「近代の超克」の論文に引き続き、座談会での発言について検討していきます。
座談会の的を絞る
座談会「近代の超克」では、13名の論者が集まって議論を展開しました。翌年に同名タイトルで発売された単行本では、文芸誌『文学界』に掲載された論文のうち、理由は明らかではありませんが鈴木成高の論文が外されています。
座談会の冒頭で、鈴木は座談会の方向性を決めるための発言をしているのですが、その方向にそっては議論が展開しなかったため、論文を引き下げたのかもしれません。
前回までで、掲載された参加メンバーの論文について個別に検討してきました。各論者の意見については、各人の論文によってある程度明確になりました。そこで座談会での発言については、論文が未掲載となった鈴木成高と、論文を書いていない小林秀雄の二人の発言に的を絞って論じることにします。
鈴木成高の発言
座談会の冒頭で、鈴木は「近代の超克」について一つの指針となる重要な発言をしています。
ヨーロッパ的近代といふものは間違つて居るといふことを、この頃頻りに考へるやうになつて来て居りますが、さういふ間違つて居る近代といふものの出発点が何処にあるかといふことを考へれば、やはり大体誰でも考へることは、フランス革命が出発点なんです。仮りにさういふものから考へて、さういふ所から系譜を引いて来て居る「近代」、それは政治上ではデモクラシーとなりますし、思想上ではリベラリズム、経済上では資本主義、さういふものが十九世紀であると言つてよいわけだらうと思ひます。
ここには、非常に重要な論点が示されています。鈴木は近代的なものがヨーロッパ的なものであるとし、それは世界的なものという意味でのヨーロッパなのだと指摘しています。そのため、当時の大東亜戦争が、ヨーロッパの世界支配を超克するためのものだと認識されているのです。
さらに近代の根源を遡ることで、ルネサンスや宗教改革という問題が出てきます。特にルネサンスの根本は、人間の自己更新や人間を新たにすることだというのです。そのため、近代は中世に出発点がありながら、中世の否定によって始まったと考えられているのです。鈴木はそこに矛盾を見るため、中世を省みることを勧めるのです。日本の文明開化を克服するために、日本的なものを打ち立てるのに加え、ヨーロッパに対する本当の根源的な理解を持つように説くのです。
鈴木が「近代の超克」の座談会で述べていることは、傾聴に値します。特に、近代の意味するところがデモクラシー(民主主義、民衆政治)・リベラリズム(自由主義)・キャピタリズム(資本主義)という形で明確化されているところは重要です。近代の超克の取り組み方にしても、ヨーロッパの前近代(中世)を理解することに活路を求めているのです。ヨーロッパを深く理解することで、ヨーロッパ的近代に向き合うということです。「人間の自己更新」や「人間を新たにする」という考え方を覆すことによって、近代の超克の可能性が示されているのです。
小林秀雄の発言
座談会で小林は、近代の超克というテーマに対して、どのような時代でも一流の人物は皆その時代を超克しようとするものだと述べています。いつの時代も人間は同じものと戦っているという考えにおいて、小林は日本の歴史や古典を考えるようになってきたと言うのです。
その境地においては、本当の創造的立場において新しいものは必要ないと考えられています。古人は、古典は、達するものに達していたというのです。違うものが出来るのは、現代における材料の違いに過ぎないというのです。古人が達した以上のものは絶対にできないというのです。現代人に欠けているものは、そこだと小林は考えているのです。現代に生まれたというだけで、優越感を持つことを戒めているのです。
その上で小林は、近代とは西洋近代性のことであり、近代という時代によって与えられている材料をもって、西洋の近代性に打ち勝つべきことを説くのです。近代という時代には、古典を含めた永遠があります。それぞれの時代において人間は、それぞれの時代という制約条件の中で生きるしかないということでしょう。このことは当たり前と言えば当たりまえなのですが、そのことを自覚することは、自身の人生にとっても少なくない意義があるように思えます。
※(注記)第6回「近代を超克する(6)「近代の終焉」論文を検討する」はコチラ
※(注記)本連載の一覧はコチラをご覧ください。
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