名前とは全てだ。名前が人を支える。
[フレーム]
[フレーム]
監督評議会命令
以下のファイルはレベル4/5353機密です。無許可のアクセスは禁止されています。
5353
SCP-5353を写した可能性のある写真。
特別収容プロトコル: SCP-5353との遭遇はサイト-122のエージェント へスター・マリズに報告します。SCP-5353の関与するあらゆるインシデントは、プロトコル・エイジャックス-4の下、ヴェールを維持するために報道機関、政府との連携、及び実験的記憶処理薬の戦術的使用によって対処します。
説明: SCP-5353は、1917年にベルギーで初めて財団が確認した、異常な人型実体です。SCP-5353の名前と目的は不明であり、その外見に関する具体的な詳細はほとんど得られていません。数少ない一貫した事実は、対象が男性に見え、またそう自認しており、常に白い衣服を着用しているということのみです。
SCP-5353は世界中で目撃されており、異常な秘密組織といくつか接点を有していると考えられています。対象は財団やその活動にほとんど関心を抱いていないようですが、状況に応じて友好的及び敵対的な交流が確認されています。
SCP-5353はPoI-000("何者でもない")と未確認の関連を有しており、過去数十年のSCP-5353目撃例の大部分である程度PoI-000が関与しています。この関係の正確な性質は不明ですが、これは明確に敵対的なものであり、両者間でいくつかの口論が記録されています。
更新1975年05月17日: 過去2ヶ月間、アメリカ合衆国西部でSCP-5353・PoI-000インシデントの異常な急増が記録されています。これにより収容状況がより不安定になっています。SCP-████及びSCP-████の収容における目覚しい経歴に基づき、エージェント へスター・マリズがSCP-5353、更に可能であればPoI-000の追跡・確保任務に割り当てられました。
以下の表は前述のインシデントの概要です。
日付 | 場所 | 関与した異常存在 | 注記 |
---|---|---|---|
1975年03月16日 | ネバダ州パランプ | PoI-000 | 話によると、「古いぼろを着たホームレス」と説明される男性が数人の地元住民に話しかけ、戦争記念品を販売している店を知っているか訊ねたという。肯定的に答えたのは一人だけで、該当人物は翌日に宝くじで10,000ドルを獲得した。 |
1975年04月23日 | アイダホ州ボイシ | SCP-5353 | ボイシの北端において、白服を着た男性が同一のチラシを撒いているのが確認された。チラシには、認識不可能な異常な文が書かれていた。 |
1975年05月05日 | カリフォルニア州ネバダシティ | SCP-5353 | 白服を着た男性が街近くの森でタバコを吸っているのが複数の人物に目撃された。地元住民に訊ねられると、彼は「兆しを待っている」と述べた。その3日後、その森で突如大規模な山火事が発生した。 |
1975年05月12日 | アリゾナ州ナバホ居留地、デル・ムエルト | PoI-000 | 「ぼろを着た、不明瞭な顔の」人物が一日中、夫を亡くした複数の女性の家を訪れているのが目撃された。1週間後、これらの女性は突然、全員同時にネバダ州南部の様々な町に旅行した。その全員が公衆電話で不明な番号にかけ、「誰も家にいない」と述べてから帰還した。誰もその行為を思い出すことはできなかった。 |
更新1975年06月01日: 5月26日、エージェント・マリズはアノマリーの追跡に成功し、確保を試みました。彼女の試行のログは以下の通りです。
日付: 1975年05月26日
場所: オレゴン州ポーリーナ湖
エージェント・マリズは湖の外縁部付近の木々に覆われた坂に立っている。時刻は午後遅くである。前方には湖の隣の小さな浜辺が見える。SCP-5353はそこに座って、タバコを吸っている。マリズはゆっくりと接近する。
SCP-5353: ここはきれいだと思わないかい?
マリズは立ち止まる。
マリズ: どうして聞こえたの? ほとんど音立ててないんだけど。
SCP-5353: 開幕早々それかい?
マリズ: さて、早速嫌な仕事とわかった訳だけど。年を取らないダンディ的なタイプの奴は、意外性もない方法で捕まえようとしても無意味。長いことやってきた経験から、あんたみたいな謎めいたタイプは決まってめんどくさい何かしらを隠し持ってる。
SCP-5353: 上司は怒らないのかい?
マリズ: 私のやり方は知られてるから。役目は果たしてる。あんたはいいタイミングを待ってるけど、そのタイミング自体なければあんたは仕事できない。「若干の警戒」ってやつね。
SCP-5353は含み笑いする。
SCP-5353: 君はへスター・マリズ、でいいよね? 評判は聞いているよ。
マリズ: どうやって知ったの?
SCP-5353: 低いところにも友人がいるものでね。君はスリー・ポートランドを大きくかき回して見せた - とんでもないショーだ! アナーティストたちが回復するには数ヶ月かかるだろう。それにトロントでの仕事 - どうやって例の子らの中にあんなすっぽりと潜入できたんだい?
マリズ: 実に簡単だった。あいつらは歩くクリシェの集合体。
マリズは湖を向いて、SCP-5353の側に座る。彼女はタバコを取り出す。
マリズ: 火もらえる?
SCP-5353: どうぞ。
SCP-5353はマリズのタバコに火を点ける。
マリズ: あんたの言った通りね。ここはきれい。
SCP-5353: ここが誰の名前から取られたか知ってる?
マリズ: いや。ここ出身じゃないし。
SCP-5353: パイユート族酋長のパウリナ。彼は部族を居留地に移動させることを拒否して、有名な最後の抵抗をした。当時はたくさん有名な最後の抵抗があったものだ。
マリズ: これはカルデラで合ってる?
SCP-5353: その通り。地底の大いなる火の上に坐した、大いなる火口湖。実に詩的だ。
二人はしばらく黙って座っている。
SCP-5353: 質問があるんじゃないのか?
マリズ: 私は私のやり方でやる。今日のスケジュールは「SCP-5353の収容」以外だとかなり薄っぺらで、その予定すらも吹き飛んじゃったから。とても素敵な日ね。
SCP-5353: 君は変わってるね。
マリズ: そうじゃない? この出会いは私の追跡者としての申し分のない才能のお陰ってのもあるけど、それだけじゃなくて、あんたが私を見つけたがってたってのもあるように思いかけてる。
SCP-5353: 何故そんなことを望むと?
マリズ: あんたと私が内輪で会話する状況を画策して、私に闇の指示を出そうとしてるから。前にもそういうことはあった。
SCP-5353: 私の指示は闇とは程遠いよ。このスーツを見てないのかい? 太陽のように明るい。
マリズ: 一番ドス黒い奴は大抵そういう格好。
SCP-5353: 実に知覚の鋭いお嬢さんだと言わざるを得ないね。
マリズ: どうも。
SCP-5353: でも君は財団でもある。財団タイプは危険だ。君たちはいつも…… 問題のあることを信じている。
マリズ: そっちは違うの? あんたのことは長いこと追跡してきた。あんたが関わってきた犯罪のリストは膨大。
SCP-5353: でも私は人の生のためにやっているんだ。君は何のために?
マリズ: 生が良くなるように。それを別の場所に持っていって、闇を取り除いて、人が本来あるべきように繁栄できるようにする。財団は幸福の、解放の、明るい新世界の力になれる。それか、まあ、そんなところ。
SCP-5353: 彼みたいなことを言うね。
マリズ: PoI-000?
SCP-5353: "何者でもない"のことかい? あぁ。以前彼に、夏の太陽の下で湖のほとりに座ることの楽しさを説明しようとしたことがあるんだが、理解してくれなかった。記憶が正しければ、彼はかなり怒っていたね。彼との会話はつまらない。
マリズ: あんたたちはほぼほぼ殴り合ってるばっかのイメージだったけど。
SCP-5353: それはそうだ、けど…… 時には吟味することも役立つ。別に、"何者でもない"は怪物じゃない。
マリズ: ま、そういうわよね。
SCP-5353: 彼が何をしているのか知っているかい? 彼が何なのか? 彼の犠牲者は全員、名前を失って、アイデンティティを失って、それから - 人間たらしめるもの全てを失う。彼は魂の捕食者だ。
マリズ: 実に詩的だこと。でも人は名前だけの存在じゃない。
SCP-5353: そうかな? 名前とは全てだ。名前が人を支える。フリッツ・オバマイヤーという人に出会ったことは?
マリズ: 思い当たる節はない。
SCP-5353: そう。だと思っていたよ。
マリズ: それはそうと当ててみる。あんたは実は"何者でもない"と不可能な戦争を戦ってる勇気あるヒーローだと、それから私や良き仲間たちが彼を裁くべきだと説得するために、私をここまでおびき寄せたってこと?
SCP-5353: いや。ここにおびき寄せたのは湖を見るためだ。信じてほしい。
一時の沈黙。エージェント・マリズは湖を見回す。
マリズ: 確かにきれいではある。でもこれと何の関係が?
SCP-5353: 向こう岸の木を見てみてほしい。湖を、空を飛ぶ鳥を。あの山の広がりを。この場所は独特だ。道路が彼方へ広がって、交通量が増えて複雑になって、町へ、都市へ続いて、郊外へ路地へと曲がりくねっていくのを想像してほしい。アメリカの道路、私の旅する壮大なチェス盤。
マリズ: まだ理解できない。
SCP-5353: だから - ほら、"何者でもない"が何なのか考えてみてほしい。彼は何故そうすべきか、何をすべきか見失ったときに現れるものだ。彼はただ淡々と動くだけで、何人殺そうが気にもしない。彼は物事の特異性、人生の意味するところ、人々のあり方、考え方、感じ方を理解できなかった。だからこそ私は…… 非難されるようなことを他人に犯してはいるが、彼とは違う。
マリズ: それでも。彼らが死んでいることに変わりない。
SCP-5353: でも私は人類の名のもとにそうしているんだ。彼がそうするのは、彼自身他に何をすればいいかわからないからだ。
マリズ: それにしても、結局あんたら二人は何やってるの? あちこちドライブして、地元の未亡人をおかしくしたり、ビラを配ったり。普通じゃない。
SCP-5353: 私たちは…… 誰かを探しているんだ。うん、「誰か」というのは正しくないかもね。でも思いつく中では一番近い言葉だ。私はその人に申し出たいことがあって、"何者でもない"の方はそれを望んでいない。
マリズ: まあ、実に遠回しな言い方。
SCP-5353: ほら、男には維持すべき名声ってのがあるんでね。だがどうしても知りたいなら、その、私はこの終わりのない争いにはうんざりしている。もう終わらせる時だ。そして私の探している者は自分の秘密を知っているかもしれない。
SCP-5353は立ち上がる。
マリズ: もう行くの? ちょうど面白くなってきそうなところだと思ったんだけど。
SCP-5353: 私にはアポが - おっと、言いすぎたかな。だがお願いがある。彼が君のもとに来たら、実際来るだろうが、私の言ったことを考えてほしい。財団が世界中に影響力を持って、目的もなく、ずっとそうしてきたというだけの理由で人々を傷つけたらどうなるかということを考えてほしい。オートマトンみたいに。そしたら、"何者でもない"が何なのか理解できるだろう。
SCP-5353は歩き去る。エージェント・マリズは数分間湖を眺めてから立ち去る。
<記録終了>
更新1975年08月06日: 以下は、インシデント5353-1以降でPoI-000及びSCP-5353が関与した活動の記録です。
日付 | 場所 | 関与した異常存在 | 注記 |
---|---|---|---|
1975年06月16日 | ミシガン州デトロイト | PoI-000 | 大規模な工場爆発があり、数日前にPoI-000が犯人と会話していたのが目撃されていた。その後の記録により、ドイツ出身の工場所有者は指名手配中の戦争犯罪人であり、偽造パスポートによりアメリカへ逃亡していたことが判明した。 |
1975年07月21日 | ウィスコンシン州チッペワ・フォールズ | SCP-5353 | 白服を着た身元不明の男性が複数の地方役員と会話しているのが目撃された。翌日、これらの役員が関与した大規模な贈収賄と汚職スキャンダルが露呈し、チッペワ・フォールズで政治危機と大規模な抗議が引き起こされた。 |
1975年07月28日 | ミシシッピ州ナチェズ | PoI-000 | 複数の異常なシンボルが、PoI-000関係者によって主要な交差点の地面に描かれた。これらはそれぞれ知覚不能とする一方で、深刻な躁鬱を引き起こす情報災害効果を有していた。このインシデントの後、数名が神経衰弱に陥り入院した。 |
更新1975年09月17日
1975年09月15日、エージェント・マリズはPoI-000の追跡に成功し、対象と短い会話を交わしました。ログは以下の通りです。
日付: 1975年09月15日
場所: ウェストバージニア州ブルーフィールド
<記録開始>
時間は夜である。エージェント・マリズは都市郊外の路地を歩いている。遠くで警察のサイレンが聞こえる。不明瞭な人影が壁にもたれかかり、マリズが通りかかるのを見上げる。
人影: 火もらえる?
マリズは突然立ち止まり、人影を見る。
マリズ: ちょっと、私のセリフじゃない。
人影は静かに笑ってタバコを取り出す。マリズはライターを取り出してそのタバコに火を点ける。この人影がPoI-000("何者でもない")だとわかる。
PoI-000: 実に久しぶりだ、へスター。いつだったかな - プラハ、'67年だったか?
マリズ: ’68年。その年は覚えてると思ってた。かなりいろいろあった。
PoI-000: そっちにとっては、そうかもしれない。俺にとっては、数ある必然の一つに過ぎない。
マリズ: それで、今回はどう行くの? ちょっとした演説でもかまして、実はあんたはずっといいやつで、私が仲間に加わって白服の男を打倒しろとでも?
PoI-000: いや。違う、そういう方向の話じゃない。互いの哲学について取り澄ました会話でもして興味深い結論に達しようなどということじゃない。俺は何日も何週間も路上で過ごし、タバコの吸いさしと顔に投げつけられたペニーで生きてきた。いや、俺が言っているのは、俺を - 俺たちを - 追いかけて、聞き耳を立ててくるのをやめてほしいってことだ。
この発言中に、エージェント・マリズは手を動かして銃の上に当てる。
マリズ: これはきっと、散々聞いたかの有名な"何者でもない"の魔力ね。白服の男は正しかったかもしれない。
PoI-000: 白服の男は一日たりとて仕事をしたことがない。奴はこれをゲームだと、チェス盤だと考えている。一日に何回か座って、無限というものについて熟考すべきだって考えている。自分の安っぽいヒューマニズムの上でうろうろして、おこがましくも他の全員にどう生きるべきかを説こうとしてる。
マリズ: 痛いところを突いたみたいね。まだ痛みを感じられるとは知らなかったけど。
PoI-000: そもそもあいつが何なのか知ってるか? あの壮大な廃品業者が? 奴は何でできてる? 答えを出すには長い時間がかかった。俺の一つ前のやつは尚更に。あいつの俺に対する憎悪は原理などとは何の関係もない。あれは全てエゴ、個人的なエゴだ。それこそが、おおよそ文字通りあいつそのものだ。
マリズ: 小言はよして。なんであなたを追うべきじゃないの? 私にはやるべき仕事がある、あなたと同じ。
PoI-000: 改めて言うが、これは俺たちのしていることじゃない。
近隣の通りの電気が全て消える。エージェント・マリズはホルスターからそっと銃を取り出すが、PoI-000には向けない。
PoI-000: 俺に正しい役を演じてほしいか? 宇宙の放浪者、棒を持って口ひげをたくわえ、静かに歌い踊るような。アメリカの道路を徘徊し、地元住民を怖がらせるような。
マリズ: まあ不気味。もう少し近くに来て、あんたの痛いところについての私の説が合ってるか試させてもらえる?
PoI-000: 毎日炭鉱で息を詰まらせながら、太陽を夢見るやつらがいる。太陽に照り付けられた平野で飢え、命の終わりを待つやつらがいる。俺は、重傷を負い、飢え、打ち砕かれ傷ついたやつらの中を歩く。他に何者もそうしないから。俺は、この壊れた世界を、誰かが、誰か一人でも、生命のチャンスに触れられるよう動かし続けるためのことをしてる。一度あいつがクランの格好でいるのを見たのは知ってるか?
マリズ: 何? 例の男が?
PoI-000: そう。5年前、よりによって糞オハイオでな。しばらく後に訊いてみたんだ。あいつは「試着して」て、「歴史に興味がある」と言ってきた。奴は、「白の男」って名前を文字通りに捉えすぎてたんだと思う。
マリズ: 興味深い。続けて。
エージェント・マリズはゆっくりと銃を上げ、PoI-000に向ける。PoI-000は笑う。
PoI-000: 最近のタイラーの様子はどうだ?
エージェント・マリズは硬直する。
マリズ: よくもそんなことを。
PoI-000: 彼はきっと、何だ - 4歳? 5だったかな?
マリズ: 変なこと考えでもしたら –
PoI-000: あんたは彼を財団の若手達成者プログラムに入会させたと聞いた。興味深い。どうして俺はあんたらを滅多に助けないか知ってるか? あんたらは全員、自分の子供をまだ幼児の頃にファシスト洗脳キャンプに放り込むような輩だからだ。本当に息子に自分と同じ人生を歩ませたいのか?
マリズ: あんたには関係ない。
PoI-000: ああ、関係ない。ただの観察だ。俺は財団が見える。あんたらが何者か見える。あんなエネルギーに、こんなルールに - 本当のルールじゃなくて、でっち上げられたやつだ。あんたらがどこに行くのかも見える。更なる研究。更なる軍事化。譲歩は少なく。バグダッドでの政治家との握手にカクテルパーティー。それに機械 - 恐ろしい機械、誰かが造らねばならず、財団が持たねばならない必然の機械。その帝国を強固にする機械。タイラーはあんたに感謝するかな?
エージェント・マリズは発砲するが、外れる。PoI-000は突進し、銃を掴むとその腕を激しく噛む。マリズは叫び声を上げて銃を落とす。
PoI-000: 賢いお嬢さんだ。
マリズ: あんた…… 糞が……
PoI-000: そうだな。あんたは俺を捕まえれないし、俺もあんたを傷つけたくない。だからほっといてくれ。
マリズ: ……聞けない。
PoI-000は明白に苛立って手を上げる。
PoI-000: 結構。とにかく。掘るべきでないところを掘り続けるがいいさ。あんたは勝てない。言ったように、この話はそういう方向じゃない。勇敢な探偵は簡単に解決できないものだ。俺には捜している旧友がいるんだが、白服の男に先を越されたら、奴は旧友に断れない要求をして、続く数十年は俺にとって本当に頭痛の種になる。だから必要な措置を講じないといけない。あんたよりもデカい問題だ。あんたが手に入れるのはその残りかすだけだ。
PoI-000はタバコを壁に押し付けて火を消し、向きを変えて歩き去り始める。
PoI-000: またの機会に。
マリズ: 待て。
エージェント・マリズは傷のない方の腕を壁にもたれさせ、息を整える。PoI-000は歩き去り続ける。
マリズ: 待てよ、糞野郎。もう一つ。フリッツ・オバマイヤーって名前の誰かを聞いたことはある?
PoI-000は振り返ってニヤリとする。エージェント・マリズは歯茎から血を出している。
PoI-000: あぁそうだ。ああ、あるよ。
<記録終了>
更新1975年10月3日: 以下は、インシデント5353-2以降でPoI-000及びSCP-5353が関与した活動の記録です。
日付 | 場所 | 関与した異常存在 | 注記 |
---|---|---|---|
1975年09月23日 | モンタナ州カットバンク | SCP-5353 | アノマリーは、占術能力で名高い、元スリー・ポートランド居住者であったPoI-6236("マグ老女")と会話しているのが目撃された。SCP-5353は不明な質問をし、PoI-6236は「そいつは彼らの名に傷をつける! そいつは彼らの名を奪う!」と繰り返し叫んで答えた。その後、SCP-5353は彼女の腹部に2発発砲して立ち去った。PoI-6236はその後死亡した。 |
1975年10月01日 | ノースダコタ州ファーゴ | PoI-000 | PoI-000はファーゴ郊外の複数の地点で暴動を扇動し、3名が死亡、少なくとも20名が負傷した。暴動中に政府の建物から複数の物品が盗まれたようであり、その中には国勢調査のデータや、ドイツ企業により地方政府プロジェクトへの投資で昨年用いられたドイツ語翻訳者のリストが含まれていた。 |
最終更新1976年05月12日: 1975年10月05日、サウスダコタ州ピエールにてPoI-000とSCP-5353が関与する重大なインシデントが発生しました。空きアパートの内外で、両者の口論が行われていると報告されました。目撃者は、ホームレスの男性が現場から逃走し、白服を着た男性が重い足取りで過度に出血しながら歩いているのを見たと報告しました。ある目撃者は、ロングコートを着た男性が窓から転落するのを見たと報告しましたが、この説明に合致する遺体は発見されていません。
問題のアパートは1955年以降空き家であったと報告されています。しかしながら内部には、第二次世界大戦記念品の膨大なコレクション、数本のウイスキー、ドイツ語の書籍やナチスの戦争犯罪人に関するファイルなど、最近まで居住されていた痕跡がありました。やや古風なドイツ語で書かれたメモも発見されました。転写は以下の通りです。
この身体は覚えておかねばならない。誰かが覚えておかねばならない。故に、このページは覚えておける。
かつて、フリッツ・オバマイヤーという名の少年がいた。彼の名はどの記録にも載っていない。フリッツ・オバマイヤーは決して死ぬことはなかったが、1917年に存在をやめた。彼は塹壕で、無人の地からやって来たアメリカ人の男に出会い、それから彼の身体は彼のものではなくなった。それは何者でもないものとなった。
それから、何者でもないと呼ばれる男がいた。彼は40年近くヨーロッパを歩き回り、いつも目の前の仕事を気にかけていた。誰も彼に気付かなかったが、それでもロングコートを見れば身震いするだろう。内なる身体、精神、人格は単一の意志へと屈曲しようとも気にすることはなかった。塹壕の中は寒く、茫失し、孤独で、二度と戻りたくはなかったのだ。恐懼も、退屈も、何もない。熟考することもない。ただ動くだけ。
その後、何者でもない者は進み続け、別のものが名を失った。だがかつてフリッツ・オバマイヤーのものであった身体は残り、それは何でもなかった。アイデンティティはない。人性はない。誰もどのような名でもそれを呼ばない。誰もそこにあることすら知らない。
それにあったのは役割だけだった。兵士、そして拳。それから何もない。このことは白服の男から警告されていたが、耳を貸さなかった。あの男が正しかったのかは、まだ判然としなかった。
何もないものは更に数年生きた。簡単な答えなどなかった。何になりえたかなどわかるはずもなかった。それは食い、年を取り、夜には頭を悩ませた。それから窓の外に二人の男を見て、それで終わりだった。
世界は賞美され讃頌される廃墟ではない。しかし世界は、単一の意志に従属するために存在するのでもない。それが存在するのはただ存在するからで、次々と現れては互いを引き裂いていく無限遠の物語だ。意味などない。アイデンティティなどない。無限の、長引き続ける、全てを消費する存在の一体性のみである。
フリッツ・オバマイヤーとは誰であったのだろうか? 彼のアイデンティティ、彼の名前、彼のあり方そのものは、陰に沈んだ。世界を巡る幽霊、語られることのなかった記憶。残り物だけで存在してきた誰かに買い取られるまでは。何でもないが、数多のものを持つ者。人の残したものだけで生きる廃品業者。
善などはない。悪などはない。