
固定軸距 | 1,800 mm |
主電動機出力 | 145 kw |
出力 | 580 kw |
制御方式 | VVVFインバータ制御(IGBT素子) |
備考 | 主要数値は[1] [4] に基づく。 |
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カナダ・アルバータ州 カルガリーでCトレイン を運営するカルガリー交通局 (英語版)は、開業時の1980年に導入し老朽化が進んでいたU2形電車の置き換えや本数増加のため、新型車両の導入を計画した。日本の近畿車輛、スペインのCAF、韓国の現代ロテム、カナダのボンバルディアも入札に参加したが、最終的にU2形以降Cトレイン向けの車両を生産し続けていたシーメンスが2013年に63両の受注を獲得した[5] [6] 。
編成は2000年以降導入されたSD-160形を基にした両運転台式の2車体連接式で、最大5両まで総括制御による連結運転が可能である。運転室の空間はSD-160形から500 mm拡大し、運転台上の機器の配置の見直しやガラス面積の拡大により運転士の快適性や視認性、安全性が向上している。前面形状についてはボウ川にちなんだ弓型デザイン、バッファローを模したデザイン、アイスホッケーのマスクを基にしたデザインの3種類からカルガリー市民を対象にした投票が行われ、アイスホッケーが盛んなカルガリーを象徴するマスク状のデザインが採用された[1] [4] 。
車内の座席配置は収容力の増加に重点を置き、運転席付近に一対のボックス式クロスシート、それ以外はロングシートが設置されている。各車体の連接面付近には車椅子スペースやフリースペースがあり、車椅子やベビーカー、自転車の搭載が可能となっている。床上高さは982 mmだが、Cトレインのプラットホームは全て高床式であるため、乗降の際の段差は存在しない。また運転室を含めた車内には冷暖房双方に対応した空調(HVAC)が完備されており、車体構造は断熱性にも重点が置かれている[1] 。
車両の機器はS70で導入された"MDS"システムにより自動的に監視・診断が行われる。また車内の安全対策として車内には乗務員と連絡可能なインターホンや監視カメラが設置されている[1] 。
2015年から製造が実施されており、営業運転開始日は翌2016年 1月6日である[4] 。
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車内
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高架区間を走行するS200(2022年撮影)
サンフランシスコ
[編集 ]サンフランシスコ市営鉄道LRV4電車 シーメンス S200 SF | |
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LRV4(ミュニ・メトロ) | |
基本情報 | |
運用者 | サンフランシスコ市営鉄道 |
製造所 | シーメンス |
製造年 | 2016年 - |
製造数 | 264両(2001 - )(予定) |
運用開始 | 2017年 11月17日 |
投入先 | ミュニ・メトロ |
主要諸元 | |
編成 | 2車体連接車、両運転台 |
軸配置 | Bo′(2)′Bo′ |
軌間 | 1,435 mm |
電気方式 |
直流600 V (架空電車線方式) |
最高運転速度 | 80.5 km/h |
設計最高速度 | 88.5 km/h |
起動加速度 | 1.34 m/s2 |
減速度(常用) | 1.56 m/s2 |
減速度(非常) | 2.24 m/s2 |
車両定員 |
最大193人(乗車密度6人/m2時) 着席60人 車椅子スペース4箇所 |
編成重量 | 34.473 t |
編成長 | 22,850 mm |
全幅 | 2,650 mm |
全高 | 3,505 mm |
床面高さ | 864 mm |
固定軸距 | 1,900 mm |
主電動機出力 | 130 kw |
出力 | 520 kw |
制御方式 | VVVFインバータ制御(IGBT素子) |
制動装置 | 回生ブレーキ、油圧ブレーキ |
備考 | 主要数値は[2] [7] [8] に基づく。 |
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アメリカ合衆国・カリフォルニア州 サンフランシスコでミュニ・メトロ を運営するサンフランシスコ市営鉄道は、2020年代に耐用年数に達するアンサルドブレーダ製のLRV2・LRV3電車の置き換えや、2021年に開通予定のセントラル・サブウェイ (英語版)系統へ向けての増備車両として新型電車の導入を発表した。近畿車輛やCAFも参加した入札の結果、2014年 6月にシーメンスが受注を獲得した。当初契約分の155両に加えてオプション分の追加発注が行われており、これらの車両はシーメンス側からS200 SF、ミュニ・メトロ側からLRV4の形式名が与えられている[9] [10] [11] 。
編成は両運転台式の2車体連接式で、最大4両編成まで総括制御による連結運転が可能となっている。カルガリー向け車両と同様に、運転室内の空間拡大、運転台の機器配置の見直しなどによって運転士の快適性や安全性の向上が図られている。設計においては環境への配慮が重視されており、エネルギーを回収する事により消費量を削減する回生ブレーキの搭載、電力を従来の蛍光灯から40%削減出来るLED照明の採用などの策が実施されている[2] [8] 。
高床式・低床式双方のプラットホームが存在するミュニ・メトロの条件に合わせ、乗降扉付近には可動式のステップや車椅子用リフトが設置されている。また乗降扉については部品を減らしメンテナンスを容易とした新しい構造が用いられている。鋼製の車体は耐衝撃性など安全性の向上と同時に軽量化による消費電力削減が図られる[2] [8] 。
2017年 11月17日に開催された出発式から営業運転を開始したが、導入当初は運転台側の乗降扉に乗客が挟まれる事故や連結器の破損が発生し、一時的に片開き扉の使用や連結運転の停止などの措置が取られる事態となった。その後乗降扉付近のセンサー増設や連結器の部品強化などにより、故障の要因となっていた欠陥が改善された事で、2019年 6月以降は通常の営業運転を再開している。以降は同年までに68両、2027年までに151両、2030年代中盤までに45両、合計264両が導入される計画となっており、LRV2・LRV3は2027年までに全車営業運転から引退する予定である[7] [12] [13] 。
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地下区間を走行するLRV4(2018年撮影)
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置き換え対象のLRV2(右)と並ぶLRV4(2018年撮影)
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連結運転時は車両間に転落防止用テープが張られる(2018年撮影)
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運転初日、満員になった車内(2017年11月17日撮影)
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欠陥により一時期使用不能になった乗降扉(2019年4月撮影)
クリーブランド
[編集 ]2023年、シーメンスはアメリカ合衆国・クリーブランドで公共交通機関を運営する大クリーブランド地域交通局 (英語版)(Greater Cleveland Regional Transit Authority、GCRTA)との間に、24両+オプション36両分のS200を導入する契約を交わした。これは同事業者が運営する鉄道路線の旧型車両の置き換えを目的としており、ライトレール路線(ブルーライン (英語版)、グリーンライン (英語版))に加えて、2023年時点で大型車両が使用されている地下鉄路線(ヘビーレール)のレッドライン (英語版)へも導入される[注釈 1] 。そのため、高床式・低床式双方のプラットホームに対応した乗降扉が設置される予定となっている。編成は2車体連接式で、車内には52人分の座席に加えて4箇所の車椅子用スペース、2箇所の自転車用ラックが設置される。また、冷暖房双方に対応した空調装置(HVAC)やクリーブランドの冬季での運用に対応した機構が各所に搭載される。契約では2026年までに最初の車両の納入・試運転が完了する事になっている[14] [15] [16] [17] 。
セントルイス
[編集 ]2023年 5月、アメリカの都市・セントルイスでライトレール(メトロリンク (英語版))を運営するバイ・ステート・ディベロップメント・エージェンシー (英語版)は、長年使用されていた車両(SD-400形)の老朽化による置き換えのため、シーメンスとの間に新型車両を発注する計画を発表し、同年12月に契約を結んだ。24両の製造が決定している他、最大で55両の導入が可能な契約内容となっており、2026年以降営業運転を開始する予定である[18] [19] [20] 。
関連項目
[編集 ]- シーメンス製のアメリカ合衆国向けライトレール用車両[21] [22]
- U2形 - 高床式車両、デュワグとの共同生産。
- SD-400形・SD-460形 - 高床式車両、SD-400形はデュワグとの共同生産。
- SD-100形・SD-160形 - 高床式車両。
- P2000形 - 高床式車両、ロサンゼルス郡都市圏交通局向け車両。
- SD-660形 (英語版) - 部分低床式車両、トライメット (英語版)向け車両。
- S70形・S700形 - 部分低床式車両。
脚注
[編集 ]注釈
[編集 ]- ^ シーメンスとの契約のうち、確定分の24両はレッドライン、オプション分の36両はブルーライン・グリーンラインへの導入が予定されている。
出典
[編集 ]- ^ a b c d e "S200 Light Rail Vehicle Calgary, Alberta". Siemens (2018年). 2019年11月12日閲覧。
- ^ a b c d "S200 SF Light Rail Vehicle San Francisco, California". Siemens (2017年). 2019年11月12日閲覧。
- ^ "Light Rail Vehicles for North America". Siemens. 2019年11月12日閲覧。
- ^ a b c Jason Markusoff (2016年1月14日). "New Mask CTrain car arrives". Calgary Transit. 2019年11月12日閲覧。
- ^ Jason Markusoff (2013年9月12日). "Calgary Transit to buy 60 new LRT cars for 200ドルM". Calgary herald. 2019年11月12日閲覧。
- ^ Vehicle Lines - ウェイバックマシン(2012年4月2日アーカイブ分)
- ^ a b Michelle Robertson (2017年11月17日). "New Muni train, designed to be quieter and more spacious, hit San Francisco streets". San Francisco Chronicle. 2019年11月12日閲覧。
- ^ a b c "S200 SF Light Rail Vehicle, San Francisco, California". Railway Technology. 2019年11月12日閲覧。
- ^ Michael Cabanatuan (2013年9月17日). "New ride coming to Muni Metro". San Francisco Chronicle. 2019年11月12日閲覧。
- ^ Michael Cabanatuan (2014年7月16日). "1ドル.2 billion contract OKd for new Muni Metro light-rail cars". San Francisco Chronicle. 2019年11月12日閲覧。
- ^ William C. Vantuono (2015年6月17日). "Siemens S200 SF previews in San Francisco; more LRVs ordered". RailwayAge. 2019年11月12日閲覧。
- ^ Joe Fitzgerald Rodriguez (2019年6月15日). "Muni fixes faulty train doors, couplers on new trains". The San Francisco Examiner. 2019年11月12日閲覧。
- ^ Joe Fitzgerald Rodriguez (2019年6月26日). "All San Francisco Muni LRV4 doors, two-car trains back in service". Metro. 2019年11月12日閲覧。
- ^ "Siemens Mobility to replace Greater Cleveland Regional Transit Authority’s Red Line fleet with 24 S200 LRVs". Siemens (2023年7月10日). 2023年7月12日閲覧。
- ^ "Up to 60 Siemens light rail vehicles for Cleveland/Ohio". Urban Transport Magazine (2023年7月11日). 2023年7月12日閲覧。
- ^ Tiana May (2023年4月11日). "Siemens Mobility to Supply Light Rail Vehicles for Cleveland RTA". Railway-News. 2023年7月12日閲覧。
- ^ Mark Oprea (2023年4月5日). "RTA Eyes Newest Rail Cars In 40 Years—Plus Four New Possible Rapid Routes". Scene. 2023年7月12日閲覧。
- ^ "Metro Transit Awarded 196ドル.2 Million Federal Grant for New MetroLink Train Cars". Metro Transit (2023年5月5日). 2023年3月4日閲覧。
- ^ Chris Strizel (2023年10月9日). "New MetroLink Railcars Aim to Provide a Better Passenger Experience". CityScene STL. 2023年3月4日閲覧。
- ^ Krechetov Dmitry, Savenkova Ekaterina (2023年12月7日). "Siemens Mobility to supply up to 55 new trams to St. Louis". RollingStock. 2023年3月4日閲覧。
- ^ "North America". Siemens. 2007年2月7日時点のオリジナルよりアーカイブ。2023年7月19日閲覧。
- ^ Siemens (2021). High-Floor Light Rail Vehicles Building on the strengths of today with the innovations of tomorrow (PDF) (Report). 2023年7月19日閲覧。