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クレジット
タイトル: SCP-6996 - 赤き月は吠えているか?
著者: Dysadron Dysadron
オリジナル: https://scp-wiki.wikidot.com/scp-6996
訳者: sharkcrash sharkcrash
その他
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SCP-6996。
特別収容プロトコル: SCPデータベース内にある全オブジェクトは、既存または将来のSCP-6996との関係について監視されます。特に関心すべきなのは、異常彩度の増加との相関関係です。識別された全オブジェクトはSCP-6996の分類法に従って分類され、潜在的変化に関して監視されます。
現在、SCP-6996の影響を制限する方法は分かっていません。前記の方法を確立するための研究が最優先されています。誤報活動は、SCP-6996の情動的効果に関連するあらゆる民間研究の信用を落とし、疑似科学として中傷するために行われます。
説明: SCP-6996は"赤"という色です。可視光線のスペクトルの色であるSCP-6996及びその様々な色合いは、約625~700ナノメートルの波長と約400~480テラヘルツの周波数を有します。
SCP-6996は、自身の観察者に異常なほど強い情動反応を引き起こさせる能力を発揮します。社会的条件や特異要因を制御する場合、財団の臨床試験において、SCP-6996への曝露は、怒り、攻撃性、性衝動、不安、傲慢さのレベルを著しく高めることが示されています。
これに加えて、財団データベースの定期的な統計分析は、SCP-6996が不釣り合いなほど大きな割合で、アノマリーと大いに関連していることを明らかにしました。これらのアノマリーの大多数の間では関連性は発見されていませんが、SCP-6996の過剰出現は統計的にあり得ません。これらのオブジェクトは、その異常特質とSCP-6996との間に相関関係があることを明らかにしています。SCP-6996に関連するアノマリーは、暴力Violence、血Blood、力Powerの3つからなるテーマ別要素で構成される分類法によって分類されています。SCP-6996に関連するアノマリーの例には以下が含まれます:
分類法 | SCPオブジェクト | 詳細 |
---|---|---|
暴力 | SCP-093 | このアノマリーを使用すると、暴力的で異常な活動により崩壊した社会に至ります。オブジェクトは赤色に着色されていることに加えて、赤い光を発生させたり、鏡を通過することで、被験者をアノマリーの発生源に導きます。 |
SCP-939 |
発見当初、実体の皮膚は無色半透明であり、その挙動は現在の資料で詳述されているものよりもはるかに温厚でした。音声模倣は周囲の騒音や動物の鳴き声に限られ、爪や歯の大きさは現在の測定値よりも大幅に縮小していました。 収容から数か月後、SCP-939は現在の生理機能、人間の話し声を真似る能力を身に着け、皮膚がSCP-6996の色合いを呈していることが判明しました。これらの変化は、未収容の実体にも同時に発生しました。 |
|
SCP-2851 | 当初、アノマリーの注意を逸らすためのSCP-6996の最も効果的な色合いは、薄紅または珊瑚色でした。時間の経過とともに、明るい色合いの効果は減少し、暗い色合いの効果が増加しました。この一連の出来事は、SCP-2851-1が奨励する暴力性や性的性質の増大と相関しています。 | |
血 | SCP-012 |
"ゴルゴタの丘で"の演奏は、常に聞き取れる"耳障りな不協和音"をもたらしますが、色感覚の影響を受けた個人は、それとは全く異なる経験を報告しています。演奏の結果、その共感覚を有する聴取者は、SCP-6996の様々な色合いで彩られた非ユークリッド的模様の複雑な視覚化を経験することになります。 ほとんどのテストとは対照的に、これらの被験者は、その楽曲を聴くことは楽しい経験であると感じており、被験者は通常、その複雑さと美しさを賞賛します。頻繁に曝露すると、緑色盲の色覚異常やその楽曲を聴いている時に経験した視覚化現象を彷彿とさせる閉眼幻覚が生じます。 |
SCP-5664 | 現在までで、SCP-5664は、財団サイト█個及び従業員███名の喪失の原因となっています。職員は、瀉血は決して正式に認可されたものではなく、喪失したサイトから受け取ったすべてのメッセージは無視されるべきであることを認識させました。 | |
事件KG-14-1 | 血のモザイクを取り除くためのあらゆる努力はすべて失敗に終わりました。血によって覆い隠されたままであるにもかかわらず、モザイクは再びミーム的性質を示し始めました。 | |
力 | SCP-963 | SCP-963の中央に配置されているオーバルカットのルビーは、新しい宿主を迎えるたびにSCP-6996の色合いがより濃くなっています。 |
SCP-4342 | 適切な収容が確立されるまで、SCP-4342のミーム的効果は、SCP-6996の色合いに変化することで大幅に増大しました。 | |
備考 | SCP-6996と緋色の王として知られる実体との関係は、現在調査中です。実体は、SCP-231、SCP-2317、SCP-3838を含む様々な異常オブジェクトと関連しています。 |
SCP-6996の初期調査では、様々な奇跡術のテクスト/聖典に多数の論及があることが発覚しました。その重要性はいまだ確立されていません。
本論文は、1510年頃にマーガレット・シュプレンガーによって書かれました。これは同時代の記録上でその本文に関する言及が初めて記録されたものですが、出版記録は存在しません。放浪者の図書館にある民間伝承にて言及されている人物"偉大なるマーガレットMargaret the Magnificent"との関連性の調査が進行中です。
問12: 全エネルギーの中で、使用者に最高の贈り物を与えてくれるのは何れか?
読者諸君、汝らは頭の中で"主要四大元素"のことをぼんやりと思い浮かべていることだろう。"主要四大元素"の先天的な力を考慮すれば、"火"の留まることを知らない強さと破壊力を過小評価することはできない。その扱いには細心の注意を払う必要があるが、適切に制御すれば、エレメントを魅力的な手段として用いることが出来る。加えて、"火"は便益を与えてくれる — 焼けつくような光が汝の道を導き、熱で汝の体を温め、汝の食物を調理し、汝の傷を浄化する。"火"は、破壊的性質と保護的性質の両方を持っているのである。
アウクスブルクの魔女が、"火"を習熟していたことで、薪の山に縛り付けられ、火をつけられても生き延びたことを我々は知っている。彼女の熟練度は、その参列者に畏怖の念を以て尻込みさせ、その力を披露したことで、後に我々の手法を問いただしたほどだ。だが悲しきかな、彼女の実力は、その首めがけて素早く振り下ろされた教皇の剣を溶かすほどのものではなかった。
異議: ここで、"主要四大元素"に限定して話し合うことは、全人類に生来備わっている自然の力が排除されるということに留意されたい。我々の体に流れる"四体液"について話そう。いずれも我々の健康には欠かせないものだが、生命そのものを生み出すのは"多血質Sanguine"なのである。"血液"は、 魂そのもの(まだ有していれば)を運び、我々の内臓の中で最も神聖とされている心臓を維持してくれているのだ。
"多血質"は人生の中で、最も活力と可能性に満ちている青年期時代が全盛期となる。サンギーヌアーツSanguine Artsの習得者は、直接治療や仲介役としてサキュバスやインキュバスを利用することで、関係を正当化することができない恋人たちに性交を仕向けることがよく知られている。彼らは生命のエネルギーそのものを扱い、このような儀式を通して生まれた子供は皆、魔法の技術そのものに自然な親近感をもたらされることとなる。こういった習得者は、魔法が血を飽和状態にさせるため、しばしば頬が薄いバラ色に染まる。
解: そこで、以下のような命題を立てることとする。我々は、"火"と"多血質"との共通点を明らかにする — つまり"赤"をだ。"赤"は"楽観的Sanguine"な情熱の色であり、"体液"そのものの色でもあるのだ。そのうえ"赤"は"火"の炎と怒りの色でもある。前記の問でも説明したように、全ての魔法は交渉に基づいている。片方の手で与え、もう片方の手で奪うのだ。しかし、"赤"は我々にとって非常に生得的かつ永遠の力であるため、交渉を経ずに、代償なしで提供してくれるのである。このような古代の捉えどころのない術を習得することは容易ではないが、それを求める人間にとってはいつでも利用することができるだろう。なぜなら、"赤"は最初から存在していたからだ。そして、"赤"は当然果てにも存在している。
創世記 2:5-7
"地にはまだ野の木もなく、また野の草もはえていなかった。主なる神が地に雨を降らせず、また土を耕す人もなかったからである。しかし地から泉がわきあがって土の全面を潤していた。主なる神は土のちりで人を造り、命の息をその鼻に吹きいれられた。そこで人は[結果として]生きた者となった。"
注釈: ヘブライ語で、アダム(אדם)という名前は血(דם)に由来しています。אדםから派生した言葉には、土を意味するאדמה、赤を意味するאדוםなどがあり、前述の全ての言葉に結びつきます。上記の抜粋では、'赤い'人間であるアダム(אדם)は、'赤い'地面である"土のちり"(עָפָר מִן-הָאֲדָמָה)から形成されました。
SCP-140の526ページより引用。517~895ページは人間の血で書かれています。
From the (Red/Blood) we come
我ら(赤/血液)より来たり
To the (Red/Blood) we go
我ら(赤/血液)へ向かわん
It is the (Spirit/Creator/Builder)'s (plan/dominance)
それは(霊魂/創造者/建築家)の(計画/支配)なり
We beseech ourselves to march with the (Fire/Red/Wrath) in our (soul/heart)
我らは(魂/心)に(火/赤/憤怒)を持って行進することを嘆願す
We deliver to the daeva (glory/victory)
我らダエーワに(栄光/勝利)を捧げん
調査は進行中です。
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SCP-6996の追加情報:
SCP-6996は、多数の財団職員の死や重傷に関連していると考えられています。明白な光源のないSCP-6996の色を呈する明るい光が、前述の性質によって引き起こされた様々な事象で観察されました。これらの発光現場において可能なものを調査したところ、現実の極端な変動を示すヒューム値の残余が見られました。これらの事例の要約ログは以下に概説されています:
人物 詳細エージェント・アレクサンダー・パパドプロス エージェント・パパドプロスの切断手術が終了したとき、手術室の照明が一瞬SCP-6996の色合いを呈して点滅しました。その他に異常な現象は特に見られていません。ハドウ下級研究員 監視カメラの映像を調査すると、ハドウ下級研究員の骨盤が砕け、建造物の排水溝に引きずり込まれていくときに、シャワールームのタイルに光が反射しているのが一瞬見えます。MTFゼータ-9 "メクラネズミ"第11内務班 MTFによるバチカン市国のカタコンベにおける最終調査にて、彼らが発見した大きな焚き火が、カメラが切断される前の最後の映像にあたる静止画では、激しく赤の色合いを呈して燃えていました。ロバート・スクラントン博士 SCP-3001内にいる間、ロバート・スクラントン博士は、"ラング - スクラントン安定機"("LSS")のコントロールパネルを用いて自身の経験を記録しました。スクラントン博士は、パネルのライトが点滅していることから、LSSのことを頻繁に"レッド"と呼んでいました。LSSのパネルには多数のライトが搭載されていますが、どれも赤く光りません。しかし、スクラントン博士と共にSCP-3001から戻ってきたパネルには、ライトが1つ赤く光っていました。ハロルド・ヴィンセント・オレアンダー元管理官 オレアンダー元管理官の在職期間の終了を取り巻く状況を踏まえると、彼が財団の高齢者施設で基本的な介護しか受けられず、すぐに体調を崩してしまうのは明らかでした。重大な出血性脳卒中を引き起こした際、オレアンダー元管理官を監視している医療機器が誤動作し、機械的に可能な範囲をはるかに超えた高輝度の赤い光を放射しました。セキュリティテープには記録されていた一方で、誤動作したために、この事態はスタッフに知らされることはありませんでした。彼は独り怯えながら死んだのです。このことは、前述のオブジェクトとの繋がりと併せて、SCP-6996は財団と基底現実の両方に対して侵入的かつ悪質な脅威であるという仮説を導き出しています。SCP-6996の発現した場所でヒューム値が変動した考え得る原因として、異次元空間に由来する直接的な侵入行為であることが挙げられます。SCP-6996の調査活動の一環として、プロジェクト・スペクトラムが提言されました。
提言要旨からの抜粋:
SCP-6996の侵入区域におけるヒューム変位を測定することによって、異次元研究部門は、このアノマリーの発生源である世界の源を三角測量したことになると考えています。
異次元研究部門の試作品である異次元転送装置を用いることで、その世界の源にエージェントを送り込み、このアノマリーに関する情報収集、可能性があれば、その無力化を行うことを提案しています。
13対0の投票で、プロジェクト・スペクトラムはO5評議会によって承認されました。以下は探査ログです。
プロジェクト・スペクトラム: 第I部
前書き: 模範的な勤務成績と、先般の敵対的アノマリー及び未知の環境への単独遠征への対応の経験に鑑み、エージェント・エヴァ・セルバンテスがプロジェクト・スペクトラムの最有力候補者として選ばれました。エージェント・セルバンテスにはAISSと接眼カメラのインプラントが埋め込まれていました。
[エージェント・セルバンテスは異次元転送装置の中に入っている。搭乗者ユニットは円筒形であり、エージェント・セルバンテスの寸法に合わせて作られている。このユニットは、大量の機器の中心に位置している。チューブや太い配線がくねるように部屋の床を通り抜けて、地下の発電機につながっている。]
司令部: エージェント・セルバンテス、我々はまもなく転送プロセスを開始する。我々は、君の監視装置からの出力を受信できることに期待しているが、我々との通信チャンネルが機能しそうにないのだ。
[司令部が休止する。]
司令部: そこに何があるか分からんぞ、エージェント。 油断せず、慎重に行動してくれ。
セルバンテス: 了解。準備はできてる。
[司令部は転送手順を開始し、計算された波長に照準を合わせる。機器から耳障りな騒音が発生する。搭乗者ユニットが断続的に光り始める。騒音が激しくなるにつれて、発光具合や光る頻度も激しくなる。]
[エージェント・セルバンテスの呼吸は、室内の温度が上がるにつれて早くなっていく。]
[光はさらに強まり、赤みを帯びてくる。最後に明るい赤色の光が奔流し、エージェント・セルバンテスは部屋から消える。]
セルバンテス: 何…
[数秒間の静止状態の後、眼球インプラントがオンラインになり、送信を開始する。エージェント・セルバンテスは、時折白や黒で彩られ、全体的にSCP-6996の色合いのみで構成された環境に気づく。前方を見ると、エージェント・セルバンテスは地平線の彼方まで伸びている巨大な廊下にいるように見える。]
corridor2.jpg
エージェント・セルバンテスの眼球インプラントからの景色。マウスを合わせることで拡大。セルバンテス: こりゃすごい。
[エージェント・セルバンテスを取り巻く境界を構成する色は、絶えず変化している。SCP-6996の様々な色合いは、エージェント・セルバンテスに振り子のように向かったり遠ざかったりして、発光を強めたり弱めたりしている。廊下の境界は半透明で、漠然とはっきりしない輪郭が向こう側に浮かんでいるのがわかる程度である。エージェント・セルバンテスは振り返り、周囲の状況を確認する。]
セルバンテス: うわ-
[彼女は吐き気を催し、前かがみになって赤く輝く床に身体を押さえる。]
セルバンテス: 大丈夫。ただの乗り物酔いだ。
[立ち上がった後、エージェント・セルバンテスは180度回転するが、依然として廊下は彼女の真正面にある。]
セルバンテス: 司令部、これを受信できてることを願う。オーロラのように見えるけど、全体的に赤の色合いで構成されてる。スーツの読み取り値は正常 — 空気は私達の世界のそれと似ているけど、今はまだヘルメットを外す危険は冒せない。それに次元が合ってない。ほんの少し向きを変える度に、完全にぐるっと回ってしまう。左右に動こうとすると…
[彼女は左に進むが、景色は変わらない。右に進んでみても、やはり変化はない。]
セルバンテス: どこにも行けそうにない。あとは…
[エージェント・セルバンテスは廊下を一歩前へ踏み出す。]
セルバンテス: 前進あるのみ。
[セルバンテスは10分間進み続けるが、廊下は延々と続き、終わりが見えない。]
セルバンテス: 今までのところ、敵対的であってもなくても、いかなる勢力の痕跡も見られない。もっともこの空間の外側では何かが起こっているし、形や動きも見える。何かは分からないけど、何かがそこにいるんだ。
[エージェント・セルバンテスはさらに進み続ける。スーツに組み込まれた距離計は、移動した距離が0mであることを示している。エージェント・セルバンテスが廊下を移動しているのか、それとも廊下が彼女の周りを移動しているのかは不明である。]
セルバンテス: 外の環境が明るくなってきたみたいだけど、あれは...お母さん?
[エージェント・セルバンテスが右側の膜を見つめる。そこから病院のベッドに座っている女性が見える。その隣には男性が立っていて、女性があやしている赤ん坊を見下ろしている。その場面全体が膜を介して赤く染まっている。境界にある赤が渦巻くことで、時折その場面の詳細が不明瞭になる。]
[しばらくの間、エージェント・セルバンテスは何も反応しない。彼女は右に進んでみたり、歩いたり、小走りになったりして、膜に体を押し付けて近くで見ようとする。]
セルバンテス: 司令部-
[声が割れて、わざとらしく咳き込む]
セルバンテス: 司令部、この環境は廊下の膜を通して見えるようになってる。それは —それは私の両親を映してる。何でこうなってるのか分からない。これは何らかの陽動作戦、もしくは心理的に弄んでいるだけかもしれない。続けさせて。
[セルバンテスは、しばらくその場に留まってから進行する。彼女はさらに7分ほど歩き続け、再び立ち止まる。彼女はもう一度、廊下の境界を見る。3~4歳くらいの子どもが、レジャーシートの上でイチゴを食べており、背景には遊び場や木々が見える。]
strawberry.jpg監視装置によって撮影された画像。
セルバンテス: それは私に…私を見せつけているんだ。私はこれをよく覚えてる、のかな?いや、この日のことは覚えているかもしれない。私がその記憶に対してどう感じるかに影響していないし。あれは弟の2歳の誕生日だった。私達家族は、道路の端にある公園に行った。クリスマス直前にお父さんが失業したから、あまりお金が無かった。私はイチゴをたくさん食べ過ぎて、お母さんに"イチゴになっちゃうかもよ"って言われたんだ。良い一日だった。
[沈黙のまま20秒経過。]
セルバンテス: 何でこれがここにあるのか分からない。それはもしかしたら私の頭の中にあって、私の考えや記憶を読んでいるのかも。
[エージェント・セルバンテスは背を向けて先に進み、次の場面で立ち止まる。子供が戸口の前に立って手を振っている。]
セルバンテス: 初登校の日。大抵の子供はそれを不安がっているのは知ってるけど、私はとってもワクワクしてた。お父さんは学校まで送ってくれたし、私はほぼ全速力で門に駆け込んでた。
[場面が拡大され、学校や校庭の様子が映し出される。片方の手で手を振り、もう片方の手で涙を拭う女性に向かって手を振っている子どもが見られる。]
セルバンテス: わ、私を送ってくれたのは確かにお父さんなのに。
[次の110分間、エージェント・セルバンテスは廊下を進む。彼女は道中に映し出された自身の人生における様々な場面(初めての友達作り、誕生日パーティー、学校の授業、遊び場での口論、勧誘の拒絶、居残りなど)を語る。]
セルバンテス: なんでこれを見せられているのか分からない。司令部、わ、私は何もできないけど、前に進み続けるよ。
[エージェント・セルバンテスは移動し、10分後に次の場面に到達する。子供時代の彼女は、教会の会衆席に座っており、彼女の兄と父の隣にいる。3人とも黒い服を着て泣いている。]
[彼女は一歩を踏み出す。場面が次のように変わる: 家に戻ると、黒い服を着たままの子供が1人でベッドに横たわっている。彼女は静かに天井を見つめている。彼女の父親が部屋に入ってきて、彼女の横に座り、手を差し伸べた。彼女の父親は自身の子供にイチゴのボウルを差し出す。]
[エージェント・セルバンテスは、ここで5分ほど間を置いてから進む。小児期の記憶を示すと、思春期のものへと場面が変化していく。]
セルバンテス: 私のファーストキス。
[2人のティーンエイジャーが映画館の座席に隣り合って座っている。]
Cinema.jpg監視装置によって撮影された画像。
セルバンテス: 彼はかくし芸に挑戦してたけど、途中で緊張しちゃって腕を引いちゃった。そこで、私は、彼がポップコーンを掴むのを待って、彼と同じことをした。箱の中で彼の手と触れ合ってた。私は15で、三週間後には別れたけど、まあ良い体験だった。
[それから3時間、エージェント・セルバンテスは廊下を進んでいく。そうするうちに、彼女の人生における様々な場面(高校卒業後、軍に入隊して初めての勤務内でのこと、財団に採用されたことなど)が膜を介して映し出される。これら全てを通して、エージェント・セルバンテスは解説と彼女自身の回想を提示している。いくつかの場面では、彼女の回想と膜を介して描写されたものが異なっている。]
セルバンテス: もうすぐで初めての任務の場面に到達するはず。単純なやつだったけど、いきなり難しいことをやらせなかったことに文句は言えなかった。SCP-5889のせいで、ある運転手がオーランドのダウンタウンで自分の車を衝突させて、悲鳴を上げながら通りを走り抜けてった。その後はまあ普通に捜索、記憶処理、解放って感じ。
[4分後、エージェント・セルバンテスは、自身が説明した内容を描写した場面に遭遇する。]
セルバンテス: ほら言った通りでしょ — あなたがまだそこに居ればの話だけど。隊員たちは"君はこの最初の任務のことを一度も忘れることはないだろう"とか言ってたけど、私はこの任務がいかに単純だったかしか覚えてない。他の隊員の1人が、帰り道で実際文句を言ってて-
[エージェント・セルバンテスは話を中断する。場面の映像が振動・崩壊し、突然完全に消滅する。場面が別のものに置き換えられる。エージェント・セルバンテスと彼女の所属するMTFが、武器を引き抜いて未知の場所にある通りを駆け抜ける。]
セルバンテス: こ、こんなの知らない。
[この場面では、エージェント・セルバンテスは武器を構えて、前方の大きな甲殻類のような実体に向けて発砲している。それは金切り声を上げ、彼女に向かって突進する。すんでのところで彼女がその進路から飛び出したため、壁に衝突してしまう。同様の実体が部隊に接近しているのが観察される。]
[エージェント・セルバンテスは廊下の縁から後退しようとするも、その次元的特性により、その場に留まる。]
セルバンテス: こんなの全く見覚えがない。この任務も、あの場所も、あの生き物も、全部知らない。
[この場面は上に動き、視界から消え、元のオーランドでの場面に置き換えられる。]
セルバンテス: 私は一度たりとも記憶処理されてない — されてないと思う。
[何の前触れもなく、万華鏡のように様々な場面が廊下の外側を中心にあらゆる角度から現れる。エージェント・セルバンテスの視線がそれらの間を行き来する。]
セルバンテス: な...何が起こっているのかよくわからないよ、司令部。
[彼女は前進し続ける。そうすると、廊下の膜を介して映して出されるのは、もはや単一の場面ではなく、無数に移り変わる、時には食い違う場面である。]
Site.jpg監視装置によって撮影された画像。
セルバンテス: これ見覚えがある。私には1年間サイト-43に転勤するか、アメリカ南部にフィールドワークの拠点を置いて留まるかの機会が与えられてた。私は前者の方にした。そのサイトじゃあ、セキュリティポリシーとかプロトコルを見直してくれる人材を探していたから。いつもと何か違うことに挑戦するチャンスでもあったし。
[廊下の膜を介して、エージェント・セルバンテスがオフィスでサイト管理官と話しているのが見える。]
セルバンテス: でも、葛藤はあった。年末にMTFにいかに容易に復帰できるのか、自分にはまだそこまでのスキルがあるのか、そこで耐えうるだけの力があるのか、私には分からなかった。
[この場面のバリエーションが、廊下の様々な場所で何度も映し出される。同一のものもあれば、違いがあるものもある。 同じものもあれば、家具が微妙に変わっていたり、エージェント・セルバンテスの外見が一貫していなかったり、サイト管理官が全くの別人だったりなど、違いがあるものもある。]
[エージェント・セルバンテスは歩き続ける。場面はサイト-43での彼女の時間を映すように変わるが、1つ例外があり、彼女はそれを観察するために立ち止まる。]
[エージェント・セルバンテスと以前の場面で登場したMTFは、森林の地形を横断している。夜間でのことである。彼女らは隊形を組んで、雑木林に囲まれた洞窟に近づく。何の前触れもなく、ターコイズ色のフォード・アングリアの車が洞窟から直接MTFに向かって加速する。]
forest.jpg監視装置によって撮影された画像。
[部隊は隊形を崩してその進路から飛び出し、車を辛うじて避ける。後者はハンドブレーキを強くかけて、並木の後ろに隠れ、MTFが放った一斉射撃を回避する。]
[運転席の窓から人の手がはみ出している。エージェント・セルバンテスが武器を構えて狙いを定める。エンジンの悲鳴が大きくなる。]
[もう1台の車両(赤く塗装された同じ車両)が、その反対方向からスピードを上げてMTFに接近してくる。そのことに気づくのが遅かったため、車はエージェント・セルバンテスに直撃する。]
[空中に放り出された彼女は、ぬかるんだ地面に落ちた音を立てて着地する。]
[その場面は徐々に消えていき、赤色に着色された集合体に変わっていく。]
セルバンテス: わ-
[エージェント・セルバンテスは全速力で廊下を走り始める。彼女がそうしたことによって、場面が飛び交い、よく見えなくなる。彼女は呼吸を整えるために時折スピードを落とし、再び全力疾走する。]
[数時間後には、廊下の膜を介して映し出されていた場面が輝度を増し始め、描写内容がより均一になる。それらは、エージェント・セルバンテスにプロジェクト・スペクトラム及びSCP-6996についての話を持ち掛けられ、この任務のための訓練を受け、異次元転送装置に乗り込む様子が描かれている。]
セルバンテス: そこには終わりがあるはず。廊下には終わりがあるはずなんだ!
[場面間における逸脱は、エージェント・セルバンテスが廊下へ到着し、その先を進んでいく様子が映し出され始めるとなくなっていく。廊下の膜は薄くなったように見える。場面はより鮮明にはなったものの、未だに赤く染まっている。]
セルバンテス: 確実に終わりはあるんだ — 遠くに赤い塊、しこたま赤がある。それが何なのかは分からないけど、"何か"がある。
[場面は、エージェント・セルバンテスが廊下を進むよりも速く進み、最終的にはエージェント・セルバンテスの動きと同期し、リアルタイムで彼女の人生を映し出していく。彼女は視線を左に逸らし、自身が左に視線を逸らしている場面を見る。]
[それから彼女は右に視線を逸らし、自身の別の場面を見る。しかし、この複写は左を見ているため、エージェント・セルバンテスと直接視線が合ってしまう。後者は慌てて視線を前に戻し、移動を続ける。]
セルバンテス: 私はここにいる、司令部。最果てにいる。
[エージェント・セルバンテスはその場に立っており、彼女がそうしている場面に囲まれている。彼女の目の前では、廊下の折り返しが一点になっている。この地点には、高さ数メートルの大量に渦巻いている赤い物質がある。]
[彼女は腕を上げて前に手を伸ばす。彼女の手が問題の物質の中に滑り込み、周囲に波紋が広がる。しばらくしてから手を引くと、入れたときと同じように波紋が広がる。]
セルバンテス: もう進むしかない。
[エージェント・セルバンテスは一歩前に出て、問題の物質の中に身を沈める。彼女は廊下を抜け出る。]
[エージェント・セルバンテスが光のない空間に入ると、眼球インプラントが調整される。彼女は足場を見つけられず息をのむ。彼女は暗闇の中を下に向かって落ちていく。]
プロジェクト・スペクトラム: 第II部
[エージェント・セルバンテスは4分間、虚空の中を落ちる。この間、彼女の呼吸以外何も聞こえない。]
[彼女は落下の途中で突然止まり、地面に着地したと思われる — が、何も見えない。彼女は立ち上がり、自身とスーツに損傷がないかチェックする。落下時間が長かったにもかかわらず、彼女は無傷であった。]
セルバンテス: 司令部、まだ聞こえてくれていることを願う。私は新しい空間に入って、もっと自由に動けるようになったみたい。
[彼女はスーツのライトを点灯させるが、ライトは周囲をほとんど照らすことができず、目に見えるのは暗闇だけである。彼女は身体を回転させて周囲を見渡す。]
セルバンテス: 何も見え-
ORB.jpg監視装置によって撮影された画像。
[エージェント・セルバンテスが話を中断する。身体を一周させると、彼女の視界に大きな物体が現れた。赤く輝く、同じ色の物質で構成された大きな球体が遠くに見える。]
セルバンテス: 司令部、私は遭遇してしまったみたいだ…何かに。それが何かは分からない。それは巨大で、球形で、もう驚かないけど、赤い。これまで見てきた中で一番深くて、暗い赤。見てると目が痛くなってくる。
[球体は空中でぶら下がっているかのように静止している。それは何らかの液体で構成されているようであり、底からは常に液体が滴っている。にもかかわらず、球体は質量を失っていないようである。床に液体が滴り落ちると、液体は赤いもやとなって消散していく。]
[エージェント・セルバンテスは前進し始め、スーツからΩ-5エナジーライフルを取り出す。]
セルバンテス: 交戦開始。
[何の前触れもなく、球体が鼓動し始め、音が聞こえてくる。]
不明: エヴァ。
[エージェント・セルバンテスがライフルを構える。]
不明: ようこそ。
[球体の鼓動が加速し、急激に膨張し、液体が空中に噴出してある形を成す。球体が鳥の形に変化するにつれて、虚空全体が赤い光に包まれる。]
不明: 何故あなたはここに来たのですか?
[エージェント・セルバンテスが引き金を引くと、ライフルの先端から光線が発射される。光線は球体に衝突して跳ね返り、暗闇の中に消えていく。]
セルバンテス: あんたがしたことを見てきた。あんたが引き起こした苦痛を。廊下の仕掛けが何だったのかは知らないけど、効果なんてなかった。
不明: 苦痛?
セルバンテス: 死と破壊のどこにでもある赤。拷問でも、障害でも。
不明: 私たちはそこにいました。ですが、それを引き起こしてなどいません。
セルバンテス: どういうこと?
不明: あなたは全体を見ていない。収集した情報の極一部だけを見て、それが真実だと判断したのです。とても人間らしいことではありますがね。
[球体は上に向かって伸び、多脚の節足動物の形を成している。]
セルバンテス: じゃあ、私は何を見逃したのか教えて。
不明: 私たちは教えてはなりません。ですが、あなたにお見せすることはできます。
[環境全体が急速に赤色に包まれる。エージェント・セルバンテスの目の前に様々の映像や場面が点滅し始める。]
[切られる臍帯。]
[赤らめて微笑む顔。]
[赤いポップコーンの箱の中で触れ合う手。]
[イチゴが入ったボウル。]
[赤色が薄れ、エージェント・セルバンテスは元の環境に戻る。球体はまだ存在している。]不明: 赤は苦痛です。赤は悲哀です。ですが、赤は愛でもあります。赤は喜びです。そして何よりも、赤は情熱なのです。あなたは、あなたの財団は、苦痛に気を取られて目が見えていなかったのです。苦痛だけが見えていた。あなたはずっとそれだけに焦点を当てていたのです。
[球体は細長くなり、魚のような外見になっていく。空間を泳ぎ回り、エージェント・セルバンテスの周りを泳ぎ始める。エージェント・セルバンテスは武器を下ろす。]
セルバンテス: あんたは誰?
不明: あなたは家に帰りません。
[エージェント・セルバンテスは沈黙する。]
不明: それを知っているでしょう。
セルバンテス: な…何が言いたいの?
不明: あなたは何故ここへ入ることはあなたの人生に含まれているのかと尋ねました。それは、あなただからあなたなのです。他の方が来ていれば、見せていたのかもしれません。しかし、それはあなたでした。
セルバンテス: それは答えになってない。
不明: あなたは家に帰りません。それを聞いて、帰る家なんてなければいいと思いますか?
セルバンテス: 絶対にない!
[球体は再び形を変え、音楽記号のような形になった後、球状に戻る。]
不明: 全ての情熱や意義のある瞬間には価値があります。全ては記録され、観察され、記念されなければなりません。悪いものがなければ、真に良いものを評価することなんてできません。これが、私たちが見せようとしていたものです。これこそが私たちの役割なのです。私たちは、過去にあったもの、あり得たかもしれないもの全てを記録します。それが、あなたが廊下で見たものです。あなたは、あなたの全ては、あなたに内在する赤を持っているのです。
[球体は強烈に明るい光を放つ。エージェント・セルバンテスは両手を上げて視線を落とす。スーツを通して、特に心臓を中心に温かく赤い光が見られる。]
不明: あなたは家に帰ることはありません。しかし、あなたの命、あなたの赤の価値は、昔も今も変わってはいないのです。
[エージェント・セルバンテスはしばらく応答しない。周囲の暗い部分が柔らかな赤色に輝き始める。]
セルバンテス: 私は家に帰らない。
不明: その通りです。ですが、あなたはここにいるといいでしょう。
セルバンテス: 私はどうなるの?
[輝きは強まり続けている。]
不明: 私たちは知りません。まだ生きていないものを見ることはできませんよ。しかし、あなたは座ることができます。そして見ることも、観察することもできます。
セルバンテス: ちょっと怖いかな。
不明: そうすることはありませんよ。それが目的ではないのですから…
セルバンテス: 旅の方が大事ってことだ。
[赤色に染まった環境から球体を識別するのが困難になる。エージェント・セルバンテスのスーツの読み取り値は全て正常である。]
不明: あなたは最初に何をご覧になりたいかご存知ですか?
セルバンテス: 思うに私は…
[エージェント・セルバンテスは自身の手を見下ろす。強まり続ける赤色の中で、彼女の手のひらにイチゴの形をしたものが見える。]
RED.jpgエージェント・セルバンテスの通信機器から送信された最後の画像。
[[信号喪失]]
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"SCP-6996" by sharkcrash, from the SCP Wiki. Source: https://scpwiki.com/scp-6996. Licensed under CC BY-SA.
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ファイル名: Hewlett Foundation office building, interior
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