薬剤耐性菌は最近になって誕生したわけではありません。400万年以上前にできた洞窟から薬剤耐性菌は発見されていますし[1]、人類の活動がほとんどないはずの北極の永久凍土からも薬剤耐性菌はみつかっています[2]。つまり、一部の菌は生来の特徴として、もともと薬剤耐性(AMR)なのです。
一方、人間社会においては、抗菌薬が世の中に普及し始めた1940年台から薬剤耐性菌が次々とみつかるようになり、その後急速に世間に拡散していきます[3]。これには、抗菌薬の使用が大きく関わっているといわれています。抗菌薬に感受性のある細菌がいなくなることで、もともと薬剤耐性であった細菌が選択されてしまったり、また、ときには抗菌薬への曝露そのものから細菌が変化して耐性化したりします。
世界初の抗生物質であるペニシリンを発見したアレキサンダー・フレミングは、1945年のノーベル賞受賞スピーチの中ですでに薬剤耐性菌の問題について触れており、その先見の明には驚かされます。
抗菌薬の開発と細菌の耐性獲得はいたちごっこです。人類が新たな抗菌薬をいくら開発しても、細菌は新しい薬剤に対して次から次へと耐性化してしまうのです(図1)。
図1 Sir Alexander Fleming
ついには1993年、これまで耐性菌への最終兵器的な存在であったカルバペネム系抗菌薬に対しても耐性をもつ悪夢の細菌、「カルバペネム耐性腸内細菌科細菌(Carbapenem resistant enterobacteriaceae = CRE)」が発見されてしまいました[4]。
CREの中には、現存するありとあらゆる抗菌薬に耐性の細菌も含まれています。このような細菌に感染した場合、もはや抗菌薬で感染症を治療する術はありません。今なお、CREは世界に拡大しており、世界的なAMR対策が叫ばれるきっかけのひとつとなっています。 われわれはこれらの細菌をなるべく蔓延させないよう、感染対策や抗菌薬の適正使用を行っていく必要があります。
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