工場を日本に残す意味はホントにあるの?
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人気ブロガーちきりんさんと、フラッシュメモリの世界的権威・竹内健教授の特別対談も今回が3回目。いよいよ、ちきりんさんが一番聞きたかった「工場を本当に日本に残す意味があるのか」というテーマに竹内教授が真正面から答えます。ホンネの言葉が今回も炸裂しました。
業界みんなでコストを負担する、日本流のリストラ
ちきりん 前回、先生にお話いただいた「自分は何でメシを食っていくのか」を考え、行動するサンディスクやサムソンのエンジニアって、一見、頼もしいように見えますが、実際には社会人として当たり前のような気もします。
事実上終身雇用が崩れつつある現在でも、まだエンジニアの中には「会社はずっと自分を守ってくれる」と考える人が多いのだとしたら、それは外の世界との接点がないために、現実が変りつつあることに気づくのが遅れているんでしょうか?
中央大学理工学部 電気電子情報通信工学科 教授。1967年東京都生まれ。93年、東京大学大学院工学系研究科物理工学専攻修士課程修了。工学博士。同年、(株)東芝に入社し、フラッシュメモリの開発に携わる。2003年、スタンフォード大学ビジネススクール経営学修士課程修了(MBA)。帰国後は東芝フラッシュメモリ事業の製品開発のプロジェクトマネジメントや企業間交渉、マーケティングに従事。2007年、東芝を退社し、東京大学大学院工学系研究科准教授を経て、2012年4月からは中央大学理工学部教授。フラッシュメモリ、次世代メモリの研究・開発で世界的に知られる。著書に『世界で勝負する仕事術』(幻冬舎新書)がある。
竹内 電機メーカーはこれまで強かったので、終身雇用的な制度も最近まで成り立っていたんですが、もう成り立たない。そのことに、いつ気づくかですよね。
会社はその点、したたかです。いつまでも、エンジニアの面倒を見てあげるかのようなフリをしますね。たとえば、会社側としては、もう捨てると判断した事業部に対しても、すぐに「事業を捨てるぞ」と言わず、3段階くらいのステップを踏んで徐々に整理していくわけです。もし、「この事業はやめます」と早めに言ってくれれば、鈍感なエンジニアだって、自分の人生設計を考え直す機会になりますが、不採算部門を別会社にする、そこが事業整理になるとかで、2段階か3段階を踏んでから最終的に潰しますよね。エンジニアにとっては歳を取るだけで、いい迷惑です。なんだかんだ言っても、50年も100年も続いた企業というのは、事業内容を時代に応じて変えながら、したたかに生き延びてきたんです。危険なのは、むしろ専門に特化しているエンジニアじゃないかと。
ちきりん お給料もちょっとずつ下がるから、ずっと我慢する......。
竹内 日本流クビ切りメソッドという奴ですかね。スタンフォードでも教えてくれないすごいメソッドですね。まず、同じ事業で困っている同業他社と、「3社で一つの会社をつくって、シェア回復をめざす」とか、幻想を持たせる。
本当かどうかわかりませんが、電機メーカーが代わりばんこにババを引いているように映るんです。ディスプレイでA社がババを引いたら、その代わりにA社が捨てたいと思っている別の事業を別のB社が引き取ってあげる。お互いに不要部門、不採算事業をぐるぐると回しているように見えます。もちろん、偶然でしょうけど。
結果的に、皆でコストを払っていますよね。場合によっては、政策投資銀行のような国の金融機関を通じて税金も投入される。すぐにリストラすればそこで清算されたのに、それをしないことで日本全体、産業界全体でコストを払っているわけですよ。これを続けていく悪い点は、産業界全体が疲弊していくことです。エンジニア個人にしても、パッと整理してくれていたら、今ごろは違う分野で活躍できていたかもしれないのに、本当に疲れ果て、歳だけとっていく。人間って、負け戦を続けていると、疲れて戦えなくなるんです。