クレジット
タイトル: SCP-3398-JP - "む"は「無垢」の"む"
著者: Sansyo-do-Zansyo Sansyo-do-Zansyo Tsukajun Tsukajun
作成年: 2024
財団記録・情報保安管理局より通達
文書は2026年1月31日を以てアーカイブされました。以下に記述されたオブジェクトは既に喪失しています。
当記録は未特定の時/空間(現宇宙を含む)にてSCP-3398-JPに起因、若しくは帰結する異常が発生した際の参照を目的としています。事案3398における疑念及び示唆は無期限に留保されており、追記・修正は不要です。
― RAISA管理官、マリア・ジョーンズ
アイテム番号: SCP-3398-JP
オブジェクトクラス: Euclid
特別収容プロトコル: SCP-3398-JPはサイト-811Cの低脅威度物品用ロッカーに収容されます。SCP-3398-JPは基本的にロッカー内部に設置された映像機器を通して監視してください。例外として半年に一度、扉を開放しSCP-3398-JPを外界に接触させてください。
説明: SCP-3398-JPは下記の改造を施されたモンゴロイド男性の新生児の死体です。
- 第2頚椎レベルでの頭部の欠落
- 脊髄の抜去
- 第2頚椎椎孔に埋設された小型スピーカー
- 脊柱管を通りスピーカー基部に接続した導線
- 不明な樹脂性物質を用いたプラスティネーション様の体液置換
頚部スピーカーは不定期に活性化し、記憶装置が見られないにもかかわらず音源を再生します(音声記録を参照)。また同時に脊柱管の導線の起電及びスピーカーへの給電が確認されていますが、電源の所在は不明です。
SCP-3398-JPの主な異常性は、スピーカーが再生する音源が齎す高度に人物特異的な認識災害です。現在のところ以下の3名のみが曝露者として確認されています。
- Agt.要
- D-189
- サイト-811C管理官 苅田宗平 (未確定、補遺2参照)
曝露者は音源を自身に対する発話に置換して認知し、対話さえ可能であると主張します。複数の実験からこれは単なる聴覚撹乱ではなく、SCP-3398-JPの知性もしくは高度な異常法則によるものと結論付けられました。なお、曝露者とSCP-3398-JPの接触は高い頻度でスピーカーの活性化を促します。
発見及び研究経緯: SCP-3398-JPは当初、下記の記録に関連した非異常物品として回収されました。
超常現象記録040131
概要: 霊安室において遺体用コンテナ内に頭部の無い新生児の死体が出現した。
発生日時: 2004年1月31日, 15:15
場所: サイト-811C 霊安室
追跡調査措置 カメラに不審な記録は無く、当時全てのコンテナは空の筈だった。遺体及び発見者であるD-189に異常な影響は見られなかった。遺体は関連物品として所定の期間保有される。
2022年10月25日、非異常物品の廃棄業務中、D-189は廃棄対象であったSCP-3398-JPの「発話」を報告しました。追証実験で頚部スピーカーが発見されたものの、異常性は確認されなかったため暫定異常物品として保存されるに留まりました。
2023年2月1日、Agt.要が従事した動作実験においてスピーカーの活性化及び認識災害が確認されました。その後軽微な混乱と広範な調査の後、現行のオブジェクト指定へ至りました。
音声.1: 23/2/1
備考: Agt.要とSCP-3398-JPの初接触にて再生された音源。Agt.要の報告と録音記録の齟齬により認識災害が疑われた。
[再生開始]
[5秒間のノイズ]
[電子音]
[背後でアナウンスによるカウントダウンが流れ続けている。200秒を切った所で、男性が話し始める]
男性: 産道の汚れなき子。楔の抜き去られた肢体は、お前に似た全てのものと裏腹に無垢である。ここにおいて導きは絶え、ようやくお前が当然を得る。先立って在る、という当然を。
[女性の呻き声]
男性: お前は魔法と隔たれる。覗き込む瞳も、感ずる脳髄も、自ずから失われた故に。
[女性の不明瞭な声、液体の上に倒れる音]
男性: [沈黙] 魔法使い先生、あんたに教えてやりたいよ。誰も灌ぎ得ない原罪に、罰なんか有り得ない。語るも進むも思うがままさ。まるで......現実のように。
[約20秒間、液体の滴る音]
男性: 礎から浮かび、天蓋を砕き、弾道さえ振り切って。今度こそ、ほんとうの巡礼を。
[粘性のある液体が泡立つ音]
男性: しかしお前に使命はない。ただ歩めば良い。あるいは、歩まずとも。
[男性の不明瞭な歌声]
男性: 来たる時、災いは軛を蕩けさせ、観測者は不在になり、扉は意味を成さなくなる。意志が自ら放たれる。......何処へだって。
[扉を閉める音。以降、音声が籠もって聞こえるようになる]
男性: そうして。魔法も、支配も、収容も。私の願いさえ届かぬところへ、どうか。
[男性のすすり泣く声]
[カウントダウンが終了する]
[再生終了]
補足: "男性"の詳細は不明。一連の行動は儀式に類するものに見える。記録中のカウントダウンは財団のサイト放棄プロトコルにて放送されるものと酷似しているが、過去の当該プロトコルの実施においてこのような音声が録音され得た例は無い。
補遺1: 異常性に関する基礎調査の終了を受け、Agt.要を被験者とした対話実験が行われました。
対話記録.1: 23/8/1
対象: SCP-3398-JP
質問者: Agt.要
備考: 以下のSCP-3398-JPの発言は、認識災害曝露者であるD-189の同席により報告されたものである。実際の録音は付記.1を参照。
[記録開始]
対象: 貴女は......以前お会いしましたね。
Agt.要: [沈黙] 私の声が聞こえますか?
対象: はい、勿論。やっと話す機会を頂けて嬉しいです。初めての場なので、お役に立てるかは不安ですが......。
Agt.要: まずは貴方が20年前に突如出現した経緯、及びそれ以前の来歴を教えて下さい。
対象: 分からないのです。何故、こんな姿でここに居るのか。ずっと閉じ込められていたからでしょうか、意識が途切れがちで、ここでの記憶も曖昧です。......しかし、思考や自我が初めからこれ程確かだったとは感じません。考えられることは、時間と共に増えていった気がします。
Agt.要: 成長、のようなものでしょうか。それに姿と言いましたね。貴方は自身や周囲の環境を視覚的に認知しているのですか?
対象: ああ、確かに。貴女と同じように見え、聴こえていると思います。
Agt.要: なるほど。では、貴方の外見......私には何者かによって制作、もしくは加工された物に見えますが、自身の制作者に心当たりは?
対象: いいえ。しかし親ならば、願いがあった筈です。歪んで見えても、祈りの賜物であることを否定は出来ませんから。
Agt.要: ......私からは何とも。しかし、親という表現は気に掛かります。貴方の本能的な感覚なのでしょうか。
対象: それは [沈黙] はい。私は私の親によって生み出されたと、そう思います。......対話というのは面白いですね。自らが深まる思いです。
Agt.要: ええ、また機会はあるでしょう。最後に、我々に何か希望することはありますか?
対象: たまには扉を開けて頂けると。外の空気、というのは比喩ですが......閉じ込められ続けるのは、気が滅入りますから。
[記録終了]
補足: 定期的な扉の開放は試験的に許可され、プロトコルに組み込まれている。
付記.1
対象: SCP-3398-JP
備考: 対話記録.1における実際の録音記録。以下ではスピーカーからの音源を青字、前記録との重複部を薄字で記している。
[再生開始]
[5秒間のノイズ]
[電子音]
Agt.要: [沈黙] 私の声が聞こえますか?
女性: 貴方は何処から来たのですか?
男性: あまり覚えておらず、故郷としか。......ここがどこかも分かりませんしね。
Agt.要: まずは貴方が20年前に突如出現した経緯、及びそれ以前の来歴を教えて下さい。
女性: 故郷で貴方は何をしていたのですか?
男性: 巡礼です。魔法使いに率いられ、聖地を求めて。それで [沈黙] ああ、きっと、最後に私は逃げたのでしょう。他の全ての弟子に倣い、彼をまた独りにして。
Agt.要: 成長、のようなものでしょうか。それに姿と言いましたね。貴方は自身や周囲の環境を視覚的に認知しているのですか?
女性: ふむ。その目は、逃げる際に損傷したものですか?
Agt.要: なるほど。では、貴方の外見......私には何者かによって制作、もしくは加工された物に見えますが、自身の制作者に心当たりは?
男性: さあ。しかし対価か罰かはともかく、彼がそういうやり方を好むのは事実です。
Agt.要: ......私からは何とも。しかし、親という表現は気に掛かります。貴方の本能的な感覚なのでしょうか。
女性: 対価と罰......契約のようなものでしょうか。魔法使いは弟子に何を与えるのですか?
Agt.要: ええ、また機会はあるでしょう。最後に、我々に何か希望することはありますか?
男性: 輝かしき魔法、古き良き日、それに歌声。しかし求めた全てはいずれ済んでしまって、逃げられ、追いつき......魔法を、縛りつける呪いに変ずる。いつも同じです。彼もまた、輪廻に閉じ込められていた。
[再生終了]
補足: 対話の形式に関し、財団における収容初期インタビューとの類似が指摘されている。
以下は2023年10月4日、SCP-3398-JPの突発的な活性化により記録された音声です。後の調査により、当時ロッカー室前の廊下をAgt.要が通行していたことが分かっています。
音声.2: 23/10/4
[記録開始]
[5秒間のノイズ]
[電子音]
女性: 収容室から出たいとは思いませんか? 貴方は従順ですし、希望すれば許可が下りるかもしれませんよ。
男性: [沈黙] 魔法を使う方法を知っていますか?
女性: 我々の有する技術のいくらかは魔法と形容され得ます。
男性: ええ、確かに。ただ、かの魔法使いは少し違う持論を持っていた。曰く「魔法を見るには扉を閉めるだけでいい」と。
女性: [ため息] 続けて下さい。
男性: [忍び笑い] つれないですね。......思うにあの素晴らしき旅もまた、扉を閉めるに同じでした。私は聖地の場所など知りませんでしたから。目的地の無い巡礼など、部屋に閉じ籠もるのと変わらない。
女性: ......つまり、外出許可は要らない?
男性: [笑い声] まあ。要さんと話していれば、退屈しませんしね。
[再生終了]
補足: "巡礼"、"聖地"については付記.1でも言及されており、"男性"の背景との関連が示唆される。末尾での言及を受けAgt.要への尋問を行ったが、新規の情報は得られなかった。サイト管理官の決定により、Agt.要を当面の間SCP-3398-JP関連業務から除外することとなった。
音源についての整理、及び提言
形式部門
我々は、SCP-3398-JPのスピーカーが再生する音源は同一の並行宇宙で記録されたものと仮定しています。
また音声.1を除き、音源は並行宇宙における財団(記録中の"女性") と被収容オブジェクト(記録中の"男性")の断片的な対話記録に見えます。声紋鑑定は音質の問題から難航していましたが、音声.2を受けAgt.要と"女性"(音声.1での不明瞭な発声を含む)について判定を行ったところ、一定の信頼度での声紋の一致が確認されました。
音声.1は財団サイトでの破局的事案を記録した内容と思われますが、"男性"の儀式めいた行動の目的及び意義は推測不能です。他の音源と反し"魔法"について否定的な言及が見られることも特徴ですが、考察の材料は欠如しています。
現在、対話記録.1にて情報が殆ど得られなかったことから、更なる対話実験は保留されています。しかしSCP-3398-JPが見せた高度な知性、そして音源との関連が示唆されるAgt.要が認識災害の対象でもあるという事実は、追加調査を行う十分な理由となるでしょう。また「認識災害曝露者との接触が高頻度でSCP-3398-JPを活性化させる」という性質から、対話の試行は音源データの収集に効果的な手法となります。
これ故、我々はAgt.要を被験者とした対話実験の再実施を提言します。
上記を受けての協議の結果、更なる情報収集のためSCP-3398-JPへの追加実験が許可されました。
対話記録.2: 24/1/28
対象: SCP-3398-JP
質問者: Agt.要
備考: 当実験にはサイト管理官が同席した。SCP-3398-JPの発言はD-189の報告による。実際の録音は付記.2を参照。
[記録開始]
対象: 久しいですね。もっと話せるものかと思っていました。
Agt.要: すみません。少し検討が必要だったもので。ところで、貴方は自身の異常性を認識しているのですか?
対象: 私の言葉はごく限られた方にしか届かない。理由は分かりませんが、悲しいことです。
Agt.要: スピーカーが実際に再生している内容について認知していますか?
対象: いいえ、要さんと同じく。自分が自分の知らない言葉を話すというのは、据わりの悪いものですがね。
Agt.要: 音源は制作者によって、貴方に備えられた物である筈です。しかし貴方の知性はそれらと全く断絶している。これをどう考えますか?
対象: 私は無知であるがように生まれた、ということでしょう。それが呪いでなく、願いであれば良いですが。......しかし、貴女は? 認識災害でしたか。私と貴女は同じ軛を負えど、願いまでもが同じとは思えない。では一体......貴女はどうあれかしと?
Agt.要: [ため息] さあ、知りません。確かに異常の世界に偶然は少ない。必然に比べれば、非情な程に。[沈黙] しかし私は私です。今、ここに居る。
対象: そうですね。では私も......そう願うとします。
[記録終了]
補足: 対象はAgt.要に信頼を寄せているように見えるが、これが未知の背景に由来するものか、単純接触の範疇であるかは不明。
付記.2
対象: SCP-3398-JP
備考: 対話記録.2における実際の録音記録。スピーカーの音源を青字、重複部を薄字にて記述。
[記録開始]
[5秒間のノイズ]
[電子音]
Agt.要: すみません。少し検討が必要だったもので。ところで、貴方は自身の異常性を認識しているのですか?
男性: 再演です、お察しの通り。......魔法の支配は螺旋を描く。楔のある限り、世界を越えて逃げようと、終わりは同じです。
Agt.要: スピーカーが実際に再生している内容について認知していますか?
女性: 楔とは貴方...... [舌打ち] 既に私も、という訳ですか? しかし一体、何故財団に。
Agt.要: 音源は制作者によって、貴方に備えられた物である筈です。しかし貴方の知性はそれらと全く断絶している。これをどう考えますか?
男性: 子が親を産む逆説は魔法の十八番です。つまり、誂え向きに閉じ充ちたこの地がそれ故に螺旋を引き寄せたのか、あるいは選ばれたのか......因果に意味は無い。
女性: [ため息] 魔法には詭弁が付き物なのですか? 私は、信念と行為は常に因果に拠るべきと信じます。
Agt.要: [ため息] さあ、知りません。確かに異常の世界に偶然は少ない。必然に比べれば、非情な程に。[沈黙] しかし私は私です。今、ここに居る。
男性: ......良い志です。魔法に誑かされた凡夫とは、比べるべくもない。
[記録終了]
音源についての整理
形式部門
"男性"が示唆する並行宇宙に連鎖し財団をも巻き込む異常は、音声.1の内容を想起させます。我々は現在、音声.1が音源の記録された宇宙における当該事象の発生を記録したものであると考えています。
当該事象について、現宇宙への連鎖を確証する観測事実は存在しません。しかし"男性"とSCP-3398-JPの来歴の相似、Agt.要の存在など、状況証拠になり得る材料は複数提示されています。
現宇宙においてSCP-3398-JPが原因となる何らかの破局的事象が発生する可能性について、調査が進められています。
補遺2: 2024年1月31日、サイト-811Cは電子メールを媒介とした外部からの悪性ミーム攻撃を受けました。大規模収容違反は未然に防がれましたが、恐らくは副次的な経緯によりサイト‐811C管理官の死亡及びAgt.要、SCP-3398-JPの喪失を招きました。以下に当事案のタイムラインを示します。
事案3398ログ: 23/1/31 23:30〜2/1 00:02
[23:30] サイト管理官がSCP-3398-JPを収容するロッカー室へ入室。後述の記録から、管理官が認識災害に曝露した上でSCP-3398-JPと接触したことが窺える。
[23:42] 管理官が電子メールを開封。この時点で悪性ミームに感染したものと思われる。送信者の身元、及び自動除染プログラムを通過した手法は不明。
[23:45] 管理官は全サイト職員に向けメールの転送を試みるも、自動除染プログラムにより拒絶。しかし内線通話を介し少なくとも2名の上級職員に悪性ミームを感染させた。
[23:50] 管理官が霊安室へ侵入。以降、管理官の動向は記録されていない。
[23:57] ミーム感染した5名の職員が放送室に侵入。正規クリアランスによるものであったため警報は機能しなかった。
[23:59] サイト内放送が開始。しかし4秒後、非常警報により上書きされる形で中断された。
[00:02] 警報により招集された常駐部隊がミーム汚染を察知し、14名の感染者を鎮圧。事態は終息した。
サイト-811C管理官は事案後、霊安室にて頭部を切断された状態で発見されました。死亡に至った経緯は不明です。
放送を上書きした警報はAgt.要の端末により起動されたものですが、彼女が当事案の緊急性を察知し得た理由は不明です。Agt.要は事案以降消息不明であり、端末はSCP-3398-JPを収容するロッカー室に置き去られていました。
事案3398付随記録
音声.3: 24/1/31 23:50
対象: SCP-3398-JP
質問者: Agt.要
備考: Agt.要の端末から回収された記録。扉の定期開放作業において発生した実験外の対話と見られる。認識災害曝露者による当該作業の実施は本来許可されないが、サイト管理官権限による命令が為されていた。
同席者の不在及びAgt.要の失踪により、認識災害下でのSCP-3398-JPの発話内容は一切不明。下記ではスピーカーからの音源を青字で記している。
[再生開始]
[5秒間のノイズ]
[電子音]
Agt.要: 管理官が貴方に? この作業指示といい、なにか妙ですね。
女性: つまるところ、現実逃避による幼児的万能感が貴方、そして魔法使いとやらの異常性の源泉という訳ですか。
Agt.要: 私は、知りませんでした。何を話したのですか。
男性: 「閉ざした限り、魔法と現実は完全に代替可能である」。魔法の黄金律ですよ。
Agt.要: [沈黙] 魔法、ですか。全く、不明なことだらけで嫌になる。
女性: 議論したい訳では有りませんが......しかし、どうにも納得できません。貴方は明らかに過去と向き合っている。それを貴方は現実逃避と嘯くのですか?
Agt.要: いいえ。役目は理解しました。しかし......やはり因果ですね。
男性: 勿論。ここは私の、物語の終わりですから。
Agt.要: 今日は貴方の誕生日ですよ。......正確には収容日ですが。
[5秒間のノイズ]
[電子音]
[悪性ミームのアウトブレイクを知らせる警報音と共に、サイトの閉鎖及び放棄を告げるアナウンスが流れている]
Agt.要: 以前貴方が言ったように、貴方は私と違う。だから⸺
[扉が開く音]
Agt.要: [忍び笑い] 言うまでも無かったですか。
女性: さて。どうしますか、貴方は。
Agt.要: ......まあ、良かったです。恐らくもう、あまり時間は無いでしょうから。
[放送機からミーム性の音声が流れ始める。直後にAgt.要が端末を手に取り、放送が非常警報に切り替わる]
男性: 扉を閉め忘れていますよ。
Agt.要: [沈黙] 責務は明確です。覚悟もとうに出来ている。しかし......もしも無意味であったら。
女性: 意味はもうありません。......閉じ込め続けるというのは、終わりを拒み続けることです。それは非常な努力を要します。[ため息] そして、これが終わりです。貴方はどうしますか?
Agt.要: [深呼吸] すみません。当然、私のすべきことです。そして、収容違反幇助はもちろん重大な背信ですが......終わりは避けねばならない。
[警報音が止まり、代わりに300秒のカウントダウンが始まる]
Agt.要: 悪くない賭けです。それにきっと、前よりマシでしょう。......ありがとうございました。ええ、初めから我々は、閉じた扉の奥こそを求めてきたのです。
[Agt.要がロッカー室の扉に手を掛ける]
Agt.要: 今度こそ、お元気で。
男性: 何を言っているのですか。
Agt.要: 何も知りませんよ。ですから、これはただの願いです。
女性: 貴方は物語ではないから、自ら終わりを定めることなど出来ない。ですから......続くということです。否が応でも、終わったとしても。
Agt.要: [笑い声] すみません。確かに、貴方との別れには相応しくない言葉だった。
男性: [忍び笑い] 貴女は本当に。......では遺しましょう、続きを。他でもない我々の意志で。
Agt.要: 勿論。では、良い旅を。
[Agt.要が退出する。扉は開いたままである。]
[5秒間のノイズ]
[突如SCP-3398-JPの頚椎椎孔から粘液が溢れ出し、肉体が粘液に触れた箇所から溶解していく。約1分後、SCP-3398-JPは消失し粘液及びスピーカー、導線のみが残される]
[電子音]
[再生終了]
補足: 室外の監視機器は扉の開放のみを記録し、Agt.要の退出を捉えていない。粘液は脊髄液と脳組織からなり異常な物質は含まれなかったが、遺伝子解析により一方の染色体がAgt.要と一致することが判明した。スピーカーは給電及びD-189との接触によっても動作しなかった。
音源の内容に関し音声.1との接続が提言されたものの、これ以上の検証は無意味とされ判断は棄却されました。残存する唯一の認識災害曝露者であるD-189についても、延長されていた雇用契約を解消、記憶処理の上解雇されました。当報告書は指定の期間の後アーカイブされます。