【宇垣美里の漫画党宣言!】(39) 堂々完結の『鬼滅の刃』に落涙

初めて読んだ時、「厳しい漫画だな」と思った。代々炭焼きを生業にし、裕福ではなくとも慎ましく幸せに暮らしていた一家が、ある日、長男の炭治郎を残して鬼に惨殺された。唯一生き残った妹は鬼と化した。炭治郎が「どうにか助けてくれ」と土下座すれば「乞うな」と怒鳴られ、「妹が人を喰ったらどうする」と問われ、答えられなければ殴られる。彼は未だ15歳だというのに。でも、世界が厳しいのだからしょうがない。世界とは、私たちが生きるこの世のことだ。最早、社会現象となった『鬼滅の刃』。知らぬ人は最早いまい。斯くいう私も、最終巻となる23巻は発売日の0時きっかりに電子版を購入。1時から生放送のラジオだったにも拘らず、仕事前に読み切ってしまった。勿論、翌日、本屋で紙のほうも購入した。大正時代の日本を舞台に、人を喰らう鬼と、その鬼を討伐すべく組織された鬼殺隊の人間たちとの戦いを描いた本作。モノローグの多さはどこか少女漫画的な遺伝子も感じさせるが、その一番の特徴は緻密な登場人物の描き方だろう。鬼殺隊員は勿論のこと、敵の鬼までもしっかりとした物語を背景に持ち、決してモブ然とは描かれない。単行本の空きページに載せられた作中では触れられずとも存在した細かい設定に、作品と生きている命に対する作者の愛情を感じた。鬼の始祖である宿敵・鬼舞辻無惨や、その配下の鬼を相手に死闘を繰り広げる鬼殺隊は、次々と腕を失い、胴を割られ、死んでゆく。鬼との戦いは常に負け戦だ。鬼は四肢がもげようと直ぐ再生し、首を落とすか日光を当てない限り死なないのに対し、人間は直ぐ疲れ、血を流し過ぎれば死に、失った腕はもう二度と生えてこない。

それでも、この一刃が誰かの助けになると信じて、自分ではない誰かの為に命を懸けて死地に赴く姿に、何度も涙が溢れた。才能があるからこそ険しい道を歩むことができてしまった鬼殺隊員たち。彼らにはもっと穏やかな他の道があったのではと何度も頭を過った。けれど最終巻で、彼らにも確かに幸せな瞬間があって、それが今の世にも受け継がれていて、無駄だったことなんて一つもなかったんだと力強く描かれているように思えて、本当に救われた。お持ちの方は是非、単行本のカバーにある吾峠先生の"あとがきがき"を読んで頂きたい。私はここでまた泣いた。未曽有の感染症によって多くの選択肢を奪われ、未来に希望を持つことすら難しい状況の今、一番かけてもらいたかった言葉だった。素晴らしい作品を発表する同年代や、人の命を救う医療従事者の友人の姿を見ると、時々生まれてきた意味を考えてしまう。未だ何も生み出せていない。誰も救えていない。ただ徒に消費しているだけ。でも、その答えはこの漫画の中にあった。「幸せになる為に生まれてきたんだ」。一生の内に何かを成せるとは限らない。命を懸けた一撃が空振りに終わるかもしれない。いつの世も一生懸命な人ばっかりが辛い思いをする。真っ直ぐなばっかりに苦しめられる。それでも、強く正しく、真っ直ぐに、戦うように生きて、それが脈々と続いた先に未来があるのだと、そう背中を押してもらったようだ。失っても真っ直ぐに生き続けることを真摯に描いたこの作品を読んで育った子供たちの担う令和の未来は、きっと明るい。


宇垣美里(うがき・みさと) フリーアナウンサー。1991年、兵庫県生まれ。同志社大学政策学部卒業後、『TBS』に入社。『スーパーサッカーJ+』や『あさチャン!』等を担当。2019年4月からフリーに。著書に『風をたべる』(集英社)・『宇垣美里のコスメ愛』(小学館)。


キャプチャ 2020年12月24日号掲載

テーマ : 鬼滅の刃
ジャンル : アニメ・コミック

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