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SCP-5858
アイテム番号: SCP-5858
オブジェクトクラス: Euclid
特別収容プロトコル: SCP-5858は物理的に自己収容状態にありますが、監視活動は行う必要があります。アンブラー自治区から外部への通信は全て検閲され、サイト-24の人工知能DONAによって修正されます。SCP-5858の存在に気づいた人物にはクラス-A記憶処理が実施されます。
このロックド・シナリオに侵入する際、各職員は割り当てられた役を厳守しなければなりません。SCP-5858を退出することを求められた際には、職員は可能な限り手早くかつ礼儀正しくそのようにしなければなりません。いかなる状況においても、SCP-5858に劇場スタッフを装って入場することは許されません。
説明: SCP-5858はペンシルベニア州モントゴメリー郡アンブラー自治区に位置する"the Ambler Theater"です。2018年、当劇場は自発的にIO-ロックド・シナリオに突入し、それ以来17520時間にわたって「欲望という名の電車」を上演し続けています。
ロックド・シナリオ(Locked Scenario, LS)はあるイベント、インシデント、もしくは一連の行動がその理論上の期限を超え異常拡大したときに発生します。これらの現象は時間的ループ(Temporal Loops, TL)と混同されるべきではありません。時間的ループは繰り返される時間区間を作り出すのに対し、ロックド・シナリオでは時間自体は進行し、ただイベントだけが繰り返されます。この効果を実現するため、ロックド・シナリオはしばしば数多くの中核的科学原理を用いてヒトの知覚を改変します。しばしば「心霊現象」や「呪い」と誤解されていますが、財団データベース上の実例としてはSCP-112、SCP-4382、SCP-1337などが挙げられます。これらの文書からもわかるようにロックド・シナリオは非常に危険たりえ、その安全な収容及び解決には適切な理解が必須となります。
ロックド・シナリオには2種類の特徴があります。長期的と不定的、そして静的と発展的です。
- 長期的ロックド・シナリオ(Protracted LS, P-LS)は必ず自発的に終了します。
- 不定的ロックド・シナリオ(Indefinite LS, I-LS)は自発的に維持します。
高感度カント計数機がこれらの判別に用いられます。一般的な長期的ロックド・シナリオはヒューム値の段階的低下を示し、その場が完全に崩壊するとき、または「燃え尽きる」ときに最低値を記録します。不定的ロックド・シナリオはヒューム値の変動がないかあってもわずかであり、解決にはなんらかの外部的手段を要します。
- 静的ロックド・シナリオ(Static LS, S-LS)は一連のイベントを繰り返すのみです。
- 発展的ロックド・シナリオ(Organic LS, O-LS)は制約の中で「発展」します。
これらの違いを野球で例えると、静的ロックド・シナリオではゲームは第9イニングを何度も繰り返すのに対し、発展的ロックド・シナリオではゲームは第10イニング以降も続き、スコアも増加し続けていくことになります。これらの特徴を組み合わせ、ロックド・シナリオはPO-LSとかIS-LSなどと呼ばれます。
- 財団研究記録 | 一般的異常領域およびその挙動について, 第12巻
SCP-5858の直接的影響を受けた人物は演者、舞台係、客を含め87名います。その他のアンブラーの住民も受動的影響を受けており、演劇の不自然な遅延も完全に自然なものと考えています。
SCP-5858-1から1314はthe Ambler Theaterのスタッフで、当該ロックド・シナリオの特有の影響を受けています。これらのスタッフは赤いシャツ、黒いベスト、そして恒常的な全身の振動(見た目はハチドリの羽の動きに似ている)によって容易に特定可能です。すべてのスタッフは速度・膂力・空間認識能力の向上を示しており、平均的人類の限界値の約5倍を記録します。スタッフが日課の職務を行っている際には、その高ペースにもかかわらず、主な目的は「メンテナンス」というロックド・シナリオを果たすことで、外部からの干渉は全て攻撃的に妨害します。
SCP-5858-TLからの抜粋:
==============状況============== | ===========結果=========== |
---|---|
D-8743は有効なチケットを用いてパトロンとしてSCP-5858に入るよう言われる。 | 被験者は入場を許可され、23分にわたり危害を及ぼされることもなく演劇を鑑賞した。この時被験者は咳がうるさいという理由で退出を要請される。 |
D-8911は有効なチケットを持たずSCP-5858に入り、スタッフに入場を拒否されてもとどまり続けるよう命ぜられる。 | 侵入の4分後、SCP-5858-1(ドナルド・ミラー、87歳)がD-8911を頭上に持ち上げ、階段を3階分駆け下りたのち劇場の外へ投げ捨てた。D-8911は肋骨を6本骨折した。 |
D-9013はSCP-5858にスタッフとして入場するよう言われる。 | [データ削除済] D-9013は現在SCP-5858-14に指定されている。この時点で試験は中断された。 |
現時点で、全ての被験者は何らかの違反行為によって最長でも3時間以内に劇場を退出させられています。 2020年2月15日、機動部隊カイ-5"ニュートンのいじめっ子たち"が当該アノマリーの収容/無力化を目的として派遣されました。
探査ログ1 - SCP-5858
日付: 15/02/2020 | 11:14
場所: Ambler Theater / SCP-5858
機動部隊: カイ-5 "ニュートンのいじめっ子たち"
サイト-24: カイ-5、こちら司令部。応答願います。
カイ-5-1|サクサ: 5-1、聞こえます。
カイ-5-2|ヒガシ: 5-2、聞こえます。
カイ-5-3|ヴォルコフ: 5-3、聞こえます。
カイ-5-4|フレッチャー: 5-4、聞こえます。
カイ-5-1|サクサ: カイ-5問題ありません、司令部。シナリオの取り扱い手順に準拠してます。イヤホンの他に装備品はありません。少々心もとありません。
カイ-5-4|フレッチャー: だからホルターストラップじゃなくてハイネックのを着て来いって言ったのに。
カイ-5-1|サクサ: テクノロジーが足りないってことよ、サム。まあ確かに、ハイヒールでミッションに参加するのは変な感じね。
カイ-5-4|フレッチャー: だからタキシードを着てきたのよ。ジェームズボンドの映画に出てるみたいだわ。
カイ-5-3|ヴォルコフ: サマンサ、お前スーパーヴィランの召使いみたいだぜ。
カイ-5-4|フレッチャー: つまりあなたの召使いみたいってこと、えっと、「ヴォルコフ」?
カイ-5-2|ヒガシ: 二人とも、そこまでだ。装いは一般人のものかもしれないが、今は任務中だ。
カイ-5-1|サクサ: 彼の言う通りよ。おしゃべりはここまでにしましょう。でもヒガシ、言い換えれば私たちは一般人のふりをしているのよ。あなたにも「ふつうの人」らしくしてもらう必要があるわ。
カイ-5-2|ヒガシ: ああ、キャプテン。
カイ-5-1|サクサ: 頑張りましょう。司令部、接近の準備が整いました。
サイト-24: 了解しました、5-1。あなたたちの目的はアノマリーの発生源を突き止めることです。可能であれば無力化していただきますが、最大限の警戒をお願いします。
カイ-5-1|サクサ: 書類見ましたよ、司令部 - 80代の方にお尻を叩かれたくはありませんね。
サイト-24: そうですね。入場口でチケットを見せ、劇場のパトロンを装ってください。無線の音量は最小にしてください。お気をつけて。
カイ-5-1|サクサ: さあいじめっ子たち、へんてこになりましょう。
機動部隊カイ-5は劇場に通じるメインエントランスに侵入する。チケットブースにはSCP-5858-6(エドウィン・マクアリスター、15歳。2年前からチケットブースに着座している)がいる。他のスタッフと同様SCP-5858-6の頭部もあらゆる方向に高速で旋回しており、一様なぼやけを生み出している。マクアリスターは5-1が接近するとともにそちらへ視線を向け、早口で、しかし明瞭に話し始める。
マクアリスター: (早口で) こんばんはチケットはお持ちですか?
5-1は4枚のチケット(アンブラーにいて劇場に行かなかった者から回収したもの)を差し出す。
マクアリスター: ありがとうございますご承知とは思いますが少々遅れてございます第13153幕の上演はすでに始まっております。
カイ-5-1|サクサ: ええ、すみません。私たちは、その- 渋滞につかまってしまって。
マクアリスター: いえ大丈夫ですよ休憩時間になりましたらご入場ください楽しんで!
カイ-5は劇場に入場する。
探査ログ2 - SCP-5858
日付: 15/02/2020 | 14:35
場所: Ambler Theater / SCP-5858
機動部隊: カイ-5 "ニュートンのいじめっ子たち"
カイ-5-4|フレッチャー: (ささやき声) 司令部、聞こえますか?
サイト-24: 聞こえています、5-4。何も問題はありませんか? あなたの通信音声にハウリングが起こっています。アノマリーが-
カイ-5-4|フレッチャー: ただの反響です。私は、その-… トイレに隠れているので。
サイト-24: ああ- なるほど。わかりました。続けてください。
カイ-5-4|フレッチャー: ほぼ仮定通りでしたよ、司令部 - 時間遅延も視覚歪曲も発生しておらず、ただイベントが進行しているだけです。つまり、古典的なロックド・シナリオです。装備なしではこれ以上のことは言えませんね。サクサとヒガシは-
サイト-24: コールサインを使ってください、エージェント。
カイ-5-4|フレッチャー: 分かっています、すみません。5-1と5-2は最前席付近に着座しています。客は全員シナリオに組み込まれています - 栄養失調に陥ってもいなければ身体の劣化も起こっていませんし、ストレスの兆候もありません。退屈しているようにすら見えません!
劇は「欲望という名の電車」からは離れていっているように見えます。ブランチは数千回前の回で病院から脱走し、現在はモロッコに逃げ延びています。スタンレーはいまだに彼女を追っているのですが、その理由はスタンレーがシェップ・ハントレーに雇われて、ダイアモンドを盗み出したブランチを追っているからです。そのダイアモンドはブランチに超自然的な-
サイト-24: ありがとうございます、5-4。しかしこれが発展的ロックド・シナリオであることはすでに把握しています。
カイ-5-4|フレッチャー: ええ、もちろん。すみません、ただ…びっくりするほど面白かったんですよ! 2年まるまる座り続けられるかはわかりませんが、それでも- いえ、ちょっと待ってください。
こもったうめき声が聞こえる。それに続き、鋭く素早い「ゴツン」という音が聞こえる。
カイ-5-4|フレッチャー: すみません。この男が大人しくしてくれなくて。
サイト-24: 男? どういうことですか? 5-4、何が起きているのですか?
カイ-5-4|フレッチャー: さあ。このアノマリーの発生源を特定できたように思います。退屈そうにしている人がいない、と言ったのを覚えていますか? ヒガシが- すみません、5-2が、退屈そうにしている者に気づいたのです。
サイト-24: それで- その者に接触したのですか!?
カイ-5-4|フレッチャー: なんですって? ああいえいえ、この男はその者の隣に座っていたんです。サ- 5-1がこの男を連れていくよう合図してきたので、トイレまでつけてきたんです。愛想よくしようとしたんですが、いや本当ですよ、それでもこの男はどうしても、どうしても席に戻りたがったんですよ!
サイト-24: あなたは正体が割れないよう命じられています、5-4。これは間違いなく正体が割れています。
カイ-5-4|フレッチャー: すみません司令部、しかしあなたもおっしゃっていたように、我々は急ぐ必要がありました。我々はここにいるべきではないと気付かれています。あのやかましい黒ズボンのバカどもが顔にライトを向けてくるので、鼻もかめないんですよ! これじゃこの劇場という体内の病原菌みたいですよ、そして白血球に囲まれているんです。
サイト-24: しかし、これでは必要以上に危険に-
カイ-5-4|フレッチャー: この状況がどう見えるかはわかっています、司令部。これこそあなたが私をカイ-5に異動させた理由であることもわかっています。我々は問題を解決する者の集うチームですよね? 我々に考えがあります。それは実行されつつあります。
サイト-24: (…) 了解しました、5-4。逐次報告をお願いします。
カイ-5-4|フレッチャー: 了解しました。もうここを出た方がよさそうですね。あの案内係に捕まりたくは-
トイレのドアが破壊され開けられるのが聞こえる。3ミリ秒にわたる非常な速足の音ののち、何者かが個室のドアを激しく叩き、リノリウムの砕ける音が聞こえる。
SCP-5858-3: (早口で) すみませんあなたに苦情が寄せられています出てきていただけますか?
カイ-5-4|フレッチャー: (…) クソ。
探査ログ3 - SCP-5858
日付: 15/02/2020 | 14:38
場所: Ambler Theater / SCP-5858
機動部隊: カイ-5 "ニュートンのいじめっ子たち"
クレア・ワイルド|ブランチ: 私をつけてくるべきではなかったわね、ミッチ - それとも、スタンレーと呼んだ方がいいかしら?
フィリップ・オコンネル|スタンレー: なんだと!? なぜわかったんだ? 俺の変装は完璧だったはずだ!
クレア・ワイルド|ブランチ: あのダイアモンドのおかげでわかったのよ、スタンレー。当然よ、あれはステラのまさに魂なのだから!
5-2は売店を訪れたのち客席に戻り、後列の席に滑り込む。着席したとき、電子音が5-2のイヤホン越しにかすかに聞こえる。
カイ-5-2|ヒガシ: (ささやき声) やあ。
少年(?): (ささやき声) えっと… こんにちは?
カイ-5-2|ヒガシ: そのゲームボーイ、かっこいいね。ポケモンかい? 「赤・緑」は弟とやってたよ。
少年(?): えっと、その、あ、ありがとう… これ… うん、ポケモン…
カイ-5-2|ヒガシ: いいね。ねえ、この劇、すっごく退屈じゃない?
少年(?): だ… 大丈夫。パパとママはこういうとこに連れてくるのが好きなんだ…
カイ-5-2|ヒガシ: パパとママは向こうの方にいるのかい? ずいぶん… 見入っているみたいだね。
少年(?): この劇場がすごく好きなんだ。
カイ-5-2|ヒガシ: 君は違うのかい?
さらに電子音、ボタンを押す音が聞こえる。
カイ-5-2|ヒガシ: まあ、私もさ。私の- その、フィアンセはこういうところに連れ出してくるんだ。彼女は最前列に座ってるよ。こんなところ出られたらいいのにね?
少年(?): う… その… 大丈夫。これでもましな方だから…
カイ-5-2|ヒガシ: なによりましだって? … 大丈夫かい?
少年(?): 大丈夫。
カイ-5-2|ヒガシ: 本当かい? なんなら-
5-2の方へ向かってくる、4人分の素早い足音が聞こえる。5-2及び対象は案内係がいなくなるまで静かになる。
カイ-5-2|ヒガシ: (さらに低いささやき声) 名前はなんていうんだい?
少年(?): (…) ティム。
カイ-5-2|ヒガシ: やあティム、私はヤスオだ。
少年(?): (…) かっこいい名前だね。
カイ-5-2|ヒガシ: ありがとう。ポケモン、やっててもいいよ。ほかの人に言ったりしないから。
これ以上電子音は聞こえない。その後20分にわたり、まるでレコードが飛んだように、全ての演者がどもり始め、セリフを中断してしまう。合間に流れていた音楽も消える。
突如、二名の人物がステージに現れ、現在の物語とは別の演技を始める。彼らの話声は、壁やドアの向こう側から聞こえているかのように、異常なほどくぐもっている。
男(?): じゃあなんだ、俺は友達も作っちゃいけないってのか!?
女(?): ええ、「友達」ね。ダグみたいな?
男(?): そうとも! お前は考えすぎだ! 俺はもうバーにもいけねえし同僚とも過ごせねえ、それもこれもお前が俺を疑って-
女(?): 実際にしたんじゃないの! あなたは-
男(?): それは学生の頃の話だろうが! 俺たちはもう結婚している! 子供もいる! 俺がお前を愛しているってわかってもらう以外にどうすりゃいいんだよ!?
女(?): 触ってもいいわよ、今回だけは。
男(?): ああそうかそうか! 毎日12時間も働いてくたくたになって家に帰ってきて、それをいいことにてめえは俺のことを-
女(?): もういいわよ、もう… またお隣さんに警察を呼ばれちゃうわ。とりあえず… 支度をしましょう。今夜はシェリーの劇を見に行くって、約束してたわよね。この話は帰ってきてからにしましょう。
男(?): (…) ああ。まだ話は終わってないがな。今夜帰ってきたら、この話もそれでおしまいだ。
二人の演者はステージから下がる。聴衆は拍手する。5-2の付近から鼻をすすり上げる音が聞こえる。
カイ-5-2|ヒガシ: なあ… ティム? 大丈夫か-
大きなハムノイズによりマイクからの音が聞こえなくなる。聴衆は席から立ち上がる。ステージから声が聞こえる。
演者(?): みなさま、休憩の時間でございます! ソーダやポップコーンはフロントにてお買い求めください。10分後に第13157幕を開始いたします!
探査ログ4 - SCP-5858
日付: 15/02/2020 | 14:55
場所: Ambler Theater / SCP-5858
機動部隊: カイ-5 "ニュートンのいじめっ子たち"
5-1と5-2はメインロビーで客に囲まれているように聞こえる。付近には二名の高齢のパトロンが立っている。
客A(?): 最後のシーンは息をのむようだったわねえ。あれは何を表現していたのかしら?
客B(?): あれはまたブランチの空想だったのではないかと思うね、第515幕みたいに。どうしてこういう田舎のディレクターってのは劇場にナンセンスを持ち込むことに固執するのかね?
客A(?): まあ、そんなこと言うんじゃないですよ、あなたったら。あなた2か月も前からぶつぶつ言いながら貧乏ゆすりしてたじゃないの! 本当、子供みたい! もうどこにも連れていけないわ(笑う)。
カイ-5-1|サクサ: ヤスオ! 愛しい人! 今までどこにいたの?
カイ-5-2|ヒガシ: (…) ああ… ハニー。その- ええと- ちょっとうるさかったんだよ、ほら、ステージに近かったからさ。だから後ろの方に下がってたんだ。ところで、我らが友のサマンサはどうしたんだ?
カイ-5-1|サクサ: 走って行ったの、心配だわ。かわいそうに、ひどい食あたりになったみたいなの。外に連れていくのに案内係さんが5人も手伝わなきゃいけなかったのよ!
カイ-5-2|ヒガシ: 彼らは大丈夫なのか?
カイ-5-1|サクサ: ええ、その- ひどいことになる前に、歩道の方へ連れていけたわ。
カイ-5-2|ヒガシ: それはよかった。友人と言えば、実は、休憩時間の直前にかなり気になる少年にあったんだ。思うに彼が-
周囲の客が増え始める。複数のカップルが叫びあい始める。
客A(?): いつも貧乏ゆすりばっかり! もうどこにも連れていけないわ! 本当に子供っぽい、最低の役立たずね!
客B(?): 勝手にしろ! もうこんなところにもいたくねえ!
客C(?): いっつもグチグチグチグチ! なんで私がこんなに働いてるか分かってるの!
客D(?): てめえこそ俺がどうしてこんなに働いてるかわかってんだろうな、このアバズレが! なんで俺がこんなクソみてえな家族と暮らさなきゃならねえんだよ!?
客E(?): もう私のこと愛してないんでしょ! ずっとそうだったのね!
客F(?): てめえなんかもう知らねえよ!
カイ-5-3|ヴォルコフ: (雑音交じり) キャプテ- 聞- ますか?
カイ-5-1|サクサ: ヴォルコフなの? クソっ、もう私たちは-
カイ-5-3|ヴォルコフ: (雑音交じり) 案内係が- ! 劇じょ- 客たちが- お互いを- 演者も-
叫び声により5-4のイヤホンからの音が聞こえなくなる
カイ-5-3|ヴォルコフ:(雑音交じり) 囲ま- うるさい- ライトを- こいつら- おい! 止め- 離れ- !
カイ-5-1|サクサ: ヴォルコフ? ヴォルコフ! クソっ。ヒガシ、正体がばれ始めてる。もう戻る必要が-
客B(?): クソ女!
客E(?): 嘘つき!
客C(?): もう耐えられない!
客D(?): 話をしろよ、クソが!
客A(?): (叫び) 近寄らないで!
SCP-5858内の87の個体が突如として静かになり、「ピシャリ」という音が一度聞こえる。86名の人物が床にぶつかる音が聞こえ、静寂となる。
カイ-5-1|サクサ: (…) 何が起こっているの。ねえ、あなた分かる- ヒガシ? ヒガシ、何してるの?
カイ-5-2|ヒガシ: 「ふつうの人」はこうする。
5-2は前方へ歩みを進める。足元でポップコーンの砕ける音が聞こえる。彼が接近するにつれ、マイクから少年の泣き声が徐々に聞こえてくる。
通信が切断される。
補遺 - 15/02/2020 | 15:13: アンブラーでの異常現象はすべて突如として終息しました。SCP-5858内に友人や家族がいたものはパニックに陥りました。時を同じくしてSCP-5858への扉が開き、人々は外へ出ました。多くが道路へなだれこみ、路上で泣き始め、緊張から転倒しました。カイ-5の人員は全員が無事であると報告されました。
補遺 - 15/02/2020 | 15:17: 劇場から最後の三名の客が出てきました。一名の少年が男性と女性の間に立って、両名の手を握っていました。三名は街のメインストリートを最初の交差点まで歩いていったのち抱擁を交わし合い、別々の方向へ少し歩いていき、消滅しました。
補遺 - サイト-24 | モーガン管理官: Neutralizedへの再分類は保留中です。
事後報告 - キャプテン・リュディア・サクサ - SCP-5858
日付: 16/02/2020 | 13:01
場所: サイト-24会議室。
モーガン管理官: あそこで正確には何が起きたのですか、キャプテン?
カイ-5-1|サクサ: すでに報告は提出しましたが。
モーガン管理官: その通りです、しかしまだ-
カイ-5-1|サクサ: 管理官、お言葉を返すようですが、もう終わってしまったことなのです。管理官は私に何が起こったのか尋ね、そして私は完全で客観的な詳細を提供いたしました。
モーガン管理官: (…) つまり、報告するべきことはこれだけということですか? あなたは、5-2があの少年になんと言ったのか、全く聞いていないのですか?
カイ-5-1|サクサ: 私の耳はまだ鳴っているようですよ、管理官 - ご承知だとは思いますが、あの叫び声のせいでです。私は彼が対象に接近するのは見ました。何も聞いてはいません。
モーガン管理官: 分かりました。ありがとうございますキャプテン、これで終わりです。
カイ-5-1|サクサ: 彼は良いエージェントですよ。
モーガン管理官: はい?
カイ-5-1|サクサ: ヒガシです。彼はあきれるほど良いエージェントです - 少々保守的なところはあるかもしれませんが、でも- ええ、そうですね、あなたが今彼を叱責しているのはわかっています。彼があの子に何と言ったのかは知りようがありませんが、しかし管理官、私はそれは正しい理由があってのことだと知っています。
事後報告 - エージェント・ヤスオ・ヒガシ - SCP-5858
日付: 16/02/2020 | 17:16
場所: サイト-24管理官室。
モーガン管理官: お座りください、エージェント。
カイ-5-2|ヒガシ: いえ、お気に障らないようであればこのままで。
モーガン管理官: (…) よろしい。なぜここにいるかは分かっているようですね。
カイ-5-2|ヒガシ: はい、管理官。
モーガン管理官: 通信が切断されていた間、あなたのイヤホンは自動的にハードバックアップモードに切り替わっていました。すべては録音されていました。我々は、あなたがあのアノマリーに何と言ったのか把握しています。
カイ-5-2|ヒガシ: あの子のことですね。
モーガン管理官: あのアノマリーです、エージェント。自分が何をしたのかは分かっていますか?
カイ-5-2|ヒガシ: はい、管理官。私は彼の両親が争っている間、彼と話し合っていました。私にも同じ経験があるという話をしました。私の目には助けを必要としている少年が映ったので、助け出しました。
モーガン管理官: その「少年」が現実改変者だったのです、エージェント。彼はロックド・シナリオを作り出し、86名を2年間にわたり劇場内にとらえていたのです。
カイ-5-2|ヒガシ: 現在は彼らはとらわれておりません。ミッションは成功裏に終了しました。
モーガン管理官: 分かっていないふりはやめなさい。あなたは大惨事を引き起こすことで問題を終結させたのですよ! いまや知性を持った、それも12歳程度の倫理観と論理性しかない現実改変者がこの世界に現れたのです! それでも「成功裏」に見えますか、エージェントヒガシ?
カイ-5-2|ヒガシ: (…) いいえ、管理官。
モーガン管理官: 成人の現実改変者であっても、その能力を僅かでも自覚してしまうことがどれほど危険なことかわかっていますか? 子供ならなおさらです。
カイ-5-2|ヒガシ: はい、管理官。
モーガン管理官: 感情的にほだされ、信じがたいほどに無責任な行動をとったことについて、少しでも言い分はありますか? 何も言うことはありませんか?
カイ-5-2|ヒガシ: 失望いたしました、管理官。GOCを脱退したときには非人間的で滅茶苦茶な組織から抜けられたと思ったのですが。
モーガン管理官は動きを止め、溜息を吐く。
モーガン管理官: あなたを降格処分に処します、エージェント。正式な調査が行われるまで、あなたを機動部隊カイ-5から除名します。需品係に制服と装備品を返却してください。退室していただいて結構です。
エージェント・ヒガシはオフィスを去ろうとする。彼はアーチの真ん中で立ち止まる。
カイ-5-2|ヒガシ: 管理官?
モーガン管理官: 話はおしまいです、エージェント。これから厳しい日々が続くと思いますので、弁解を用意しておいてください。
カイ-5-2|ヒガシ: いいえ管理官、弁解などありません。私は苦しむことになるかもしれませんが、実のところ、そんなことは構いません。私は後悔などしていないということを、分かっていただきたいのです。あんな状況に少年が一人でいて… 彼は手を差し伸べてくれる者を必要としていました。彼ももう問題などないと知るべきでしょう。もしまた同じことがあったとしても、私の行動は変わりません。
エージェント・ヒガシが退室し、背後のドアを閉める。