抗菌薬の適正使用について
細菌感染症の治療において患者の予後を改善するためには、病原体も含めて的確に感染症の診断を行い、適切なタイミングで最も効果的な抗菌薬を投与することが重要です。抗菌薬を投与することにより患者状態の改善を図ることができても、薬剤耐性菌が発生したり抗菌薬の副作用が生じたりすることがあります。耐性菌や副作用のために入院期間が延長すれば医療経済的にもコストが増加します。多剤耐性菌が出現すれば、効果的な治療ができず患者の予後が不良となるおそれがあります。
このため、抗菌薬の必要な病態かどうかを見極め、必要であれば最大限の治療効果を引き出すように使用するとともに、患者に害を与えず、耐性菌を増やさないことが、抗菌薬の適正使用で目指すところです。
具体的には、
抗菌薬を適正に使用するために、米国感染症学会(IDSA)および米国医療疫学学会(SHEA)から、抗菌薬適正使用プログラムの実施についてのガイドラインが示されています[1, 2]。ここには推奨事項として以下のようなものが挙げられています。
これらの中から、医療機関の組織や状況に応じてできることから始めていく必要があります。比較的取り組みやすいものとしては、院内採用抗菌薬の整備、感染対策担当の医師や薬剤師が感染症診療過程をチェックし改善点を伝える前向き監視とフィードバック、De-escalationなどの治療抗菌薬の最適化、ガイドラインやクリニカルパスの見直しなどがあります。
これらの活動はインフェクションコントロールドクター(ICD)や感染管理看護師(ICN)単独の力では難しいのが実際です。そのため、抗菌薬適正使用推進チーム(AST: Antimicrobial Stewardship Team)を設置する病院が増えてきました。これは病院内の組織間の協力が不可欠であり、管理者や各部門の長の理解と協力がなくては成功しないといえます。
ASTは、感染症や感染対策を専門とする医師、感染管理看護師(ICN)もしくは感染対策の教育を受けた看護師、感染症の教育を受けた薬剤師、細菌検査技師、院内・院外の感染症に関する事務担当者からなることが望ましいですが、施設の規模や事情、状況に応じてチームを構成し、プログラムを実施していく必要があります。抗菌薬適正使用推進チームは、病院内の番人ではありません。現場の協力が得られるよう、各部門とコミュニケーションをはかりみんなで適正使用を進めていく、というスタンスが成功につながります。
抗菌薬の適正使用推進活動は、感染症診療において最大限の治療効果を引き出し、患者に害を与えず、耐性菌を増やさないことが目標です。そのため、それぞれの取り組みの効果を測定し評価する指標が必要となります。
この評価指標には、プロセス指標とアウトカム指標があります。プロセス指標としては、抗菌薬の使用量・投与期間などの処方パターンや、血液培養の複数セット採取率が挙げられます。ただし、抗菌薬の適正使用=抗菌薬の使用量の低減、ではありません。必要な抗菌薬を適切な量と期間、投与して感染症を効果的に治療し、患者予後の改善を図ることが目的ですので、場合によっては抗菌薬の使用量がこれまでよりも増える、もしくは減らない場合もありえます。
アウトカム指標は、これまで医療機関における微生物の抗菌薬感受性率やコストが検討されてきました。在院日数、薬剤副作用、C. difficile腸炎発生率や患者の予後を用いた評価も検討されています。しかし、これらはほかの要因に影響される場合もあり、評価が難しいです。標準化されたアウトカム指標は確立されていないのが現状です。
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