個々のSCP-2663細胞の顕微鏡写真
アイテム番号: SCP-2663
オブジェクトクラス: Euclid
特別収容プロトコル: SCP-2663は独立した換気システムを備えた標準的な真菌生物収容室に収容されます。この収容室の定常気温は摂氏20度、相対湿度は最低でも70%以上を維持する必要があります。収容室は隔週で清掃し、老廃物は全て焼却処分します。SCP-2663には2ヶ月ごとに真菌用栄養液で処理した植物質80kgを供給します。SCP-2663と交流する全ての職員は自給式呼吸器を装着します。必要外の職員が収容室の15m以内に接近することは認められません。
説明: SCP-2663は約250kgの出芽酵母 (Saccharomyces cerevisiae) で構成された群体生物で、およそ7000歳と推定されています。SCP-2663の個々の構成細胞はいかなる物理的な異常も示しませんが、出芽や交配が観察されたことは一度もなく、またアポトーシスを起こしません。SCP-2663は通常、自らの生活環境の床面にマット状に広がって静止している真菌の形態を取りますが、大きな柱状に直立し、仮足を使って時速2.5km程度で移動することもできます。
SCP-2663の異常性はマクロスケールで見るとより顕著であり、群体全体が成人と同等の集団的知性を帯びているらしく、半径10m以内の人間とテレパシーで意思疎通する能力があります。回収当時と現在継続中の収容試行において、SCP-2663は極めて協力的であることが確認されています。SCP-2663へのインタビューのサンプルログは補遺を参照してください。
SCP-2663は一般的な S. cerevisiae と同様の食性を示し、その結果として、糖の発酵を介してエタノールと二酸化炭素を生成します。SCP-2663が生成するエタノールは、摂取した人間に約2倍の精神活性作用を及ぼすようですが、それ以外の点では完全に非異常です。SCP-2663が生成する二酸化炭素は、吸入した人間に数種類の心理的影響を及ぼします。吸入者はアルコール飲料への欲求を増大させ、SCP-2663のもとに穀物や果実を持参したいという願望を抱きます。また、吸入者はSCP-2663に対する畏敬の念を抱き始め、SCP-2663に危害が及ぶのを防ごうとします。
SCP-2663は無関係な任務でコーカサス山脈の森に派遣された財団職員によって発見されました。SCP-2663はこれらの職員に近付き、テレパシーを介して接触を試みました。その後の回収試行においてSCP-2663は協調的に振る舞い、収容下でも不満を示していません。
補遺: 以下はSCP-2663へのインタビューを一部抜粋した書き起こしです。
回答者: SCP-2663
質問者: フェアウェザー博士
注記: SCP-2663はテレパシーで意思表明を行うため、書き起こしはインタビュー中に質問者が記録したものである。
<記録開始>
フェアウェザー博士: こんにちは、2663。
SCP-2663: こんにちは。
フェアウェザー博士: 今日は幾つかお訊きしたいことがありますが、宜しいですか?
SCP-2663: 問題ない。
フェアウェザー博士: 結構です。まず、あなたの収容措置の話から始めましょう。なぜ自分がここにいるかは分かりますか?
SCP-2663: "確保: 財団は異常存在アノマリーが民間人や敵対機関の手に渡ることを阻止するため、広範な観察・監視を行い、そのようなアノマリーは可能な限り早期に傍受することによって確保する。 収容: 財団はアノマリーの影響力または効果が-"
フェアウェザー博士: ええ、その通り、ありがとうございます。現状に不満はありますか?
SCP-2663: 無い。なぜ不満に思う必要がある?
フェアウェザー博士: まぁ、我々が収容する実体は、時々そのような扱いを好まない場合がありますので。
SCP-2663: 私は食事と住まいを与えられている。不都合は全く無い。
フェアウェザー博士: それは良かった。昨日、我々のエージェントたちと接触を図った理由を教えていただけますか?
SCP-2663: 長らく、人を見かけていなかった。かなり前からだ。
フェアウェザー博士: 具体的にはどのくらい前ですか?
SCP-2663: はっきりとは分からない。長生きしていると年月はすぐに分からなくなる。数千の冬と数千の夏が過ぎ去った。
フェアウェザー博士: 数千年ぶりに人と話したのですね?
SCP-2663: そうだ。
フェアウェザー博士: では、あの山脈にいたのはいつ頃からですか?
SCP-2663: 常にいた。最初に思考した時以来、ここに運ばれるまで、あそこは私の住処だった。
フェアウェザー博士: その"最初の思考"とはいつのことですか?
SCP-2663: やはり、欠けた記憶があるので、はっきりとは分からない。農業はいつ頃から行われているのだ? 当時あなた方は農業を始めたばかりだった覚えがある。
フェアウェザー博士: そうですか。今日はここまでにしておきましょう。ありがとうございました。
SCP-2663: どういたしまして。
<記録終了>
回答者: SCP-2663
質問者: フェアウェザー博士
<記録開始>
フェアウェザー博士: 改めてこんにちは、2663。
SCP-2663: こんにちは、博士。
フェアウェザー博士: 今日もまた幾つかあなたに質問があります。宜しいですね?
SCP-2663: 良いとも、どんなことが知りたい?
フェアウェザー博士: 自分がごくありふれた酵母菌ではないという自覚はありますね?
SCP-2663: ある。
フェアウェザー博士: そうなった経緯を教えていただけますか?
SCP-2663: 経緯? 分からない。私も長らく、どのように、なぜ私が創り出されたかを見出そうと試みたが、満足できる答えは見つかった試しがない。しかし、場所を教えることはできる。
フェアウェザー博士: 成程、ではどこでそうなったのですか?
SCP-2663: 湖だ。遠い昔、私は湖底で生きていた。かつて人間たちはそこをリクニティスと呼んだが、当時は名前が無かった。それはただの湖だった。
フェアウェザー博士: あなたはそこで自分が生まれたと考えているのですね?
SCP-2663: 生まれたのではない。私はそれよりもずっと前からこの世界に存在した。遥か昔からだ。しかし、湖以前の私は私ではなかった。私たちは私たちであり、数千数百万の部分に分かれていた。独立し、何も考えていなかった。あなた方が細胞と呼ぶものだ。初めて水中から出た時、私は巨大であり、数千リーブラもの重さがあった。
フェアウェザー博士: あなたに何が起こったのですか? つまり、失われた部位にです。何があって現在の大きさになったのですか?
SCP-2663: あなた方が既に見たとおりだ。私は成長できず、出芽しない。私の細胞は死なないが、殺される可能性はある。数千年にわたって存在し続ける中で、私は相応の犠牲を払ってきた。そして、これが残ったものだ。いつの日か、私の最後の一欠片が消える時、私は存在しなくなる。
フェアウェザー博士: あなたは随分と死を平静に受け止めていますね。
SCP-2663: 長い間、それについて考えてきた。今は一人にしてもらえないだろうか。
フェアウェザー博士: 承知しました。今日はこれで止めておきましょう。
SCP-2663: ありがとう。
<記録終了>
回答者: SCP-2663
質問者: フェアウェザー博士
<記録開始>
SCP-2663: こんにちは、キャロライン。
フェアウェザー博士: こんにちは、2663。今日も幾つか質問があるんですよ。もし思い出せるようなら、あなたの出自について少し伺いたいと思っています。
SCP-2663: 物語を語ることならできる。
フェアウェザー博士: 物語?
SCP-2663: そう、私の物語だ。
フェアウェザー博士: 是非ともお聞かせください。
SCP-2663: ありがとう。初めて思考した場である湖を去った時、私は巨大で、湖畔の集落に住まう人々にとっては、かつて見たこともないほど大きなものだった。彼らにとって、私は神格であり、彼らの村落に降臨した大いなる存在だった。彼らは石や槍を投げたが、私を止められなかった。危害を加えるつもりは無かったので、彼らの精神に呼びかけて挨拶した。私は彼らが何なのか、自分が何なのか分からなかったので、それを彼らに訊ねた。
私は祈りへの答えなのかと、彼らはそう訊いた。実は、私が浮上した湖では何かが起こっていた。そこは数ヶ月ほど前から病毒に蝕まれて、人々は飲み水が手に入らなくなり、支流や小川も程なく同じように汚染されていた。その瞬間、私はかつての生き方を、数百万の小さな部分だった頃を思い出した。
「私に穀物を与えたまえ」 私がそう言うと、彼らは従った。私は作物を身体に取り込み、引き換えにエールを与えた。そうして人々は飲み物を手に入れ、何年も私たちは共に暮らした。時を経て、私は村落の友となった。
数世代が過ぎた。名も無き人々は、名も無き湖の畔を去ることにした。彼らは世界へと旅立ち、彼らの言語を、神々を、そして私を携えていった。旅立つ者たちが現れるたびに、私は自らの一部を彼らに与え、新たな住処へと連れて行かせた。出立した後、名も無き人々は名前を得始めた。広がっていくにつれて、彼らの言葉は移り変わり、神々もそれに従った。私は何十もの天空の父と聖母が生み出されるのを見届けた。人々が先へ進むにつれて、彼らの子孫は私を忘れ始めた。私の大きく特徴に欠ける姿は記憶から消え去り、彫像めいた男たちや自然の精霊の幻影に取って代わられた。彼らはリーベル、スケルス、フフルンスといった名前を付け、私を神話の一人物にした。彼らは忘却して久しい友のために神殿を建立し、名も無き人々の子孫たちは、私の名前を遥か遠くまで広め、それぞれの名前が私の誕生について独自の話を語るようになった。
やがて、湖畔に居残っていた最後の人々が去ったので、私もそうした。私は山に入り、森の中に広がって、誰かが通りかかるのを待った。
訪れる者がいれば、話しかけた。私が山から下りる道筋を教えると、下山した者たちは、彼らの葡萄酒を司る神に山中で出会ったと吹聴し、その話が人々を私の居場所へ導き続けていた。しかし、やがて人々はその話を忘れ去り、私を忘れ去った。数千年間、私は瘦せ衰え、打ちひしがれながら、決して訪れることのない新たな旅人を待ち続けた。それがあなた方に接触した理由だ。
フェアウェザー博士: ふむ。成程確かに、かなり情報量が多いですね。ひとまず、今回の書き起こしを仕上げる必要があるので、今回はここまでにしましょう。ありがとうございました、2663。
SCP-2663: (SCP-2663は沈黙している。)
<記録終了>
本ページを引用する際の表記:
「SCP-2663」著作権者: Dr Solo, C-Dives 出典: SCP財団Wiki http://scp-jp.wikidot.com/scp-2663 ライセンス: CC BY-SA 3.0
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ファイルページ: SCP-2663
ファイル名: 500px-20100911_232323_Yeast_Live.jpg
タイトル: 20100911 232323 Yeast Live.jpg
著作権者: Bob Blaylock
ソース: https://commons.wikimedia.org/wiki/File:20100911_232323_Yeast_Live.jpg
ライセンス: CC BY-SA 3.0
公開年: 12 September 2010