クレジット
タイトル: SCP-4860 - オットカールの功業
翻訳責任者: C-Dives C-Dives
翻訳年: 2025
著作権者: Aftokrator Aftokrator
原題: SCP-4860 - The Labors of Ottokar
作成年: 2023
初訳時参照リビジョン: 7
元記事リンク: ソース
アイテム番号: SCP-4860
オブジェクトクラス: Euclid
特別収容プロトコル: SCP-4860は現在、本来の梱包に収められたまま、極低温保管庫に収容されています。SCP-4860を研究・移送目的で取り扱う際、職員はいかなる奇跡術封印にも損傷・干渉が及ばないように配慮する必要があります。これらの封印の研究はEkhiクラス優先事項に指定されています。
説明: SCP-4860は、大型の木箱の中に奇跡術的な極低温停滞状態で浮かんでいる、思春期の東ヨーロッパ系人間男性の肉体です。この停滞の性質は十分に理解されておらず、SCP-4860が生きているか否かの確認は現時点で実行不可能です。局所ヒューム測定値やその他の診断検査の結果は、SCP-4860がクラスIV以上の現実改変能力者であることを示します。
SCP-4860はEVE値の急上昇とヒューム値の急激な変動の検知に続いて、地球低軌道からドローンによって回収されました。数冊のファイルを収めた段ボール箱がSCP-4860と共に回収されましたが、梱包が不十分だったため、内容物の半分以上が軌道上に流出していました。これらのファイルと綴じられた文書類は非異常と断定された一方で、"アレクシルヴァ大学"の名称で知られる異次元教育機関の共通言語lingua francaであるシルヴァニア系アレクサンドリア語で作成されていました。
これらのファイルにはSCP-4860の関連情報が含まれており、以下にその翻訳が添付されています。英語とシルヴァニア系アレクサンドリア語の間にある語彙の欠落部分は Rosetta.aic によって補われており、今後改善される可能性があります。読者の便宜を図り、日付はグレゴリオ暦に変換されています。
謹啓 アレクシルヴァ大学 副学長 オールグラス様へ
生体解剖及び生物学的研究目的でのオットカールの請求を承りました。アレクセリカ三執政会が今回の移送を承認したことを謹んでお知らせ致します。この書簡は恐らく添付資料に含まれているものと存じます。
資料はフィトランシムン連合が提供する新規サービスを介して送付致します。彼らが業界で最も手堅い郵便橋として宣伝している以上、信頼できるサービスでしょう。我々が加入に際してどれほど支払ったか、バルカ・マグナスはご存知でいらっしゃいます。
これらの新規資料が貴学にとって啓発的なものであればと願っております。我々と同様に、皆様の知識の追求が促進されますよう。一つご忠告申し上げます: 鎖を緩め過ぎないようにご留意ください。我々の努力の全てが神の憤怒によって薙ぎ払われるのは、望ましいことではございません。
あなた様の同輩たる教育者にして学識ある友、アレクセリカ大学 教員 アナクシマンドロスより
オットカールの功業
序文: 以前及び現在の基底世界の分析と相互参照結果が示す限りでは、オットカールは改変を不連続に実行し、特段の順序もなく歴史を前後に飛び回っていたようである。彼がいかにして時間的バックラッシュを回避し、かつ改変済事象を更に過去の時代の改変に起因する深刻なバタフライ効果から保護できたかについては、依然として解明の努力が進められている。また、以下の改変の全てが意図して行われたのか、無視されたバタフライ効果によって生じたのかは定かでない。
本来の事象 | 改変後の事象 |
---|---|
帝国は現在存在せず、かつて存在したこともない。アフリカ大陸及びユーラシア大陸には100以上の主権国家が存在する。 | 帝国はヒベルニア及びマウレタニアからジパング及びクリュセ・インスラシアまで版図を広げており、現在に至るまで数多くの家臣国と従属国を抱えている。 |
アレクシルヴァ大学、並びにアレクサンドリア高等教育機関の概念は存在しない。 | 帝国の各属州及び行政区域には、アレクサンドリア高等教育機関が1校ずつ設けられている。 |
紀元1888年、カドモス・アツァディ・カラニコが、カルテカラ合衆国初のチェロキー族出身の大統領として選出される。 | 紀元1888年、カドマス・ジュリアス・シルヴァニアス・カラニカスが、帝国初のチェロキー族出身の尊厳者アウグストゥスとして戴冠する。 |
エウロパ大陸の民族大移動期にゴート族の侵略が発生し、第一次カルタゴ帝国の分裂と、カルト・ハサレムトにおけるフランコニア王国の形成に至る。 | 帝国が未平定のゴート族及びスラヴ族による侵略を撃退できなかった地域は、ヴェネディア及びルテニアの辺境州のみに留まる。ローマは1世紀後にこれらの領地を奪還し、平定戦役を開始する。 |
2020年バルカ・カップ決勝戦で、バラタナク共和国がローマ王国を3-0で破る。 | 2020年カエサル・カップ決勝戦で、帝国がブリタニア帝国属州を30-0で破る。 |
I
朋友たちよ、同輩たる碩学たちよ、我々は新時代の間際に立っている。
本年12月の第13日イードゥース、我らが名門 アレクセリカ大学の主要中庭に1棟の小屋が出現し、周囲の現実性構造に奇怪な変動を及ぼした。この小屋の内部には、昏睡・発熱状態の若い男が横たわり、コンピュータの塔とパピルスの束に囲まれていた。我々はこの若者の身元を次のように特定し、管理下に置いた。
プロフィールID: 00184714
名前: アレクサンドロス・オットカール
人種: サルマティア系ゴート族 (西洋)
身分: 奴隷 (ベータ・ハウス)
我々の記録上では特筆に値しない一介の奴隷でありながら、オットカールは - どうやら一夜のうちに - かつて本学のキャンバスにおいても見られたことのない、奴隷らしからぬ不可解な力のオーラを纏うに至った。世界の秩序を掌握できるほどに強い力である。このため、オットカールの調査は絶対的な優先事項となった。特異な出現経緯と容態を受けて、本学の学者たちは、彼は我々の現実世界に流れ着いた異邦人であると推測した。しかし、全ての学者が知るように、真の研究は決して推論のままでは終わらない。
小屋を精査したところ、オットカールが著した文章が複数回収された。想像上の状況に対する奇抜な評論と、我々のそれよりも劣る歴史に向けられた非愛国的ながらも遠慮のない浪漫主義が、オットカールが望む限りどんな戦争にでも赴こうと思わせるほど説得力のある熱情を込めて綴られていた。私自身、この報告書を編纂しながら、ローマの息子たち娘たちの敵となったであろう民族への軽蔑が込み上げてくるのを認めなければなるまい。全て何世紀も前に平定されたか、或いは滅ぼされたというのに、私の心はフェニキア族、フン族、ピクト族、ソグド族に思いを馳せている。自分が奴隷ごときの見解に感化されているという恥辱さえも忘れそうになるほどだ。
本学の深部に隠されていた膨大な大深度資料保存庫ディープウェル・アーカイブが突如として現れ、関心をそそる情報が続々と開示されたため、異次元由来説は杞憂となった。興味深いことに、これらのアーカイブはオットカールが著した多数の地図や声明文の文脈を補足しているように思われ、彼が時代錯誤ながらも当次元の出身であることを証明した。オットカールが言わば"抽出"された世界ムンドゥスは、我々の基底世界とは多くの点で異なっている。大半の読者は、旧世界と現世界の差異からオットカールの数多の事績を編纂する、未だ進行中の取り組み "オットカールの功業" に既に目を通しているに違いない。
現時点での本学の総意は、オットカールは世界の秩序を左右するよりも遥かに高度な能力を有していた、或いは依然として有しているというものである。彼は時間と歴史そのものを統制し、決して存在したことのない現実の残滓となったのだ。彼は我々の間に生まれ落ち、その野蛮な出自にも拘らず、我々が生きる輝かしき現在を作り出すに至った神である。それ故に、彼は本学が提供できる限り最高の治療を受けており、昏睡状態は続いているものの、いずれ更なる研究に最適な容態となることに疑いの余地はない。
彼を聖典に列聖するのは正しき行いであろう。オットカールに栄光あれ。
— 教授者 デメトリウス・コンフーシウス・ルフィニウス
オットカールの功業
本来の事象 | 改変後の事象 |
---|---|
天命は周帝国の所有下にあり、セリカ全土を包括している。 | 天命は第四次セリカ戦争で奪取・破壊された。セリカは現在、帝国の従属国であり、従ってアレクサンドリア・セリカ大学が存在する。 |
オーストラリア大陸は、カルタゴをはじめとする列強諸国の植民地主義に根差した野望により、XVIII世紀に複数の国家へと分割される。 | オーストラリア大陸に存在する多数の国家は、ローマと同盟を組むモンゴル・ハン国の庇護下にあるか、またはその脅威に晒されている。バタフライ効果の疑いが濃厚。 |
紀元前145年、大ハノンがカルテカラ大陸を発見する。大ハノンの死後、息子の小ハノンが紀元前127年に同地の交易拠点を築く。 | 紀元120年、帝国遠征艦隊がアレクサンドリア・アマゾニアを発見し、その後数ヶ月以内にアレクサンドリア・インスラシア・アクアエとアレクサンドリア・シルヴァノスの発見が続く。 |
アレクサンドロス大王がインド亜大陸で複数の都市を建設・改名したという記録は複数存在するが、そのような名称の都市は現代まで残っていない。 | 現在、インド亜大陸にはアレクサンドロス大王/アレクサンドロス・オットカール(?)に因んで命名された都市が80ヶ所以上存在する。 |
第二次ポエニ戦争におけるメタウルス川の戦いは、カルタゴの勝利に終わる。メタウルス川の戦いで、ハスドルバルがローマ陣営の固有兵器によって1匹のクモに変化させられて死亡し、兄ハンニバルは報復として数週間後にローマを焼き討ちする。ローマが第二次ポエニ戦争からの復興を果たすことはない。 | 戦いの結果は変化しないが、奇跡術的電気パルスと推測されるものによって全ての固有兵器が突然不活性化したため、ハスドルバルの死は思いがけず回避される。 |
後記: オットカールは功業を為す中で自らを酷使した結果、メタウルス川の戦いを改変しようとした際に限界を迎えたと推測されている。奇跡術的電気パルスが奇跡術師の高いストレスと過労に起因する一般的な症状であることを鑑みると、オットカールの干渉は意図的なものではなかった可能性が極めて高い。メタウルス川の戦いよりも遡る時間軸の変化は記録されていない。
結局、オットカールは彼の最大の望み、即ちカルタゴに対するローマの優位を実現できなかった。しかし、それはいずれにせよ起こったのだ。ローマはその後の複数の戦役を経て平定され、最終的にはカルタゴ本国に統合されたが、ローマの文化と同一性は残り、カルタゴを統治するスフェスたちはその存続を正当なものとして容認した。ローマはカエサル、フルヴィウス、テオドシアといった天才たちに支えられながら長期戦を続けた - これらの人々には、あり得ない勝利や発見を総当たりで押し付けることで偶然にこの状況を作り出した存在よりも、遥かに優れた先見の明があった。
ローマが内部からカルタゴの集大成へと成長し、やがて雄大な不死鳥の如くに殻を破って飛翔したことを知ったなら、オットカールは果たして何を思うだろうか。自らの人種を拒絶する帝国が堂々と屹立する様を見て、彼は誇りを感じるだろうか。畢竟、旧世界の奇妙で野蛮な考え方は、我々の高貴な慣習とは全く相容れないものである。
我々はオットカールの最後の過ちに全てを負っている。我々の世界のためにも - オットカールが功業を終える日が決して来ないことを願う。
バルカ・マグナス許し給わば、彼に永久の眠りあれ。
LXX
本ページを引用する際の表記:
「SCP-4860」著作権者: Aftokrator, C-Dives 出典: SCP財団Wiki http://scp-jp.wikidot.com/scp-4860 ライセンス: CC BY-SA 3.0
このコンポーネントの使用方法については、ライセンスボックス を参照してください。ライセンスについては、ライセンスガイド を参照してください。
ファイルページ: SCP-4860
ファイル名: serica.png
タイトル: serica.png
著作権者: Aftokrator Aftokrator
ソース: https://scp-wiki.wikidot.com/scp-4860
ライセンス: CC BY-SA 3.0
公開年: 2023