【WATCHERS・専門家の経済講座】(39) 逆風の一帯一路、日本に秋波――肖敏捷氏(『AISキャピタル』代表パートナー)

20190628 07
「中国による巨大経済圏"一帯一路"構想について、欧米等から風当たりが強くなってきました。一帯一路は、中国の習近平国家主席が2013年に提唱しました。中国自身の経済成長が頭打ちになりつつある中、中国と欧州を結ぶ広大な地域に新たな成長フロンティアを求める構想です。中国では国内の需要が伸び悩む一方、2008年のリーマンショックに伴う経済対策で増やした供給、つまり鉄鋼や自動車等の製造能力が需要以上に拡大しました。需要と供給のギャップを埋めるには、先ず供給を減らす必要があります。しかし、2008年以降に作った製造拠点は未だ新品同然で減らし難い。そこで、作り過ぎた鉄やクルマを海外に売ることにしたのです。一帯一路の沿線国は、中国に比べて所得も技術力も科学的な水準も低い。こうした国々に対し、中国は資金、技術、人材を提供しています。鉄道、道路、通信といったインフラプロジェクトを展開しているのです。日本の円借款や、第2次世界大戦後のマーシャルプラン((注記)欧州復興計画)のような施策とも言えます。ただ、中国の過剰供給は想像以上に大きい。一帯一路だけではギャップを埋められないでしょう。供給を減らす為の構造改革も求められます。一帯一路構想には様々な課題も見えてきました。先ず、中国自身の経験が不足している。インフラ投資の相手国が負う債務に対し、収益等の還元がどの程度期待できるのか、算定が甘いと言えます。債務を巡るトラブルに備える制度や人材等、ソフト面も未熟です。最近では、相手国の返済能力を無視した借金を中国が負わせる"債務の罠"への警戒感も高まっています」。

スリランカは中国の資金で港湾建設を始めたが、返済が困難となり、港を中国に事実上、譲渡した。モルディブやパキスタン等も、一帯一路関連プロジェクトの見直しを表明した。「一帯一路は約130ヵ国が関わる壮大なプロジェクトです。一つの国で支えるには無理があります。中国が一帯一路で開発対象に挙げた国々は、リスクが高過ぎて先進国の関心が低い、謂わば"空白地"。そうした国の港湾等に中国の開発が及ぶと、欧米諸国は『軍事的・覇権的な意図があるのではないか?』と警戒し始めました。一帯一路への逆風を感じて、中国も軌道修正を図っています。習主席は4月、『一帯一路構想で国際ルールや債務負担への目配りを強化する』と表明しました。貿易問題で対立するアメリカを刺激しない為にも、中国はトーンダウンせざるを得ないようです。米中貿易摩擦の激化によって、一帯一路構想も大きな影響を受けるでしょう。米中の対立が続けば、インフラ投資を必要とする国々が米中のどちら側に付くのか、踏み絵を踏まされるようになりかねません。貿易摩擦によって景気が悪化すれば、中国側の情熱も冷める恐れがあります。嘗ては地方政府が競い合うように一帯一路関連の事業を打ち出しましたが、最近は国内の景気対策を優先しているのか、取り組みは低調なようです。また、2014年には4兆ドル近くあった中国の外貨準備が、一帯一路の信用力の一つでした。しかし、最近は3兆ドル程度と、資金力にも疑問符が付きます。国際的な政治環境も変わって、中国に対する視線は厳しくなっています。アメリカ向けの輸出が減った大きな穴を、一帯一路だけで埋められるとは思えません。それでも中国が新たなフロンティアを求める必要性は変わりません。"百年の計"として、時間をかけて進めていく流れは止まらないでしょう」。日本は一帯一路への直接の支援は表明していない。質の高いインフラ事業に絞り、企業間協力を後押しする方針だ。「日中は、第三国市場でのインフラ整備で成功事例を作るべきでしょう。同じプロジェクトの契約を日中で争えば対立しますし、日本もコスト面で中国に負ける可能性が高い。例えば、鉄道そのものを作るのは中国、事業の運営や維持管理は日本というように分担できるのではないでしょうか。より高い次元での協力を模索すべきです。昨年、安倍晋三首相が訪中し、日中の協力強化を打ち出しました。それ以降、中国の地方政府や企業から、日本企業の見学希望等、問い合わせが相次いで寄せられています。アメリカとの摩擦に悩む中国は、日本の力を必要としているように思えます」。 (聞き手/経済部 鎌田秀男)


キャプチャ 2019年6月26日付掲載

テーマ : 経済
ジャンル : 政治・経済

  • 2019年06月28日(05:30:18) :
  • 経済 :
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