位置未確認ダムを探して...別所上池<続編・中間報告>
1.はじめに
このレポートは、平成24年1月に公開した『位置未確認ダムを探して...別所上池』の続編であり、現段階でも中間報告となります。前回の要旨を簡潔に記しますと、次のようになります。
・別所上池(愛媛県)の可能性が高いと推測した堤体には石碑が1つ残されており、その石碑には「水神」と「宮祇池」という文字のほか竣工年等が刻まれていました。
・石碑に刻まれた竣工年と、歩測による堤長はダム便覧記載の「別所上池」のデータとほぼ一致しています。
・地元の方に聴いてみると石碑にある「宮祇池」の読み方は不明で、そもそも、その溜池は地元では「浦伐池(うらぎりいけ)」と呼ばれているということでした。
・別所上池は、ダム便覧では、堤高15mとされていますが、今治市に確認したところ浦伐池の堤高は、9.5m(溜池台帳)という結果でした。
・浦伐池は老朽化のため愛媛県による堤体保全事業が予定されているということです。
今般、ダム愛好家のだいさんから大三島を訪問した際に、浦伐池の改修工事が始まっているとの情報をいただきましたので再訪することにしました。
2.田高田上池(たこうたうえいけ)
愛媛県今治市の大三島にある田高田上池は、前回レポート公開時には、ダム便覧には掲載されていませんでした。このアースダムが、ダム便覧に追加登録されたのは、実は最近(平成26年)のことです。溜池自体は古い地図にも描かれており、瀬戸内海の島の貴重な農業水源として長い間利用されてきたことが伺われます。この古い溜池が新たにダム便覧に追加された理由は、堤体の改修工事が行われダムとしての基準を満たすようになったからにほかなりません。
田高田上池の位置はすでに確認済みとなっています。その位置情報にしたがい現地を訪れてみますと、近年改修された様子を感じることがきました。
余水吐きは反対側(左岸側)の山との接続部にあるようですが、堤頂部には立入禁止の柵があるため、そこまでは行けません。
堤頂右岸部に石碑を確認することができます。しかしまたこれも立入禁止のため、1面しか読めません。その面には『盛青年會造■しかく』(「造」の次の文字は判読不能)と刻まれているようです。「盛(さかり)」とはこのアースダム所在地の地名です。「青年会」の「会」の字が旧字体であることから、この石碑は製作時から少なくとも70年以上は経過しているものと推測できます。
ところが、立入禁止の標識には掲示者が「今治市」に連名で「三戸池谷頭」と記載されていました。「三戸池」は「田高田上池」の別名なのでしょうか。みかん畑で作業中の方に確認すると「三戸池」は「さんといけ」と読み、「谷頭」は「たにがしら」で、「組長」ないしは「班長」の意味であるということでした。さらに、この池は昔から「三戸池」であり「タコウタウエイケ」という別の名前で呼ぶかどうかは知らないということです。この位置は、ダム便覧によれば田高田上池に間違いないはずです。地図上では周囲に小さな溜池はたくさんありますが、アースダムを称する規模のものは盛地区では他に見当たりません。少し困った事態になってしまいました。
まわりを探してみると、倒れたかけた看板が残されていました。その場所が立入禁止でなければティッシュペーパーできれいに拭いてから撮りたいところです。それでもフェンス越に撮影した写真には、看板に残されていた文字を何とか写し取ることができました。
この看板は、改修工事中に現地説明板として使用されていたものだと思われます。看板の黒色系の顔料は退色が緩く、次のような文字が読み取れました。これ以外にも、堤体標準断面図等が描かれていたようですが、全くわかりません。
農林水産省補助事業
■しかく■しかく老朽ため池整備事業
地区名 盛地区
■しかく積 8.0ha
事業主体 愛媛県(耕地課)
事業概要
田高田上池
型式 前刃金
堤高 18.8m
堤長 67.0m
■しかく幅 5.5m
■しかく貯水量 78,000m3
■しかく=判読困難部分
事業概要中に「田高田上池」の文字が確認できました。これでようやく一安心です。やはり、この場所は田高田上池で間違いはなかったのです。ダム便覧の位置情報は正確でした。看板が裏向きに倒れていなくて本当に良かったと思います。ただ、よく確認すると、看板に記載されている堤高と堤長の数値がダム便覧記載のものと僅かに異なっています。計画段階と実際に竣工した際の差かもしれませんが、特に問題視するほど大きな誤差でもありません。
後日、今治市が作成したハザードマップの中に「田高田上池(三戸池)」という表記を確認することができました。「三戸池」は「田高田上池」の別名で間違いないようですが、現地の農場で作業中だった方が正式な名称を知らないというのは、なおもって不可解です。
2.浦伐池改修工事
浦伐池では改修工事行われていました。かつて雑草で覆われていた堤体下流面には建設重機が搬入され余水吐き流路のコンクリート打設工事が進められていました。
原生林が復活しかけていた流路は、最新鋭のものに生まれ変わります。次の写真を撮影した場所は、数年前はその下のような姿でした。
上の写真と下に写真は、角度に若干の違いがありますが、同じ場所から撮影したものです。
工事中であるため貯水は行っておりません。明治川の水は、堤体内の底樋を通り、すべて下流へと流れて行きます。
浦伐池には、絶滅危惧種のミズオオバコという水生植物が自生していたそうです。この貴重な植物は旧貯水池内に設けられた小さな池の中で大切に保護されていました。
かつて、堤頂部にあった「宮祇池」という文字が刻まれた石碑は、施工会社の倉庫で一時的に保管されているそうです。改修工事完成後は再びこの地に戻されるそうです。最後まで安全第一で工事を進めて欲しいと思います。
3.別所上池
ダム便覧に掲載されている別所上池は、現在改修工事が進められている浦伐池の別名であると考えてきました。その浦伐池には「宮祇池」という石碑が古くからあって、地元の方は、「宮祇池」の読み方を知らないというミステリアスな関係です。
最近になって、海上保安庁第六管区海上保安本部海洋情報部が作成した「環境脆弱性指標図(愛媛県−22)」の中で、浦伐池の位置に「別所上池ダム」と記載されていることが判りました。ただし、地元の方は「別所上池」という名前についてはご存知ではないようです。今後、浦伐池の改修工事の完了を待ちながら調べて行きたいと思っています。
「環境脆弱性指標図(愛媛県−22)」第六管区海上保安本部海洋情報部作成より引用
(2015年8月作成)
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