曖昧さと画一化が
採用活動を過熱化させている
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相当なエネルギーと費用を費やしても、なかなか満足度の上がらない企業の採用。人事部門はこの15年ほど、就職サイトを通して母集団形成し採用するという 「手順」を踏んできたが、そこに正しいロジックはあったのだろうか。「採用学」を提唱し注目を集める服部泰宏・横浜国立大学准教授に、採用のプロセスを科学的に分析・解明していただき、「経営に資する採用」のあり方を考える。
バッシングと「いいね!」
の向こう側へ
有名企業が「ユニーク」な採用を導入すると、必ずといっていいほど、それに対する批判と称賛が飛び交うことになります。直近でいえば、ニコニコ動画でおなじみのドワンゴがユニークな採用を始めたことが、大きな話題となりました。
2015年卒の新卒採用から首都圏の就活生に対して2525円の受験料を徴収する、有料方式(ただし、首都圏1都3県在住者限定)をはじめたということでした。徴収されたお金は全額「独立行政法人日本学生支援機構」に全額寄付されるということでしたが、この採用方針の発表後、厚生労働省から同社に対して、制度の主旨などに対するヒアリングが行われ、2014年2月中旬に、「職業安定法第48条の2」に基づき、来年以降の受験料徴収の自主的な中止を求める旨の「助言」を受けることになります。
「他の企業へと波及することで、学生に対して不利益が生じる可能性がある」というのが、厚生労働省のロジックでした。あくまで「助言」であり、書面等の受領はなかったようですが、これが全国紙、各種インタネットニュースで報道されたこともあり、各方面からさまざまな批判と、さまざまな称賛、賛否入り乱れた議論が飛び交うことになりました。
採用に関心を持つ読者にとって、これは「いつか見た景色」であったかもしれません。
岩波書店が2013年卒採用において、「岩波書店著者あるいは岩波書店社員の紹介状」を応募要件とした時にも、ファーストリテイリングが「採用時期を通年とし、選考する学年も問わない」という「大学1年生採用」を導入した時も、同じように賛否あい乱れる議論となりました。
採用をめぐって、こうした議論が起こること自体は、大いに歓迎されるべきだと思います。ドワンゴの意図も、おそらく、「現在の採用活動の問題について、議論を巻き起こすこと」にあったのだと思いますし、その意味では大いに成功したのではないかと、私は思います。
残念なのは、こうした「ユニークな」採用に関する議論の多くが、表面的な「バッシング」あるいは表面的な「称賛」に終わっていることです。もちろん、どんなにすばらしい採用であっても、ある程度の「バッシング」は避けられません。影響力のある企業の動向に対して、社会の側から議論が起こり、時にそれを批判したりするという姿勢そのものは望ましいし、健全であるとすら思います。
私が残念に思うのは、むしろそれらを「称賛」する側の態度です。これまで、イベントや研究会、書籍、雑誌記事等、採用に関わるさまざまな場所に首を突っ込んできましたが、その多くが、新しくてユニークな採用を実施している企業の事例に耳を傾け、その新しさやユニークさに感動し、共感し、わが社に参考になる何かを得る、ということを目的にしているのではないかと思えるようなものであったように思います。実際には、ある企業の事例に興味を持ち、感動することと、それをわが社の問題としてとらえ、参照することとの間には、大きなギャップがあるにもかかわらず。
私が提唱する「採用学」は、こうした「バッシング」と安易な「いいね!」を超えて、会社が採用という活動について深く考えるためのロジックやエビデンスを提供することを目指すものです。
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