-
Xでシェア
-
Facebookでシェア
-
LINEでシェア
-
LinkedInでシェア
-
記事をクリップ
-
記事を印刷
-
Xでシェア
-
Facebookでシェア
-
LINEでシェア
-
LinkedInでシェア
-
記事をクリップ
-
記事を印刷
榊原 たとえば、イシュードリブンはブルーヨンダーと一緒に進めているSCMソリューションの開発などが含まれます。具体的なユースケースをリストアップして、実用化を進めています。
ブルースカイの典型は、人のナレッジをいかに蓄積して再利用するかといったナレッジグラフの開発や、各種複雑系のアルゴリズム開発、大規模言語モデル(LLM)など、AIによる最適化に大きく役立ちそうな技術です。
サプライチェーンに適用することで、AI進化の方向性が見える
森 AIに対する期待は大きいということですね。
榊原 自然言語で指示できる生成AIを使えば、製品のエクスペリエンスが大きく変わります。あるいは、スエズ運河でコンテナ船が座礁して世界中の物流が滞ったように、サプライチェーンには不測の事態が必ず起こります。そうした場合に、次善の策をスピーディに立てるのにAIが役に立つはずです。
たとえば、ニュースや天気予報、市場の動きなど多数のソースから収集したデータから、AIがサプライチェーンへの影響を推測できるようになれば、企業のレジリエンスが格段に上がります。
森 システム側が新たな情報に基づいて自律的に予測モデルを補正するようになれば、ロバストな(イレギュラーな事態が生じても推定性能が高い)オペレーションができます。
榊原 そうです。ただ、生データをどう調達するかという次の問題が浮かび上がります。
AIが情報を解釈し、そのアウトプットを利用する場面が増えると、生データではない情報が増えていきます。この先、AIが生成した画像データがネット上にあふれるようになるかもしれません。そういうデータをAIに学習させることを繰り返すとモデルが崩れてしまうという論文も最近発表されていましたよね。生データをどう入手するかが問題になります。
森 おっしゃる通りです。生成AIについていうと、いまはアプリによってはアウトプットを一つしか出さないユーザーインターフェースの制約が人々の誤解を大きくしている問題があると思います。
たとえば、ある果物の画像を認識させた時、確率的にはオレンジである可能性が40%、みかんの可能性が30%、レモンの可能性が30%だとAIが判断していても、ユーザーインターフェースの仕様上、アウトプットではオレンジという一つの回答を出さざるをえない。本当はAIも確信度として拮抗する複数の可能性を持っていたのに自信満々に一つの答えを出しているように見える。それが間違っていた際に、AIがでたらめなことを言っている「ハルシネーション」(幻覚)だと、人々はとらえます。
本来は、可能性や確信度を合わせてAIに判断結果を提示させたほうがいい。そうしないと、AIのアウトプットをそのまま学習データとして再インプットした場合にバイアスが強化されるなど、いろいろな問題が起きると思います。
榊原 SCMソリューションは製造、物流、販売と幅広い領域をサポートしなければならないので、AIの学習のさせ方やアウトプットの波及効果が非常に大きくなります。
トラックの配送ルートをどうするか、倉庫でどの棚に何を収めれば最も効率的かなど、部分的にはすでにAIが使われていますが、それぞれがリンクしているわけではないので、全体最適にはなっていません。サプライチェーン全体の最適化を考慮して回答するようなAI学習のメソッドを確立できれば画期的ですが、相当ハードルは高いですね。
森 まさにブルースカイの領域です。サプライチェーンに関わるさまざまなプレーヤーのエンジニアたちが一緒になれば、将来的には実現できるかもしれません。そういう意味で、サプライチェーンにAIを適用することで、AI進化の方向性が見えてくるかもしれないと感じました。
ところで、榊原さんはバスケットボールがご趣味で、いまでもプレーされているそうですね。
榊原 はい、地元のチームで週末はほぼ毎週プレーしていますし、IBMやマイクロソフトのチームにも参加していて、平日の業務終了後などもよくプレーしています。IT系企業は大手もスタートアップも結構、社員チームがあって、会社の枠を超えて一緒に練習したり、試合をしたりしています。
森 バスケットでも多様な人たちに交じってプレーしていらっしゃるんですね。CTOとして多様な技術者集団をまとめていくうえで、参考になることもありますか。
榊原 たしかに年齢も国籍も多様ですよ。20代、30代の人が多くて、どのチームでも私が最年長です。バスケットが盛んな中国出身の人が多いチームは強いですね。
この夏のバスケットボールワールドカップで、日本代表が史上初の3勝を挙げて盛り上がりましたけど、体格で劣る日本チームがスピードとスリーポイントシュートなどの得意なところを磨いて勝利を重ねたのは、トム・ホーバス監督の戦略・戦術に負う面が大きいと思います。あの活躍を見ていると、世界で戦えるITプロバイダーが日本から出るチャンスはいくらでもあると勇気づけられます。
それと、強いチームはユーティリティプレーヤーが多くて、長身のセンタープレーヤーでも遠くからスリーポイントシュートをどんどん打ちますし、身長が低くてもインサイドプレーに強い選手がいます。技術者も自分に枠をはめず、新たな専門知識やスキルを磨いて、視野を広げてほしい。そうなれば会社としての戦略・戦術が広がると思います。
森 ユーティリティプレーヤー集団としてのパナソニック コネクトの今後に期待します。
Deloitte AI Instituteの詳細はこちら
1986年日本アイ・ビー・エムに入社。金融機関、製造業を中心にシステム開発を担当。2005年、ディスティングイッシュトエンジニア(技術理事)に就任するとともに、東京基礎研究所でソフトウェアの研究に従事。2008年からグローバル・ビジネス・サービス(GBS)事業を担当し、2010年からGBSのCTO(最高技術責任者)、2012年からスマーターシティ事業CTOを務めた。2016年日本マイクロソフト執行役員CTOに就任し、2018年からマイクロソフトディベロップメント社長を兼務。2021年11月パナソニックの社内カンパニー、コネクティッドソリューションズ社常務CTO。2022年4月パナソニック コネクトの発足に伴い、現職。
外資系コンサルティング会社、グローバルインターネット企業を経て現職。eコマースや金融における先端技術を活用した新規事業創出、大規模組織マネジメントに従事。世界各国のR&Dを指揮していた経験からDX(デジタル・トランスフォーメーション)立案・遂行、ビッグデータ、AI(人工知能)、IoT、5Gのビジネス活用に強みを持つ。東北大学特任教授。日本ディープラーニング協会顧問、企業情報化協会常任幹事。著書に『ウェブ大変化 パワーシフトの始まり』(近代セールス社、2010年)、『両極化時代のデジタル経営』(共著:ダイヤモンド社、2020年)、『信頼できるAIへのアプローチ AI活用で踏まえておきたい9つのチェックポイント』(監訳:共立出版、2023年)など。
-
Xでシェア
-
Facebookでシェア
-
LINEでシェア
-
LinkedInでシェア
-
記事をクリップ
-
記事を印刷
COGITANSアクセスランキング
- 24時間
- 1週間