クレジット
ソース: SCP-4973
メタタイトル: デッドメン・ウォーキング
著者: Connor MacWarren Connor MacWarren
作成年: 2019
SCP-4973 (D-10000) 、本名 ゴードン・K・マルコヴィッチ。
特別収容プロトコル: SCP-4973は非物質的実体用真空チャンバーに収容され、機動部隊ミュー-13 ("ゴーストバスターズ") 隊員によって常時監視されています。SCP-4973の脱走を防ぐため、SCP-4973の収容室の入口の縁には4つのハリントン=ホロウ無力化結界が配置されています。また、安全対策として、天井と床の内部には非物質変位無効装置 (nPDN) が敷設されています。
SCP-4973や同種の存在は財団の機密保持に深刻な脅威を呈するため、霊障部門は霊体の無力化手段、並びにサイト全域を包括できる儀式の研究を進めるものとします。
機動部隊シグマ-5 ("'; DROP TABLE 機動部隊 —") はSCiPNETデータベースを定期的にチェックし、情報漏洩の兆候や、異常な手段で使用された形跡が無いかを調査します。
説明: SCP-4973は、生前にゴードン・カルディヴァクルス・マルコヴィッチという本名でも知られていたDクラス職員、D-10000の霊魂です。攻撃的な挙動を示す以前、SCP-4973は"不活性"ないし休眠状態の霊体に分類されていましたが、程無くして周辺環境を認識し始め、過去に幾度となく収容違反を起こしています。SCP-4973は何らかの手段を介してSCiPNETデータベース端末の利用に成功しました。このため、SCP-4973はデータベースに登録された多数の異常な実体・現象、サイト-30に勤務する研究員・警備員・管理職の身元、サイト-30の所在地を把握しています。
SCP-4973は合計12件の収容違反に関与し、少なくとも6名の職員の自殺幇助を行いました。
経歴: 財団に徴用され、直ちにDクラス職員として登録された後、D-10000は様々な異常実体・現象が関わる制御下の実験25件に被験者として参加しました。これらの実験の中には、SCP-158への反復曝露が含まれます。D-10000はSCP-████の実験で死亡し、遺体は後ほど、近隣の廃棄物処理施設で加工するために運び出されました。3ヶ月後、職員はサイト内で異常な現象が発生していると報告しました。報告された異常現象は次の通りです。
- 研究員やエージェントの私室で発生する原因不明の物音。
- Dクラス区画へ接近する際の急激な気温低下。
- 室内で一人になった職員の所持品や配置物の消失。
- Dクラス用のつなぎを着用した血塗れの人物が鏡などの反射面に映り込む幻覚。
- 職員間に広まる恐怖心と、目に見えない存在に"監視・尾行されている"感覚。
- 廊下の遠端を観察した際に視界から走り去ってゆく暗いシルエット。
- データベース端末で発生する各種のサーバエラー。
これらの問題の幾つかは考慮されたものの、大半はサイト-30の理事会によって、財団での勤務に起因する精神的な緊張・重圧の増大が原因だと判断され、概ね無視されました。
補遺4973.1: 霊体分類より抜粋
クラスIV - "クラスIV霊的実体はクラスIIIよりも高い攻撃性を示す。このクラスに属する実体は、生前の死因となった個人・集団に対して一定の悪意を有している。クラスIIIとは異なり、クラスIV霊的実体は加害者への復讐、または正当な報いとして、物体の運搬、気温の低下、幻覚の発生という形で、加害者の周辺環境の変化を引き起こす。"
- ホロウ=ケッスラー霊体分類体系より抜粋
補遺4973.2: インタビューログ
日付: 02/08/29
回答者: SCP-4973 (D-10000)
質問者: ロレイン・キャスパー博士
[記録開始]
キャスパー博士: こんにちは、SCP-4973。今日の調子はどうですか?
SCP-4973は返答しない。
キャスパー博士: ゴードン。
SCP-4973: 止めろ。その手には乗らねぇよ。
キャスパー博士: 協力してください。ただ、あなたが何故あのような事をしたか知りたいだけです。どのように端末を利用したのですか? どう-
SCP-4973: いや。アンタが構ってくんのは、俺がどんな事を知ってるか分かってるからだ。そして俺はこの腐れ組織のヤベェ秘密を山ほど知ってる。アンタの秘密もな、ロリー。
キャスパー博士: 私や上司を脅しても無意味ですよ。あなたは野放しだった頃に同僚を大勢殺しましたね、ゴードン。
SCP-4973は怒りを露わにしたように見える。キャスパー博士は後ほど、SCP-4973を刺激しないように注意される。
SCP-4973: "ゴードン"? 人情に訴えかけようってのか、ドク? もう俺の中に人情なんて残っちゃいねぇよ。ケッ、アンタの仕事だって"人間味"なんかありゃしねぇ。なぁ、アンタらは男も女もガキも見境なくあの化け物どもに喰わせてるんだろう! 女1人殺した程度で人でなし扱いされた俺が馬鹿みてぇじゃねぇか!
キャスパー博士: あなたは夕食中に機嫌を損ねた妻を殺害しました。更に言うなら、私が何をしようと、私の所属組織が何をしようと、あなたには関係ありません。
SCP-4973は露骨にキャスパー博士を嘲笑し、鼻梁を擦り始める。
キャスパー博士: あなたがファイルを閲覧した手段を教えなさい。それらのファイルは機密情報です。あなたにはIDがありませんし、頭の中にパスワードが入っているとも思えません。
SCP-4973: 俺が馬鹿正直に白状するとでも? お断りだね。
キャスパー博士: 従わないようならば終了処分の対象となります。幽霊だから2度死ぬことはありえないと考えているのなら、残念ながら思い違いですよ。
SCP-4973は沈黙している。
キャスパー博士: 宜しい。さて、どのように端末を使用したのですか?
SCP-4973: そ- それは- こう、そいつの上で手を振っただけだよ。一瞬だけ妙な表示になって、その後すぐ- 妙じゃなくなった。指を宙で動かすだけでタブがひとりでに開いた。ごく簡単だった。
キャスパー博士: すると、あなたは- データベースを直接操作できたとでも? そもそも何故そんな事ができると分かったのですか?
SCP-4973: さぁな。何か引き寄せられるように感じたんだ。遠くにあった磁石が段々近付いてくるような感覚。上手く言えねぇけど、そんな感じだった。
キャスパー博士: では、我々が収容していた数々の危険なアノマリーの収容違反を試みたことについては?
SCP-4973: は? おい、何の話だ?
キャスパー博士: ユルコフ博士とオルソン博士のIDカードでアノマリーを解放した件です。
SCP-4973: 俺じゃねぇ。おい、あれは全部俺の仕業とでも考えてたのか?
キャスパー博士: そうですが...?
SCP-4973: オルソンとかユルコフなんて名前の博士は知らねぇよ。俺はただ手当たり次第に汚ぇ秘密を探ってただけなんだ。そんな- ちょっと待てよ。
キャスパー博士: はい? どうしました?
SCP-4973: あ- あぁ! ははあぁぁぁ... そういうことか! こいつは- いやぁ、素晴らしいな。 (SCP-4973はキャスパー博士を見て笑い始める)
キャスパー博士: 何です? 何を笑っているのですか?
SCP-4973: まさか、あんたも幽霊探し仲間も、今までずっと気付いてなかったのか?
キャスパー博士: もし素直に教えてくれれば、お互いにとって-
SCP-4973: いや。そのつもりはねぇよ。長い間、アンタらはまるで気付いてなかったってわけだ。こりゃ、目と鼻の先にずっとあったものを見つけた時の面が見物だな。
SCP-4973はインタビュー終了まで笑顔のまま、質問への回答や反応を拒絶し続ける。
[記録終了]
補遺4973.3: キャスパー博士とリヴァーソン管理官の会話
以下は、キャスパー博士とサイト-30管理官 リヴァーソンの通話記録の書き起こしである。
リヴァーソン博士: もしもし?
キャスパー博士: どうも、エリック。私です、ロレインです。多分、その... どうして業務用の回線ではなく、私用回線で掛けてきたか疑問でしょうね。
リヴァーソン博士: ロレイン? どうしてこっちに掛けてきた? それで今は何処にいる? 君はもう1週間も不在にしてるじゃないか!
キャスパー博士: それは... サイト内の安全が確保されているとは思えないからです。いえ、どのサイトの何処にいようと安全とは思えませんし、盗聴の恐れがある業務用回線は使用できません。リスクは冒せません。
(キャスパー博士は咳払いする) 実は... 我々のサイトが侵害されているかもしれないのです。
リヴァーソン博士: な- 何だって? いったい-
キャスパー博士: ええ、分かっています。マズい状況です。本当にマズい。その... インタビュー中の4973の態度に引っ掛かるものがありました。私が担当した最後のインタビューです。彼は何か- 我々の目と鼻の先にあるものに言及しました。そして、どんな収容違反も引き起こしてはいないとも言いました。データベースのハッキングを試みた件を除いて、彼はあらゆる事案への関与を否定しています。ハッキングを実行した手段はまだ解明されていませんが、それは重要ではありません。
(キャスパー博士が回線の向こうで溜め息を吐くのが聞こえる。)
収容違反を起こさなかったという点で、497- ゴードンは真実を語っていたと、私はそう信じています。記録も確認しました。Dクラスとしての在職中、彼はどの実験でもユルコフやオルソンと顔を合わせていません。それどころか、オルソンは2009年まで雇用されてすらいませんでした。
リヴァーソン博士: そうか、しかしそれがどう-
キャスパー博士: 例の収容違反ですが... あれは、我々に対して、ゴードンと同じような恨みを抱えた霊体の仕業ではないかと思うのです。
リヴァーソン博士: おい、まさかそれは-
キャスパー博士: ええ、ええ。その通りです。サイト-30にはDクラス職員の霊魂が蔓延しています。
(しばらくの間、両方の回線で沈黙が続く。)
リヴァーソン博士: ほ... 本気で言っているのか? 何故分かる?
キャスパー博士: 検出のために、部門の運用可能なリソースを使ってサイト内の走査を行いました。霊体の研究はまだ異常科学においても新しい分野ですが、霊体は行く先々で常時ある種のエネルギーを漏出させていることは判明しています。俗に"エクトプラズム"と呼ばれるもので、霊体からはそのエネルギーが剥離します。クモやヘビが脱皮するようにね。要するに老廃物なのです。サイト内ではその残渣が大量に検出されましたよ、エリック。
リヴァーソン博士: どうして今までそれに気付かなかったんだ?
キャスパー博士: 休眠状態の霊体はこの物質をほとんど漏らさないので、我々の機器では発見できません。全く検知されないのです。自分がどうなったか、周囲で何が起きているかを霊体が自覚していない限り、彼らの"身体"は検知できる量のエクトプラズムを放出しません。
ですが、エリック、 それだけではないんです。ゴードンを捕獲した時、我々はてっきり犯人を見つけたと思い込み、彼の仕業ではない可能性を検討しませんでした。我々は気を取られ、他の霊体を自由に徘徊させてしまった。時間と共に、彼らは自分の身に起きた事を思い出しました。
しかし、良いニュースもあります。我々のサイトをうろつく活動状態の霊体たちは特定できました。具体的には5体いて、そのうち1体はどうにか捕獲・収容済みです。
リヴァーソン博士: ...悪いニュースは?
キャスパー博士: それは- その- まぁ、多分- いえ、間違いなく、それ以上の不活性な霊体がサイト内にいます。まだ目覚めていないだけです。
リヴァーソン博士: なんてこった、ロレイン。よし、では... 君には即刻、サイトの収容責任者になってもらう。4973のような奴らが何十体も湧いて出る機会を待ち構えているのだし、"ヒューマンエラー"による収容違反が全てポルターガイストのせいだったと気付かれたら、誰にとってもろくな結果にならない。
キャスパー博士: ええ、承知しています。私のチームは、より効率的な検出のために、機器の改良に着手しています。こうした事態に備えて更なる対策も練っています。ですが、エリック...
リヴァーソン博士: うん?
キャスパー博士: これは我々のサイトに限った事案とは思えません。実験にDクラスを用いた財団の施設は、何処も同じ影響を受けているはずです。
リヴァーソン博士: しかし、それは-
キャスパー博士: 全てです。
リヴァーソン博士: おお、神よ。最悪だ。
キャスパー博士: 全くですね。連絡を密に取り合いましょう、エリック。