SCP-625-JP
アイテム番号: SCP-625-JP
オブジェクトクラス: Euclid
特別収容プロトコル: SCP-625-JPはサイト-8169にて標準大型哺乳類収容プロトコルに従って収容してください。飼育管理担当職員には最低2名を割り当て、SCP-625-JP全個体の飼料の摂食量との体調を記録させてください。収容エリアおよび開放エリアには10km2ごとに電圧感知素子および低周波集音機を設置し、研究担当職員はSCP-625-JPの発した信号の記録を行ってください。既知のパターンでない信号が確認された場合には主任担当者と飼育担当者に報告し、要因の調査を行ってください。
SCP-625-JPが寿命またはそれ以外の要因で死亡した場合、SCP-625-JPらによる"合唱"が終了したことを確認してから適切な死体の処理を行ってください。
説明: SCP-625-JPはアジアゾウ(学名: Elephas maximus)に似た外見を持つ大型の草食哺乳類の総称です。収容初期の1970年代には31頭が収容されていましたが、寿命により個体数を減らし現在は11頭を収容するのみとなっています。残った個体もそのほとんどが高齢であり絶滅の危険に晒されており、財団の調査では野生のSCP-625-JPは完全に絶滅したことが確認されています。SCP-625-JPの生態は一般的に知られている象のそれに準拠しますが、その体構造に2点の異常性が確認されています。
SCP-625-JPは頭部前面に巨大な眼球状の器官を備えていますが、この器官に視力は存在しません。解剖の結果、この器官は前頭葉が発達し露出したものと判明しており、後述のSCP-625-JP同士の信号によるコミュニケーションを行なうために脳が発達したと考えられています。更にSCP-625-JPは脚部付近に発電細胞を持ち、発生させた微弱な電気を信号として地表に流すことで個体同士のコミュニケーションに用いることが挙げられます。通常の象が鳴き声による低周波を足裏で感じ取りコミュニケーションを取るように、SCP-625-JPは足裏の神経細胞によって他のSCP-625-JP個体の発した電気信号を約30kmの距離から感知することが可能です。
SCP-625-JPが時折発生させる電気と音波の混合信号は、SCP-625-JP以外の生物には五感に作用する幻覚として知覚することができます。この現象を便宜的に"歌"と呼称します。"歌"を知覚した被験者は、「周囲の風景が一瞬にして変わり、まるで別の場所に移動したように感じた。風や雨が当たる音や感覚、空気の匂いや味まで感じられる」と証言しています。この"歌"は人工的に再現可能であり、電気信号と低周波音波の混合音波が催眠術のように働きかけ、生物としての原初的な記憶を呼び起こすことで幻覚を見せているものと結論付けられています。この技術を用いることで、財団の所持する無力化装置や対音響兵器などの開発に更なる進展が期待されています。
"歌"を発するケースは様々であり、求愛行動や危機の伝達等のほか、SCP-625-JP自身の感情によって様々なパターンの"歌"が発せられます。興味深い点としてSCP-625-JPは高い社会性を有しており、群れの中に子孫が生まれた時や個体が死亡した時などには対象の周囲にSCP-625-JPが集合し"合唱"を行うことが確認されています。この"合唱"時にはより強く幻覚を感じられることが確認されているほか、被験者からは「非常に心地よい」「不安感や悩みが消える」といった証言が得られています。
以下はSCP-625-JPの"歌"を記録した表です。
実験記録A-625
対象: SCP-625-JP(識別番号1~11)
実施方法: SCP-625-JPの生態を観察すると共に、発された"歌"を記録する。
結果: SCP-625-JPの発する"歌"によって見えた内容を、そのときの状況と共に下記表にまとめた。
概要 状況 "歌"の情景 危険 SCP-625-JP放牧エリアにて落雷による火災が発生し、現場に一番近い個体が発した。 周囲が薄暗く感じられ、前方の足場が崩れ落ちる映像。高所に対する根源的な恐怖を感じた。 威嚇 新規担当職員が施設管理の為、収容舎内に立ち入った際に発された。 腰部まで達する水流に押し戻される映像。被験者は水の感触や温度、幻覚の水流に押されて倒れこみ、水を吸い込んだときの息苦しさや溺れる感覚まで感じられた。 求愛 オスのSCP-625-JP個体からメスの個体に向けられて発された。 [編集済み] 祝福 財団の収容下で新たに誕生したSCP-625-JP個体に対し、他のSCP-625-JP個体(平均6個体)による"合唱"が行なわれた。1990年代に2回観測されている。 日の出前の明るさの緑色の空から小雨が降り注ぐ映像。雨が身体に当たる感覚はあるものの寒さは感じられなかった。 鎮魂 寿命で死んだSCP-625-JP個体の葬儀と見られる行動で、SCP-625-JP残り全個体による"合唱"が行なわれた。198█年から201█年現在まで計22回観測されている。 快晴の青空と見渡す限りの花畑の真ん中に立っている情景。微風が吹くのを感じ、身体が非常に軽く感じられた。 追記: 200█年、SCP-625-JPの飼育担当のDクラス職員(D-78638)に親愛を示す行動が行われたほか、SCP-625-JP全個体から"歌"が贈られました。D-78638は元・動物園勤務であったことと勤勉な性格が買われ、約10年間にわたりSCP-625-JPの飼育担当を勤めていました。
概要 状況 "歌"の情景 感謝 収容舎に入室したD-78638を取り囲むようにしてSCP-625-JP全11体が"合唱"を行なった。 暖かな日差しと数種の花の香りが感じられた他、多幸感を感じた。 ああ、久しぶりだ、この感覚。やはり私にはこの職が合っている。 — D-78638
下記インタビューはSCP-625-JPの習性の情報についての記録です。
インタビュー記録 625-1 197█/██/██
対象: ██氏
インタビュアー: 屋代博士
付記: ██氏は野生のSCP-625-JPを密猟することを職業としていた。
<録音開始>
屋代博士: では、SCP-625-JPを狩猟していた理由を話していただけますか。
██氏: はい、アレは人間様と同じように祝い事や弔いをやる生き物でして。そのときに彼奴らは"歌"を歌うことはご存知でしょうか?
屋代博士: ええ、そしてその歌に幻覚作用があることも、特に葬式を行なう際の幻覚には快楽が発生することも調査済みです。
██氏: それは話が早いですね。私は快楽目当ての金持ちを相手に商売をしていました。あとは普通の象と変わりませんので、象牙や皮を売り払ったりもしていましたがね。
屋代博士: 死骸を売り払うのにしてはずいぶんと雑な殺し方をしていますね。どれも内臓を引きずり出したような跡や、耳や鼻をバラバラにしたりと......この無数の槍は、抵抗傷がありませんね。死後に刺したものでしょうか。これらは他のSCP-625-JP個体に発見されやすくするための工夫でしょうか?
██氏: いえいえ、そういった理由もあるのですが。アレの、歌の快楽を底上げする方法はご存知ですか?
屋代博士: いいえ。これがそうだと言うのでしょうか?
██氏: 仲間が死んだとき、いや、殺されたときだけですね。その亡骸が惨たらしいほど綺麗な歌を歌うんですよ。私も何度も聞かせて貰いましたが、例えるならば天国、極楽にも昇る気持ちとはまさにこれのことを言うのだと思います。アレを何十匹も歌わせるよりも、もっと凄い衝撃でしたね。
██氏: そしてあの辺りの伝承によれば、無残な姿になった仲間ほどその魂を慰めるために大勢で力強く歌うと言われており、私が実際に試してみたところ、その通りだったということです。
屋代博士: 興味深い内容ですね。ではインタビューを終了します。ご協力ありがとうございました。
<録音終了>
追記: 201█年、SCP-625-JP研究主任の黒瀬博士による実験が行われました。実験内容は下記の通りです。
実験報告書 B-625 - 201█/██/██
担当者: 研究主任 黒瀬
実施内容: 飼育担当職員(D-78638)の死体を激しく損壊させSCP-625-JP群に視認させる。
結果: 通常時の葬儀時の"歌"と比較し音響度████%、幻覚強度███%の"歌"が総勢11頭のSCP-625-JPによって奏でられた。██氏の証言どおり今までに無い規模の歌となった。
概要 状況 "歌"の情景 鎮魂(B) SCP-625-JP全11体が"合唱"を行なった。 眩しく感じられる連続したフラッシュと全身の浮遊感、甘い果実のような香りが脳髄を溶かすような感覚の他、全能感と恍惚感、感動に似た感情を覚えた。 分析: 得られた情報は[削除済み]の開発に大きく貢献するものと期待される。レポート作成後に技術開発部にデータ分析を依頼する。
添付資料
実験計画書 B-625 - 199█/██/██
対象: SCP-625-JP 全個体
実施内容: インタビュー記録 625-1の検証として、SCP-625-JPの死体を損壊させSCP-625-JP群に視認させる。
注記: 近年SCP-625-JPの個体数減少が著しいため、代役として別の実験動物を使用すること。 — 研究主任 屋代
実験方法: SCP-625-JPの信頼が得られ仲間と認識されるまで、動物(アジアゾウを予定)飼育担当職員としてDクラス職員を起用し、接触/交流させる。
付記: 199█/██/██の実験より、ゾウを含む他種動物のほとんどがSCP-625-JPに対し忌避反応を示した。また投入された動物も上記計画の条件を満たすまでに寿命が来てしまう恐れがあり、長期の実験で再実験を行なうことも難しいため、確実性を考慮し人間を起用することを提案する。
認可。 — 日本支部理事会