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  5. 胎児期のカドミウムばく露と2歳時点の神経発達との関連: 子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)について
2021年9月3日

発表機関のロゴマーク
胎児期のカドミウムばく露と2歳時点の神経発達との関連:子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)について
(Association of prenatal exposure to cadmium with neurodevelopment in children at 2 years of age: The Japan Environment and Children’s Study)

(環境省記者クラブ、環境記者会、筑波研究学園都市記者会同時配付)

2021年9月3日(金)
国立研究開発法人国立環境研究所
エコチル調査コアセンター
コアセンター長 山崎新
次長 中山祥嗣

国立環境研究所エコチル調査コアセンターの山崎らの研究グループは、エコチル調査の詳細調査に参加されている約5,000組の母子を対象に、胎児期のカドミウムばく露と2歳時点の神経発達との関連について解析しました。その結果、1)妊娠中に喫煙をした母親の子ども、2)妊娠糖尿病の母親の子ども、3)性別が男児の子ども、のそれぞれの場合について、いずれも胎児期のカドミウムばく露の上昇に伴い、発達の指標となる検査得点が低下する(発達が遅れていることを示す)ことが明らかとなりました。
本研究の成果は、2021年7月11日(日本時間2時)付でElsevierから刊行された環境保健分野の学術誌「Environment International」に掲載されました。
(注記)本研究の内容は、すべて著者の意見であり、環境省及び国立環境研究所の見解ではありません。

1.発表のポイント

・妊婦の血中カドミウム(注記)1濃度(妊娠中期および末期)と臍帯血中カドミウム濃度を測定し、生まれた子どもの2歳時の新版K式発達検査2001(注記)2の得点との関連を検討しました。
・妊娠中に喫煙していた母親から生まれた子ども、妊娠糖尿病の母親から生まれた子ども、性別が男児の子ども、のそれぞれの場合について、いずれも母体血中カドミウム濃度が高くなると、生まれた子どもの2歳時点の発達の指標となる検査得点が低下する(発達が遅れていることを示す)ことがわかりました。また妊娠糖尿病の母親から生まれた子どもについては、臍帯血中カドミウム濃度でも同様に発達の指標となる発達指数の得点低下が認められました。
・本研究により、胎児期にカドミウムばく露(注記)3の影響を受けやすい子どもがいることが明らかとなりました。胎児期のカドミウムばく露とその後の神経発達との関係に対する妊娠糖尿病の影響を示唆した最初の研究です。

2.研究の背景

子どもの健康と環境に関する全国調査(以下、「エコチル調査」)は、胎児期から小児期にかけての化学物質ばく露が子どもの健康に与える影響を明らかにするために、平成22(2010)年度より全国で約10万組の親子を対象として環境省が開始した、大規模かつ長期にわたる出生コホート(注記)4調査です。母体血や臍帯血、母乳等の生体試料を採取保存・分析するとともに、全国からランダムに選ばれた約5000組の親子を対象に詳細調査(注記)5を行い、子どもの健康に影響を与える環境要因を明らかにすることを目的としています。
エコチル調査は、国立環境研究所に研究の中心機関としてコアセンターを、国立成育医療研究センターに医学的支援のためのメディカルサポートセンターを、また、日本の各地域で調査を行うために公募で選定された15の大学等に地域の調査の拠点となるユニットセンターを設置し、環境省と共に各関係機関が協働して実施しています。
妊婦のカドミウムばく露と生まれた子どもの神経発達との関連については海外の先行研究例がいくつかありますが、結果に一貫性がないこと、国内の調査知見が十分ではないことから、エコチル調査で研究が進められています。また、母子の属性(性別や職業などの基本情報)や疾患等により、妊娠中のカドミウムばく露が子どもの発達に与える影響が異なるかどうかは、まだよく分かっていません。
本研究は、エコチル調査の詳細調査データを用いて、胎児期のカドミウムばく露と2歳時の神経発達との関連について、疫学的手法を用いて調べることにしました。

3.研究内容と成果

本研究では、詳細調査対象の 5,000組の母子のうち、妊婦および臍帯血の血中カドミウムの分析と生まれた子どもの発達検査の実施ができた3,545組の母子を解析対象としました。小児神経発達を評価するための検査には新版K式発達検査2001(KSPD)を用い、生まれた子どもが2歳時点で実施しました。KSPDは発達の指標として、認知-適応、言語-社会、姿勢-運動の3つの領域得点と、これらを統合した発達指数がそれぞれ算出されます。胎児期のカドミウムばく露の指標となる母体血(妊娠中期および妊娠末期)中と臍帯血(出産時)中のカドミウム濃度は、誘導結合プラズマ質量分析法により測定しました。
小児神経発達について、母親の出産時年齢、妊娠中の喫煙状況、社会経済状態、妊娠中の水銀や鉛といった他の重金属ばく露等を考慮して、胎児期のカドミウムばく露と発達の指標ごとに、重回帰分析により評価しました。さらに層別解析を実施し、妊娠初期の母親の喫煙の有無、子どもの性別、母親の妊娠糖尿病の有無によって、カドミウムばく露と小児神経発達との関連性に違いを認めるか検証しました。
その結果、全体の解析では、胎児期のカドミウムばく露とその後の小児神経発達との間に関連はみられませんでした。しかしながら、層別解析により、1)妊娠中に喫煙していた母親から生まれた子ども、2)妊娠糖尿病の母親から生まれた子ども、3)性別が男児の子ども、というそれぞれの場合について、いずれも母体の血中カドミウム濃度の上昇に伴い、発達の指標となる検査得点が低下することがわかりました。また妊娠糖尿病の母親から生まれた子どもについては、臍帯血中カドミウム濃度でも同様に発達の指標となる発達指数の得点に低下が認められました。

4.今後の展開

本研究は、3,545組の母子データを用いて、胎児期のカドミウムばく露とその後の小児神経発達との関連について解析を行いました。その結果、これまでの研究では明らかになっていなかった、カドミウムによる健康影響を受けやすい集団がいることが明らかになりました。これは、胎児期のカドミウムばく露と小児神経発達との関係に対する妊娠糖尿病の影響を示唆した最初の研究になります。一方で、本研究の限界として、1)新版K式発達検査2001(KSPD)は日本でのみ使用される発達検査であり先行研究と比較しにくいこと、2)妊娠糖尿病の母親(3,545名中82名)、妊娠中に喫煙していた母親(3545名中123名)の人数が多くないこと、3)複数の化学物質の影響を評価できていないこと等があげられます。エコチル調査では、カドミウム以外にも様々な化学物質を測定しています。今後、複数の化学物質ばく露影響を評価した研究展開が期待されます。

5.参考図

縦軸の数値が0の場合は発達の指標となる検査得点に変化がないこと、マイナスの場合には発達の指標となる検査得点が低下することを意味しています。またこの図において、男児と女児(または妊娠糖尿病の有無等)の得点の違いを比較したものではなく、それぞれのカテゴリーにおけるカドミウムばく露と各発達の指標との関連を示したものです。例えば、妊娠糖尿病の母親から生まれた子どもでは、母体血中カドミウム濃度が2倍増加すると、子どもの発達指数が6.4ポイント低下することを示しています(図の下段一番右)。

6.用語解説

(注記)1 カドミウム:カドミウムは自然環境に広く存在する重金属です。自然に、また産業活動の結果として環境中に排出されたカドミウムは、動植物が育つ過程で土や水などから取り込まれ、農畜水産物などの食品やタバコに含まれることがあります。食品、喫煙などを通じてヒトの体の中に入ることで、ヒトの健康に悪影響を及ぼす可能性があります。
(注記)2 新版K式発達検査2001:新版K式発達検査2001(KSPD)は発達の指標として、認知-適応、言語-社会、姿勢-運動の3つの領域得点と、これらを統合した発達指数が算出されます。発達指数の得点は平均100となるように設計され、発達を評価する際に使用されます。
(注記)3 ばく露:化学物質などの環境要因にさらされることをいいます。
(注記)4 出生コホート:子どもが生まれる前から成長する期間を追跡して調査する疫学手法です。胎児期や小児期のばく露が、子どもの成長と健康にどのように影響しているかなどを調査します。
(注記)5 詳細調査:10万組の親子から5000組をランダムに抽出し、医学的検査、精神神経発達検査、環境測定などを行い、子どもの健康と環境要因との関係をより詳細に調べる調査になります。
(注記)6 95%信頼区間:母集団から標本を抽出し、95%信頼区間を推定するという作業を100回行ったときに、95回はその区間の中に母集団の真値が含まれることを意味します。

7.発表論文

題名(英語):Association of prenatal exposure to cadmium with neurodevelopment in children at 2 years of age: The Japan Environment and Children’s Study

著者名(英語):Chaochen Ma1, Miyuki Iwai-Shimada1, Shoji F. Nakayama1, Tomohiko Isobe1, Yayoi Kobayashi1, Nozomi Tatsuta2, Yu Taniguchi1, Makiko Sekiyama1, Takehiro Michikawa1,3, Shin Yamazaki1, Michihiro Kamijima4, and the Japan Environment and Children’s Study Group5
1馬超辰、岩井美幸、中山祥嗣、磯部友彦、小林弥生、谷口優、関山牧子、道川武紘、山崎新、:国立環境研究所
2龍田希:東北大学
3道川武紘:東邦大学
4上島通浩:名古屋市立大学
5グループ:コアセンター長、メディカルサポートセンター代表、各ユニットセンター長

掲載誌:Environment International
DOI: 10.1016/j.envint.2021.106762

8.問い合わせ先

国立研究開発法人国立環境研究所
エコチル調査コアセンター
次長 中山祥嗣
305-8506 茨城県つくば市小野川16-2

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