「気候変動」は経済政策に影響大、音楽ライブもF1も環境配慮へ
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英国の世界的人気ロックバンドであるコールドプレイは最近、地球環境への悪影響を相殺できる手段が見つかるまで世界ツアーは実施しないと宣言した。「われわれは1〜2年かけて、サステイナブルなだけでなく(環境に)有益となる方法を見つけていく」(英公共放送「BBC」より)。
大規模な音楽興行は大量の温室効果ガスを排出している。そのうちの42%は出演者・スタッフ・観客が会場に来る際の交通手段から、34%が会場から、12%が商品販売から、10%が宿泊から生じている(グリーン・ツアリング・ネットワークの推計)。
同バンドの宣言は欧州では好意的に受け止められている。欧州の人々は近年、夏の異常な高温を体験しており、それが気候変動に対する危機意識を劇的に高めているからだ。しかし、音楽産業にとってこれは厳しい流れともいえる。
デジタルコピーの氾濫によってCDの販売ではやっていけなくなった同産業は、大規模なライブイベントで稼ぐ方向にかじを切ってきた。しかし、環境問題の観点からそういったイベントを縮小せざるを得なくなると、音楽業界は新たな「食いぶち」を見つけなければならなくなる。
今年は英ロンドンで環境活動団体「エクスティンクション・リベリオン」が超過激な抗議を行っている。地下鉄の駅で車両の上にメンバーが駆け上って運行を阻止したり、ロンドン・シティ空港では停止中の飛行機によじ登った活動家が運航本数を減らせと主張したりしている。知人の英国人に聞くと、これらの行為自体は市民の支持を得られていないが、気候変動に対処すべきだというメッセージには共感する人が多いという。
このような状況なので、自動車レースの最高峰F1グランプリも環境活動家たちの批判を浴びている。米CNNテレビによると、F1が年間に排出する二酸化炭素(CO2)は観客の移動を除いても25.5万トンもある。これは人口19万人のサントメ・プリンシペ(アフリカ中部の小国)の年間排出量を大幅に上回っているという。しかし、レーシングカーを電気自動車(EV)に変えても状況はほとんど改善しない。
F1カーがサーキットを走ることにより排出される温室効果ガスはF1全体の0.7%でしかないからだ。主な排出原因は、サーキットを転戦する際の空輸などによる機材の運搬(45%)、ドライバーやスタッフの飛行機等による移動(28%)、チームの工場などにおける活動(19%)にある。
F1を統括するリバティ・メディアはこの11月、2030年までに環境に及ぼすCO2の影響を中立化するカーボンニュートラルを目指すと発表した。実現は容易ではなさそうだが、スポンサー企業の減少を避けるにはそういった方針が必要なのだろう。
最近の欧州では、休暇の際に飛行機での移動が必要となる観光地に行くべきではない、と語る人が急速に増えている。とはいえ、環境のためにモノや人の移動をできるだけ制限すべきだという主張がより強まると、産業によっては失業者が急増する恐れがある。
また、そのような経済において主要国の中央銀行が2%のインフレ目標の達成を目指して金融政策を行い続けるのは正しいのか、またそれは可能なのかという議論もいずれ湧き起こってくるだろう。気候変動問題はマクロ経済政策にさまざまな影響をもたらすと予想される。
(東短リサーチ代表取締役社長 加藤 出)
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