【特別対談】合格倍率5倍!!ソフトバンク内の「エバンジェリスト養成」システムとは?
国内トッププレゼンター2人が明かすプレゼンの極意(後編)
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『プレゼンは「目線」で決まる』の著者である日本マイクロソフト・西脇資哲氏は、IT業界を代表する「エバンジェリスト」として知られている。一方、ITの世界でもう一人、エバンジェリストとして有名な人物を挙げるとすれば、ソフトバンクの首席エバンジェリストである中山五輪男氏をおいて他にはいないだろう。前回に引き続き、2人のトップ・エバンジェリストの対談をお送りする。(撮影/宇佐見利明)
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【特別対談】なぜNHKの「シャドウイング」が
あなたのプレゼン力を高めるのか?
国内トッププレゼンター2人が明かすプレゼンの極意(前編)
いきなりパワーポイントを立ち上げないほうがいい!?
――プレゼンのシナリオづくりの部分では、どんなことを工夫されていますか?
中山 1時間とか1時間半っていう時間をいただいたら、必ずそれに合わせてシナリオを毎回ちゃんとつくるようにしています。どこで盛り上げて、どこで考えさせるかということは意識するようにしていますね。
西脇 私は『プレゼンは「目線」で決まる』でも書いたとおり、スライドをつくる前にテキストベースでシナリオをつくるようにしています。どんなことを話すのかを、接続詞を使った普通の文章に起こしてみるんです。
中山 へえ! そんなことをしてるんですね。
西脇 いきなりスライドにせずに、まず文字にするんです。そうしておくと、話す内容がすでに整理されているので、トークがとてもスムーズにいくと気づいたんですよ。
あと、シナリオづくりでいうと、スライドの順序なんかを決める「編集」の段階でやっていることがあります。スライドをカードサイズに縮小プリントアウトして、机の上にずらっと並べてみるんですよ。
中山 すごいな。私はそこまでやってない。
西脇 私の場合は、社長とか会長のスライドのレビューを手伝うことも少なくありません。そのときに、紙に印刷したカード上のスライドを大きな机に並べて、「樋口会長、これはこういう順序でいきましょう」「いや、西脇、こっちが先のほうがいいんじゃないか」というようなやりとりをしてるんです。
この作業は紙のほうが圧倒的に効率がいい。PCだとまだまだこういう共同作業には不十分なところがありますね。
ソフトバンク内の
「エバンジェリスト」養成システムとは?
中山 私はソフトバンクのエバンジェリスト第1号でした。ちなみに、ソフトバンクの役職名としては「エヴァンジェリスト」が正しい表記です。
2008年にソフトバンクがiPhoneの販売を発表したとき、久しぶりに当社社長の孫(正義)が何年か振りにステージに立ってプレゼンしたんです。そのとき、私も実はステージに呼ばれてiPhoneのデモをやりました。
このとき、米国アップル本社からも何人か幹部が来ていて、プレゼンを高く評価してくださいました。
西脇 そのときはまだ中山さんしかエバンジェリストがいなかったんですよね。
中山 はい。でもiPhoneフィーバーの状態でしたから、1人じゃもう対応できないくらい講演依頼が来てしまいました。そこでエバンジェリストの育成システムを自主的につくったんです。
「五輪男塾」という名前なんですが、3ヵ月にわたって毎週夜2時間くらい、自主的な研修をやるということを3年前から続けています。参加枠は16人に絞っていますので、その段階でかなり選抜されています。倍率にすると4〜5倍の競争率ですね。
西脇 そこではどんな指導をされてるんですか?
中山 資料のつくり方からしゃべり方、身振り手振りの使い方まで、ひととおりやっています。あとは、言葉に詰まったときはこうしろとか、動画の取り入れ方、デモのやり方とか、とにかく私がこれまで築いてきたノウハウを伝授しています。
エバンジェリストになりたい人が増えている
西脇 マイクロソフトでもエバンジェリストになりたいという人は多いですよ。以前からこの肩書きでやってきたわれわれのような人間からすると、「エバンジェリストもついにここまで認知されて、みんながなりたがるような職業になったんだな」と感慨深いものがありますよね。
中山 たしかに端から見ると、全国に出張してパパッとプレゼンをするだけで人から注目される「おいしい仕事」だと思われているでしょうね。もちろん、私もこの仕事が好きで仕方がないですが、けっこう大変ですよね。
西脇 個人に大きな裁量が与えられていて、かなり自由に仕事ができる分、「基本的に全部、自分でやらないといけない」というのが大変ですよね。デモンストレーションの準備をするにしても、別に誰かが教えてくれるわけじゃないから、すべて自分なりにアレンジしながら構築していく必要がある。
結局、プレゼンって舞台の上では1人だから、最後の最後は自分で全部責任持ってやらなきゃいけないんです。その意味では、孤独な仕事ですよ。
中山 でも私は「孤独」が好きだな。
西脇 私もそっちのほうが楽でいいですね。上にも下にも気を遣わなくていいし。やっぱりエバンジェリストという仕事の人は、自由に動けるようにしておくのがいいと思いますね。へんな縛りがあっても、いいことは何もない。
中山 でも、それができる会社というのは、余裕がある証拠だと思うんですよ、正直言って。会社に余裕があるから個人の自由な働き方に理解を示せる。
「大好きなもの」がある人は
エバンジェリストに向いている
西脇 中山さんと私の共通点としてもう1つあるのが、2人とも元々はエンジニアだったということですよね。私は地方企業でプログラマーとしてキャリアをスタートさせました。たしか中山さんも元々は外資のメーカーにいらしたんですよね。
中山 そう、ソフトバンクに入社する前、日本DEC、日本SGI、EMCジャパンといった企業にいましたが、最初はエンジニアだったんです。
いまの仕事ぶりしか見ていない方はなかなか信じてくれないですが、大学時代は工学部でしたし、卒業論文では人工知能とロボットがテーマだったんですよ。LISP言語を使って、人工知能をつくったりしていました。
西脇 へえ、中山さん、ロボットと人工知能なんてやってたんですか! 私もLISP、わかりますよ。カッコがやたらと多い独特の言語ですよね、懐かしいなあ。
そういう意味では、中山さんは30年経って「元のところ」に戻ってきたという感じですね。
中山 意図せずそうなっていますね。最近ではPepper(ソフトバンクが開発した人工知能搭載ロボット)とワトソン(IBMが開発している人工知能。ソフトバンクは日本語対応ワトソンのコグニティブソリューションを共同で開発・提供している)の講演ばかりしているので。
人工知能って、いまが第3次ブームなんですよ。第1次が1960年代、第2次が1980年代でまさしく私が大学にいたときでした。最初に入った日本DECという会社は、当時、人工知能エキスパートシステムで世界No.1の会社だったんです。人工知能のことがやりたくてDECに入ったのに、配属の関係なんかもあってやれなかった。
それが巡り巡って、いまでは人工知能の話ばかりしていたりするので、不思議なものですね。
――やはり開発の現場にいた経験があったり、プログラミングの基礎知識があったりというところが、お2人のプレゼンを補強する圧倒的な強みになっていますよね。
中山 エバンジェリストは、ある程度の技術や知識を持ってないとダメだと私は思っています。ただしゃべるのがうまいだけでは、とくにIT業界のエバンジェリストとしては通用しない。深い知識は必要ないかもしれないけれど、セキュリティ、タブレット、スマートデバイス、クラウド、IoT、人工知能......と何についても広く浅く知識を持っている必要があります。
西脇 もちろん深く知っているに越したことはないですけど、どんどん新しいネタは出てくるし、コロコロ変わるので、やはり広く浅くが基本だと思いますね。
――加えて、お2人ともやはり伝える対象そのものに対する愛情がありますよね。最近、西脇さんはドローン関連の講演も多いみたいですが、個人としてもかなりのドローン好きだとのことですし。
[参考記事]
>>>No.1ドローン・プレゼンターが語る
「プレゼン力」と「ドローン愛」のあいだ
>>>なぜ「ドローン愛」がプレゼン力を引き出すのか?
西脇 好きだと思えないと、プレゼンってやっても仕方がないというか、本当に楽しくないですよね。だから私は「人よりももっと知ってやるぞ」という意気込みでいろいろと情報収集をしています。
中山 うん、そういう新しいことを勉強していくのはやっぱり楽しいですね。
「新しいことを見せたい、新しいことで感動させたい」という思いは両者に共通していると思います。たぶん、そのモチベーションがあるかないかが、プレゼンの最終的な部分を決めるんじゃないでしょうか。
――お2人の話を聞いて、エバンジェリストになりたい人がまた増えたかもしれませんね。本日はありがとうございました。
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