アイテム番号: SCP-548-JP
オブジェクトクラス: Safe Neutralized
特別収容プロトコル: SCP-548-JPはサイト-81██内の低危険度物品収容ロッカーに収容されています。SCP-548-JPを用いた実験の際はセキュリティクリアランス2以上の職員1名の許可を得た上で、実施場所は外壁に防音加工が施されたサイトー81██の第3中庭に限定します。また雨天時は速やかにSCP-548-JP-Aを発生させてください。
説明: SCP-548-JPは一般で販売されている物と同様のビニール傘です。全体的に細かい傷や汚れなどの経年劣化が見て取れますが、それ以外に外見や構造について特筆すべきものはありません。
SCP-548-JPの異常性は傘布へ雨滴の接触が持続した時に発生します。雨滴以外の液体、水滴では異常性は発生しません。SCP-548-JPの傘布へ雨滴の接触が持続した際に、その水滴と傘布の接触時に発生する雨音はピアノの音色に変化し、その旋律はショパンの「練習曲作品10第3番ホ長調」と一致します(以下、SCP-548-JPを使用している人物を被験者とし、この現象をSCP-548-JP-Aと表記します)。実際に傘布へ水滴が接触し本来の雨音が発生する筈のタイミングとSCP-548-JP-Aが発生するタイミングには、0.7秒から2秒ほどのラグが存在し、その間に音の変換、あるいは一致させている楽曲の旋律に合わせているものと推測されます。室内に入る、天候が回復するなどして傘布への雨滴の接触が中止される、あるいは楽曲を再現できないほど減少した場合、SCP-548-JP-Aは楽曲の途中であっても終了し、雨音は通常のものに戻ります。SCP-548-JP-Aが終了した後、傘布へ雨滴の接触が継続していた場合、SCP-548-JPへ向けて口頭で楽曲のリクエストを行うと、要望に即したSCP-548-JP-Aが発生します。
SCP-548-JP-Aは音響分析の結果、発生する度に僅かながら技術の上達が確認されています。SCP-548-JPへ向け演奏の難易度が高い曲をリクエストした場合、SCP-548-JP-Aは発生しますがその旋律は乱れがちです。しかし、演奏技術が向上するにつれ旋律の乱れは減少し、最終的には完全に原曲の旋律と一致します。また、SCP-548-JP-A終了後、拍手や賛辞の言葉をSCP-548-JPへ向けて送った後、SCP-548-JP-Aのリクエストを行うと、発生するSCP-548-JP-Aの技術上達率が3倍から5倍に跳ね上がり、加えてSCP-548-JP-Aを聴取した被験者はその音色に「嬉しそう」「楽しそう」といった印象を受けます。反対にSCP-548-JPへ向け罵声などを送った場合、次のSCP-548-JP-Aの音色は乱雑なものとなり、場合によってはSCP-548-JP-Aの内容のリクエストを無視します。このことからSCP-548-JPには自我が存在する可能性があります。
SCP-548-JPは19██/█/█に██県█市で発生した交通事故の現場で発見されました。現場検証時に天候は雨だったためにSCP-548-JPの異常性が発露、警察に潜入していたエージェントが担当だったため速やかに収容へ至りました。この時、現場に居合わせた野次馬の一人がSCP-548-JP-Aを聞き肯定的な意見を述べた際、SCP-548-JP-Aの演奏技術が向上しました。当時SCP-548-JP-Aを聞いた野次馬および警察関係者にはAクラス記憶処理を施しました。
SCP-548-JPは被害者であった女性(氏名███、当時10歳)の持ち物であったこと、当時被害者はピアノのコンクールに向かう道中に事故に遭ったこと、「練習曲作品10第3番ホ長調」は彼女のコンクールでの課題曲であったことがわかっています。
第一次実験記録ファイル548
実験記録548-1
担当者: 塚原研究員
内容: D-548-1に、SCP-548-JPへ向け拍手を送った後、「練習曲作品10第3番ホ長調」をリクエストさせる。結果: 発生したSCP-548-JP-Aの旋律は乱れがちではあったが、音色は「楽し気」なものだった。
分析メモ: 上手く演奏できなくても楽しんでいるようです。
実験記録548-10
担当者: 塚原研究員
内容: D-548-10に、SCP-548-JPへ向けた罵声を5分間浴びせ続けた後、「練習曲作品10第3番ホ長調」をリクエストさせる。結果: 乱雑な音色のSCP-548-JP-Aが大音量で発生、D-548-10の鼓膜は破壊された。
分析メモ: 悪意には悪意で返すあたり、人間的な反応が見られます。
実験記録548-31
担当者: 塚原研究員
内容: D-548-31に、 非常に暴力的な歌詞がつけられている曲をリクエストさせる。結果: SCP-548-JP-Aが発生、後半の音色は軽快なものだった。
分析メモ: ジャンルの好き嫌いはないようです。取り扱いに気を付ければ危険性はないと思われます。
19██/█/█ 追記: 初期収容されていたサイト周辺に雨が降らず、SCP-548-JPの実験が一か月中断されました。その後最初の雨天時にSCP-548-JPの実験が再開されましたが、その際SCP-548-JP-Aの著しい演奏技術の低下、及びSCP-548-JP-Aに混ざって本来の雨音が確認されました。その後実験を重ねるごとにSCP-548-JP-Aは以前と同様の演奏技術まで回復し、また通常の雨音は消失しました。また翌年の同時期に雨が降らずに実験が中断、再開された際も同様の現象が見られたことから、SCP-548-JP-Aの特異性は長期間SCP-548-JP-Aが発生されずにいると減衰することがわかりました。このため、SCP-548-JPの特異性を保護する目的で収容プロトコルが改定され、後日、SCP-548-JPの実験が再開されました。またSCP-548-JPは例年安定した雨量を観測しているサイト-81██へ移送されました。
雨天の際は毎回SCP-548-JP-Aを発生させるとなると、重要度が低いとして実施しなかった実験を行うのもありではないでしょうか。最も、重要度が低いので割ける人員は私一人ですが。 ―塚原上級研究員
第二次実験記録ファイル548
実験記録548-42
担当者: 塚原上級研究員
内容: 塚原上級研究員が被験者となった状態で、██助手がSCP-548-JPへ向け、「練習曲作品10第3番ホ長調」をリクエストする。結果: 通常通りSCP-548-JP-Aが発生、被験者である塚原上級研究員は音色に「嬉しそう」な印象を受けた。
分析メモ: リクエストをするのは被験者自身でなくてもよいことが分かりました。また、私一人で実験を行っているときよりもSCP-548-JP-Aの音色に活発的な印象を受けたため、次回から██助手を実験に参加させ、両者の違いによる比較実験も視野に進めていきます。
実験記録548-66
担当者: ██助手
内容: SCP-548-JPへ向け賛辞と拍手を送った後、「練習曲作品10第3番ホ長調」、モーツァルトの「きらきら星変奏曲」を続けてリクエストする。結果: SCP-548-JP-Aが連続して発生、終始音色は「楽しそう」なものだった。
分析メモ: リクエストは複数でも問題ないようです。
実験記録548-106
担当者: 塚原上級研究員
内容: ██博士、塚原上級研究員、██研究員、エージェント・██の4名による拍手と賛辞の後、ベートーベンの「交響曲第5番 ハ短調 作品67」をリクエストする。結果: これまでとは飛躍的に演奏技術が向上したSCP-548-JP-Aが発生、音色は終始「楽し気」であった。
分析メモ: 一度に複数の人間に賛辞を受けると成長速度が飛躍的に向上するようです。
20██/█/█ 追記: 日本列島を覆った大寒波の影響で3か月間雨が降らず、その結果SCP-548-JP-Aの演奏技術は著しく低下し、SCP-548-JP-Aの音量を上回る通常の雨音が確認されました。SCP-548-JPの特異性を保護するため、20██/█/█、サイト-81██のグラウンドに特設した屋外ステージにDクラスを中心として200名ほどの職員を集め、SCP-548-JP-Aを発生させる試みが行われました。なお、Dクラス職員には不用意な発言を行う可能性を考慮し、マスク型の猿轡を装着させ拍手のみ行わせました。
第三次実験記録ファイル548
実験記録548-107
担当者: 塚原博士
内容: 約███名の財団職員が聴取する中でSCP-548-JPへ向け、ビゼーの「カルメン前奏曲」、リストの「パガニーニによる大練習曲第3番 嬰ト短調」、モーツァルトの「ピアノソナタ第11番第3楽章」をリクエストし、SCP-548-JP-Aが終了する度に拍手と賛辞を送る。結果: 「ピアノソナタ第11番第3楽章」の演奏を経て、SCP-548-JP-Aの演奏技術は極めて高まったと認められた。音色は終始「楽しそう」「嬉しそう」なものだった。
その後、SCP-548-JPはSCP-548-JP-Aのリクエストに応えずおよそ10分間の沈黙の後、「練習曲作品10第3番ホ長調」のSCP-548-JP-Aが発生しました。その音色からは「満足感」のようなものが感じられたと、その場にいた職員全てが報告しています。SCP-548-JP-A終了後、SCP-548-JPは唐突に「巨大な何かが衝突した」ように跳ね飛びました。その結果、SCP-548-JPは石突が粉砕、中棒と骨組み3本が骨折するなどの損傷を受けました。特に傘布へのダメージがひどく、また表面には大型車のタイヤ痕が浮かび上がっていました。被験者としてSCP-548-JPの近くにいた塚原博士が即座にSCP-548-JPを回収、検証の後に損傷個所の修復を行いましたが、SCP-548-JP-Aは再生されず、特異性が失われたものとされ後日オブジェクトクラスがNeutralizedに変更されました。