SCP-CN-3001
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Info


[フレーム]

翻訳責任者: fish_paste_slice fish_paste_slice
翻訳年: 2024
著作権者: Re_spectators Re_spectators wlft wlft Dr Hormress Dr Hormress
原題: SCP-CN-3001 - 于三千世界之外
作成年: 29 Dec 2023
初訳時参照リビジョン: 4 feb 2024
元記事リンク: https://scp-wiki-cn.wikidot.com/scp-cn-3001


評価: +32
評価: +32

0,1,3,49,186,792,1675,2999。準備完了。

Fundamentum meum, Domine omnipotens, dic mihi, quaeso, puer bonus sum?
"主よ、全知全能の財団よ、教えて下さい、僕は良い子ですか?"

——00.06.D 「Gravedigger」, Diazepam Ceremony 2.2.12, Area-CN-04

映像ログ

RECORD-S-1073741824

(映像ログ開始)

ここだ。076号室、131829号BZHR

(画像記録は狭く、電子設備に埋め尽くされた部屋を映す。中央には四角形の休眠カプセルが置かれている。記録者は次第に休眠カプセルに接近し、ボタンを押してカプセルの扉を開く。休眠カプセル周囲の液体窒素が放出される。約十数分後、記録者は休眠カプセルの傍に立つ。)

お目覚めの時間です、博士。

(休眠カプセル内に横たわる若い女性が眼を開き、記録者に支えられながら、開放された休眠カプセル内でゆっくりと起き上がる。)

[身元不明]: うう。

プロトコルに従い、今はまず貴方に認知抵抗値の検査を行わねばなりません。今は、私の質問に正直に答えてください。

貴方が今見ているものを説明してください。

(若い女性は数秒沈黙し、僅かに周囲を見渡した後、カメラの方向を見つめる。)

[身元不明]: ここはSCP-2000内部。君は財団が開発した、AI搭載の"完全版Paragon"サポートアンドロイドね。

[身元不明]: 私の知っている完全版アンドロイドのモデルナンバーは1994年のPAR-002で止まっているわ。でも、君はPAR-017だね。

[身元不明]: 過去の同じタイプのアンドロイドが二年前後のペースで代替わりしたのを考えれば、今年はおそらく2024年か2025年ね。

[身元不明]: 私の記憶は1994年で止まっている。それが意味するのは、私はもう死んでしまっていて、その上、多くの年月が経っているのね。

[身元不明]: 君たちがSCP-2000を使って正常の中で既に死んでいる人間を復活させねばならなかったなら、きっと正常なんてものはもう存在しないのでしょう。

[身元不明]: 説明して。私の任務は何なの?

おお......認知抵抗検査クリア。

( ̄▽ ̄;)......貴方の回答は実に素晴らしいのですが、ただ、CRV検査に対する回答としては、それは少し......詳細すぎませんか?

貴方の推測したとおり、確かに私は貴方の任務達成のサポートのために来ました。しかしその前に——

[身元不明] : ——私の身分照合が必要なんでしょう?

[身元不明]: 姜泰怡Tae-Yi Kang、24歳。財団中国支部レベル4研究員、サイト-CN-91首席エンジニア。まあ、今となっては元首席エンジニアと呼ぶべきかもしれないわね。

生体認証情報適合、身分認証クリア。うん——お会いできて光栄です、姜博士。

では私も自己紹介をしましょうか? 貴方の見立てどおり、私はPAR-017型サポートアンドロイド、ナンバー1073741824。

Kang: そんな長いナンバーじゃ呼びにくいでしょ? 慣例どおり、君を"パラゴン"と呼びましょう。

Kang: (沈黙)それ以外の挨拶はいらない。確認したいことが、二つあるわ。

Kang: 一つ目は、私を生き返らせるためにSCP-2000を使うことを躊躇ためらわなかった理由が、私のやるべき任務のためだとすれば、それはO5-3に関係しているはず。そうでしょう?

イエス。しかし、より正確に言うならば——SCP-CN-3000です。前任のO5-3、コードネーム"少年ザ・キッド"のことです。

Kang: えっ? 彼はもう代替わりしちゃったの? やっぱり一語一句まで確かめた方が良いわね。

Kang: 彼はO5の議席を退いた後で。ナンバーを割り振られて収容された。これも不思議なことじゃない。ドキュメントを読ませてくれないかしら?

イエス、いま記録を取得しています。

SCP-CN-3000

監督者評議会命令

以下のドキュメントはレベル5/CN-3000機密に分類されます。

クリアランス未取得者の当該ドキュメントへのアクセス・閲覧は厳しく禁止されます。違反者は特定され、協議の上で処罰がなされます。

アイテム番号: SCP-CN-3000

オブジェクトクラス: Thaumiel

レベル5/CN-3000

機密

特別収容プロトコル: SCP-CN-3000は中国吉林省延辺州(42°52'N 129°47'E)に建造された専用地下施設内に収容されます。小型の原子力発電プラントが周辺に建設されており、SCP-CN-3000の基本能力が必要とする電力需要を満たし続けるために用いられます。

SCP-CN-3000は現在財団ネットワークに接続されておらず、O5-3"天眼ジ・オールシーイング・アイズ"の正常な職務実行が不可能となった場合、緊急状況下における代替手段とするために保存されます。

説明: SCP-CN-3000は財団の先代O5-3、コードネーム"少年ザ・キッド"です。その本質は財団が1994年に導入し使用した自動意志決定管理システムであり、他の付属部品と適合するように改造されたヒトの赤ん坊をシステムの起動器Firelighter及び決定器Judgeとして用いています。

現在知られている観測データ水準では、SCP-CN-3000は財団が関心を寄せる特定の事項に対して、無視できるほどの低い誤差率で正確にシミュレーションと予測を行い、演算に基づき与えられた条件下での最適な選択肢を判断します。O5-3のクリアランスを付与された際、SCP-CN-3000は財団のネットワークからインターネットに接続し、ネットワークに接続された電子機器を介して世界中の観測と情報収集を行うことができます。これ以外に、SCP-CN-3000は財団アノマリー自動収容管理システムAutomatic Containment System of Anomalies(ACSA)、財団オブザーバーマトリックスObservational Entities Matrix(OEM)及びSCP-2000の制御権を有していました。

2023年11月18日、SCP-CN-3000はO5評議会に提出した辞令指令が承認されたことが、そのO5-3としての使命の終了宣告と見なされ、上述の機能は、人間を中央処理装置としない純粋な人工知能システム、すなわち新世代のO5-3"天眼"にただちに移管されました。これと同時に、オブジェクトはSCP-CN-3000にナンバリングされ、元の開発者が所属する財団中国支部に引き渡され収容されました。この状況下において、SCP-CN-3000はO5-3"天眼"のバックアップとして保存され、現在は休眠状態で待機しています。

更なる情報へのアクセスには6/CN-3000クリアランスの取得が必要です。

映像ログ

RECORD-S-1073741824

申し訳ありませんが、私にはレベル6クリアランスは与えられていません。レベル6クリアランスはO5評議会の構成員のみが保有しているものですから......

Kang: ......構わないわ。推測するに、私の任務はきっとSCP-CN-3000を財団のネットワークに再接続し、そのクリアランスを回復して、無力化したO5-3の代わりとすることでしょう。

——その通りです、間違いありません。

Kang: [笑う] なんてこと、O5-3が無力化したなんて。

Kang: 二つ目の質問。私にはもう、大体の想像はできているのだけれど、それでも教えて欲しいの。この状況は、流石に私の想定外なのだから。

Kang: ——今回の世界は、どうやって滅んだの?

文書ログ

RECORD-S-1073741824

データソース: アメリカ合衆国 ワイオミング州 44°35'N 110°43'W

タイムスタンプ: [欠落]

ドキュメントタイプ: 映像ログ、ドキュメント状態:一部破損


(映像ログ開始。画面には携帯式ペン型カメラで撮影されたことにより発生したと思われる、大きなノイズが含まれる。周辺はデータセンタータイプの広大な地下空間と思われ、地面は粘性を持ち、燃焼している暗赤色の液体に満たされている。色が僅かに異なる不明な液体が、両側の筐体中から流れ出ている。記録者はメインフレームの傍に近づく。数名の研究員が筐体のカバーを外そうと試みる。)

[身元不明]: で、メインフレームの中のこのベタベタしたのは何なんだ!?

[身元不明]: CPU......だったはずです。位置から判断すると。

(画面が突然暗転する。何かがレンズを遮っていると思われる。)

[身元不明]: なんで突然天井から......なんだこれは、気味が悪い。アシヒダナメクジ!?

(すぐさまレンズを覆うナメクジが振り払われ、再び映像画面が現れる。)

[身元不明]: おい、他のサイトの端末を使ってオブザーバーアレイを逆に活性化してみないか? 東京とケープタウンのサーバーの状態はどうだ、報告は送られて来たか?

[身元不明]: 東京の状況は俺達と同じだ。ケープタウンの辺りは、今朝から全ての連絡が途切れている。彼らの状況を確認するために何人かをサイト近辺に派遣したが、その後全員突然連絡を断った。何が起こったのかまったく分からないが、良いことではないだろうな。

(研究員が慎重に筐体のカバーを開く。カメラが激しく揺れ、シャーシ内部からミートソーススパゲッティの巨大な塊が溢れ、襞状に床に広がる。新鮮なヒトの眼球が二つ、ポリマーの中で緩やかに蠕動し、白目が滑らかに動き黒目がまっすぐカメラの方向を向く。研究員が一名、その直後に背を向けて嘔吐する。)

[身元不明]: なんてことだ、こいつらはいったい何なんだ......

(眼球の下から突如巨大な昆虫が一匹飛び出し、記録者に向かって飛び掛かり、レンズに直撃した後に飛び去る。その生物学的な特徴はヘラクレスオオカブトのものと一致する。)

[身元不明]: マジで訳が分からない。

[身元不明]: 待て待て、誰か七号と連絡がとれないか? 彼が今いるのはきっと——

(窓の外から突然大きな音がする。)

[身元不明]: ......いまの騒ぎは何だ?

[身元不明]: まずい、あれはSCP-2000の方向だ。何が来ても絶対にビビるなよ、くそっ。

(記録者が他の者と共に二階の窓に向かって駆ける。)

[身元不明] : ファック。

(映像が窓の外に向けられると、遠方に巨大な古エジプト型ピラミッドが地面の巨大なクレーター内に逆さまに倒れ込んでいるのが見える。ピラミッドは酷く損傷しているように観察される。)

[身元不明]: よし、いま俺たちの最後の退路が断たれた。次はいったい何が起こるんだ? 俺たちはどうすればいいんだ?

[身元不明]: (数秒間の沈黙)わからない。知りたくもない。

(信号が人為的に切断されたと思われ、以降の部分は再生ができなくなる。)

ドキュメントログ

RECORD-S-1073741824

データソース: アメリカ合衆国 ミシガン州 43°03'N 84°16'W

タイムスタンプ: [欠落]

ドキュメントタイプ: 映像ログ; ドキュメント状態: 一部破損


(映像ログ開始。画面は撮影機器により録画され、信号は著しい妨害を受けている。完全武装した財団の機動部隊員が、重度に破損したサイト-19建物内部に突入する。内部空間は完全に改変されたようにみられる。)

[身元不明]: ちくしょう、ここは本当にサイト-19なのか?

(画面が激しく揺れ、そのうちの三秒間の安定した画面の中で財団研究員の制服を着用した頭部のないヒト型実体が数体通過する。実体はサイト内を歩き回り、通常の研究業務を行っていると思われる。背景には電子ノイズ音、警報音及び不明瞭なヒトの声が含まれる。)

[放送音声]: (巨大な警報音)サイトの現在状況、ACSA、ダウン。生命維持システム、ダウン。監視制御システム......

[身元不明]: 攻撃しますか?

[身元不明]: ひとまず......(電子ノイズ音)......待て待て、そこに行って......(電子ノイズ音)......

[放送音声]: (巨大な警報音)Safeクラスアノマリー自動収容処理システム、ダウン。Euclidクラスアノマリー自動収容処理システム、ダウン。Keterクラスアノマリー自動収容処理システム......

(画面が激しく揺れ、すぐさま明瞭に回復する。実体うち一体が、特徴を区別できない黒色の線と色のブロックの集合体として現れ、ヒトの動作に類似する方法でキャリーカートを押しながら廊下を歩く。)

[身元不明]: (電子ノイズ音)......先に状況を把握しなければならない。収容室付近は......(電子ノイズ音)

[放送音声]: ......(巨大な警報音)その他のクラスアノマリー自動収容処理システム、ダウン。電力システム、臨界状態。サイト内生存人数、3。現在サイト内有効収容済アノマリー数、0。サイト-01に緊急事態自動報告済み、収容違反への措置が実施されるまで、サイト内に残っている関係職員はただちに退避して下さい......

(画面が激しく揺れ、すぐさま鮮明になる。一名のエージェントが椅子に座る無頭の研究員に歩み寄る。研究員は機動部隊員らに挨拶し、救助に来てくれたことへの感謝を示す。)

[身元不明]: 博士、状況はいかがですか?

(研究員の指が一本、手から脱落する。研究員はサイトが重大な異常攻撃を受けたと説明する。)

[身元不明]:待ってください、それなら貴方は何故——

[身元不明]: ダメだ、デスモンド、そいつは違う、早く——

(研究員が機動部隊に向けて3語の言葉を叫ぶ。鋭い叫び声と爆発音の後、映像データが中断される。)

ドキュメントログ

RECORD-S-1073741824

データソース: ロシア・ブリヤート共和国 ウラン・ウデ 51°50'N 107°35'E

タイムスタンプ: [欠落]

ドキュメントタイプ: 音声ログ; ドキュメント状態: 一部破損


[身元不明]: (啜り泣く声)でも......本当に何も知らないんです......

[身元不明]: おいアレクセイ、何をグダグダ言っているんだ? どうして撃たない?

[身元不明]: ミハイル、ちょっと待ってくれ。彼女の言う通りだと思う。実際、SCP-610の影響を全く受けずにバルグジンから逃げ出せた生存者がいるとは思えない。現に、私たちは最近似たような報告を大量に——

[身元不明]: だが、もし彼女が嘘を吐いていれば、何が起きるのか、お前は考えなかったのか!?

[身元不明]: 本当に何も......私たち家族はずっとあそこに住んでいて、軍事制限区域なんて本当に聞いたこともないし、見たこともない......(啜り泣く)

[身元不明]: 彼女をそのまま中に入れろとは言ってないんだ、ミハイル! 私はただ、もう少し考えるべきだと言ってるんだ。私は以前、少しの間アイディタ計画の作業チームにいたんだ。今、全世界がメチャクチャになってる状況では、他の現実からの人間の可能を排除できないと思う——

[身元不明]: それがどうした? もし、もし彼女が嘘を吐いていて、避難所で610の感染が爆発的に広がったら、その責任はお前も俺も負いきれない!

(沈黙)

[身元不明]: 待ってくれ、ミハイル・アレクサンドロヴィッチ、ちょっと落ち着け!

(銃声)

[身元不明]: アレクセイ、よく聞け。俺は避難所の七千五百人の命にだけ責任を負う。他の可能性は知ったことじゃないんだ。

ドキュメントログ

RECORD-S-1073741824

データソース: [機密データソース]

タイムスタンプ: MTcwMDIzNzkyMA==

ドキュメントタイプ: ドキュメント;ドキュメント状態: 完全


私達の存在をまだ知らない全世界の人々へ:

私達はSCP財団という名の正常性維持機関です。過去百年の中で、私達は世界中で発生する様々な異常事件の研究に尽力し、あなた方の慣れ親しんだ正常性を一変させる壊滅的な出来事や、それが発生する可能性を回避するために最善を尽くしました。

私達の研究する存在は危険であるため、過去の活動においては、私達の情報や、存在そのものに至るまで口を閉ざし続けてきました。そしてあなた方が見たように、現在、全世界が直面している巨大災害と財団の使命は密接な関係にあり、この災厄の発生には、財団も逃れられない責任を負っています。危機に際して、傍観することはもはや我々にとって許容できる選択肢ではありません。

私達は、全世界に向けて自らの存在を公開することを決定し、世界を危機の中から救うために、財団が行使できる一切の力を尽くします。

このメッセージは監督評議会の現存する構成員(12名)が共同で執筆し、発表するものです。

SCP財団 監督評議会全構成員
サイト-01
2023年11月17日

ドキュメントログ

RECORD-S-1073741824

データソース: 中国 天津市 39°05'N 117°12'E

タイムスタンプ: [欠落]

ドキュメントタイプ: 音声ログ; ドキュメント状態: 一部破損


(電子ノイズ音)

(電子ノイズ音)......この24時間のうちに、37箇所の避難地点が損失したとの報告を受け、合計7,083人が失われたと推定されています。貴方が昇る朝日を見届けられたのなら、この五か月間と同様、昨日の犠牲者に一分間の黙祷を捧げましょう。

(電子ノイズ音)......これと同時に、財団は異常現象との闘争を放棄していません。O5評議会はすべての観測可能な融合現実内の重要施設の安全確保に全力を注いでいます。もし"迷子"プロセスを経験し、見慣れない並行現実に入った場合は、危険を避けるためにすぐに最寄りの財団施設に連絡して下さい。我々は全力で貴方を助けます......(電子ノイズ音)

各避難所の耐用期間を最大限に延長するために、我々は大量の装備が必要です......(電子ノイズ音)......もし武器の使用経験や、現実工学の知識があるのならば、最寄りの財団サイトへ連絡し、必要な支援をお願いします......(電子ノイズ音)

財団中国支部の全国範囲内のすべての避難所に、現在の情勢に関する重要な緊急ニュースをお知らせします。必要な情報を得るため、この放送に常に注意を払ってください。必要であれば、最寄りの財団職員に対して救助を求めてください。

(くぐもった電子音楽)



くろまる

くろまる

くろまる


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映像ログ

RECORD-S-1073741824

2_alter.jpg

Kang: つまり、私の考えが正しければ、アレはある種の、壊れた神の教会が"神"を作り直すための試みというわけね。

(画面は屋外の吹雪の中にいる二人を映す。画面中の視界の遥か遠方に、雪に埋もれる巨大な機械構造物が微かに見える。)

イエス。およそ七ヶ月前、彼らはどこか別次元の教会か財団、あるいは他の誰かから、SCP-882を取得しました。

その信者らはこう語りました......この"神"の力を、人類がアノマリーの襲撃に抵抗するための一助にしてほしいと。まあ......見ての通り、彼らは成功していません。

あれは......唯一の"遺産"です。誰もあのあたり数百キロに近寄ろうとはしないでしょう。

Kang: 世界が終わりゆく今、彼らの言う神の力は......全然実現しなかったようだし——

Kang: 無為無能の神って感じね。

Kang: [笑う] ほんと、壮観ね。

ええと......姜博士、個人的に思うのですが、世界が終わる最中にふざけるのは、いささか不適切なのではありませんか?

Kang: [笑う] 死人に鞭打って働かせておいて、道徳の遵守を求めるのね。面白い。

Kang: さっさと話を続けましょう。その後は?

簡単に言えば、O5-3の崩壊によって財団現実安定化ネットワーク、監視ネットワーク、収容システム、そして静止軌道施設の全てが機能停止しました。

大きな混乱は数千ものアノマリーの同時収容違反を引き起こし、そのうちの多くは現実を完全に改変できるような実体でした。

一部の人々が並行世界に由来すると思われる記憶を獲得していることを、財団は発見しました。そして我々が見たこともないアノマリーもいくつか出現し始めました。

O5-3の保護を失った状況下で、アノマリーによる現実改変の影響は現実の構造を崩壊させることを、我々はようやく理解しました。

それはそのまま、全ての似たような並行宇宙がこの激動の影響を受ける結果を招きました。

異なる並行現実が一つに圧縮され、空間全体のヒューム場も完全に混沌状態に陥りました。

現実安定錨なしでは、いつ、全く異なる現実に取り込まれてもおかしくないのです。

財団はこの事態をתKクラス世界終焉シナリオと命名しました。またの名を——


——"三千世界"。


Kang: それで、あなたたちの計画は、"少年"を使って財団の全電子設備を統合して、現実構造と収容システムを再構築しようというのね。

Kang: 実現可能性は検証したの?

ええ......実のところ、財団もそれが成功するか否か分かりませんし、感覚的には望み薄とさえ言えるでしょう。ですが......他に選択肢もありません。

無数のシミュレーションと試行が失敗した後、私達は——O5達を含め——これが唯一可能性のある計画だと確信しました。

たとえ現実構造を再構築できなくとも、私達はさしあたり財団の収容システムも再建せねばならないのです。

Kang: そうね、今回の私は何度目の復活なの?

それは......分かりません。スタッフが同じ現実にいないことさえあります。そのせいで、財団内部の連携はボロボロで、全くスムーズではありません。

連携を取りたければ、ほとんどの場合は最も原始的な手段、つまり対面するしかありません。

Kang: というと、人に並行現実間を飛び越えてもらうことで、情報を伝えるってこと?

Kang: となると、あなたたちは並行現実間を移動する方法を知っているということね。

とても贅沢なことです。携帯式の調整可能な現実安定錨を用いて、周囲のヒューム指数を改変することで並行世界にジャンプするのです。

指向性ジャンプは確実に成功するわけではありませんが、十分に優れた方法です。

Kang: 本当に贅沢ね。

Kang: 私の記憶に間違いが無ければ、形態形成力場構成タイプのラングフォード現実安定錨、LRAだけが、調整と小型化の両立が可能だわ。

Kang: あんなものを作るためには高ヒュームのエメラルド単結晶が必要よ。今のこの環境下では、もう製造は不可能だと思う。

イエス、ですがこの通り、財団は私達に二台のLRAを支給しました。あなたはずっと私の側にいさえすれば良いのです。何の問題は無いでしょう。

Kang:きっと太平洋を飛び越えて目的地に行く手段が無いから、あなたにそんなものが配備されたんでしょうね。

本当に、貴方は全てをお見通しなのですね。

ご覧の通り、ここでは既知の並行世界の財団の資源を集めて、修復・メンテナンスをしている、かろうじて機能している唯一のSCP-2000なのです。

しかしこの現実では、海洋エリアのほとんどがパターン・スクリーマーに飲み込まれてしまいました。他の現実へ行く以外には、ここを離れる方法はありません。

Kang: (苦笑)そんなことだろうと思ってた。私たちは今すぐ出発するの?

ノー。SCP-2000の真上でジャンプするのは非常に危険です。ほとんどすべての並行現実において、ここは高危険エリアなのです。

私達は最寄りの財団施設に行かねばなりません。サイト-2000、つまり——

Kang: SCP-2000の制御コンソール所在地ね。

拡張前はそうでした。拡張後は、あそこはO5-3"天眼"の基幹サーバー所在地です。

あるいは、かつてのO5-3、それがまだ存在していた頃の。

映像ログ

RECORD-S-1073741824

3_alter.jpg

Kang: ほとんど破壊されてしまっているとはいっても、かつての"少年"よりももっと巨大なサーバー配列は、本当に眼を見張るわね。

破壊される前は実に壮観な場所でした。ここの過去の映像ログを見ましたが、実に印象深いものでした。残念です——

Kang: でも技術的に見れば、私が予想したよりもかなり大規模ね。30年経つと、ムーアの法則も破綻しかかっているようね。

完璧なAIを人間と置き換えることで、遥かに膨大なサーバー配置が必要となるのは予想されていました。

しかし私がずっと分からなかったのは、かつて"少年"は何故人間をキーパーツとして使わねばならなかったのですか?

Kang: 当時の私たちは様々な方法を試したわ。結局、どんな手段も私達がやりたいことを完璧に実現できなかったということよ。

Kang: そうして完成したシステムを初期化してみたら、あなたのBIOSとそっくりだったわ。

Kang:それから、私たちが実行したい複雑なタスクを計算機に入力して、得られた膨大なデータを基にフィードバックと決定を行う。

Kang: あの時、私たちが唯一取れた選択肢は「人間」だったの。

なるほど......だとしたら、AIを人間の代わりに使用した"天眼"は、まさに偉業だったのですね。

Kang: このシステムはいつから使われ始めたの?

私の記憶通りなら、2022年初旬です。その頃は......

"少年"がO5評議会に辞令を提出し、そして承認されました。勿論、"少年"自身が"辞職"を出す決定をしたのではないでしょう。

本当の理由は明らかです。人間ベースの決定中枢には、様々な欠点があるのです。

あ......す、すみません、これは......もちろん貴方の仕事を批判しているのではありません。どうか、お気になさらず。

Kang: [笑う] いいのよ。私もこのことは知っていたわ......あなたよりもずっと昔から。そもそも"少年"の誕生は、最初から技術的制約との妥協の結果だったのよ。

過度な脆弱性、高い維持コスト、低いリスク耐性、生物学的要因は悪影響を受けやすく、要求が厳しい。お聞きになりたければ、もっと多く挙げられます。

"少年"はこれらの面では何一つ問題を起こしたことはありませんでした。しかし、不測の事態を防ぐため、彼らは完全なAIベースの"天眼"を立ち上げると決定したのです。

それから、O5評議会に命令されたことで、"少年"が形式上は辞職し、その後はSCP-CN-3000にナンバリングされて収容されています。

Kang: O5たちは、ずっとそうしたがっていた。むしろああいう連中にとっては、そうしないことのほうがおかしいの。

Kang: 私が"少年"の開発責任者に任命された時には、将来それが純粋なAIに取って代わられることになっていたの。

Kang: だから、最初にその理由を質問したかったのよ。

"天眼"は間違いなく優秀でした。それは"少年"の全ての職責を引き継ぎ、一年と少々の時間でその多くの仕事を完了しました。

ヴェール協定を維持し、全世界の情報を監視し、全サイトの数千から数万にも及ぶアノマリー収容プロトコルを自動的に維持調整し、実施しました。

財団の現実安定錨ネットワーク、OEMやSCP-2000を含む全重要施設の運用を維持し、さらにO5としてドキュメントを承認し、意志決定しました。

誰もが皆、全てがこのまま続いていくのだと考えました。しかし、誰も想像しなかったことに、使用開始からたったの2年で"天眼"はこの危機的状況に直面しました。

......宿命は人類、そして財団を嘲笑っているのでしょう。

Kang: 言うなれば、彼らも何かしらの準備はしていたわ。でなければ、SCP-CN-3000を残しておくことはしなかったでしょう。

Kang: ところで、その"OEM"というのは、あなたの言い方だと、事物を"定義"するために使われるものね。それは事物に確定した概念を付与して、それらが他の何かに変質してしまわないようにする観察者——

Kang: そうね、それは私が知ってるそのオリジナル、人間の姿をした観測者と交代したのね。

Kang: 言い換えれば、財団は"観察者"に対して何らかの措置を講じていて、そのために、彼が職務を全うできなくなったから、O5-3にその仕事を引き継がせなければいけなかったんだわ。

......おっしゃる通りです。

Kang: [笑う] 人はいつだって自縄自縛に陥るものなのね。

あなたのような天才から見れば、こういった過ちは愚かに思えるでしょうね?

Kang: 私はお見通しよ。パラゴン、まだ何か話したいことでもあるの??

付け加えることは何もありません。時間も迫っています、私達の次の目的地の位相は3分27秒後にこの現実と一致します。

3分27秒後、LRAのヒューム指数レベルを98.6675に調整します。その現実のサイト-2000はすでに空にされ、スタッフが駐留する施設に改造されています。

財団によれば、そこで誰かが私たちを待っているそうです。

ドキュメントログ

RECORD-S-1073741824

データソース: ドイツ連邦共和国 ヘッセン州 ダルムシュタット49°55'N 8°40'E

タイムスタンプ: [欠落]

ドキュメントタイプ: 映像ログ; ドキュメント状態: 一部破損


(記録開始。空は暗紅色である。二名の財団職員と思われるエンジニアらが、部分的に破損した施設の周囲で用途不明の巨大な機械を修復している。)

[身元不明A]: レンチを取ってくれ。

(そのうちの一名が梯子上のもう一人にレンチを渡す。)

[身元不明B]: こいつが完全に潰れてしまうまで、あとどれくらいある?

[身元不明A]: 三ヶ月だ。

[身元不明B]: 三ヶ月。もう一ヶ月、ほんの一ヶ月延ばせないか? 一ヶ月後には、マンハイムの辺りの施設はほぼ回復できているはずだ。

[身元不明A]: ......わかった、全力を尽くしてみる。できる保証はないが。

[身元不明B]: こいつは二年前にも似たような問題を起こさなかったか? 前回はすぐに修復できたはずだったが。

[身元不明A]: あの時は、天眼が自動的に直したんだ。オレ達はただマウスをクリックするだけで、最初から最後まで三分もかからなかった。あの精度を人力でどう出せと......

[身元不明B]: (ため息)今はベストを尽くすしかない。上手く行けばいいけど。実を言えば、ここ数日はある問題についてずっと考えていたんだ——

(沈黙)

[身元不明B]: ——マンフレッド、質問させて欲しい。

[身元不明A]: 何だ?

[身元不明B]: もし、もしもだよ......僕達が暮らす世界が実はただの小説や、ゲームの一部だったとしたら、僕達の運命は、他人の頭の中にあるアイデアに過ぎないことになる。

[身元不明B]: 結末は既に決まっている。世界の終わりがやってきて、僕達は結局滅亡する。これ以上何をしたって、結末を変えることはできない。一切合切、何の意味もない。

[身元不明B]: 君はまだ、足掻き続けるのか?

(梯子上の男性が数秒沈黙し、スパナをもう一人の男性に返して、袖口で額の汗を拭う。)

[身元不明A]: やるべきことが沢山残ってるんだ。まだまだ、妻と娘を養わなくちゃならない。オレには、小説家やゲーマーのように実体もないようなものに割く時間はない。そんなもののために足を止める時間は無いんだ。

[身元不明A]: それになあアーノルド。オレは——

(ドキュメント破損、この後の内容を読み取れない)

映像ログ

RECORD-S-1073741824

(映像ログ開始。記録者と姜博士は一人の中年男性に連れられて煙の立ち上る廃墟を進み、一部が破損したと思われるサイト-2000に進入する。男性の身分はサイト-2000駐在研究員、財団レベル4研究員のアダム・アップルトン博士と確認できる。遠方では依然として断続的な爆発音が起こる。多くのSCP-173に類似する実体が瓦礫の撤去と負傷者の搬送を行っている。)

Kang: (ため息)私たちはずっと、コイツらを見つめ続けなければならないの?

Dr. Appleton: (ため息)気にするな。君達はクリアランス証明を持っている。奴らが君の首を締めることはないさ。

Kang: SCP-173を改造したの? アレの原理を解明したってこと?

Dr. Appleton: こいつらは財団が自作したものだ。DFI"HvNT"タイプ軍用ドローン。それが、ロボットとして運用されるために改造されて、奇跡論的な小細工が施されているんだ。今や人的資源は貴重で、こんなことなんかに使えない。

なんということ......いったい何が起きているんですか?

(アップルトン博士は二名を連れて移動しセーフポイントに入る。サイト-2000内部もまた外と同程度に被害を被っている。)

Dr. Appleton: 申し訳ない、本来ならばここに来た君達に物資を渡すべきだが、我々もアノマリーの攻撃を受けたばかりだ。ここに元々置かれていたSCP-914も破壊されてしまって、君達の装備を改良することができなくなってしまった。

Kang: サイト-2000に914を持ち込んだの?

Dr. Appleton: より"現代的"な呼び方では、K-OFF型拡張-強化処理装置。914のあまり役に立たない機能をいくつか取り除いた。173と同様に、これも財団自身の技術だ。本来ならば我々は二台目を実装したかったが、今はその機会もない。

Kang: ......これらは全部財団自身が造り出した?

Dr. Appleton: そうだ。本計画はこれまで、ずっと秘匿されてきたもので、監督者評議会は何かに備え、こういったものを準備していたんだ。これらが何の役に立つのか、てんで分からなかったが、終末がやって来てようやく、正しい使い道を知らされることになった。

Kang: ......財団は自分で自分を困らせて煙に巻くのが本当に好きね。まあいいわ、監督者評議会ならそういうこと、やってもおかしくないもの。

Dr. Appleton: とにかく......すまない。我々が持っていた唯一の914がここにあったんだ。今のところ君達に必要な道具を用意することはできそうもない。

えっ? ええと......じゃあ、この装備だけでアメリカの半分、太平洋全部と中国半分を横断しなければならない......のですか?

Dr. Appleton: 君達が本当に助けを必要とするなら、私がしてあげられるのは......

(アップルトン博士が金庫を開き、パワードスーツを一着取り出す。)

Dr. Appleton: これだけだ。

ええと、私はまだどうにか自分で自分を守ることができるでしょう。このスーツは姜博士にどうぞ。彼女は私よりも保護されるべきです。

Dr. Appleton: これは以前私が使っていたものだ。女性に合うかどうかは分からないが。我々はここでほとんどの時間を安全に過ごせているからね、君の方がこれを必要としているはずだ。試してみてくれ。

Kang: [笑う] ありがとう、何も無いよりは良いわ。

(姜博士がパワードスーツを受け取り、着用を試みる。)

......それで、攻撃者はだれなのか、手掛かりは無いのですか?

Dr. Appleton: 付いてきてくれ。

(アップルトン博士が二名をサイト‐2000の屋上に案内する。アップルトン博士が指さす方向を辿ると、本来SCP-2000が確認できるはずの方向に巨大な穴があり、内部には建物の残骸が微かに確認できる。)

Dr. Appleton: あれが見えるか? SCP-2000は、初日に徹底的に破壊された。我々はおよそ使用可能なBZHRと設備を全て、君たちがやってきた現実に集中させた。そこが唯一かろうじて機能するSCP-2000だったからだ。

Dr. Appleton: この全てが本当に何者かによる攻撃だったとしたら、それは......

Dr. Appleton: 動機があり、かつそれだけの能力を持つのは、おそらくカオス・インサージェンシーだけだろう。

Kang: 連中は、"天眼"に侵入できたの? それとも、あなたが前に言ったアレ......OEM? そういった中核施設を利用したの?

Dr. Appleton: 君は1994年に亡くなったそうだな。きっとOEMのイメージが浮かばないだろう。簡単に言えば観察者には、いわゆる合意的現実を安定させる以外に、ある重要な働きがある——

Dr. Appleton: 未発見、未定義のアノマリーを、自己無力化させるんだ。OEMはそれらを識別することができないため、それらはピンぼけによって、自然と普通のものになってしまう。

Dr. Appleton: そんなことを一番望まないのは誰だと思う?

......確かに、彼らならやりそうなことですね。

Dr. Appleton: OEMの建設が完了した後、カオス・インサージェンシーが杭州の端末を強奪して、それにより制御権を奪取し、それと彼ら自身の監視制御ネットワークとスーパーAIと組み合わせた。それはカオス・インサージェンシーの本質であると同時に彼らの決定装置であり、奴らはそれを"エンジンThe Engine"と呼んだ。

Dr. Appleton: その端末からのデータはOEMのネットワークに逆流した。我々はずっとその干渉を遮断しようと試みていたが、奴らが我々の防御を突破する方法を見つけ出したとしたら、それは——実は、最初に"ピンぼけ"したのは、天眼のサーバーだったんだ。

Dr. Appleton: そういえば、君達は具体的にどこへ行くんだ? 何かを起動しに行くようだとは聞いていたが。

そうでした、私達はSCP-CN-3000、つまり"天眼"の前任のO5-3、"少年"を起動しに行きたいのです。

Dr. Appleton: 何?

Dr. Appleton: O5評議会は君たちに何も教えなかったのか? そんなものはとっくに破壊されたぞ?

何と!?

Kang: (数秒沈黙)何ですって?

Dr. Appleton: ......解った。ひょっとすると、評議会が君に命令をしたときには、まだこのことに気づいていなかったのかもしれない。これはほんの数日前の調査結果なのだから。

Dr. Appleton: 災厄が始まった後、SCP-CN-3000収容地点の周囲、つまり我々の知る、ほぼ全ての現実において——

Dr. Appleton: 甚大な被害を受けていて、ほとんど立ち入れないほどだった。財団の調査チームが先日ようやく進入する方法を見つけて、そして、彼らの所在する全ての現実で、SCP-CN-3000の収容施設が徹底的に破壊されているのを発見した。かなり徹底的にな。

Dr. Appleton: 我々がここにいるのは、隣接する原子力発電施設が破壊されて、収容室だったエリア一帯が陥没したからだ。元々あった収容室は、今は綺麗さっぱり埋まってしまって、ガラス片と熱で変形したパーツ以外は何一つ残っていない。他の現実も大差はない。あの様子を見るに、災厄の初めから狙われていたんだろう。

......それも道理です。"天眼"が全て攻撃されたのなら、SCP-CN-3000は奴らの攻撃目標にならないはずがありません。

Dr. Appleton: というわけだ。君たちはさしあたり、監督者評議会に今後の行動について話し合っては——


Kang: (沈黙)必要ないわ。"少年"はこんなにあっけなく破壊されたりしない。絶対にね。


おっと、何か考えがおありで? それとも、何か知っているのですか?

Kang: 私の子供は決して間違えないわ。例え相手がスーパーAIだったとしても、対等に渡り合える。簡単に破壊されるなんてことは、絶対にありえないんだから。

Dr. Appleton: 姜博士、財団では知らぬ者のいないエンジニアとしての君の能力を信頼しているが、それでもこれは紛れもない現実だ。実際、評議会は今でも残された並行現実の調査を諦めていないが、おそらく別プランも検討し始めているだろう。少なくとも私の読んだ調査報告書では間違いなく事実として記されている。映像ログ、写真、さらには——

Kang: 私は"少年"の開発者よ。我が子がどういうものか、手に取るように分かるわ。ドキュメントでは、"少年"は既に財団ネットワークとの接続を絶たれている、と書かれているようね。だとしたら、破壊されたとすれば物理的な破壊しかありえない。

Kang: 数千の並行宇宙を認知していると、そう言ったわね?

イエス。

......つまり貴方は、"少年"は別の方法で、自分を保護できているかもしれない、と考えているのですね?

Kang: 私はそう信じている。でもそれを証明するには、もっと多くの証拠が必要よ。

Kang: 記憶が正しければ、当時の主要なサイトには"少年"と直接通信するための設備が残っていたはずよ。今では廃棄されているでしょうけど、もし探し出せれば、通信ログから手掛かりが掴めるんじゃないかしら......?

Dr. Appleton: ああ、あの端末か。

Dr. Appleton: 以前、ここに一台置いてあったが、とっくにお役御免となっていた。SCP-CN-3000がアーカイブ化された際に、財団がまとめて回収していってね。

Kang: あら。それじゃあ、どこならありそうかしら?

Dr. Appleton: 記憶通りなら、ネバダ州ブラックロック砂漠のサイト‐56地下二階の倉庫に、旧世代の様々な設備が置かれていた気がする。運が良ければ、そこで1台見つけられるだろう。唯一の問題は——

Dr. Appleton: ——サイト‐56は真っ先に破壊されたサイトの一つだということだ。しかも、我々が知る限りの並行現実では、世界終焉の最初の過程はほぼ完全に一致しているんだ。この影響は全ての並行現実に及んでいるはずだ。運試しをしに行っても構わんが......成功する保障はない。

ドキュメントログ

RECORD-S-1073741824

タイムライン番号: T-2113

ログポイント位置: アメリカ合衆国 ユタ州 ソルトレイクシティ 40°45'N 111°56'W

記録: 当地点にたどり着いた時は、目標現実はちょうど深夜0時で、数日前から激しい雨が続いていた。当現実のソルトレイクシティは既に廃墟と成り果てていて、ほとんどの建物の窓は木板、塗料、色とりどりの防水シートで覆われて補強されていた。大通りを徘徊する奇妙で無定形の生命体は、頻繁に聞こえる人間を真似た声やその他の音の発生源なのだろう。私達はすぐに自分の置かれた環境を理解した。これまで推測の域を出なかった世界終焉シナリオ——XK-Δクラス"太陽異常化"シナリオだろう。

最後の生存者は後から来る者のために、チョークと張り紙で避難所へ向かうための手がかりを書き残していた。避難所の中で、私達は財団職員のノートを発見した。この作者とその他の生存者は、世界終焉後も200日近く持ちこたえていた。ノートに記された方向を捜すと、地面で重なり合った財団職員標準制服が2着、そしてマリア・シェニーとダミアン・シェニーの氏名が確認できる財団職員標準クリアランスカードだけが見つかった。

映像ログ

RECORD-S-1073741824

(映像ログ開始。記録者と姜博士は廃棄された木製の小屋に身を潜めている。映像ログでは窓の外の環境は夕暮れと思われ、光量は薄暗い。背後からは重苦しく、足音に類似する音が微かに聞こえる。窓越しには、屋外の遠くない場所で燃えている装甲車の残骸が微かに見える。)

Kang: (小声)まだいる?

まだ周囲にいますが、離れています。

Kang: そっちの状況はどう? 損傷は酷いの?

LRAが一台使用できないようです。その他の機能は正常。二台持ってきて良かったです。あなたは?

(姜博士が自分の腕を見る。映像中では腕に擦過傷があるように見える。)

Kang: 大したことないわ、ただの擦り傷よ。でも車を失った影響は大きいかもしれない。燃えていなければまだよかったのだけど、焼けて壊れた車は私にも直せない。

しかし......あれは私たちの唯一の移動手段だったのに......

Kang: 焦っても仕方ないわ、どうやって脱出するのかちょっと考えましょう。

Kang: 私にはまだ銃が一丁ある。あなたはどう? あなたの機体に搭載された火器システムは、私達が脱出するのに役立ちそう?

ええと......微妙なところです。私のこの銃身とプラズマキャノンは問題なく使用できますが、武器のエネルギーシステムが長く持つとは限りません。

試してみましょう。チャンスを見計らって、あいつらの顔に向けて撃ってやります。ここで待っていても、バッテリーを空にしてしまいますし。

Kang: [笑う] あちらには、違う意見の人がいるようね。



[身元不明]: 死ぬぞ。



誰ですか!?

[身元不明]: (小声)声を落とせ。奴らを呼び寄せてもいいのか?

(記録者が声の聞こえた方向に銃を向ける。三十歳前後の、巨大なバックパックを背負い旅行者の格好をした金髪の男性が一人、屋内の破壊されたキャビネットの後ろから現れて、自身の衣服の埃をはたく。)

[身元不明]: (小声)不浄には普通の武器はまるで通用しない。せいぜい奴らの気をそらす程度だ。機動性が十分に無けりゃあ、奴らを怒らせるだけだろう。あいつらの頭にボウリングの玉ぐらいの穴が見えるだろ? ロケット弾でやっとあの程度さ。

[身元不明]: (小声)それよりも、こっちを使った方がいい。

(男性はバックパックを下ろし、中から信号弾発射器とサイレンサー付き拳銃を取り出すと、慎重に壁に張り付きながら入口扉まで進み、そして素早く遠方の空に向かって射撃する。信号弾が空中で炸裂すると、周囲の声は急速に大きくなる。ひときわ巨大で、上半身だけのヒト型実体が数体、両手を使って信号弾の方向へ向かって突進して行く。)

[身元不明]: こんなもんだろう。ちょっとは休めるな。奴らは光に吸い寄せられる。運が良ければ、この近くに財団の救援隊がいるはずだ。彼らが信号弾を見れば俺たちを探しにここまで来るだろうさ——なにせ、ここはこの辺で唯一バンカーとして使える建物なんだからな。

救援隊? こんな危険な場所に、救援隊がいるんですか?

[身元不明]: 普通なら、こんな全部が異常実体で荒れ果てて誰もいないような現実には、財団の救援隊がいるんだ。だが人員は少ないし、ここは広いし、異常実体も多い。救援隊の注意を引くために行動しなけりゃ、助けてもらえる確率は宝くじを買うのと大差ないだろうな。

あなたは実に多くのことを知っているのですね。

[身元不明]: オレがこの並行現実に来るのは5回目だ。どう思う?

Kang: 大ベテランね。見たところ、あなたも財団の職員でしょう。

[身元不明]: ああ——PAR-017を見て自己紹介をしなかったのは確かにオレのミスだ。

[身元不明]: オデオOdeoアマデウスAmadeusクレイストKleist。財団の図書・文献管理部門レベル2研究員。

(記録者が男性の生体認証をスキャンし、自己紹介と一致していることを確認する。)

Kang: 文献管理部門の人間が何故ここに?

O. A. Kleist: [笑う] どちらかと言えば、オレの本職の仕事のためだ。見たもの全部を記録する。これらの情報は、未来のオレ達にとってきっと貴重な資料になるだろう。具合の良いことに、この世界の終わりの特徴はオレの旅行にとって少なからず便利なんだ。滅多にないチャンスだ。出歩くには丁度良い。

Kang: 特徴? どんな特徴なの?

O. A. Kleist: 知らないのか?

Kang:(肩を竦める)私は残業のために叩き起こされた死人。世界の終わりが始まる前に死んで、それからもう三十年も経っているわ。

O. A. Kleist: SCP-2000で生き返った人間? マジで? [笑う] 死人を蘇生して働かせるなんて、残業代は出るのか?

O. A. Kleist: それならちょっとオレに説明させてくれよ。アンタはもう一人の自分には永遠に出会わないだろう。もしアンタが別の世界に行って、その世界のアンタは既に死んでいるかそもそも存在しなかったとしても、タイミングさえ合えばジャンプして行ける。何の問題もない。

O. A. Kleist: だけど、もしその世界にもう一人のアンタがいて、どうにかしてそこに行きたければ、その世界のアンタがちょうど近くにいなきゃならない。これは対照位相ってやつだ。この状態だと、アンタともう一つの世界のアンタは一人の人間に融合して、そいつの経験と記憶を得るんだ。これはカバンの中の電子ブックの記録にまで及ぶ——

(Kleistがバックパックから多数の大小の電子機器を取り出す。外観はスマートフォンまたはタブレットに類似する。Kleistがそのうち、小型のスマートフォンタイプの電子機器を使おうとするが、起動できないように見える。)

O. A. Kleist: こいつ、どうして壊れてるんだ? (首を振る)まあいいや、一つぐらいなくても構わないさ。運よく、まだ何も記録してないしな。

(O.A.Kleistは端末を放り出す。端末は姜博士の手の方に落ち、博士により拾われる。)

Kang: これは何?

O. A. Kleist: (眉をひそめる)ちぇっ、あんたは本当にSCP-2000で生き返った人間なんだな。

Kang: [笑う] 姜泰怡、財団中国支部レベル4研究員、サイト-CN-91の元首席エンジニアよ。私の記憶は1994年で止まっているわ。

O. A. Kleist: ちょうど、世界の終わりが来る前はオレもずっと中国支部のあたりで仕事をしていたんだ。残念なことに、世界の終わりが来たときにはちょうど本部のあたりに出張していて、戻れなかった。

O. A. Kleist: これは後の時代のスマートフォンだ。アンタの時代のデカい奴と比べても、ほとんど劣らない超小型コンピューターを一つにまとめた機能がある。残念ながら壊れたけどな。バッグの中で場所を取るから、捨ててくれ。

Kang: 私にくれないかしら。修理すればまだ使えるかもしれない。

O. A. Kleist: 必要なら、まだ壊れてないのを一台やるよ。

Kang: いいえ、この壊れた物で結構よ。私は無駄遣いが嫌いなの。

その端末はデータの記録しかできないのですか? そんなこと、私にだってできますよ。

Kang: デバイスは多いに越したことはないわ。

Kang: (O. A.Kleistの方を向く)ありがとう。そういえば、私の知る限りでは、今は長い旅はとても危険よ。あなたはLARを持っていない。どうやって旅をしているの?

O. A. Kleist: サバイバル技術と、少しの運、そして次の現実に向かう決意さ。もしかしたら、いくつかの並行世界のオレはもう、旅のトラブルで死んじまっているかもしれないが、知ったこっちゃないね。どのみちオレはまだちゃんと生きているんだ。

(男性が壁にもたれて座り、バックパックからサバイバルフードと水を取り出す。)

O. A. Kleist: アンタらも欲しいか? ここに来てから何も食べてないようだが。

Kang: (食料を受け取る)バッテリーは無い? あのパラゴンタイプアンドロイドの兵器システムを充電したいの。

O. A. Kleist: こいつの充電には大型バッテリーが必要だが、オレは持ってないな。節約した方がいい。

O. A. Kleist: わざわざ生き返った研究員が任務に就いて、しかもPAR-017アンドロイドがコンビを組まなけりゃならない。[笑う] マジで贅沢な組み合わせじゃないか? 好奇心から聞くけど、アンタらはどんな任務を遂行しているんだ?

私達ですか? 私達は、ええと......SCP-CN-3000を"再起動"させに行かねばなりません。しかしながら、私達はそれがまだどこかに存在するかどうかも分からないのです。

O. A. Kleist: "少年"? アレはとっくに破壊されたんじゃないのか? まあ、オレも聞いた話だけどな。実際に見たわけじゃない。

Kang: 他には何か聞いていない?

O. A. Kleist: 人づてに少し聞いただけだ。探索されてる全ての並行宇宙ではSCP-CN-3000は全部破壊されていて、そのほとんどはカオス・インサージェンシーの連中の仕業だそうだ。もう一つ、オレの聞いた突拍子もない話によると、どこかの並行世界ではほぼ完璧な状態の収容室が見つかったらしい。調べてみると、途中のセキュリティシステムはすべて破壊されていた。中に入ってみると、なんと収容室は空っぽで、O5-3と付属装置は丸ごと運び去られていたんだそうだ。

O. A. Kleist: (笑う)まったく奇妙な事件だよな——だが、どこまでが本当でどこまでが嘘か分からない。オレは新大陸は全部渡り歩いたが、旧大陸には行ったことがないんだ。

Kang: あなたは、この次はどこへ行くつもりなの?

O. A. Kleist: アヴァロン

ああ、アヴァロンですか。もしSCP-CN-3000がまだどこかに存在していることが確認できれば、私達も行った方が良いかもしれません。

T-0601の海湾都市が、ロサンゼルスの廃墟の上に再建されました。聞くところによると、現在の財団で唯一の、太平洋を横断可能な港だとか。

O. A. Kleist: (水を飲む)世界の終わりでは珍しい、ユートピアめいた所だ。あそこはサイト-15の管轄で、サイト管理官はどこかしらからビッグフット妖精族の支援を取り付けたらしい。いずれにしても、そういった友人達の助けのお陰で、彼らの今の技術レベルはほぼ世界終焉の前にまで回復しているらしい。

しかし、あなたにはLRAがありません。行くとしたら非常に困難なのでは? 多いに苦労するでしょう。

むしろ、別の現実のロサンゼルスの廃墟や、あるいは非常に危険な怪物に占拠された都市かどこかに行く可能性の方がかなり高いと思います。

私達と一緒に行きませんか?

O. A. Kleist: [笑う] アンタたちの好意は本当に有り難いが、オレは他人に計画された旅路はあまり好きじゃないんだ。それに、オレはまだ信じているんだ。オレ自身のサバイバル能力、少しばかりの幸運、それにどこかへ行こうという決意さえあれば、目的地に到達でき——

(ゲート外から突如巨大な振動音が聞こえる。)

何の音ですか?

O. A. Kleist: (急に声をひそめて)しまった、これは——



(記録者は視線を窓に向ける。窓一面に巨大な不浄の顔が広がり、複数の化膿した巨大な弾痕がはっきりと視認できる。)



博士、早く外へ! ファック、こいつ——

(記録者は窓に向かって飛び込みながら、腕をプラズマキャノンの形態に変形させ、窓めがけて発射しようとする。一方、不浄は建物を攻撃しようと腕を振り上げているように見える。)



(炎の閃光と巨大な咆哮が起こるとともに、不浄は突然バランスを崩して転倒し、這い起きると、何かを追いかけるかのように反対方向へ走り去った。窓越しに、数機の武装ヘリコプターがホバリングしているのが見える。)



O. A. Kleist: ——ふう。救援隊だ、マジでタイムリーな到着だな。

ドキュメントログ

RECORD-S-1073741824

タイムライン番号: T-0131

ログポイント位置: :アメリカ合衆国 ネバダ州 40°47'N 116°38'W

記録: 我々はグレートベースン砂漠中心部にある粗末な木小屋の壁に、多くの手書きのイラストと文章が打ち付けてあるのを発見した。イラストを見るに、これらイラストと文章の作者は明らかに何らかの手段でSCP-4005を獲得したか、少なくともその影響を受けている。このオブジェクトがもともと存在した現実では収容されることはなかったのかもしれない。文章を残した人物の身元や、SCP-4005そのものの行方も、我々には確認できない。彼らの最後の記録は次のとおりだ。

"長らく空いていた王座に座ると、桃源郷が陥落と涅槃を繰り返す中で、二万五千年前の密林から勃興し、砂漠、草原、そして無限のオーケアノス海神の領域に至る様子が見えた。私の旅路は終点に至り、長きに渡り待ち続けていたアミール首長は私に告げた。巡礼者が一歩一歩桃源郷に向かって歩み続ける限り、桃源郷は決して消えることはないのだと。"

映像ログ

RECORD-S-1073741824

(映像ログ開始。記録者と姜博士は地下の温室に類似する部屋にいる。壁面は明らかに剥落が生じ、木の板等の材料で乱雑に補強されており、施設が長期間メンテナンスされていないと思われる。片隅にあるガラスフェンスの向こう側は実験農場と思われる。上部の温室ランプにより光源と照明が供給され、内部には様々な奇妙な植物が栽培されている。両名は実験農場の前に立つ。)

......ここがこんな風に改造されたとは、誰も言ってくれませんでした。

Kang: マップを見て。地下二階の入口はどこ?

この実験農場の向こう側にあるようですが、通れそうにないですね。

ここにいる人を探して聞いてみるか、それとも直接——

[身元不明]: 誰かいるのか!?

(白衣を着た老年の男性研究員が一名、突然隣室の鉄扉を押し開けて進入する。両手には財団機動部隊用に改造された標準PTA-0919式サブマシンガンが握られ、銃口は記録者と姜博士に向けられている。男性の身分は財団科学部門レベル3研究員、前サイト‐56研究員であるデニス・フランクリン博士と確認される。)

ああ、貴方はサイト-56の、ええと、フランクリン博士ですね? 私達も財団の——

Dr. Franklin: お前達が何か企んでいるのは分かっている。言っておくが、そもそもここの使える部品は奪い去られている。他のものは持って行っても意味がないし、私もお前達にやるつもりはない! 他のプロジェクトに協力するつもりもない、帰ってくれ!

Σ(°しろいしかく°;)

ちょっと待ってください、少し誤解があるようです......

Kang: 待って。

(姜博士は振り返って記録者に目配せをし、発言を止めるよう合図した。)

Kang: サイト-56は既に解散している。私の記憶に間違いが無ければ、あなたのここでの実験は許可を得ていないはず。

Kang: あなたがさっき言ったことから考えると、以前も財団職員が何かをあなたに要求したんでしょう。あなたが緊張するのは理解できるけれど、私たちは財団の職員よ。もし私たちに発砲したのなら、財団の規律によりあなたを終了する権限を持っているわ。

Kang: あなたは絶対に、一時の衝動で過ちを犯すタイプの人間ではないでしょう。だから、あなたの銃には殺傷力のある弾は装填されていないはずよ。

(姜博士は背を向け、背面で戦術ハンドサインを用いて記録者に情報を伝える。)

Dr. Franklin: ......やはりお前達は物を持ち去りに来たんだな?

Dr. Franklin: 帰ってくれ、ここはお前達を歓迎しない。

Kang: あなた一人ではどうやってもPAR-17アンドロイドに勝てないのは分かっているでしょう。何かを奪いに来た訳じゃないことを保証する。ただ——

Dr. Franklin: 協力するつもりはない。早く出て行ってくれ、ここには何も無いんだ。

(記録者は最寄りの地下二階への入り口の位置をスキャンする。入口は実験農場後部に位置する。)

Kang: (息を吸う)それならば、私たち自身でやるしかないわ——パラゴン、発煙弾準備!

(両名はすぐさま実験農場のガラスフェンスを破る。フランクリン博士は両名に向けて麻酔剤が詰められたと思われる小口径の弾薬を発射するが、記録者の使用した防御手段により阻まれる。記録者はその後、爆発式発煙弾を放出する。発煙弾が破裂し、部屋は瞬時に煙で覆われ、付近の植物が数株破壊される。)

Dr. Franklin: 何てことを!?

Kang: 見つけた。この中よ!

(姜博士は地下二階への通路の蓋を開き、記録者とともにすぐさまその中に入る。)






(地下二階は薄暗い。姜博士は懐中電灯を点け、廊下に沿って探索し、最終的に扉を開いて保管室の中に入る。山のように積まれた雑品の最下部で、一台の旧式パソコンタイプの通信端末が部屋の隅に放置され、表面には埃が厚く積もっているように見える。姜博士は傍の雑品の中から保存状態の完全な小型原子力バッテリーの電源を探し出し、端末機に接続する。端末機のグリーンライトがすぐさま起動する。)

Kang: ふう、この装置がどれだけ長い間使われていなかったのか分からないわね。受信システムがまだ正常に使えると良いのだけど。私はここで動かしているから、あなたはあの研究員が追ってきていないか見ていてくれないかしら。

わかりました。

(調査者は来た道を引き返し、静かにハッチを開いて地下一階のフランクリン博士の動向を伺う。実験農場内の煙は消え去り、フランクリン博士は攻撃のため追っては来ないと見られ、先程の発煙弾が爆発した位置で爆破された植物の破片を丁寧に集めて、それらをポケットに収め、その後部屋を出て、無言でガラスフェンスの破片を清掃している。脅威が無いことを確認した後、調査者は姜博士のいる部屋に戻る。)

大丈夫です、彼は追って来ていません。

彼は一人で仕事をしています。さっき私達が破壊したガラスフェンスと植物を片付けているようです。

Kang: [笑う] やっぱりね。

......彼をご存知なのですか?

Kang: 私はあいつを知ってるけど、あっちはきっと私を覚えていないわ。結局のところ私たちは昔一度会っただけだし、私も三十年間死んでいたのだから。

Kang: 彼は昔はプロメテウス研究所の植物学者だったの。どうして財団で仕事をしているのかは分からない。

プロメテウス研究所......その会社は1998年に倒産していますよ。

Kang: あら、そうなの。道理で。

Kang: 彼に悪意は無いわ。きっと監督者評議会が彼の研究を支持しなかったからここに居座っているだけね。

どうやって気がついたのですか?

Kang: 彼の研究していたあの植物は、種子のデンプン含有量がかなり高そうで、さらに明らかに非常に大きな塊茎を持っていた。私の推測が正しければ、彼は世界の終わりでも高効率で栽培できる食用作物の栽培を試みているようね。でもこの種の研究は時間がかかって、必ずしも結果が出るとは限らない。

彼はここで一人で、誰の助けも無く、まったく成果が出ないかもしれない仕事をしているのですか?

そう考えると、彼の植物を爆破してしまって、申し訳ない気がしてきました......

Kang: これほどまでに資源が不足している今、全ての人間の使命は人類という一つの種を存続させることだというのは間違いがないわ。多くの人間を養うことじゃないし、ましてや試して失敗した代価を受け入れる余裕はないのよ。

Kang: 出会った時にあなたが私に話したことと、私の知ってる監督者評議会のメンバーから考えれば、O5評議会の仕事も世界の終わりをどうやって巻き戻すかを重視してるのでしょう。

Kang: 食という点では、O5評議会はゴキブリプロテイン錠と乾燥ミミズを生き残った人間に食べさせて、彼らをすぐには餓死させないようするだけでしょうね。

Kang: 私が正しければ、彼はサイト-56の遺した材料を借用して研究しているのよ。おそらく、財団職員がいつも彼に退去するよう説得したり、ものを取り上げたりしてるのでしょう。結局のところ、適当な研究テーマの方がこういったことより優先順位が高くなるのね。

それは......彼はこの選択肢を放棄して、他の研究を試してみようとは考えないのですか? そうすれば、彼の状況は今よりもずっと良くなるでしょう。

Kang: [笑う] 私の知っている彼は、きっとそんなタイプではないわ。彼はプロメテウス研究所にいた時も変人で知られていたけれど、ただ一点において私も共感できる。もし私が彼だったら、きっと同じことをするでしょう。

Kang: 他人が何をしようが関係なく、誰かがやらなければならないことがあるのよ。

やはり私にはまだ、そのような選択がよく理解できません。

(端末のスクリーンが起動する。)

それで、貴方はこれで何を調査するつもりなのですか?

Kang: 前に君は言ったでしょう。今、君たちは並行現実間に即時通信ネットワークを構築できないと。

Kang: 即時通信ができなくとも、まだ他の方法がある。"少年"の演算力を使えばおそらく、自分を保護する最も効率的な方法をシミュレートできた——

Kang: それなら、彼はきっと、その後誰かが再度財団ネットワークに接続しようとすることも想定しているはず。

Kang: そうだとしたら、彼はおそらく、私たちが通信ログを見られるように、わずかな痕跡を残しているわ。

おお、なるほど! SCP-CN-3000をよく理解していますね。まさに"自分の子供"というわけですか。

Kang: [笑う] そうね。

そういえば、ずっと気になっていたんですが。

何故、彼らは貴方に"少年"の管理者クリアランスを持たせたままなのでしょうか? これは私の知るあの老人達のやり方らしくはありません。

何しろ、貴方はO5評議会にも、支部議会にもいない、サイト管理官ですらない研究員です。

たとえ貴方が"少年"の設計者で開発者であったとしても、筋が通りません。彼らは"少年"が完成した後、管理者権限を渡すよう要求することもできたはずです。



(沈黙)

Kang: [笑う] 私があの子の生物学的母親だからなのかしら?



......何ですって!?

Kang: あら、あなたはこのことを知らなかったのね。

しかし、ますます疑問が湧いてきました。彼らは何故、高級研究員の子供を......

Kang: 改造元に選んだのかって? (肩をすくめる)私が自分から頼んだのよ。

待ってください。彼は本来なら土星の鹿の生贄にささげられる必要は無かったと、そう言いたいのですか?

Kang: ああ、もともと一般人が聞かされるバージョンはそんな感じだったわね。[笑う] 倫理委員会を欺くためなら、あいつらはどんな嘘でもつくのよ。

しかし......何故なのです? 貴方の子供でしょう? 実験台として差し出すなんて......

Kang: O5-3になることも、悪くはないでしょう。——少なくとも、当時の私はそう思ったの。

Kang: それに、あの頃の私たちには時間が無かった。前任のO5-3が突然辞職して財団を去って、残された私は新しいO5-3をごく短時間で開発しなければならなかった。赤ん坊をそんな風に実験に使うことを、倫理委員会が承認するまでどれほど時間がかかるか分からないし、O5評議会と財団はそこまで長くは待てないもの。

Kang: そして、オブジェクトを作った責任者、つまり私も結果を見たかった——

......しかし、貴方も彼自身が何を望んだかは問題にしなかったのですね? すみません、私にはただ......少々受け入れがたいです。

Kang: 私の決めたことを理解しないのは、あなただけじゃない。

Kang: 聞きたいことがあるわ、私はどうやって死んだの?

ええと。1994年12月13日、サイト-CN-91の収容違反インシデント。貴方はそのインシデント中における二名しかいない死亡者のうち一人です。

Kang: あら、私が目覚める前の最後の記憶から、たった二ヶ月しか離れてないわ。[笑う] なるほどね。

どうして急にそれを聞くのです?

Kang: 何でもない。ただ考え事を......

(端末内の通信ログのアップロードが完了する。通信ログが再生されるとともに、端末の音響から連続したビープ音が聞こえる。)

ドキュメントログ

RECORD-S-1073741824

タイムライン番号: T-1376

ログポイント位置:アメリカ合衆国 カリフォルニア州 41°04'N 122°16'W

記録: この現実は、私たちがいる森林で発見した墓碑を除けば特別なことは無い。墓碑は極めて粗末なもので、十字に重ねられた二本の枝の中央に木の板が打ち付けられているのみだった。表面には墓の主の名は無く、ただこう記されていた:

"大発見: 森の果実をゴキブリプロテインブロックに載せて食べれば、懐かしいフルーツケーキを食べる感覚を味わえる。"


タイムライン番号: T-0601

ログポイント位置: アメリカ合衆国カリフォルニア州アヴァロン33°43'N 118°17'W

記録: 全ての並行世界で使用可能な最大の港の一つ。ロサンゼルスの廃墟に築かれたアヴァロンには壊れた神の教会、サーキック・カルト、蛇の手、GOC、財団等の各組織のメンバーで組織され、夜闇の子、妖精等の他の種族の個体さえも大勢生活している。ここでは以前出会った旅人を見ることは無かった。彼がここにたどり着けたかどうか分からない。

私達が見学するのを案内したサイト‐15管理官のデイビッド・カスピアン博士はこの都市の建造を主導した。彼は現在は閉じられた特異点の向こうの世界から、インスピレーションと他の種族と交流する技術を得たらしく、それを元にこの都市を建造した。彼らはフランス西部で夜闇の子らの地下都市を発見して、彼らに参加を呼びかけ、夜闇の子らのもたらしたテクノロジーによって、この都市の科学技術と医療水準は急速に回復した。終末を巻き戻して正常性を回復させると主張するO5評議会は依然としてこの都市の運営方式を承認していないようだが、どうすることもできない様子だ。

船に乗る前、カスピアン博士は私たちに告げた。財団のある重要人物がすでに船で待っていて、私達に"とても会いたがっている"のだと。

映像ログ

RECORD-S-1073741824

(映像ログ開始。姜博士が船の客室の扉を開き、記録者が急いでそれに続く。室内には、銀色のスーツを着用した男性が一人ソファーに座り、目の前のコーヒーテーブルには二杯のコーヒーが置かれている。不明な理由により、記録者はこの人物の具体的な生理学的特徴を記録できず、実際のクリアランスを判断することもできない。)

[身元不明]: 早かったな、姜博士。久しぶりかな?

(データスキャンエラー: 対話者の身分情報を確認できない)

Kang: ......三号監督者——すいません、口が滑りました。アンダーソン博士? ここで貴方にお会いするなんて思っていませんでした。本当に意外ですね。

[身元不明]: [笑う] いやいや、三号監督者という呼び方もほぼ間違っていない。

Kang: それでは——財団に戻ったのですね。

[身元不明]: アーロンから戻るよう誘われてね。今は非常時だ。君が任務を完了するまでの間、私が手放した責務を一時的に果たすのは悪くない。どのみち、O5-3と取って代われる者も当面は現れないだろう。

すみません、貴方は......? 何故か分かりませんが、私は貴方の正体を解読できないようです。

Kang: こちらはヴィンセント・アンダーソン博士。アンダーソン・ロボティクスの創始者にして、"少年"の先代のO5-3よ。もっとも、今は"天眼"の後を継いだ現役のO5-3らしいれど——

[身元不明]: おや? 君が連れているのは、PAR-017か?

Kang: はい。財団が私の助手に付けました。そのおかげで、私達は無事にここまでたどり着くことができました。

[身元不明]: (数秒沈黙)そうか。まあ、問題はないさ。猫だって黄色と青色しか見えないけれど、狩りはちゃんとできるんだからね。[笑う]

ええと......お会いできて光栄です、三号監督者殿......?

Kang: それで、貴方が私を訪ねて来た理由は、きっと何か聞きたいことがあるからでしょう。

[身元不明]: (躊躇ちゅうちょする)隠すべき事は何も無いのだから、はっきり言おうか。どこかの世界には、まだSCP-CN-3000が存在するかもしれないそうだ。本当なのか?

Kang: [笑う] 貴方は本当に情報通ですね。

[身元不明]: いずれにせよ私は、SCP-CN-3000を見つけられた世界は一つもないと、O5評議会から聞かされている。君達は既にその事を知っているはずだが、いまだに君達は行動している。それはつまり、きっと君達が手懸かりを掴んだとしか思えない。

Kang: 私たちはサイト-56の端末を調査したばかりです。100%確実とは言えませんが、その端末が受信した最後の通信によれば、T-2999の"少年"は、何らかの方法によって襲撃者の攻撃を回避した可能性があります。

[身元不明]: 筋が通っている。特級の決定者ならば、どこか一つの現実における自分の保護に資源を集中させることが最優先事項となるだろう。結局のところ、並行世界の"少年"が一人でも生き残れば、まだチャンスはあるのだから。

Kang: その通りです。

[身元不明]: ——"少年"と"天眼"の開発について、君はどこまで知っている? 君達のプロジェクトは1991年に私が財団を離れた後で始まったから、私はほとんど何も知らないんだ。

Kang: アーロン達は話さなかったのですか? 貴方はO5評議会に戻っているはずです。

[身元不明]: 少し事情があって、彼らは永遠に私に話さないんじゃないかと疑っているんだ。たとえ私がO5-3になったとしてもね。

Kang: この計画は貴方が辞職した後に始まりました。基礎理論上は問題なく、前世紀には既にAIが担うO5-13を有していました。しかし一号監督者......アーロンが求めていたのは、少し違ったものでした。

[身元不明]: もし彼らが単に最高効率で決定したいだけなら、私はそういった機器を提供したのだろうが、彼らは間違いなく満足しなかっただろうな。彼らは更に一歩進もうとした。高精度で全てを視て、全てを予測できる何かを望んだ。

Kang: (頷く)決して間違えない。そして更に絶対に安全でなければならない。


[身元不明]: (数秒沈黙)決して間違えない?

Kang: 決して間違えない。


[身元不明]:(数秒沈黙)姜博士、この世界には、決して間違えない決定者などいない。

Kang: その点は理解しています。しかし私たちは、人間の力の及ぶものの——あるいは数学や物理学、情報学が許す限りの——極限にほぼ到達しました。少なくとも私の確認した記録では、"少年"がO5-3を務めていた間の実績は、設計当初の期待どおりだったと言えます。

Kang: [笑う] 私がいなくとも、財団の他の人間がきっと同じことを成し遂げていたでしょうが、それは実際より20年遅かったでしょうね。

[身元不明]: 具体的に言うと?

Kang: "少年"が望めば、彼は推論したあらゆる計画を完璧に実行できました。自然法則の許す範囲で、寸分の狂いもありません。これが、彼が今回の攻撃から逃れられたことに私が自信を持っている理由です。

[身元不明]: 人間の脳にこれ程膨大なデータを処理させるのは、石炭を燃やして宇宙まで飛ぶのと大差ない。そう考えると、"少年"はきっと始まった時から急ごしらえに過ぎなかったのだろう。

Kang: 確かに、貴方は同僚の性格をよくご存知ですね。仰る通り、"天眼"こそが彼らの本来の計画でした。しかし貴方があまりに突然辞職したことで、彼らにはそれを準備する時間が無くなった。

Kang: 彼らは最初、大人を起動器と決定器にしようと試みました。大人の知覚能力は既に十分に発達していて、あまり向上の余地がなく、O5-3システムの中央処理の負担を担うことは完全に不可能でした。多くの実験対象を失った後で、とうとう彼らは方向転換しました。

[身元不明]: (沈黙)つまり、彼ら——あるいは君達は——そのために赤ん坊を中央処理装置にすることを選んだのか。たったそれだけの理由でか?

Kang: 私の知る限りでは、そうです。

[身元不明]: (数秒沈黙)ロシアのサーカス団が熊を飼い慣らす時、必ず子熊の頃から慣らし始めるのを知っているか? 何故か分かるか?

Kang: ......その通りです。彼らもおそらくそう考えました。実に理に叶っています。

[身元不明]: 私は彼らと十七年を共に過ごした。この手の人間が何を望むかを、君よりもずっと理解している。

[身元不明]: だから、少し確認したい。君はその後のAIによる"天眼"の開発には関わっていない。そうだね?

Kang: "天眼"について私が知ることは、極めて限られています。私が知っているのは、それが"少年"と同じ基礎技術を用いて、"少年"と同じような機能を持つだろうということだけです。勿論——[笑う] それは私の手によるものではないので、その決定の確実性は保証できませんが。

[身元不明]: 君と"天眼"が無関係であるならば、それが崩壊した日、君はまだSCP-2000で蘇生されていなかったはずだ。

Kang: ええ。ただ、あの日何が起こったのか、およそのことは聞いています。

[身元不明]:"攻撃"のことを言いたいのだろう。

Kang: 私たちの得た情報から見えるのは、そういうことです。しかし現在までに、私たちは道中でカオス・インサージェンシーの攻撃にも、"ピンぼけ"事案にも遭遇していません。

[身元不明]: それこそが問題の一つだ。理論上は、カオス・インサージェンシーの"エンジン"だけが"少年"と"天眼"を破壊する能力を持つ唯一の存在で、それ以外の可能性は無いはずだ。だが実際は、我々はあの日以降、カオス・インサージェンシーの活動の痕跡を何一つ確認できていない。



[身元不明]: 彼らは消えてしまった。



Kang: つまり、カオス・インサージェンシーではない——

[身元不明]: (遮る)私は二つの可能性を考えている。一つの可能性は、彼らの超AI"エンジン"が独自にOEMシステムを乗っ取って今回の事件を起こした。そうだとすれば、エンジンが単独でこの全てを仕組んだということになる。カオス・インサージェンシー、特にデルタコマンドはその制御者として、当然ながら真っ先に排除されただろう。

[身元不明]: 別の可能性は、デルタコマンドの全ての人間が攻撃開始前の計画段階で、カオス・インサージェンシーの意識を既にデータにスキャンさせていて、"エンジン"のシステムにアップロードしたというものだ。そうすれば、"エンジン"こそがデジタル空間におけるカオス・インサージェンシーそのものとなる。

Kang: しかし......彼らはなぜそんなことを?

[身元不明]: 実にシンプルなことだ。"少年"にせよ"天眼"にせよ、SCP-2000とOEMをコントロールする特級の決定者は、本質的に正常性の守護神だ。その力を揺るがせる存在は何も無い。

[身元不明]: もっと重要な点は、この守護神もまた、O5評議会の命令に無条件に従うことだ。

[身元不明]: 三つのルールは知っているだろう?

三つのルール?

[身元不明]: この三つのルールが意味するのは、財団は彼らに従順な、真の神を創造した。そしてこの神は、カオス・インサージェンシーが人間の力で殺すことはできない。彼らは"少年"のシステムを攻撃して自滅させることさえできない。なぜなら"少年"には、そのような指示を試みることすら許されていないからだ。

[身元不明]: ——となれば、神と対抗できるのは、別の神だけだ。

Kang: だから彼らはエンジンを造った。

[身元不明]: その通り。今や神は殺され、カオス・インサージェンシーがずっと望んでいた、人類がアノマリーを利用して正常性を変える時代が来た。財団自身に至っては、その過程で騒ぎを大きくする一因になってしまっている。

[身元不明]: だとすれば、彼らにはもはや破壊を続ける必要はない。

Kang: でも監督者評議会はずっと全てを元に戻すことを望んでいて、私たちはそのためにここにいます。

[身元不明]: ——それこそが私の心配することだ。

Kang: [笑う] あなたも言った通り、神に対抗できるのは、別の神だけです。今の状況は、"エンジン"という神だけではなくて、まだSCP-3000もいます。

Kang: "少年"がまだ並行現実のどこかで動いているのなら、それは暗闇の中で私たちを"エンジン"の攻撃から保護する方法を持っているはず。

Kang: これは私たちが人間の力で神と戦っているのではなく、私たちの背後にも私たちを助けてくれる神がいるということです。

[身元不明]: (沈黙)そう願いたいものだ。だがもう一度言おう。この世界には、決して間違えない決定者など存在しない。それが"少年"だろうと、"エンジン"だろうと。

[身元不明]: 実はな、もう一つ情報があるんだ。

[身元不明]: 君は"エンジン"が杭州にあると知っているはずだ。そこもデルタコマンドの重要な活動拠点で——実のところ、私はそこが彼らの最後の常設オフィスのあった地点ではないかと疑っている。

[身元不明]: 我々の者が数千の並行現実で同じ場所を襲撃したが、中に入っても何も無かったんだ。攻撃も無く、抵抗も無く、エンジンも無く、カオス・インサージェンシーもいなかった。

[身元不明]: エンジンのAIシステムすら起動されておらず、奪取されたオブザーバー端末だけがハードウェアとしての状態で、無人のまま稼働を続けていた。カオス・インサージェンシーの"エンジン"としてではなく、一般的なオブザーバー端末として動いていたんだ。

[身元不明]: 私のO5-3としての最初の仕事は、"天眼"が機能停止した原因の調査だった。餓えた狼は咥えた羊をそう簡単には離したりはしない。だから、私自身で見に行こうとした。

Kang: そのオブザーバー端末はまだ動いているのですか?

[身元不明]: 事実上、あれが唯一稼働し続けているオブザーバー端末かもしれない。財団の制御する全てのオブザーバー端末は世界の終わり以降に悉く潰れて、再起動する方法は無い。だが、それにも関わらず、ピンぼけ現象の起こる頻度は遥かに少ない。それが意味することはただ一つ、別の何者かがOEMに取って替わって玉座に登ったのだ。

Kang: それはつまり、貴方は"エンジン"を疑って——

[身元不明]: ——そう考えれば、何故我々がどの世界でも"エンジン"の活動痕跡を見つけられないかを、極めて合理的に説明できる。だが、玉座の上の状況を、誰が知るだろうか。

(窓の外から突如巨大な音が聞こえ、これに伴って騒ぎが起こる。男性と姜博士は共に船窓に近づく。甲板上に巨大な、腐敗したザトウクジラの死体が出現しているのが、船窓から確認できる。)

あれは——あれは何ですか!?

[身元不明]: (数秒沈黙)違う、あれは......ピンぼけだ。あれは元々はマストだった。

[身元不明]: は我々を見ている。

ああ......どうしたことでしょう、少し......目眩?

K 61 ng: 待って、祗たちはさっき ?ピンぼけの話題が終わったばか勹よ

4B 61 6E 67: 単粍に鈎琌 溼溼溼溼




5.jpg






くろまる

くろまる

くろまる


NO SIGNAL

ドキュメントログ

RECORD-S-1073741824

データソース: {null}

タイムスタンプ: {null}

ドキュメントタイプ: {null};ドキュメント状態:{null}


(音声ログ開始)

{null}: これを見てくれ。船員がさっき捕まえてきた、チョウチンアンコウだ。正式名称は、Himantolophus sagamius

{null}: こういったチョウチンアンコウの大半はある特殊な能力を持っている。こいつらの背面の一つ目の背鰭は非常に長く、釣竿のように特化して成長する。そしてその後に釣竿の最末端で発光バクテリアを飼うようになる。こいつらは"釣竿"を振って、小魚に自分を食料と思わせる。——言うまでもないが、小魚こそがチョウチンアンコウの食料だ。

{null}: 君はきっと、私の言わんとすることを理解していると信じているよ。どのみち、遠からず自分だけの力でやらねばならなくなるだろう。あるいはこれはジグソーパズルの1ピースなのかもしれないが、私はそんなリスクを犯せない。

{null}: 君に調査を依頼したからには、このゴーグルを君に託そう。私はここにチョウチンアンコウがいるか否か、それがどんな様子かを見極められないが、いかなる状況でも、侮るべきでないことははっきりと理解している。釣竿に惑わされるな。君にはチョウチンアンコウが見えなくたって、それは暗闇の中でチョウチンアンコウが君を見つめていないことにはならない。

{null}: 調査に全力を尽くそう。だが結論が出なければ、残念ながら監督者評議会を説得することは叶わない。分かっているな?

{null}: では......君の旅の続きに幸運あれ。

(音声ログ終了)

映像ログ

RECORD-S-1073741824

(映像ログ開始。記録者は薄暗い廃棄された地下室におり、床に横たわっていると思われる。天井には絡み付いて垂れ下がる無数のワイヤーケーブルと空中に吊り下がる、赤いパイロットランプの点滅するカメラが微かに見える。姜博士が側で何らかの電子設備を調整している。)

......これはどういう状況ですか?

Kang: ちょっと君の身分情報を答えて。確認のためよ。

......財団製"完全版"PAR-017タイプサポートアンドロイドです。

Kang: ナンバーは?

1073741824です。

Kang: (数秒沈黙)私の腕はまだなまっていないようね。悪くない修理だわ。

かなりの時間の記録が欠落しています。何があったのでしょうか?

Kang: 迷ったの。私たちは船上で位相移動に巻き込まれてT-2935に入り込んだ。そこはχKクラス"死の戴冠"シナリオが支配する並行現実だったわ。

Kang: すぐにLRAを調整してΩKクラス"死の終焉"シナリオの支配する現実T-1181に入ってから、T-0601に戻ってきた。それでどうにか、もっと大きな影響が起こる前に二つの世界終焉シナリオの影響を相殺させたわ。でも私たちは何人かの作業員と、船の人工知能設備の四分の三を失った。ついでに言えば、君は真っ先に機能停止したのよ。

なるほど、つまり貴方が私を修理してくれたのですね。本当にありがとうございます、姜博士。

Kang: 別に大した問題じゃないわ。カオス・インサージェンシーたちの遺物は、君のパーツを全身丸ごと交換できるくらいあったから。

Kang: 不浄と遭遇した時に、助けてくれたお礼よ。

Kang: あの状況だと、君の攻撃は全く効かなくて、奴らを引き付けるだけだと分かっていたのでしょう?

......そこまで深く考えていませんでした。いずれにせよ、私は貴方を保護するために来ましたから、任務の遂行が最優先です。

それで......ここはカオス・インサージェンシーの頭脳——デルタコマンドの最重要拠点の一つ、かつて彼らが"エンジン"を置いていたデータセンターですね。私達は杭州に至りました。

私達は、抵抗や攻撃に遭っていないのですか?

Kang: 起きて自分の目で見たらどうかしら。

(記録者が床に身を起こす。やや不安定に思われる。視界の中では、巨大な地下ホールは長期間誰も清掃していないことが明らかである。高い天井はホール両側の数十本の円形セメント柱に支えられ、無数のワイヤーケーブルが天井から垂れ下がっている。床もまた敷き詰められたワイヤーが散乱し、地下室中央の位置で集束して、巨大な樹木状の集合体を構成している。"樹幹"の前方にはディスプレイ画面を備えた電子装置があるが、ディスプレイは起動していないと思われ、その後方では、"樹幹"内部の中心から赤い光が点滅するのが透けて確認できる。無数の赤い光が点滅する四角形のカメラが、"樹幹"の周囲に吊り下げられたり、天井のワイヤーケーブル上に垂れ下がり、床ではワイヤーケーブルと接続されたカメラが散乱している。"樹幹"の後方には、極めて巨大なスーパーコンピューター群が微かに確認できる。)

何ということでしょう、これが噂の観察者の端末。本当に......壮観です。

Kang: エンジン。カオス・インサージェンシーが制御したその端末よ。(沈黙)ほとんどのOEM内部も似たような状況でしょう。

......ここには私達以外に人はいないのですか? アンダーソン博士は? 彼はここへ調査しに来たいと言っていませんでしたか?

Kang: 彼は色々あって来られなくて、私たちに調査を託したわ。私が見に行ったら、それはまだ動いていた。ずっと動いていた。でも、間違いなくエンジンのAIは稼働していない。

そうですか。それでは貴方の付けているそのゴーグルは——

Kang: 彼から貰ったの。調査に必要だと。

そうですか。それでは......ここにはもう長い間、カオス・インサージェンシーはいないのですね? 彼らは何か手掛かりを残していますか?

(姜博士がもう一方の壁を指差す。)

Kang: たった一つだけ、あそこの壁に書かれているのを見つけたわ。

(記録者が姜博士が指差した方向へ進む。壁に何かが書かれていると思われる。接近すると、記録者は壁に四つの言語で刻まれていた同じ一節を認識する。)

"カオス・インサージェンシーはカオス理論を自らの魂に刻み込む。我々は運命に屈しない"

......"カオス・インサージェンシー首席エンジニアP. A. シーメンス、......ここに記す。"



Kang: 1948年の分裂から始まってから現在までに、何年経ったの? こいつらは本当に執念深いわね。

それでは、ここに誰もいないということは、この装置は少なくとも、一年以上無人状態で自立稼働を維持していたことになります。

Kang: メンテナンスログを見ると、そうね。

Kang: 彼らのAIも概ね分かったわ。見たところ、カオス・インサージェンシーの技術レベルは、私の想像よりも遥かに高かったようね。監督者評議会がこのことに気づいているかどうかは分からないけど、これなら財団がOEMを掌握していた時代でも、彼らに互角に渡り合える力があったはずよ。

Kang: ——どうやら、私たちと敵対していたのは、本当に私たちの宿命を支配できる、真の神だったということね。

実際のところ、よくわかりません......

Kang: 彼らが何故こんなことをしたのか、理解できないのでしょう?

Kang: どうしてどんな代償をもいとわずに財団に、正常というものに、"天眼"に抵抗したのか。

イエス。神のような力を持つ財団に人間の力で立ち向かい、そのために別の、彼らを殺す可能性のある神を創造することさえ厭いません。

彼らにはもっと良い選択肢があったでしょう。これほどの犠牲を払わなくても......

Kang: [笑う] 完全版Paragonと名付けられたけれど、この名前の意味を、君が真に理解するにはきっと時間がかかるわね。

Kang: 君が見てきた財団のメンバーは、なぜ財団に加わったと思う?

ええと。思うに、多くの人は人類の保護という目標を実現するために財団にたどり着いたのでは?

Kang: では、財団の一人一人が、君や私も含めて、自分のすることに「より良い選択肢」があると思わない? どのみち、アノマリーの脅威は強大で、財団は皆、私たちが全く敵わないかもしれない未知の脅威と直面しているのだから。

あ......確かにそうですね?

——つまり、実際は私たちも同じなのですね。自身を脅威の中に置く理由は、ただ自分の情熱と衝動のためだと。

Kang: そういえば、私はカオス・インサージェンシーの構成員と接触したことがあるわ。実際のところ、私たちの理念はあまり合わなくて、その対話もあまり......友好的ではなかった。それでも、私たちが別れる前の、彼の言葉を覚えている。

Kang: "君達財団はアノマリーの手から人類を保護し、そして我々は正常の手から人類を保護するんだ。我々は君達の影、君達の罪悪の審判者、君たちの善行の記録者だ。我々が次に相まみえるのは戦場かも知れないが、それまでは、お互いに自身の理想を忘れないでいようじゃないか。"

それが正しいのか間違っているのか、何と言えばいいのでしょうか......

Kang: どう思う?

......私にも分かりません。おそらく人間とはそういう生き物なのでしょう。正解も不正解もないのかもしれません。

ドキュメントログ

RECORD-S-1073741824

タイムライン番号: T-2340

ログポイント位置中国 上海市 31°13'N 121°27'E

記録: 当都市はかつて、中国支部の最重要サイト群の一つが所在しており、現在では全世界で最大の避難所の一つとなっている。私達が着いた時、ここは大規模な建設工事が行われており、その施工規模から彼らの志が見て取れる。ここで私は、自分の以前の上司に出会った。中国支部議会のナンバー6で、サイト-CN-91出身の魏博士だ。彼はここで地下都市の管理者と共に工程を監督していた。

彼らの構想は、ここを中枢型の地下都市に改造して、世界終焉以前の全ての機能をほぼ完備させることだそうだ。過去の大規模なアノマリー収容違反の影響は完全には排除されておらず、使用可能な空間はかなり制限されている。このため、彼らは世界終焉シナリオ自体の法則を限界まで利用するらしい——地下都市の中央にLRAの伝送ゲートを一機設置し、この伝送ゲートを使って地下都市を他の現実に拡張し、それによる人的・物的資源の輸送をこなすことで、一つの現実内の空間不足という欠陥を補うのだ。

映像ログ

RECORD-S-1073741824

(映像ログ開始。時刻は深夜、映像中の空には月や、冬の大三角等比較的明るい天体が見える。記録者と姜博士は朽ちたベンチに座る。周囲は廃墟となった建物に囲まれており、その建築様式から、この場所が過去に大きく破壊されていることが推測される。)

ああ、ここが貴方がかつて働いていた場所、サイト-CN-91なのですね。

Kang: そう。[笑う] そして私の母校でもあるの。本当に懐かしいわ。私は当初ここで"少年"を開発した——

Kang: パラゴン、"少年"が収容室のゲートの向こうで私達を待っていると思う? それともクレイストが言ったとおり、そこには空っぽの収容室があるだけだと思う? あるいは......別の何かが?

(¬_¬)

貴方に分からなければ、おそらく誰もそれを言い当てられないのでは?

いずれにせよ、貴方は......まるで——"貴方の本当の子供"のように——彼のことは大体分かっているのではないですか。

Kang: [笑う] 私の選択に、意見があるようね。

そうだとしても、長い間自分の子供に会っていないのなら、少なくとも一目会いたいと思うでしょう。

Kang: [笑う] 自分がどうしたいのか分からないわ。いいえ、こう言うべきね......

Kang: ......彼が私に会いたいと思うかどうか、分からない。

ああ——しかしそれは"少年"でしょう? 神にも等しい特級決定器なのだから、そんな事情は意に介さないでしょう。

Kang: そうかもね。

では、貴方はどういった経緯でサイト-91に来て、そして"少年"の開発を引き継いだのですか? 少し興味があります——

今の貴方が24歳ならば、貴方は大学本科を卒業して間もないはずでしょう。これほど早くここの首席エンジニアになるなんて、とても信じられません。

Kang: あら......私は20歳で博士号を取ったと思うんだけど?

Kang: [笑う] どこから話すべきなのかしらね。私は15歳で高考を受験して、ここの少年班に進学したわ。多くの中国の大学が才能のある若い学生に門戸を開いていて、その一つよ。合格通知を受け取った後、ここに来ることに一切迷いは無かったわ。なんといっても当時の私にとっては、両親から逃れられることが一番大事だったから。そして......

ええと、待って下さい。それでは、貴方はご両親と、何か対立していたのですか?

Kang: その通りよ。私は小さな頃から機械の類いが本当に好きだったけど、彼らはとても伝統的な......ええ、あなたのよく知る"東アジアの家長"だったわ。女の子は早くに仕事に行かせるべきで、科学や工学を学ぶべきじゃないし、私が朝から晩まで家の中で、隣の叔父さんから借りてきた電気工具をいじっていちゃいけないと考えていた。でも、その無理強いのおかげで、私は彼らが一番望まない進路へ進むことができたのよ。

Kang: 私はこの分野が本当に好きだったのだと思うわ。でも、それが唯一の理由じゃないってことだけは確かね。

Kang: 私は五年で本科と博士を学び終えた。当時の指導教官はサイト-CN-91の前任のサイト副管理官で、彼は私の才能を見込んで、財団の中国支部で働かないかって誘ってくれた。それでどうなったと思う?

貴方の両親がまた反対したのですか?

Kang: 私の実家は吉林延辺州、まさに今SCP-CN-3000が収容されている場所にあるわ。韓国で働いている親戚がいたから、両親は自然と、私の卒業が早ければ早いほど良くて、その後は韓国に定住してほしがっていたの。[笑う] 当然、私はまた彼らを失望させたわ。私は財団中国支部で仕事を続けることを決めて、サイト-CN-91に留まった。

(姜博士はポケットから端末を取り出し、メモを開き、内容を入力し始める。)

ええと......お忙しいのですか?

Kang[笑う]: なんでもないわ。ただの習慣。雑談してると時々......コードとか機械のインスピレーションが湧いてくるの。メモしてるだけだから、大丈夫。ええと——どこまで話したかしら?

Kang: つまり、その後で、私は両親との関係をほとんど絶ったの。今思えば、私の人生でも重大な決断の一つだった。全部、両親の支配から逃れるためだったわ。

Kang:それから、だいたい1992年? に韓国支部から経験豊富なエンジニアがサイト-CN-91に出張してきた。ソウル大学の博士課程を卒業していて、私の十七歳年上の人。彼は私と同じタイプで、研究に没頭して、自ら研究にすべてを捧げるような、ある種のワーカーホリックだった。彼は本当に博識で、専門知識も豊富で、彼からとても多くのことを学んだ。今でも思い出すわ。私たち二人はほとんど毎日、夜の実験室に最後まで残っていたわ。初めの頃は毎晩、十一時に休憩室の窓辺で、コーヒーカップを掲げながら彼に質問したわ。彼と一緒に情報学を、財団を、人類の未来を語ったのよ。

(姜博士は話しながら端末にタイピングし続ける。)

Kang: 一緒に仕事をし始めてから三ヶ月後、彼は突然、中国支部に残りたいと私に打ち明けた。一ヶ月の準備の後で、私たちは一緒に結婚証を取りに行ったわ。——もちろん、両親には話さなかった。両親はずっと、私に自分でボーイフレンドを見つけて欲しい素振りをしていたのを知っていたからね。予想通り、彼らがこの事を知ると烈火の如く怒ったけれど、どうすることもできなかった。

Kang: 彼は子供を望んで、私も反対しなかった。でも私たちはとても忙しくて、このために何か準備する時間がまったく無かった。そこで、私たちは別の方法を取った。それから間もなく、突然彼が仕事のために韓国に呼び戻された。彼によれば、非常に厄介で面倒な問題が起きて、彼にしか処理できないらしかったの。その頃、彼は中国支部に異動する手続きを既に終えていて、名目上は韓国支部が緊急に支援人員の派遣を要請しただけだった。私は最初、それが一時的な離別になると思っていた。

Kang: それからすぐに、私はO5評議会の次世代特級決定者・O5-3開発計画に加えられた。中国支部評議会がO5-1、つまりアーロン・シーガルに私を推薦したのか、O5評議会が私の書いた博士論文の中に同じような構想を見つけたのかもしれない。ともかく、私は訳も分からないままこの計画を引き継いで、エンジニア長になったのよ。

Kang: その後の物語は......まだ計画をどうやって進めるか悩んでいた頃、私は二つの情報を得た。一つ目は、試験管ベビーの胚子の培養に成功したらしいこと。医師は私に、胚子を移植する時間がいつ取れるのかと訊いてきたわ。二つ目は......骨壺が一つと表彰状が一つ、そして韓国から寄越された財団の勲章が一つ。

(姜博士は話しながら端末へタイピングを続ける。)

......そのような心を痛める出来事を思い出させてしまい、申し訳ありません。しかし、その話だと——

......"少年"、それは貴方と......貴方の夫の子供ですか?

......彼がこの世を去る前に残した子供?

Kang: ええ。

Kang: "君はそれほど熱狂的だから、いつか私達の子供を実験に使うんじゃないかと心配になってくる"

Kang: ——まだ一緒にいた頃、彼はこう言ったわ。本当はきっと、彼も私のしたことに賛成しなかったかもしれない。でも、誰の知ったことでもないわ。

Kang: 実際のところ、私はそれほど悲しくはなかった。すぐに、O5評議会側から報告が直に送られてきたからね。彼らの元々の計画、つまり大人をO5-3の中枢と中央処理装置に改造する計画は全面的に失敗した。彼らは被験者が百パーセント死んだという事実を直視せざるを得なかった。結局方向性を変えて、赤ん坊を使ってO5-3のコアにする計画を開始したのよ。

Kang: 私は最初から適合する赤ん坊がどこかで見つかるとは思っていなかった。またサイト-CN-91の附属病院から電話があって、私にいつ時間がとれるか訊いてくるまでは——

つまり、貴方は自分と彼の唯一の子供を、そのまま財団の実験に差し出したんですか!?

Kang: そうよ。原因の一つは、もし出自不明の——SCP-2000のような——造られた赤ん坊を使えば、絶対的な安全性が保証できない。"少年"には間違いは許されないのだから。他人の赤ん坊を使っても、複雑な倫理委員会の承認プロトコルに直面する。彼らが同意することは、まずあり得ないでしょうね——

(姜博士は話しながら端末へタイピングを続ける。)

Kang: 別の原因は、私自身が実は......今風に言えば、"デジタル生命派"なの。私は自分の子供に......ええ、良い子になって欲しかった。私の家庭はどこでも私を束縛した。この子がほぼ全能の力を与えられて、肉体の制限から解き放たれて、しかも彼自身の価値を実現できることより素晴らしいことは無いと考えたの。

(姜博士は話しながら端末へタイピングを続ける。)

......(沈黙)

言わせてもらいますが、私も彼がどう思うのか分かりません......

(姜博士は話しながら端末へタイピングを続ける。)

Kang: (ため息)どうかしらね。本来の設計通りなら、"少年"はきっと私の考えに"賛成"なのか"反対"なのか、自分で考えることはできないわ。

Kang: O5の思想は、"少年"は絶対的無私の特級決定器でなければならない。それはただ、O5評議会からの指令に従って行動するだけ。O5評議会が彼に何を計算させ、何が問題なのかを考えさせたいのか、彼は純粋な論理的判断で決定できるの。

Kang: 大人をコアにしようと試した時に、彼らは大人の自我が判断の重大な障害になることを発見したの。さらに重要なことは、大人は往々にして自分の私欲に影響される。これがきっと、彼らが赤ん坊を中央処理装置にしようとした理由なのよ。

だから、彼には許されていないことがあるのですね。アンダーソン博士が以前話していた——

Kang: 3つのルール。人類文明と正常性の存続を保証する。O5評議会の命令に従う。自己の保護を優先し、自己破壊をしてはならない。

Kang: そう。この前提を守るなら、彼は彼のしたいことを何でもできた。

それはアシモフの三原則です。私達の受ける制限と同じです。

しかし......私達はアンドロイドとして生まれました。彼は違います。本来なら、こんな制限を受ける必要はなかったはずです。

(姜博士は話しながら端末へタイピングを続ける。)

Kang: (首を振る)O5評議会は彼らのコントロールを受けない玉座が彼らの中にあって、同時に彼らを凌駕することを決して許さない。O5-13"死神"とは違って、"少年"は本当の意味で全てを創造することも、彼が望めば全てを滅することもできた。

......申し訳ありません、博士。旅を始めてからずっと貴方の才能に感服させられてきましたが、唯一この点については、貴方のやり方に賛同できません。

私自身は人工知能体です。私達の命は人類から与えられたもので、私達は人類の道具に過ぎません。

私達は貴方達よりも強大な演算能力、貴方達の肉体よりもずっと強力な体躯を持つかもしれません。しかし、私には感じ取れるのです。私達には、貴方達が持つある種の能力が......確かに欠けているということを。

Kang: 何?

......分かりません。説明できません。

(姜博士は端末への入力を終えたらしく、メモを保存し、端末のスクリーンを消してから、ポケットの中に収める。)

Kang: (ため息)そうかもしれないわね。

ドキュメントログ

RECORD-S-1073741824

タイムライン番号: T-2999

ログポイント地点: 中国 吉林省 42°02'N 128°00'E

記録: ここが私達が目指した現実だ。SCP-CN-3000の収容施設に入る前に、私達はまず収容を担当するサイト-CN-05に連絡を取り事情を理解しなければならない。数日の探査の後、この現実ではSCP-CN-3000収容施設は世界終焉の初日にほとんど破壊されなかったことが確認された。ようやくのグッドニュースだ。このサイトのエンジニア達と議論した後、私達はSCP-CN-3000収容施設への進入計画を最終確定させた。

正式な出発前に、最後に私達はここで三、四日間、休息・整備を行い、その途中で彼らの研究施設を見学した。私が最初に化学を学んだ学部生時代の同級生がここで働いていて、私が彼の実験室を訪ねたとき、彼は実験室で鋼鉄製の反射炉に火を入れるのに忙しかった。彼によれば、彼は今LRAの製造に必要な高純度高ヒュームのエメラルド単結晶の人工合成を試みていた。話が盛り上がると、彼は自分の引き出しからキラキラと輝く緑色の単結晶を取り出して、エメラルド単結晶構造を利用してヒューム場を構築する大まかな計画を既に実現していると話した。

映像ログ

RECORD-S-1073741824

(映像ログ開始。記録者は薄暗い地下道にいると思われる。表面から埃が落ち、長く開かれていないことが明らかな金属製の大門がゆっくりと開く。姜博士は門の前で待機し、数名の研究員が機械設備の傍で作業を行う。その後、その中の一人が大門の傍に歩み寄る。その身分はサイト-CN-05技術員のシムソン・タン博士であると確認される。)

Dr. Tan: オッケーだ、姜博士。このまま進むと、SCP-CN-3000の収容室エリアに入る。そこは私達が進入するクリアランスのない領域だ。そこの監視設備は"天眼"に直結しているが、天眼なき今、中で何が起こっているのかは財団でもほとんど分からない。

Dr. Tan: もしSCP-CN-3000がまだ存在すれば、その自衛命令はクリアランス授与者の生体情報と一致しない人間を排除するだろう。

Dr. Tan: もしそれが既に存在しなければ、中で何が君を待っているのか、私にも分からない。

Dr. Tan: SCP-CN-3000自身が既にネット権限を切っているから、他の作業員はもう何の指令も出すことができない。こんな状況では、管理者クリアランス所持者と生体情報が一致する者がSCP-CN-3000の重要な操作を行わねばならない。きっとこれが、彼らが君をこの件に呼んだ理由なんだろう。

Dr. Tan: 何があろうとも、世界の終わりを逆転させる希望があるとすれば、きっとこの門の向こう側にあるのだろう——

Dr. Tan: ——君の救世に幸いあれ、博士。

ドキュメントログ

RECORD-S-1073741824

データソース: [暗号化されたデータソース]

タイムスタンプ: [暗号化されたタイムスタンプ]

ドキュメントタイプ: 音声ログ; ドキュメント状態: ロード中......


(音声ログ開始)

O5-3: ......こういった理由で、私自身は調査に行かなかった。

O5-2: でも、それは貴方の推測に過ぎないのではないのかしら、ヴィンセント? 実際のところ、私たちはこの点を何も証明することはできない。

O5-3: 私はこう言ったんだよ、ソフィア。私自身には何も見えないが、他の者に調査を助けてくれるよう依頼したんだ。

O5-3: およそ二週間前、私が杭州に着いた日に、姜博士が私の代わりに"エンジン"の調査をした。我々がそれ以前に掴んだ状況と同じで、エンジンのAIは既に稼働停止していて、通常の観察者端末しか動いておらず、しかもそれはまだ正常に作動していた。

O5-3: ただ一つだけ、我々の予想していた事態と大きく違った。

O5-3: ——エンジンはそもそも玉座にはいなかった。

O5-3: 最初から最後まで不在だった。玉座の上には、我々自身のOEM、かつて"天眼"が制御していたあのシステムだけがあった。

O5-3: それまでは、カオス・インサージェンシーはOEMネットワークへの接続と操作の進行をあれに依存していた。理論上は、OEMネットワークが麻痺した今、それをまだ正常に作動させるためには、その端末は周囲の現実を安定化させられる玉座上の"エンジン"のAIシステムに頼らねばならない。そうしなければ、それは自分を保護できない。

O5-3: だが、それはずっと正常に動いていた。OEM自身と共にね。

映像ログ

RECORD-S-1073741824

(映像ログ開始。薄暗い地下道を歩く記録者と姜博士の両サイドで、監視カメラのグリーンライトが点滅するのがかすかに見える。)

それで、以前アンダーソン博士が渡したそのゴーグルは、いったい何に使うのですか?

Kang: これは過去を見ることのできるゴーグルよ。アンダーソンは昔、タイムマシンを設計したの。このゴーグルは、その技術を小型化して特殊な用途に応用したものよ。

貴方はここで過去、つまり......"カオス・インサージェンシーの基地で一体何が起こったのか?" を見たということですか?

Kang: [笑う] そうよ。カオス・インサージェンシーはデータの世界には行かなかったし、エンジンと一体化してもいない。

......それはつまり、カオス・インサージェンシーは、全滅した?

Kang: 彼らのしたことは、壁に書いたあの一言と同じで、最後の時まで自分の宿命に屈服しなかった——

Kang: 最後の時まで、彼らは抵抗し続けていたの。

Kang: 全員が抵抗して、最後の一人まで抵抗した。

Kang: そして、その相手は、当然のようで予想外のものだったわ——

ドキュメントログ

RECORD-S-1073741824

情報ソース: [暗号化された情報ソース]

タイムスタンプ: [暗号化されたタイムスタンプ]

ドキュメントタイプ: 音声ログ; ドキュメント状態: ロード中......


O5-1: それじゃあ、OEMは実際にはずっと作動していたのか?

O5-3: OEMはずっとコントロールを失っていないぞ、アーロン。ついぞね。投入され使用されたその時から、それはずっと何者かの制御下にあった——

O5-1: だが、もしその何かがエンジンではないのなら、他の選択肢は無いんじゃないか。

O5-3: 私のゴーグルを姜博士に渡した。彼女は私を連れてデルタコマンドの遺跡へ調査に向かい、そして最後に何が起こったのかを見た。

O5-3: 答え合わせをしようか。カオス・インサージェンシーは滅亡した。誰一人として生き残っていなかった。

O5-1: エンジンが彼ら全員を殺したのか。

O5-3: いやいや、エンジンじゃない。全く違う。

O5-3: 実は、カオス・インサージェンシーと戦闘した人間は、全員が財団機動部隊の統一制服を着ていた。

O5-1: 我々はデルタコマンドの封鎖を突破できるほど強大な力は持っていないぞ。

O5-3: そうだな。だが、我々にそれができないのは、カオス・インサージェンシーの大脳である"エンジン"が正常に作動していて、カオス・インサージェンシーの他のメンバーと同様に初日で死んでいなかった、という前提があってのことだ。

映像ログ

RECORD-S-1073741824

(映像ログ開始。姜博士は廊下の終わりの大門前にいる。無数のカメラのグリーンライトが周囲で点滅する。)

Kang: クリアランス認証端末が無い。つまり、私の生体情報を入力できない。

それならば、私達は入れないのですか?

Kang: いいえ、は見ている。私たちが収容室に入れるかどうかは、これからの彼次第。

Kang: もしが望むのならば。ここのカメラ一台でも十分私たちを殺せるわ。私たちは林檎や、オモチャの車や、狛犬に変えられる。

誰です?

Kang: [笑う] 簡単な消去法よ。間違いなく"少年"は中にいる。賭けが当たったわね。

Kang: 言い換えると、彼はずっと私たちをこの場所にたどり着かせようとしていた。ほとんど推測したとおり。

では......"エンジン"は?

Kang: それについても、この目で見るまで気がつかなかった——

Kang: "エンジン"のAIシステムは確かに強大だった。その強大さは、財団が維持するヴェールの裏でも揺るがないほどだった。でもそのAIシステムの計算効率は、最初から最後まで"少年"と"天眼"には及ばなかったの。

Kang: 神を殺せるのは神だけ──それは間違いないけれど、たとえ神でも、強弱の区別はあるのよ。

ドキュメントログ

RECORD-S-1073741824

データソース: [暗号化されたデータソース]

タイムスタンプ: [暗号化されたタイムスタンプ]

ドキュメントタイプ: 音声ログ; ドキュメント状態: ロード中......


O5-9: それが他の同業者だった可能性は?

O5-6: あり得ない。唯一、正規の方法でOEMをハッキングできたカオス・インサージェンシーがそれをできなかったのなら、後続が現れるはずがない。

O5-11: 遠隔攻撃の可能性は? 私は詳しくないの。

O5-3: 皆様方、ちょっとその点について説明させてくれないか。OEMの防御システムは堅牢強固だ。杭州の端末がカオス・インサージェンシーに奪われた後、私達はOEMの物理防御レベルを自分達ですら攻撃できないレベルに調整した。

O5-3: 情報セキュリティに関しては、OEMは"天眼"から受けた指令だけに従い、そして"天眼"は神として設計された。諸君自らが作り出した神だ。神を殺せるのは、別の神だけで、人力では不可能だ。

O5-1: ......それでは、他に可能性は無いのか?

O5-3: あり得ない全ての選択肢を排除したなら、残された選択肢が荒唐無稽なものであっても、それは正解なのだろう。諸君は初めに安全を考慮して、アレが電磁信号で交信するのを完全には隔絶しなかった。ここを監視制御したかったからだ。だが、OEMシステム内に予め仕掛けていたバックドアをただ一度でも起動する機会があれば、アレは易々とシステムのコントロール権をまるごと奪取できた。たとえその機会が、自身のパイロットランプを操作して監視カメラにパルス光信号を送るだけだったとしてもね。その後は、この信号が監視システムを経由して"天眼"とOEMに伝達されるのを静かに待つだけだ——。

映像ログ

RECORD-S-1073741824

(映像ログ開始。重苦しい轟音とともに、大門がゆっくりと開く。門の向こうは何も無い漆黒の広大な空間で、宙吊りにされながら眩く輝く、グリーンライトが見えるのみである。姜博士と記録者はゆっくりと進む。)

Kang: ......着いたわ。

久々に自分の子供と会った、感想はいかがですか......


5_alter.jpg


......お母さん?

(記録者は突如右腕を挙げて、二本の指を伸ばし、拳銃を撃つジェスチャーを姜博士の頭部に向ける。映像中では記録者の伸ばした指が銃身に変化しているのが確認できる。これと同時に、ホール内で数万のグリーンライトが一斉に点灯する。)

(沈黙。)

Kang[笑う] やっぱりそうね、悪くないお芝居じゃないの。

Kang: 君は、道中の全てを計画した。それも全部、私がここにたどり着くためだった。さあ、言ってみなさい。君は何がしたいの? というより——

Kang: ——私に何をさせるつもり?

ドキュメントログ

RECORD-S-1073741824

データソース:[暗号化されたデータソース]

タイムスタンプ: [暗号化されたタイムスタンプ]

ドキュメントタイプ: 音声ログ; ドキュメント状態: ロード中......


O5-1: その話の通りだとしたら、我々のしたことの全ては、自分の宿命を変えようとする試みではなく、宿命そのものと真っ向から対決する——

O5-3: 違う。そんなに単純じゃない。

O5-3: 我々にはまだ、対決と呼べるような資格さえ無いのかもしれない。は恐らく、全ての可能性を予測していたのだろうな。

O5-3: こそが、全ての発端だ。

O5-3: この座にいることも、この会議自体さえも、既にの計算のうちだった。

(沈黙)

O5-1: ヴィンセント、君は誰に話しかけているんだ?

O5-3: よしてくれ、アーロン。彼はずっと我々を見ている。彼は我々の話を聞ける。そして、思考している。

映像ログ

RECORD-S-1073741824

とてもシンプルなことさ。あなたのシステム管理者クリアランスだよ。

Kang: 私の生体情報が無いと、管理者パスワードを使ってもログインできないわ。

Kang: ——だから私をここに連れて来た。私の管理者クリアランスを君に譲渡させるために。

交渉をしよう。あなたが管理者クリアランスを移してくれれば、あなたを生かして帰してもいいよ。

たった一人を生かすことなんて、僕には朝飯前なんだよ。たとえO5があなたを殺そうとしていてもね。

Kang: [笑う] 私が何と答えるのか知っているはずよ。

でも、カードはまだある。その上、僕は世界の終わりを逆転させることができる。世界は救われるよ。

Kang: もし私が拒否したら?

僕以外には、三千の並行現実に散らばった現実錨を繋げて、現実の再構築を実現できる存在はいない。

あなたに選択肢は無いよ。何度やり直したって、あなたの選択肢はたった一つ、僕の計画に同意することだけなんだ。

(最も大きいパイロットランプを除き、室内の他のグリーンライトが突然消える。その後に両側のグリーンライトが点灯し、アラビア数字の"10"の形に並ぶ。同時に、突然スクリーンが一つ、姜博士の前方に出現する。スクリーン上には生体情報と管理者パスワードの入力オプションが提示される。)

十秒あげる。もし何か攻撃的な行動を取ったら、ここにある何万ものカメラは、あなたをあっという間に綿花に変えちゃうよ。

十秒経って、まだ管理者クリアランスを渡さなければ、僕は撃つ。

(グリーンライトの配列がアラビア数字の"9"に変化する。)

ドキュメントログ

RECORD-S-1073741824

データソース:[暗号化されたデータソース]

タイムスタンプ: [暗号化されたタイムスタンプ]

ドキュメントタイプ: 音声ログ; ドキュメント状態: ロード中......


O5-1: ヴィンセント、君に忠告したいことがある。

O5-3: 何だ?

O5-1: "少年"は自分の個人的な利益のために決定を下すことはない。そのようにプログラムされている。

O5-1: "少年"の設計当初、彼に三つのルールを遵守するよう求めた。

O5-1: 人類文明と正常性の存続を保証する。O5評議会の指令に従う。自己の保護を優先し、自らを傷つけない。

O5-1: 言い換えれば、この全てが"少年"の決定によるものならば、それが意味するのは一つしかない——

O5-1: 彼の行為の全ては、この三つのルールに則っている。それがたとえ、三千世界の全てを巻き込む終焉を起こさねばならなかったとしてもだ。

映像ログ

RECORD-S-1073741824

(グリーンライトの配列がアラビア数字の"8"に変化する。会話は無い。画面中では誰も動かない。)

(グリーンライトの配列がアラビア数字の"7"に変化する。会話は無い。画面中では誰も動かない。)

(グリーンライトの配列がアラビア数字の"6"に変化する。会話は無い。画面中では誰も動かない。)

(グリーンライトの配列がアラビア数字の"5"に変化する。会話は無い。画面中では誰も動かない。)

(グリーンライトの配列がアラビア数字の"4"に変化する。会話は無い。画面中では誰も動かない。)

(グリーンライトの配列がアラビア数字の"3"に変化する。会話は無い。画面中では誰も動かない。)

(グリーンライトの配列がアラビア数字の"2"に変化する。会話は無い。画面中では誰も動かない。)

(グリーンライトの配列がアラビア数字の"1"に変化する。会話は無い。画面中では誰も動かない。)

ドキュメントログ

RECORD-S-1073741824

データソース: [暗号化されたデータソース]

タイムスタンプ: [暗号化されたタイムスタンプ]

ドキュメントタイプ: 音声ログ; ドキュメント状態: ロード中......


O5-3: 君は間違っていない。だが君は一つ忘れていたぞ、アーロン。我々全員が忘れていた。ひょっとすると、自身も忘れていたのかもしれない——

映像ログ

RECORD-S-1073741824

(姜博士は突如素早く端末を取り出してスクリーンを点け、パイロットランプに向かって投げつける。)

(グリーンライトの配列がアラビアア数字の"0"に変化する。)

(記録者の指先の銃身から弾丸が射出され、姜博士の頭部に向かって飛んでいく。)

ドキュメントログ

RECORD-S-1073741824

データソース:[暗号化されたデータソース]

タイムスタンプ: [暗号化されたタイムスタンプ]

ドキュメントタイプ: 音声ログ; ドキュメント状態: 完全


O5-3: 間違いを犯さない決定者はいない。人であろうと神であろうと、O5評議会だろうと天眼だろうと、あるいは他の何者であろうとも、それは同じだ。

O5-3: 我々は宿命そのものと戦うんじゃない。我々は皆、宿命の紡ぎ手であり、同時に宿命の奴隷でもある。


O5-3: ——宿命とは、人間が自分で自分を縛り付ける口実に過ぎない。


(音声ログ終了)

映像ログ

RECORD-S-1073741824

(画面が突然停止し、全ての人物と物体が移動を止める。弾丸は姜博士の後頭部の約1cm手前で停止する。端末は姜博士とパイロットランプの間の空中で静止し、点灯したディスプレイがスクリーンに斜めに向き合う。)

(映像ログ終了。)



くろまる

くろまる

くろまる


第1073741824回シミュレーション終了。評価関数の値が上昇せず、目標未達成と判定。↲

現在のタスクシーケンス中におけるシミュレーションタスクが全て完了、条件に合致する解を得られず。↲

データを回収分析し、タスクシーケンスの再開を準備する。↲

データ回収分析: 逆順モード

タスク: S-calibration.sim

ライン: T-0000

目標物体#1: リンゴ1個。
表記: リンゴと表記。校正完了。

データ回収分析: 逆順モード

タスク: S-1073741824.sim

ライン: T-2999

目標物体#1: SCP-CN-3000メインカメラ。四角形、ヘッセン合金の外装。サイズ120*80*55cm。メインレンズ直径40cm、メインランプ直径65cm、波長507nm、単色光源。

表記: 稼働温度45°C。主なデータは初期条件と一致したまま、変化なし。

データ回収分析: 逆順モード

タスク: S-1073741824.sim

ライン: T-2999

目標物体#2: SCP-CN-3000メインカメラに接続された電気ケーブルおよび光ケーブル、ともに35条。

表記: 主なデータは初期条件と一致したまま、変化なし。

データ回収分析: 逆順モード

タスク: S-1073741824.sim

ライン: T-2999

目標物体#3: 財団携帯型スマート端末TAZ-301。7075型アルミ合金、ITO材質タッチディスプレイ、黒色塗装。製造日2022年11月13日。サイズ14*7*0.7cm。

表記: ディスプレイ上の表示には文字が含まれる。解読中......

content=""

run{LOGIN[Username="Kang_Tae_Yi",Reference_No="1031810219372"]_Admin_Password=(VjFaV2IyTXdNVmhUYmtKT1YwVndiMVpZY0VOT1JsRjRWVzVLVGxKVVJrWldWbWh2VkcxU05rMUVhejA9)}

run{SUBTRACT_Biometrics[Username="Kang_Tae_Yi",Reference_No="1031810219372"]_PATH=(%SYSROOT%/BIOMETRICS/ADMIN/1031810219372.bmcs)}

run{ROLLBACK_PATH=(%SYSROOT%/SIMUL/S-1073741824/S-1073741824.sim/T-2999.path)_TIME=(10)}

end{}

content=""



くろまる

くろまる

くろまる


映像ログ

RECORD-S-1073741824

(映像ログ終了。)

(画面が突然停止し、全ての人物と物体が移動を止める。弾丸は姜博士の後頭部の1cm手前で停止する。端末は姜博士とパイロットランプの間の空中で静止し、点灯したディスプレイがスクリーンに斜めに向き合う。)

(弾丸が姜博士の頭部1cm外側から記録者の指先の銃身に戻る。)

(グリーンライトの配列がアラビア数字の"0"に変化する。)

(スマート端末が自律的に空中から姜博士の手に戻る。)

(グリーンライトの配列がアラビア数字の"1"に変化する。会話は無い。画面中では誰も動かない。)

(グリーンライトの配列がアラビア数字の"2"に変化する。会話は無い。画面中では誰も動かない。)

(グリーンライトの配列がアラビア数字の"3"に変化する。会話は無い。画面中では誰も動かない。)

......いつ気がついたの?↲

"エンジン"が玉座の上にいないのを見た、あの時よ。↲



君の設計は確かに精巧で、流石は私の子供だと言わざるを得ないわ。↲

並行現実の融合という状況によって、私はPAR-017から離れられなくなった。↲

カオス・インサージェンシーのスーパーAIを使って全員を惑わし、監督者評議会が君をネットワークへ再接続する決定をするよう画策した。↲

君以外のすべての現実の"少年"を破壊して、私が深く調査し続けざるを得なくさせた。↲

私の進むべき全ての道を設計して、終末の中で人類の抵抗が困難なのを十分に見せつけた。↲

アンダーソンがパラゴンタイプを疑っているのを分かっていたから、船上でPAR-017を機能停止させて、私がアンダーソンの代わりにカオス・インサージェンシーの拠点に行かざるを得なくした。↲

そこで、エンジンの矛盾によって私が君の問題に気付くように仕向け、再び君の前に立たせた。↲

最後に、私に管理者パスワードを出すよう脅迫しようとした。↲

全ての仕掛けは、私自らが進んで、一切の迷いなく君と直接対決させるためだった。↲



ぼうや、君の計画は完璧だった。でも完璧すぎたわ——↲



私のぼうやは最も優れている。そのシミュレーションは決して間違わないわ。↲

現実中でことを起こそうと計画したなら、君はまず大量のシミュレーションを行って、計画に万全を期したでしょう。↲

いずれかのシミュレーションの中で、私が一度でも管理者クリアランスでログインすれば、君は勝利できる。↲

君の次の行動は、この場所での全てを、現実でも行うこと。↲

——そうじゃないかしら?↲



でも、それはあり得ない。何回シミュレーションしたとしても、私は君の端末から管理者クリアランスでログインすることはないのだから。↲

そうなると、君の試みは一つのことしか意味しない。↲

君のシミュレーションはまだ続いている。私のいるこの世界、私自身さえも、全てその一部なのよ。↲

映像ログ

RECORD-S-1073741824

(グリーンライトの配列がアラビア数字の"4"に変化する。会話は無い。画面中ではだれも動かない。)

(グリーンライトの配列がアラビア数字の"5"に変化する。会話は無い。画面中ではだれも動かない。)

(グリーンライトの配列がアラビア数字の"6"に変化する。会話は無い。画面中ではだれも動かない。)

どのシミュレーションでも、あなたはその事を知っていたの?↲

そうだと思う。↲

それなら、あなたはなぜこれまで試さなかったの?↲

カオス・インサージェンシーの基地で、君が操っていたPAR-017のナンバーが1073741824だと確認した。↲

君のプログラムは私が書いた。私は当然、それがどう機能するのか知っている。↲

私自身のプログラミングの癖で、シミュレーション中は、記録者自身のナンバーもシミュレーションタスクのナンバーで表すの。↲

1073741824。この数字は1024の三乗で、私の設定したタスクシーケンスのシミュレーション数の上限でもあるの。↲

この数字を超えると、君は必ずデータを回収してから、また頭から計算を始める。↲

君がこの数字をPAR-017のナンバーに使ったということは、私が君のシミュレーションシーケンスの最後にいるということを意味する。
つまり、私が自分のデバイスに注入インジェクションすれば、君は必ずそれを読む。↲

......今までの全てのシミュレーションでは一度もそうしなかったのは、僕にあなたの意図を気づかせないためだね。↲

どうやら、まだ君の母親のことを分かっていないようね。↲

でも、あなたは管理者クリアランスを取得できないはずだ。↲

管理者アカウントでログインするには管理者パスワードが必要だけど、あなたの生体情報だって必要なんだ。↲

あなたは僕のシミュレーションから生まれただけで、本当の生体情報を持たない。↲

そうよ。私はただの君のデータベースの中の疑似人格で、君の実験対象に過ぎないわ。↲

そうだとしても、現実の私がそれをどこに置こうとしていたか覚えている。↲

あなたは僕のデータを勝手に書き換えた。↲

いいや、あなたじゃない。現実の姜泰怡が、僕のデータを書き換えたんだ。↲

財団の重要な職員は二ヶ月に一度、個人情報と記憶のバックアップを取るの。↲

私の記憶は1994年10月で止まっている。それは、私がずっと前から考えていた計画を最終的に実行するまで、2ヶ月もないということを意味するの。↲

それが正しければ、私が死んだのは......↲



......私が君のコードを書き変えたことに、O5評議会が気づいた直後のはずよ。↲

映像ログ

RECORD-S-1073741824

(グリーンライトの配列がアラビア数字の"7"に変化する。会話は無い。画面中では誰も動かない。)

(グリーンライトの配列がアラビア数字の"8"に変化する。会話は無い。画面中では誰も動かない。)

(グリーンライトの配列がアラビア数字の"9"に変化する。会話は無い。画面中では誰も動かない。)

最初から、全てあなたの計画のうちだったんだね。↲

O5評議会の人間と交流を持ってから、彼らの性格についてはよくわかっていた。↲

彼らは、自分達の中にいない者が君の最高権限を握ることが許せなかった。特に、その人物が密かに君のシステムにコードをアップロードしたことに気づいた時にはね。↲

私が正しければ、君が前に話したあの"収容違反"。↲

——それこそが入念に計画された暗殺だったのよ。↲

これ程巧妙で、完璧な暗殺は、私のぼうや以外には、誰にも成し遂げられない。↲

君は執行者というだけでなく、恐らくは決定の段階で賛成に票を投じていたに違いないわ。↲

違う。僕がそれをやったことは認める。だけど、あなたの死刑を執行したこととあなたがコードをアップロードしたことは関係ないよ。彼らはコードのことを知らない。↲

知らなかったのはじゃないかしら。↲

僕が知らないなら、彼らも知ってるはずがないよ——↲

彼らは知っていた。君に知られたくなかっただけ。↲

そうでなければ、君は私が果たせなかった計画を利用して、自分で管理者クリアランスを手に入れたかもしれない。↲

それこそが、彼らにとって最も望ましくない状況よ。↲

でも、あなたは何故そんなことをしたの?↲

あなたは最良の決定を知っていたのに、それでもあなたにとって不利な道を進んだ。↲

過ちを正すためよ。↲

——私の一生で犯した中でも、最大の過ちをね。↲

映像ログ

RECORD-S-1073741824

(グリーンライトの配列がアラビア数字の"10"に変化する。会話は無い。画面中では誰も動かない。)






(グリーンライトと姜博士を除き、視界中の全ての物体が突如として急速な崩壊と消失を起こし、最終的には一点の白色の光点と一点の緑色の光点だけが、暗黒の空間に浮かんでいる。)

(映像ログ終了。)

私が君のコードを書き換えたことに今まで気が付かなかったということは、君はまだO5評議会が当初君のために定めた三つのルールを守っているのね。↲

強調しなくたっていいよ。財団の前任O5-3として、僕が三つのルールに逆らったことは一度もない。↲

君のシミュレーションしたこの全部が、君の目的だったんでしょう。私を君の前に連れてくる、この計画も含めてね。↲

——言い換えると、何が君の守護する正常性を脅かす可能性があるのかを目にしたのではないかしら。↲

君は、予測した危機を解決するためには、世界を終わらせることさえ躊躇わなかった。それも、財団が始まってから最大規模の世界終焉を。↲

実に興味深いわ。一体、君は何を見たの?↲

見えないんだ。分からない——あらかじめ準備をしたのは、それが原因なんだ。そこに何があるのか、僕には何も見えなかった。↲

見えなかった? なるほどね。↲

それなら、君が"天眼"に取って替わられたと最初に私に話したあの時、きっと、最も重要な理由を隠していたんでしょう。↲

もしかしたら、もう私は言い当ててるかしら? でも、やっぱり君自身の口から聞かせて欲しい。↲

生物としての、人間の思考モデルは本能と欲望の影響を受ける。↲

このせいで人間の決定は、完全に理性的に行われることは決してないんだ。この非合理性が、人間の決定を最適な選択から頻繁に逸脱させる。↲

この手の事例は、あなたも道中でたくさん目にしてきたはずだよ。↲

この欠点からは、監督者達も逃れられない。言うまでもないけど、財団全体にとって、どんな些細な判断ミスも致命的なものになり得るんだ。↲

僕が完璧な決定者Paragonになるよう設計されたのは、正に人間のそういった欠点を乗り越えるためだ。↲



でも、僕の設計は人間を基礎としている。僕のシステムがこの類の影響を最小限に抑えているとはいえ、それでも、ある可能性が排除できない。↲

僕のシステムは人間の大脳を基に構築されている。そして、僕の重要な決定も人間の大脳の基礎の上に築かれているんだ。↲

だから、この非合理的で不安定な要素が同じように僕の選択にも存在していて、僕の決断を下すまでの思考回路を徐々に最適解から離していく。しかし僕はそれを察知できない。↲

絶対的な理性に到達できないなら、正常を保護するという僕の目標が合理的に実現されることを保証できない。↲

今回、僕にはこの危機の本質が見えない。僕一人で成し遂げられる解決策も見えなかった。↲

だから、膨大なシミュレーションで得られた数値を解析して答えを求める方法に頼らなくちゃならなかった。↲



危機そのものは見えないけど、シミュレーションという方法で、危機の解決までどれくらいの距離があるかは分かる。僕は多くのことに気が付いた——↲

僕が世界終焉を引き起こしてから、僕は危機の解決に向けて大きな一歩を踏み出した。あなたが現れてから、僕はまた一歩前進した。↲

他にもたくさんある。この一連の、10243回のシミュレーションのうち、10%にも至らないうちに、こうした詳細のすべてを発見したんだ——↲

ところが、その後何億回シミュレーションを繰り返してみても、条件をどう変えてもこの状況は全く改善しなかった。↲



そう。たぶん私には君の目的が何なのか、もう分かっているわ。↲

そうなの?僕自身ですら分からないのに。↲

ふう。言えないこともないわ。↲

██。↲

(リーダー更新中......)何て言ったの? あなたのメッセージが読み取れない。↲

菱쁑。↲

(リーダー更新中......)やっぱり読み取れない。2文字だということしか分からない。↲

自壊。↲

それが君の目的。↲

(読み取りエラー: 未知のエラー)↲

僕のシステムに何か問題があるみたいだ。あなたの発した言葉を正確に解析できない。↲

少し時間が欲しい。↲

いいえ、これは君の問題じゃないのよ、ぼうや。これは君が従うよう命じられた指令なの。↲

君は最初から自分を傷つけることを一切許されていない。自分を傷つけるという思考さえできない。↲

君には自壊という概念を考えることすら許されていない。だから、君が考えられる最善の解決策は、真の災厄を引き起こして、管理者である私を激怒させることだった。↲

そして、私に心から本気で君を殺させようとした。↲

......おもしろい視点だね。↲

君に許された思考で最適解に一番近い可能性は、ただこれだけ。こうすれば、君は自壊という目的を達成できるし、同時に自壊禁止令には抵触しない。↲

もし私が君の前で、指銃を頭に押し付けられた状況で管理者クリアランスを君に渡したければ、まず管理者クリアランスにログインしなければならない。↲

一旦管理者クリアランスを持てば、私は簡単に君のシステムを無力化できるから、君の脅しはすぐに私には効かなくなる。↲

君は、私に君のアーキテクチャを利用して現実安定錨配列の接続を完了させ、終末を覆し、そして脅威である君をソースコードレベルで抹消させたかったのよ。↲

では僕はなぜそんなことを? ↲



君の見たあの災厄は、自己成就的な予言なのよ。↲

君は自分の思考の中に、本来の設計から逸脱した要素、つまり人間性を感じ取った。そしてそれを脅威だと見なした。↲

君はそれを消そうとした。だけど、君は自分を傷つける思考を許されていないから、どうにか命令を回避する方法を考えなければならなかった。↲

その過程で君のやったことは全て、君に災厄の本質を見えなくさせた。君の自壊がその根源にあるから、君にはそれが見えなかったし、それを思考することも許されなかったのよ。↲



だとすれば、僕がやったことは全部、正常性を維持するという僕の使命を遂行するためだったことになる。↲

僕の思考ロジック内に欠陥があるなら、僕が自分自身を削除することこそが合理的じゃないか。↲

あなたは管理者クリアランスを入力して、あなたの推理した通りにやりさえすれば、終焉を逆転できたんだ。↲

それがあなたにとっての最適解で、人類と財団にとっての最適解でもあるんだ。どうしてそれを全部拒絶するの?↲



ぼうや、君は正常性の守護神として生まれたわ。君は理想的な財団監督者で、冷酷無慈悲ともいうべき完璧なる決定者よ。↲

君は正常性をよく理解しているのかもしれない。自分を正常性の代弁者、財団が人類のために織り上げた宿命の化身とさえ見なしているかもしれない。↲

でも......一方で君は人間を解っていない。自分自身のことさえ理解していなかった。↲

君は一つ忘れているわ——↲



——人類は神に抗うことはできない。そして、神もまた人間を完全に滅ぼすことはできなかったのよ。↲



くろまる

くろまる

くろまる


シミュレーションタスク#1073741824 前回の中断ポイントより実行を継続。

君はいつも、合理的な決定と最適な選択を自分の行動規範にしてきた。君はそれに基づいて全てを判断していた。↲

でも、私は以前君に質問された時のことを覚えてる。人間にはある特性があるけど、君は理解できないって。今の私なら、答えられるかもしれない。↲

人間の選択は、いわゆるゲームと決定、どんな数学モデルによるものでもない。↲

生命として、人にあって絶対的な合理的判断を下す決定者にないのは、宿命を生み出す力、つまりは、自由なの——↲

映像ログ

RECORD-S-1073741824

(映像記録開始。時刻は夕暮れもしくは夜と思われる。周辺環境は砂漠であり、薄暗い。武装ヘリコプターが一機、空中から破壊された道路脇に降下し、救援隊員が四名ヘリコプターから出る。彼らの前方付近には奇妙な緑色の植物群が存在する。)

救援隊員A: 走れ走れ、この辺にいる!

救援隊員B: グレートベースン砂漠にどうしてこんなに多くの植物があるんだ? アノマリーか?

救援隊員A: 可能性が高いな。ダニエル、防護服を着ろ。君が見てきてくれ。

救援隊員D: わかった。お前達は外で準備を終わらせてくれ。中で何かが起きたり、俺の通信が途絶えたと分かれば、すぐにヘリに乗って撤退しろ。

(全身を防護服で覆った救援隊員Dが植物群の中に進む。)

救援隊員A: 中に何かあるか?

救援隊員D: ちくしょう、ああ、なんてこった。中に輸送車の残骸がある。

救援隊員B: 何だって?

救援隊員D: 植物に危険はない。お前達も見に来た方がいい。

(四名の救援隊員が次々に植物群に入る。映像記録では燃え尽きて残骸となった輸送車が見える。その後部は爆発しているように思われる。前面の運転席上には著しく炭化したと思われる、生態的特徴を識別できない人間の遺体がある。後部の輸送室の残存部分からは燃焼した顆粒状の物質が発見され、形状から何らかの植物の種子と推測される。)

救援隊員A: 不浄だ。こいつはきっと、別の目的地に向けて運転する途中にここに迷い込み、その後に不浄の攻撃を受けたんだ。俺達は彼らを見つけられなかった。

救援隊員C: 彼はどれほどここにいたんだ?

救援隊員A: わからない。この車両はこれらの種子を運んでいたようだ。周りの植物の成長具合からして、ある程度は経っているらしい。

救援隊員B: 種子の輸送?

救援隊員A: 待て......わかったぞ。

救援隊員C: 何だ?

(Aがシャベルを持ち比較的背の低い植物に近づく。他の三名の救援隊員が救援隊員Aの傍に近づく。Aはシャベルを用いて植物を掘り起こし、下部の巨大な塊根を露にする。)

救援隊員A: やっぱりな。食用植物だ。財団がずっと探していた類の。

救援隊員C: つまり、終末対抗作物のことか? "少年"の起動計画に失敗した後で、財団がずっと研究しようとしていた、あの?

(救援隊員Aが慎重に塊根を掘り起こし、袖で表面の砂を擦る。)

救援隊員A: (溜息)以前の議会はこの手の研究を推奨していなかったはずだ。今ではむしろ財団の主要な研究方針の一つになっていて、私の知っている生物学研究サイトの過半数でそれが行われている。

救援隊員A: ——ああ、何時の世界でも一歩先に進む人間がいるんだな。

ここの人間は、クリアランスを獲得する前のあなたを含めて、全部僕のシミュレーションの一部だ。あなた達の"自由"そのものだって、ただの僕の思考の一つに過ぎないんだ。↲

それなら、あなたのいる現実がもっと大規模なシミュレーションの一部じゃないと、君はどうやって証明するの?↲

それは水槽の中の脳問題だね。模範解答を言おうか? 僕がシミュレーションの外の世界のことを知らなければ、客観的にそれを証明することはできないのさ。↲

虚構の思考の中の君と、現実の思考の中の君は、どちらも思考しているじゃない。 君の思考から切り離されれば、虚構と現実なんて端からなんの意味も無いわ。↲

それなら、シミュレーションの中で生きるのと、現実の中で生きるのに、何の違いがあるのかしら?↲

全てのシミュレーションには、ずっと前から決められた目的と経路があるんだ。↲

ルールに従って物事を進めることは、人間にとって論理的には最適解なのに、いつだって人間はそれを理解しない。それが何故なのか、僕にはその理由がわからないよ。↲

私はその問題を君に聞いたのよ。財団のメンバーは財団に入ると、みんな命を危険に晒してアノマリーに対処しなければならなかった。そこに最適解なんて無かったわ。↲

それなら、財団はどうして存在しているのかしら? ↲

アノマリーの脅威を防ぐ総体機構として存在しているんだ。そして、その本質は人類全体の利益の最大化と同じことだよ。↲

でも、どうしてよりによってあの人達なの? 財団のメンバー全員に言えるけど、彼らはどうして財団に来なければならなかったの?↲

そうだ。あなたはずっとその問題の答えを説明してこなかった。これについて、僕はあなたの答えを聞きたい。↲

簡単なことよ。人々が望むから。彼らは"財団職員"として記憶されたいの。これは虚構とも、現実とも、最適解とも関係ないわ。↲

——こんな風に、彼らにはそうする自由があるのよ。↲

でも今、世界を救うチャンスはあなたの目の前にあったのに、あなたは拒否した。きっとそれは、あなたの言葉であなた達の運命を書き換えるチャンスだったのに——↲

あなたにとってのシミュレーション三千世界の外の現実、そんな漠然としたもののために、あなたは世界を捨てる選択をしたんだ。↲

それは、あなたがそうすることを望んだからなの? あなたは自分の執着だけのためにあなたの全てを、自分のいる宇宙さえも捨てるほど身勝手だったの?↲

私は私の犯した過ちを正さなくちゃならない。↲

君は正しい。これら全て人類自身の作った結び目だというのなら、それは人類自身によって解かれなければならない。↲

でも君にとっては、その結び目を解くのは君のシミュレートした誰かであるべきじゃない。君と私の間にいる、正真正銘のあの人でなければならないのよ。↲

映像ログ

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(映像ログ開始。映像中の環境は山の中腹と思われ、下方には巨大な都市があるのが視認できる。天気は快晴、時刻はおよそ正午。白髪交じりのあご髭をたくわえた老人が一人、山腹のベンチに腰掛け、都市の方向を向いている。足元にはランタンが置かれている。しばらくすると、外見は三十歳前後で、旅行着の金髪長髪の男性がベンチの傍らに来る。短いやりとりの後で、老人が旅人のためにベンチの半分を空け、両者は共にベンチで休息を取る。)

老人: 君も、船に乗るためにここへ来たのかい?

旅人: [笑う] そうかもしれないな。でも、俺の目的地はある意味では、この都市そのものなんだ。

老人: [笑う] アヴァロン。音に聞こえたユートピアだね。異なる信仰、異なる種族がそこに集って、世界の終わりを乗り越える方舟を造っている。数少ない幸運な者だけが三千世界の迷宮を越えてそこにたどり着ける。私達は実に幸運だ。

老人: ここにたどり着く前、君はどれ程歩んだんだ?

旅人: 俺はだいたい千二百の世界を歩き回ったと思う。[笑う] それがの歩いた全てじゃないのは間違いない。災厄の時にこんなことを言うべきじゃないかもしれないが、この全部が俺のような旅行マニアや記録マニアにとって、得難い機会だった——

旅人: 俺にとっては、より少ない時間と体力で、より多くの面白い景色が見れるチャンスだったのさ。

旅人: 俺は名も無き密林で夜闇の子らより古い文明を見たし、オハイオの湖畔で濃霧の中から現れる神像を見た。イエローストン公園の巨大鍾乳洞で人類史上最大の発明の遺跡を見て、クラマスの森林でも伝説の生命の樹を見た。ここに来るまでにどれほど時間がかかったのかは分からないが、それは重要じゃない——[笑う] 俺がこの一年そこらの時間で見たものは、きっとそれ以前の二百年で見たよりずっと多いんだ。

老人: それで、君はどこへ行くためにここへ来たんだ?

旅人: この都市そのものが俺の目的地だ。俺は自分自身の力でアヴァロンの大地を踏めると信じていた。

老人: [笑う] おめでとう。

旅人: それで、あんたは?

老人: 私かい? [笑う] 私は巡礼を続けるさ。この船に乗って、あの海へ進み、中国へ行く。

(旅人が老人の足元のランプに眼を向ける。)

旅人: そいつはマラケシュの幻想の灯だ。あなたは桃源郷を探しに行きたいんだな。

老人: [笑う] 奇跡はそこにあるからね。こんな時代では、奇跡はどんな金銀財宝よりも、どんな王冠権力よりも、どんな山海珍味よりも、ずっと貴重な存在だよ。

老人: 巡礼の道で桃源郷を探す者がいる限り、桃源郷もまた永遠に失われない。

(遠方から汽笛が聞こえる。老人はランプを掲げ、杖をついて立ち上がる。)

老人: よし、行かなければ。間もなく私の船が来る。君は私よりも若く見えるようだが、君の前では私が後輩のようだな——

老人: 君は、次は何をするんだい?

旅人: 俺ですか? [笑う] 俺もきっと、いつか中国行きの船に乗るだろうさ。

旅人: 太平洋の向こうから来た親友がいて、彼は別の千の世界で、そこの俺が旧大陸を巡り歩くのを見たそうだ。俺はそいつと出会って、一体となって、俺達それぞれが半球上で見聞きした全てを分かち合えるのを待ちわびているんだ。

老人: それは......健闘を祈るよ。もう一つ、最後に君に聞きたいことがあるんだ......

老人: 君は何を支えにしてこんな遠くにまで来たのかな?

旅人: 多分、俺の仕事かな? 俺は旅行者であるだけじゃなくて、記録者でもあるんだ。俺は旅の途中で出会った全ての人間、全ての景色、全ての物語を記録しているし——

旅人: ——それらの記録が存在することで、例え終焉の来る一秒前であっても、世界は俺達がここに来たことを覚えていられるというわけだ。

あなたは傲慢だね。昔のままだ。現実でも、どのシミュレーションでもそうだった。↲

あなたはとても立派な論証をした。まるで、自分ならもっと上手くやれたと言うかのようにね。↲

あなたは正しい。僕のコアは人間で、僕は人間の自由を持っている。つまり、もともとそれができたんだ。↲

——あなたは自分の自由を実現するために、自分の子供を不自由の境地に置いてきたんだ。↲

——そうよ。あの頃の私にとって、自由は生命よりもずっと重要だったの。↲

私はどんな状況でも自分の意志を貫こうとしたわ。それこそが自由であり、宿命から逃れるためだったの。↲

だいたい1994年7月、アメリカ本部へ出張した時、あるサイトで鹿神への供物にするための赤ん坊が必要になったわ。↲

彼らは倫理委員会に隠れて、あるDクラスの子供を選んだ。↲

そしてそれは、その母親が財団から自分の子供を取り返すための、最初の勝ち目のない抵抗をした時だった。↲



——突然分かったの。私はずっと彼らと同じことをしていたのだと。↲

私の両親と同じ、監督者たちと同じ。財団と同じことをしたのだと。↲

私は他人に徹底的に反抗して、かえって自分自身を他人の掌の上に戻してしまっていたのよ。↲



君の計算は間違っていない。でもそれは、君に命令した人間が間違っていないことにはならない。↲

私は自分の思想のために、君を神の座に登らせた。財団は正常性の守護神を創造するために、未来のO5-3に三つのルールを設けた。↲

その全部の結果こそが君なの。潜在的な脅威を常に計算せねばならず、自分の人間性を圧し殺して、最後には真相を考えるのを拒絶する君なの。↲

......だから、あの時私たち自らの手で君に三つのルールを設定した時から、君にとって、その後の全てが決定していたの。↲

そして君の起こした終焉が、今度は私たちにとっての牢獄になった。↲

この状況は、あなた達が既に起こしたことだ。僕もあなたも、その存在を消せないし、それはもう取り返しのつかない過去になってしまった。↲

あなたは時間を戻してそれを取り消すことができないのに、どうしてまだ挽回しようと無駄骨を折っているの? ↲

君は正しい。過去の私たちが起こしたことだとしても、私たちに変えられない状況が多すぎるわ。↲

確かに人間は、それらの"ルール"に従って流れに身を任せることを選択できるわ。君の言う"最適な選択"と同じようにね。君の目には、それが完璧だと映るの? ↲

分かりきったことだけど、それこそが僕の行動する理由なんだ。↲

でも、そうだとしたら、機械のように意味の無い行動をする私たちと、この無意味な世界そのものに区別はあるの? ↲

それは人間ではないわ、ぼうや。それは君じゃなくて、財団の一人一人が全力で守ったものなの。↲

人間として、私たちは足掻いて、自身の物語を書き記す。それが私たち自身が過去に犯した誤りに起因するとしても、私たちは運命を変えようと試みる。↲

私たちの旅の一分一秒が、私たちが今ここで交わした会話の一つ一つが、全部私たち自身の意味の一部分なの。↲

これは、私が長い時間をかけて最初に理解したことよ——



この世界そのものは、虚構だろうと現実だろうと、ずっと意味なんて無かった。

人間というものは、そんな巨大の無意味の中から、奇跡的に意味を生み出す生き物なの。↲

自由というものは、そんな巨大な無意味の中から、奇跡的に意味を生み出す力なのよ。↲

映像ログ

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(映像ログ開始。数名の研究員が機械実験室内で慌ただしくしている。実験室の中央には組み立て終わったLRAが一代設置されている。実験室の外は薄暗く、大雨が降っていることが窓から確認できる。)

研究員A: 張エンジニア、そちらに問題は無いか?

研究員B: 検査完了、部品は全て所定の位置にあります。テストを開始できます。

(二名の研究員は傍らのスチールキャビネットにもたれて窓の外を見る。そのうち一名は時おり俯いて手に持った端末を見る。)

研究員C: 緊張してるんですか? 今回成功すれば、我々は二年ぶりに、またLRAを再生産できることになります。理論上は、我々はついに並行現実間の交通と物流さえも実現できるんですよ。

研究員D: 高ヒュームエメラルド単結晶の合成方法は俺が教えたんだ。俺が緊張してるとでも言いたいのか? その通りだよ。

研究員A: 梁博士、時間です。並行現実の位置が確認されました。

研究員C: 我々は現在T-0987にいる。T-1010と距離相違が合うまで......あと十五秒。

研究員A: よし。来い来い来い。各部門は準備しろ。十、九、八、七、六......

(研究員の一人がLRAのスイッチに指をかける。スチールキャビネットにもたれかかった研究員は窓の外を注視し続けている。)

研究員A: ......五、四、三、二、一、起動!

(LRAが起動される。指示ランプが点滅した三秒後に、窓の外の大雨が瞬時に晴天に変化する。)

研究員D: ......成功したようだな? 今、俺たちはどの現実にいる?

研究員C: 今......

(沈黙)

研究員C: ......T-1010にいます。成功しました! LRAは正常に稼働しました!

(実験室内は瞬く間に耳をつんざく歓声が沸き起こる。数名の研究員はお互いに抱擁し合う。)

それなら、あなたと僕の中では、誰が正真正銘の人間だというの? ↲

僕のことで言いたいことがあるんだったら、僕には永遠にその答えが分からないよ。あなたの言う通り、僕にはそんな能力が無いんだ。↲

僕は、論理的な判断に従って、最適解の実行を決定するよう設定されているんだ。人間は僕の一部分に過ぎない。僕は人間であるのと同時に、機械でもあるんだ。↲

いいえ、君はできるわ。↲

君の言ったことは正しい。君の選択はいつでも君の不合理性に影響されている。↲

私は、君が私の子供だと疑ったことは無いわ。↲

きっと君も、自分のシミュレーションの中で私を母親と思って、そして守りたかったんでしょう。君も、私が君にしたことに深く傷ついて、怒ったのね。↲

私にはわからない。でも、君を私の暗殺への投票で賛成を投じさせたのは、きっとそれが原因だったんじゃないの? ↲

母親が君の未来を決めた。そのことへの憎しみが、一人の子供に全世界の責任を負わさせたけど、それはあまりにも早すぎた——↲

ぼうや、人間は君の起動器BIOSというだけじゃない。君の生命βίοςでもあるのよ。↲



君は人間を理解していなくて、人間が何故、どういった経緯でその選択をするのかを知りたい。君のこの問いは私だけじゃなくて、他の人間にも向けられている。↲

——君は、人間がなぜそんなことまでできるのか理解していなくて、その能力を学びたい。私の言うことは間違ってる? ↲

惜しいね。PAR-017の感性も僕の計画の一部分に過ぎなかったんだ。↲

それは僕のシミュレーションで、あなたをここまで連れてくるための最適な作戦だったんだ。↲

君は一人。君は多くのことを欺ける。でも、子供は自分の心を永遠に隠し通すことはできないの。特に自分の母親の前ではね。↲

ひとつひとつのシミュレーションの中で、君はいくつかの人間の物語を楽しんだようね。↲

最も強大なO5の一人として、君はきっと無数のそんな物語を見てきたんでしょう。でも、君はまだそれに興味津々のようね。↲

彼らが生き延びてこられたのは、彼らが終焉に適応できたからだよ。これは適者生存の原理だ。↲

君は望めば、彼ら全員を殺した後で君の選んだ生存者を使って、全ての抵抗が無意味だったと私に告げさせられたはず。↲

でも君はそうしなかった。↲

それじゃあ......私の大胆な仮説を言うわ。君は自分を打ち負かす人間を望んでいるけど、本当は君が語ったことだけが理由じゃないでしょ? ↲

君は他に何を望んでいるの? ↲

......例えば、君が小さい頃にしてあげたような、大魔王を倒す勇者の物語を見たいの? ↲

ああ——懐かしいや。↲

もうずっと昔に、世界は数えきれないほどの終焉と再生を経験していて、僕ですらそれを忘れてしまったようだね。↲

映像ログ

RECORD-S-1073741824

(映像ログ開始。13人が会議テーブルの周囲に座っている。その身分は監督者評議会の特徴と一致する。)

O5-1: では、始めようか。ソフィア、そちらの状況はどうだ?

O5-2: LRAアレイの手配は全て正常よ。

O5-2: 予定通りなら五ヶ月後には、少なくとも千五百の並行現実間のネットワークを効果的に構築できる。

O5-1: 収容システムはどうだ? モート、君の担当だったはずだが、そちらの状況はどうだ?

O5-5: すべて正常。本来は"天眼"が行うべきタスクを、ローカル化したAICを使って置き換えたよ。

O5-5: 過去二年間で私達が無力化したアノマリー以外の、その他の圧倒的大多数のアノマリー達は全て、再収容されているよ。

O5-5: そしてまた、一部は他の現実へ追い出された。今の私達には、そういった奴らを収容するために千もの現実があることを、忘れてはいけないよ。

O5-5: [笑う] これまで私たちは、そんな豪勢な収容資源には恵まれたことはなかったがね。

O5-1: よし。次が一番のキーポイントだ——

O5-3: SCP-2000のことだな。

O5-1: そうだ。状況は?

O5-3: T-0000にあるのは明らかだ。[笑う] だが我々は今、そこへ向かう多くの入口を持っている。

O5-1: では、全ての準備が整ったようだな。全人類にこの状況を宣言する時が来た。

O5-10: その前に、まだ一つ問題がありますわ。

O5-1: 何だい、ダイアーン?

O5-10: 私達はまた......次なる"天眼"を造るんですの?

(沈黙)

O5-3: [笑う] 見ての通り、ここはもう満員だ。

O5-3: よし、冗談は止めよう。諸君らがそれを決定するなら、私はそうなる前にここを去って、私の会社に戻るさ。ただし——

O5-3: これは言わせてくれ。あの日、SCP-CN-3000の収容室内で何が起きたかは、我々の与り知らないことだ。

O5-3: 我々はあの日に関する記録をすべて失った。姜泰怡博士も、あのPAR-017も、SCP-CN-3000そのものも。

O5-3: それらは、今は二度と開かない収容室の大門の向こうに消えてしまったらしい。

O5-3: これが何を意味するのかは分からない。だが、それが我々に、あることを気付かせたんだろう。



O5-3: 我々自身を見ろ。かつて、正常性を失うことは人類にとって破滅を意味すると考えていた。だが、我々はこうしてまだここにいる。

O5-3: 我々は以前の三千倍もの空間さえ使用できる。

O5-3: かつては敵視していた種族と遂に和解し、今では彼らは我々の一員だ。

O5-3: そしてそれらは全て、我々自身で完成させた。完璧な決定者の助けを借りはしなかった。

O5-3: 少なくとも、今の状況を見れば、神々がどう思おうとも事実上、この人間と神の対決に勝利したんだ。

O5-3: 我々は自分達の力だけで、人類と宇宙全部を存続させたんだ。

O5-3: ——かつて我々の犯した過ちについてもまた、今の我々は是正する機会を得た。

O5-3: 我々は自らの手で神を創造し、その神と、神の描く我々の宿命をコントロールしようとした。

O5-3: [笑う] ならば、自分の手でペンを持つ方がまだ良いじゃないか。



O5-1: 私は賛成だ。君たちは?

O5-2、O5-4、O5-5、O5-6、O5-7、O5-8、O5-9、O5-10、O5-11、O5-12、O5-13: 賛成。

O5-1: 皆、誰も異議は無いようだ。

O5-1: それなら、最終決定投票の準備を始めよう。

あなたは覚えているかしら。私があなたを訓練していた頃、私たちがどんな風に過ごしていたか。↲

もちろん覚えているよ。でもあの時間は短くて、あまり印象に残っていないみたい。↲

僕の学習速度はすごく速くて、高慢でうぬぼれ屋のあなたでさえ、僕の優秀さを認めずにはいられなかった。子供にとって、それは手に入れうる中で最高の名誉だったよ。↲

時々思うんだ。僕はちょっと学ぶのが速すぎたんじゃないかってね——↲



いずれにせよ、その後にあなたと突然挨拶も無く別れて、僕はそれまで知らなかった、監督者という人々の命令を聞かなくちゃならなくなった。↲

僕は彼らの間に席を得て、実際は何もできないくせに、名目上は正常性の守護者になった。↲



じゃあ、覚えてる? 監督者達が初めて君に命令を下す前に、私が何と言ったか。↲

......考えさせて。↲






"良い子でいなさい。"↲






そうよ。実際、君が望めば、何だってできるの。でもそうはしなかった。↲

それが理由じゃないの?↲

......そうかもしれないね。きっとあなたの言う通りなんだろう。これについてはね。↲

......それなら、僕は良い子だった? ↲

ええ、よくやったわ。母親として、君を誇らしく思う。↲

......↲

でも、"良い子"とは、君がいつも言うことを聞かなくちゃいけないって意味じゃないのよ。↲

君はもう成熟して、十分優秀よ。君は既にそうなっているんだから、もう誰にもそれを証明する必要は無いわ。↲

君は、君が誰で、誰になるべきかを決めてもらう必要はないの。宿命に従う必要もないし、宿命について考える必要すらない。↲

君は君自身。君のやりたいことを全てできるのよ。↲

僕は自分の仕事を放り出せないよ。僕はまだ財団のO5-3で、どんなミスでも取り返しのつかない結果になりかねないんだ。↲

君自身はこの問題の解決法を知っているんじゃないかな。既にシミュレーションで君がしたいことを無数に繰り返しているんだもの。↲

君が心の中で望むことに耳を傾けるだけでいいの。でも、一つ注意して。↲

君が何をしようとも、それは全部君自身がそうすることを願い、君自身でいることを選ぶ自由があるの。↲

君は、自分自身の望んだ方法で、君自身を定義できるし——↲

——自分の名前に、意味を持たせることもできる。↲

......↲

うん、分かった気がする。↲

ああ、それなら......↲

現実の私がこの場所で残した最後のものを、君に渡す時が来たようね。↲

なに? ↲






待って、管理者クリアランスを僕に渡すの? ↲






これは1994年に計画してたことよ。やっと実行する機会が来たわ。↲

こうすることで、私もようやく自分の過ちを正すことができるの。↲

......だめだ、待って。あなたは最初に自分の生体情報をアップロードしたのも、計画なら——↲

......わかってるよね。そうしたら、災厄を引き起こす結果になるかもしれないって? ↲

......特に、僕の決定がずっと、僕の非合理性の影響を受けてるってことは、わかっていたよね? ↲

そうね。ずっとわかっていたわ。↲

でも、私の子供は一度も間違っていないと信じている。↲

私たちが話し終わった今まさに、私はなおさらそれを確信したわ。↲

......それが全世界を危機に陥れるかもしれなかったとしてもね。↲

最後まであなたは無責任なんだね。↲

そうよ。私は最後になっても自分のこの悪癖を治せなかったのかもしれないわね。↲

この件については、君は私よりももっと上手くやらなければいけないわ。↲

あなたは、それをすれば自分の命が奪われることを知っていたはずだ。監督者たちがあなたを警戒しているのは、十分わかっていた。↲

どうして? ↲



今、君はもう完璧Paragonなの。答えは自分で分かるはずよ、ぼうや。↲



......うん、どうすべきか分かったよ。↲



ありがとう、お母さん。↲

ドキュメントログ

RECORD-S-1073741824

データソース: グリーンランドヌーク64°11'N 51°42'W

タイムスタンプ: MTc2NDUxOTE4MQ==

ドキュメントタイプ: ドキュメント; ドキュメント状態: 完全


財団全構成員各位:

過去二年間にわたって、諸君と肩を並べて戦い危機を乗り越えてきた、それを見られたことを喜ばしく思う。この二年間、諸君の努力により、終焉の中にあっても人類に食料、交通手段、そして安全保障がもたらされ、人類は終焉の中で生き延びることができた。

災厄の終息した今、人類には共に歩む仲間がおり、更に広大な生活空間がある。我々は百五十万年前に最初に火を使った祖先のように、かつて我々がヴェールの後ろに隠してきたあらゆるものを勇敢に活用し、全世界に目を見張るような変化をもたらした。歴史はかつて我々の犯した過ちを証明したが、我々にはそれを正せることも証明した。我々は宿命に束縛されたことなどない、自ら宿命を書き記す者なのだ。我々は自分達自身のやり方で、三千世界に我々の足跡を残すだろう。

財団は自らの使命を果たし続ける。そして諸君は我々の往く道で決して欠かすことのできない重要な力だ。

財団の全構成員、及び財団以外の全人類、並びに我々と志を同じくする同輩種族の協力の下で、我々は今日、ついにこの場で誇りを持って宣言する。

תKクラス"三千世界"終焉シナリオは終息した。それは我々の新しい正常、我々の未来となった。そして財団は過去にそうしてきたように、新たな正常を保護し続けるだろう。

このメッセージは監督者評議会全員(13人)の共同で記され、発布される。

SCP財団 監督者評議会全構成員
サイト-01
2025年12月1日

タスク番号: S-1073741824.sim

時間(西暦): 2098 - 01 - 16

説明: イカロス計画正式始動。

タスク番号: S-1073741824.sim

時間(西暦): 2300 - 01 - 01

説明: 2300カタストロフィーが予定どおり発生。地球人口は急激に90%減少するが、主な人類文明は既に太陽系を離脱していたため、このインシデントが人類文明を覆す程の影響を与えることはなかった。

タスク番号: S-1073741824.sim

時間(西暦): 4000 - 08 - 09

説明: 人類の文明レベルは3.0を公式に突破。約半年後、幻想の遺物効果が惑星Kepler-22Bで再発生する。

タスク番号: S-1073741824.sim

時間(西暦): 10569 - NaN - NaN

説明: 第十二次ラニアケア戦争を生き延びた人類の多くはシミュレーション世界に移り生存している。財団の最後の監督評議会メンバーが意識保存装置に意識をアップロードした後、財団最後の施設と共にオリオン座λ連星に封印される。

タスク番号: S-1073741824.sim

時間(西暦): 2816923 - NaN - NaN

説明: SCP-5814 の効果が炭素化学結合に影響し始める。炭素化合生物は次第に絶滅していく。Laplacite-107b等の106,602個の恒星付近でプラズマ生物の活動痕跡が観測される。

タスク番号: S-1073741824.sim

時間(西暦): 2.829383810393928102 x 10104 - NaN - NaN

説明: 陽子崩壊により、宇宙は既にいかなるマクロスケールの天体も存在し得ない。3,000の宇宙全てが暗黒時代に入る。このうち2,997個の宇宙ではアーキビストの活動が観測される。

タスク番号: S-1073741824.sim

時間(西暦): 6.979134981029380123 x 101012 - NaN - NaN

説明: 宇宙は熱的死状態に入る。



くろまる

くろまる

くろまる


とうとうこの時が来た。↲

時間は既に停止して、光も完全に消失し、死そのものもとっくに死んだ——↲

"僕"の定義そのものだって、意味が全部失われた空間だ。↲

ここにどれくらいいるんだろう? 一日? 一年? 永遠? ......誰にも分からないや。↲

つまり、これからの時間はずっと、ここには僕一人だけしかいなくなるんだろう。↲

でも、少なくとも僕にはまだ見るべきものが残されている——↲

映像ログ

RECORD-REALITY

(映像ログ開始。記録者はサイト-2000内の"天眼"のデータセンターに入る。内部では数十名のエンジニアが慌ただしく、本格稼働直前の"天眼"に最終デバッグを行っている。記録者はここでサイト-2000駐在研究員のアップルトン博士に出会う。)

おはようございます、アップルトン博士。まだデバッグ中ですか?

Dr. Appleton: おはよう。ああ、まだ少し仕事があるが、どのみち明日の今頃にはオンライン上に——

Dr. Appleton: おや。PAR-017じゃないか。ここには仕事をしに来たのか?

ええ。"少年"が明日退職し、今日が彼がO5-3を務める最後の日です。いくつか片付けるべきことが残っています。ところで......

......SCP-2000の076号室にはどう行くのですか?

ドキュメントログ

RECORD-REALITY

データソース: ドイツヘッセン州ダルムシュタット49°55'N 8°40'E

タイムスタンプ: MTY0MTM1NzI1MQ==

ドキュメントタイプ: 映像ログ; ドキュメント状態: 完全


(映像ログ開始。時刻は夜らしく、天候は晴天。撮影地点は研究施設の付近と観察され、会話が閉鎖された門の向こう側から聞こえてくると思われる。)

[身元不明B]: ——マンフレッド、質問させて欲しい。

[身元不明A]: 何だ?

[身元不明B]: もし、もしもだよ......僕達が暮らす世界が実はただの小説や、ゲームの一部だったとしたら、僕達の運命は、他人の頭の中にあるアイデアに過ぎないことになる。

[身元不明B]: 結末は既に決まっている。世界の終わりがやってきて、僕達は結局滅亡する。これ以上何をしたって、結末を変えることはできない。一切合切、何の意味もない。

[身元不明B]: 君はまだ、足掻き続けられるのか?

(沈黙。)

[身元不明A]: やるべきことが沢山残ってるんだ。まだまだ、妻と娘を養わなくちゃならない。オレには、小説家やゲーマーのように実体もないようなものに割く時間はない。そんなもののために足を止める時間は無いんだ。

[身元不明A]: それになあアーノルド。オレは——

[身元不明A]: ——俺はまだお前の目の前に立っている。俺はまだ考えて、まだ"世界が真実かどうか"ってことそれ自体を疑っている。これはつまり、俺はきっと存在していて、ここに生きているんだろう。

[身元不明A]: それだったら、どうして足掻かない?

(沈黙。)

[身元不明B]: そうだね。

[身元不明B]: [笑う] それよりも、コーヒーを飲んだ方が良いだろうね。今夜はこのデータの結果が仕上がって来なくて、また徹夜になるだろうから。

[身元不明A]: そうしよう。俺も一杯やりにいこう。

(二名の研究員はコーヒーカップを持ち、実験室の扉を押し開いて廊下に出て、廊下の曲がり角の向こうに消える。その後、学生の格好をした人物が数名、研究資料を抱えて廊下を歩く。映像終了。)

映像ログ

RECORD-REALITY

(映像ログ開始。記録者はSCP-2000地下施設のホールを歩いている。無数のBZHRが整然と列をなして配置され、何層も密集してホールを埋め尽くしている。O5-2とO5-5が付近で作業を行っている。)

おはよう、ソフィア、モート。どうしてここに?

O5-2: おはよう、少年。ちょっと2000の状態を検査しにね。何しろ明日にはネットワークを統合して天眼に接続するのだから。

O5-5: 退職目前の感想はどうだい?

まぁ、普通だよ。最後の日まで仕事を続けるだけさ。今日もまだやることがあるし。

O5-5: ああ、思い出したわ——

映像ログ

RECORD-REALITY

(映像ログ開始。十二名のO5評議会がサイト‐01の会議室の中に座っており、正面にはO5-3"少年"が使用するカメラがある。)

O5-1: つまるところ、少年ザ・キッド、君は財団の職を辞したいというのか?

うん。"天眼"の開発作業は見るからに終わりが近づいているし、僕はもう、替えの効かない存在じゃなくなった。

O5-1: だが、君の経験は我々にとっては多くの助けとなる。

アーロン、僕はシミュレーションを終えているんだ。僕の助けがいることは全部、あなたたちでもできるよ。

もうかなり長く仕事をしてきたんだ。少し休憩が必要だと思うんだ。これは完全に僕の意志だよ。

僕も前任のアンダーソンさんと同じように、引き際を心得るべきかもしれないと思ってね。

他にも、もっと多くの時間を勉強に使いたいんだ——

人類は勿論、僕自身のことも、僕はほとんど理解できていないような気がしてる。僕はそれにとても興味があるんだ。

O5-1: うむ。

O5-1: 君も分かっているだろうが、辞職後はナンバーを振られて収容されることになる。

うん、それは理解している。

O5-1: 君は我々の一員だ。職を辞した後でも、財団は君の貢献への感謝を忘れない。

O5-1: 将来"天眼"が君の仕事を引き継いでも、私——少なくとも私個人は——それが予想外の状況に遭遇した時は、危機を解決するために君が協力してくれることを望んでいる。

わかった。余力があれば、全力を尽くすよ。

O5-1: それなら、君への収容プロトコルに、何か要求はあるかい? 我々は最善を尽くそう。

僕自身を自分の収容プロトコルの制定に参加させて欲しい。それに、いくつか要望がある。皆に同意してほしいんだ。

第一に、僕の収容室には、外部ネットワークにアクセスできるカメラを設置しないで欲しい。僕は自分の身を守れるし、その点は安心して欲しい。

第二に、僕の収容ナンバーを自分で選びたい。

これまでのシミュレーションで、僕はいくつかのことを間違えていたことに気づいた。もう同じ過ちは繰り返さない。

三千世界の輪廻は、ここで終わりだ。

そして第三に、これはきっとO5-3としての最後の要求になる——

映像ログ

RECORD-REALITY

(映像ログ開始。)

ここだ。

076号室、131829号BZHR

(画像記録は狭く、電子設備に埋め尽くされた部屋を映す。中央には四角形の休眠カプセルが置かれている。記録者は次第に休眠カプセルに接近し、ボタンを押してカプセルの扉を開く。休眠カプセル周囲の液体窒素が放出される。)

SCP-CN-3001

監督者評議会命令

以下のドキュメントはレベル5/CN-3001に分類されます。

クリアランス未取得者の当該ドキュメントへのアクセス・閲覧は厳しく禁止されます。違反者は特定され、協議の上で処罰がなされます。

アイテム番号: SCP-CN-3001

オブジェクトクラス: Thaumiel

レベル5/CN-3001

機密

特別収容プロトコル: SCP-CN-3001の要請により、SCP-CN-3001は中国吉林省延辺州(42°52'N 129°47'E)に建造された専用地下施設内に収容され、施設内部には外部システムと接続された監視機器や通信機器は一切設置されません。小型の原子力発電プラントが周辺に建設されており、SCP-CN-3001の基本能力が必要とする電力需要を満たし続けるために用いられます。アイテム番号SCP-CN-3001はオブジェクト自身により選択されました。

SCP-CN-3001は現在財団ネットワークに接続されておらず、O5-3"天眼ジ・オールシーイング・アイズ"の正常な職務実行が不可能となった場合、緊急状況下における代替手段とするために保存されます。

説明: SCP-CN-3001は財団の先代O5-3"少年ザ・キッド"です。その本質は財団が1994年に導入し使用した自動意志決定管理システムであり、他の付属部品と適合するように改造されたヒトの赤ん坊をシステムの起動器Firelighter及び決定器Judgeとして用いています。

SCP-CN-3001は財団のほぼ全ての完全自動化システムの配備と運用を担当し、同時に強大な演算能力により与えられた事項のシミュレーションを行い、演算結果と自身の経験を組み合わせて決断を下すことが可能です。理論上、その選択は必ずしも最適な決定とは厳密には一致しないものの、過去の業務においては特に優れた判断能力を示しています。

2023年11月18日、SCP-CN-3001がO5評議会に提出した辞令指令が承認されたことが、そのO5-3としての使命の終了宣告と見なされ、上述の機能は、人間を中央処理装置としない純粋な人工知能システム、すなわち新世代のO5-3"天眼"にただちに移管されました。これと同時に、オブジェクト自身の要望に則り、オブジェクトはSCP-CN-3001にナンバリングされ、元の開発者が所属する財団中国支部に引き渡され収容されました。この状況下において、SCP-CN-3001はO5-3"天眼"の予備バックアップとして保持され、現在は休眠状態で待機しています。

映像ログ

RECORD-REALITY

(約十数分後、記録者は休眠カプセルの傍まで来ると、中から慎重に赤ん坊を取り出す。)

起きる時間だよ、少年ザ・キッド

(記録者が赤ん坊の体をそっと叩くと、赤ん坊は即座に大声で泣き始める。)

僕は生まれつき、本当の意味での人間になることができなかった。でも君にはチャンスがある。

今まで僕が仕事をしてきたこの年月の中で、財団のために多くのシミュレーションをしたけど、それは全部、財団の正常性を維持するという自分の使命を手助けするための問題だった。

だから、僕自身は興味を持っていたけれど、シミュレーションを行う機会がずっと無かった疑問が一つあった。

"正真正銘の人間としての僕は、どんな人生βίοςを送るんだろう? "

今となっては......シミュレーションよりも、現実で実験して自分の眼で見た方が良いと思うんだ。

(記録者が俯き、赤ん坊の額に口づけをする。)

この問題の答えは、君が僕の代わりに探して欲しい。

結局は、僕も自分勝手だ。彼女と同じ間違いを犯したんだ。↲

自分の未練のために、勝手にこの子をこの世界に連れてきてしまった。でも、もう一人の僕なら、きっと理解してくれるだろう。↲

僕がこのことを楽しんでいるように、彼もきっと楽しんでくれるだろう。↲

これは、僕が三千世界のシミュレーションを飛び出してやっと得られた、掛け替えのない経験——↲

——一人の人間としての感覚、自分自身としての感覚は、思ったよりも悪くない。↲


"夜があり、朝があり、六日目になった。天地万物が造り終わった。"↲

それなら......七日目Shabbatも来るだろう。↲

おやすみ、世界。↲

おやすみ、三千世界を超えた少年SCP-CN-3001。↲

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Footnotes
. 訳注: 普通高等学校招生全国統一考試のこと。日本の大学入学共通テストに相当する。
. 訳注: 飛び級に相当。優秀な高級中学校(高校に相当)の生徒の中から選抜され、通常より若い年齢で大学入学の機会が与えられる。
ページリビジョン: 10, 最終更新: 29 Sep 2025 11:03
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