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「動的平衡」から構想する"能動的破壊"で生まれる組織の持続性

×ばつ松江英夫

2020年12月03日

生命体は、自らを「壊す」ことで進化する。絶え間なく動き続け、部分が活発に入れ替わりながらも、全体として恒常性が保たれている──。「動的平衡」こそが、生命体が「生きている」といえる状態だ、と生物学者の福岡伸一氏は言う。「両極化」が進む不確実性の時代においては、能動的に自己変革を続けられる企業だけが生き残る、という松江英夫氏の認識に重なるものだ。既存の価値観が揺らぎ、未来がもやに包まれたままのポストコロナの世界において、多くの企業が自らの将来に向けたビジョンを描きあぐね、持続性を確保する新たな方法を問い始めている。その問いを深めるためには、38億年にわたって連綿と進化を続けてきた「生命の仕組み」の持続性を見つめて、新たな組織論を志向すべきではないだろうか。

生命活動に埋め込まれた遺伝子レベルの「両極」

松江 私は今の時代を読み解くキーワードは、「両極化」だと考えています。「グローバル」と「ローカル」、「リアル」と「バーチャル」、「経済価値」と「社会価値」など、一見相反する事象や価値観、すなわち「両極」が衝突しながらも互いにその勢いを増幅させる動きが、至るところで加速しているからです。福岡先生の著作を拝読すると、生物現象の中にも、「両極化」が埋め込まれているように感じるのですが、いかがでしょうか。

福岡 生体内でも、相反することが常に同時進行しています。タンパク質を作っては壊す「合成と分解」は、いわば「両極」を行き来する営みです。作りつつ壊す。生命体にとって「両極」は日常といえますね。

さらに面白いのは、生命体は明らかに「作る」より「壊す」ことに一生懸命であるという点です。実は、細胞がものを作る方法はたった1つしかありません。つまり、DNAの情報をRNAがコピーし、その設計図を基にアミノ酸を並べ、タンパク質を組み立てる。細菌でも木でもミミズでも人間でも、あらゆる生物は同じ方法でさまざまなものを生み出します。一方、破壊には多様なプログラムが用意されています。新たな創造や再構築のためは、まず自分を壊すことが非常に大切なのです。

松江 作るパワーより壊すパワーの方が強いとは興味深いです。経営学でいう「創造的破壊」にも通じる営みですね。

福岡 生物科学分野の研究においても、21世紀の科学者たちは「作る」メカニズムより、「壊す」メカニズムの解明に熱心です。今年(2020年)のノーベル化学賞は、ゲノム編集技術を開発した2人の女性科学者が受賞しました。かつては不変かつ静的なものと考えられていたゲノムも、今では可変かつ動的なものという理解が当たり前になっているのです。

生物学者。1959年東京生まれ。京都大学卒。米国ハーバード大学医学部博士研究員、京都大学助教授などを経て青山学院大学教授・米国ロックフェラー大学客員研究者。サントリー学芸賞を受賞し、85万部を超えるベストセラーとなった『生物と無生物のあいだ』(講談社現代新書、2007年)、『動的平衡』(木楽舎、2009年)など、"生命とは何か"を動的平衡論から問い直した著作を数多く発表。ほかに『世界は分けてもわからない』(講談社現代新書、2009年)、『できそこないの男たち』(光文社新書、2008年)、『生命の逆襲』(朝日新聞出版、2013年)、『せいめいのはなし』(新潮社、2014年)、『変わらないために変わり続ける』(文藝春秋、2015年)、『生命科学の静かなる革命』(インターナショナル新書、2017年)などがある。
デロイト トーマツ グループ CSO(戦略担当執行役)
経営戦略・組織改革/M&A、経済政策が専門。フジテレビ「Live News α」コメンテーター、中央大学ビジネススクール客員教授、事業構想大学院大学客員教授、経済同友会幹事、国際戦略経営研究学会理事。主な著書に『両極化時代のデジタル経営——ポストコロナを生き抜くビジネスの未来図』(ダイヤモンド社、2020年)、『自己変革の経営戦略〜成長を持続させる3つの連鎖』(ダイヤモンド社、2015年)など多数。デロイト トーマツ グループに集う多様なプロフェッショナルのインサイトやソリューションを創出・発信するデロイト トーマツ インスティテュート(DTI)の代表も務める。

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