子どもにもある脂質異常症

子どもの脂質異常症

脂質は炭水化物、たんぱく質とともに3大栄養素のひとつであり、エネルギー源としてだけでなく、細胞膜、ホルモンなどの原料として利用されます。脂質はおもに「コレステロール」と「中性脂肪」に分けられ、中性脂肪は「脂肪酸」と「グリセリン」からなります。食事で摂取した脂質は腸管で吸収され全身へ運ばれます。脂質は水(血液)には溶けないので、「リポ蛋白」という蛋白質と一緒に粒子になって血液の中を流れていきます。コレステロールの運搬を「LDL(低比重リポ蛋白)」、「HDL(高比重リポ蛋白)」が担います。

脂質異常症では血液中の総コレステロールやトリグリセライド(中性脂肪)が高値となり、特にLDL-コレステロールの高値、HDL-コレステロールの低値がみられます(注記)1

成人で問題となる脳梗塞、狭心症、心筋梗塞などの原因である動脈硬化の初期病変は幼児期から生じており、特にLDL-コレステロールの累積値に比例して進行すると考えられています。また脂肪酸のうち、飽和脂肪酸の摂取の増加と総血中コレステロールやLDL-コレステロールの高値が動脈硬化のリスク増大と関係しています(注記)1,2

小児の脂質異常症には家族性高コレステロール血症のような遺伝性の疾患がありますが、様々な疾患、薬剤、そして肥満、食事にも関連します(注記)3。肥満に関しては学童期以降では、一般に肥満になると脂質異常症になりやすいことが報告されています。県民健康調査「小児健康診査」においても、7歳から15歳の小児の肥満度がBMI-SDスコアが2以上(図、2SD以上)の肥満(注)の児ではBMI-SDスコアが2未満(図、2SD未満)の児に比べて、血清LDL-コレステロールおよびトリグリセライド(中性脂肪)が高値、血清HDL-コレステロールが低値でした(注記)4


図:肥満度と血中脂質の値(注記)4

注:体格の指標であるBMI(体重(kg)/身長(m2))において、各年齢別のBMIの標準偏差値(SD)の2倍を超えた肥満。

食事と脂質異常症

食事に関して、4歳から6歳を対象とした他の調査では、高血中コレステロール群は正常群にくらべて、コレステロールと飽和脂肪酸の摂取が過剰であり、そして野菜や果物類の摂取が少ないことが示されています。また、研究目的に乳幼児期から低コレステロール食と低飽和脂肪酸食を食べるようにした検討では、これらの食事をした15歳から20歳時のメタボリックシンドロームの頻度が低いことが報告されています(注記)1

また、小児期の食習慣が成人期に引き継がれ、疾病罹患に関連し得ることについては複数の報告があります(注記)1,2

子どもの脂質異常症の予防法

成人では飽和脂肪酸摂取量を少なくすることにより、血中総コレステロール及びLDLコレステロールが低下すること、また、循環器疾患リスクが小さくなるとの報告が多いことから、飽和脂肪酸は摂取エネルギーの7%以下という目標量(上限)が設定されています。小児においても目標量(上限)が示されています(表)(注記)5


図:バターでの飽和脂肪酸摂取量の計算例(体重30kgの学童(60 kcal/kg/day)の場合)

また、工業的に製造されたマーガリン、ファットスプレッド、ショートニングや、それらを原材料に使ったパン、ケーキ等の洋菓子、スナック菓子及びその油脂を使った揚げ物等に含まれるトランス脂肪酸が、飽和脂肪酸と同様に動脈硬化に関与することが報告されています(注記)6。トランス脂肪酸の摂取量は1%エネルギー未満にとどめるのが望ましく、1%エネルギー未満でもできるだけ低く留めることが望ましいとされています(注記)5

日常的に脂質を多く含む食事に偏った食生活を送っている人は、工業的に生成したトランス脂肪酸や飽和脂肪酸を過剰に摂取するだけでなく、他の栄養素にも偏りがある可能性が高いと考えられます(注記)6。脂肪摂取量が多い傾向にある人は、伝統的な日本食パターンを中心として、好き嫌いなく、魚、大豆(製品)、野菜、海藻などをバランスよく主食、主菜、副菜がそろった食事が推奨されます(注記)1,2。さらに運動習慣をつけることも大切です。運動は動脈硬化や肥満の予防に働きます。また、県民健康調査「小児健康診査」において脂質異常の改善は肥満の改善に比較して遅れていることが示されています(注記)4。無理なく、楽しく継続できる日頃からの取り組みが大切です。「簡単!栄養andカロリー計算」(注記)7を参考に日頃の食事内容を考えてみましょう。

参考文献等

1 日本小児科学会ホームページ 「幼児肥満ガイド2019」
2 日本動脈硬化学会ホームページ 「動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版」
3 日本小児科学会ホームページ 「小児家族性高コレステロール血症診療ガイドライン2022」
4 Kawasaki Y, et al. Pediatr Int 2020
5 厚生労働省ホームページ 「日本人の食事摂取基準(2020年版)」策定検討会報告書
6 消費者庁ホームページ 栄養成分表示を活用しよう(脂質と上手に付き合うために)
7 簡単!栄養andカロリー計算 飽和脂肪酸の多い食品と、飽和脂肪酸の含有量一覧表

2023年8月16日

橋本 浩一
福島県立医科大学 放射線医学県民健康管理センター 健康診査・健康増進室 専門委員
小児科学講座 准教授

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