クレジット
アイテム番号: SCP-2655-JP-J
オブジェクトクラス: Keter
特別収容プロトコル: SCP-2655-JP-Jは現在、財団および政府の共同管理下にあります。不定期に漏れ出す致死性ウイルス/放射線/アスペクト放射/奇跡論的パルス/自己複製体/Ruhar等に対処するため、財団の持つ各種超常機材が搬入されています。出走馬にゴール到達の兆候が見られた場合、財団は官民と密に連携し、対抗ないし遅滞策をすみやかに立案・実行しなければなりません。
2029年、小惑星アポフィス接近時に一躍先頭馬群へ躍り出たディープインパクト。
説明: SCP-2655-JP-Jは██県にある旧███競馬場です。閉鎖から長らく放置されていたにもかかわらず、内部のインフラは完全に機能しており、現在進行形で異常な競馬レースが開かれています。出走中の競争馬はすべて、今後起こりうるK-クラスシナリオの発生源にちなんだ馬名が付けられており、モデルとなった事象の推移に連動した走りを見せます。
SCP-2655-JP-J場内には競争馬および騎手のほか、サバクトビバッタ(Schistocerca gregaria)の頭部を持つ全裸の人型実体が多数たむろしており、レース展開に応じて不明瞭な言葉を発したり、紙吹雪のようなものを撒き散らしたりします。放送席に座る2体の人型実体のみ、日本語での発話が可能であり、年に数回のペースで実況解説を行っています。レースコースおよび放送席への物理的な干渉の試みはすべて失敗に終わりました。
実況や掲示物によると、『第666回 地球大災厄』と冠された当レースは"芝距離無制限の障害競走"とされます。これはレース距離が予め定まっていないことを意味しており、勝敗を決するゴールラインは先頭馬の走りに合わせ、馬場を滑るように高速で移動し続けます。先頭馬とゴールライン間の距離については、モデルとなった事象の脅威度によって伸縮することが観察によって明らかとなっています。
レースでは通常、脅威度が恒常的に高い事象をモデルにした"本命馬"や"対抗馬"が先方で馬群を形成しており、マイナーな"穴馬"が後方から懸命に追いかけるという展開を見せます。その一方で、10年 5年 3年に1度のペースで、穴馬が突如猛烈に加速し、先頭馬群を追い抜く逆転劇が発生します。先頭に立った穴馬はたいてい勢いを保ち、ゴールライン寸前まで距離を縮めます。
当レースにおける「ゴール到達」とは恐らく「K-クラスシナリオの進行による人類滅亡の確定」を意味するものと考えられますが、最接近した穴馬のモデル事象はすべて、財団による対処が辛うじて成功しています。このため、これらの穴馬はさまざまな理由により、全頭がゴール直前で失速、落馬、後ろ方向への斜行、あるいは失格処分となっています。現在に至るまで、ゴールを踏破した馬はまだ現れていません。
参考として、2050年時点の順位は以下の通りでした。
- アトミックボム
- ディープインパクト
- メテオシャワー
- スーパーボルケーノ
- エーアンドアイ
- シンコウエイリアン
- パンデミッサ
- ウィキドットチャン
- ミスターデーヴィー(ここまで先頭集団)
- キングスカーレット
- アカイトリ
- サイガスクエナイ
- シナノウツロオー
- ニーサンゼロゼロ
- ヒノマルツヨシ
- イマハネユルシタル
- リンゴニシテヤルノ
- ウンスカイ
- ポテイトーズ
- サミュエルロイド(失格のち復帰)
- ケイキフェトル
- ナイステスラ
- ハーツオブアース
- トウカイヤネウラ
- ウオッカ
- イナミサン
- ヒシリヴァイアサン
- アドマイヤディダル(失格のち復帰)
- ムムムムムムム
- アイアムツヨスギル
- アイアムカミスギル
- ヘイトフルスター
- トワノダークホース
- トケマスフウイン(2048年失格)
- カブトヤロー(2037年失格)
- ダエワスカーレット(2022年失格)
- サイレンスデイズ(2019年失格)
- ニクニクパニック(2019年失格)
- (2017年失格)
- シーキングザイダン(2017年失格)
- マヤノカレンダー(2012年失格)
- キョウフノダイオー(1999年失格)
- シケイダショパン(1998年失格)
- ハレーノシッポ(発見時すでに失格、退場済)
補遺: 直近10年分の実況記録
実況:
さぁ先頭は現在414016周3コーナー、注目エーアンドアイは8番手、外目8番手で4コーナーに掛かります。
前に立つは逃げ宣言アトミックボム。世界政府が樹立してウン百年、いまなお不穏分子が起爆のチャンスを伺っております。
そしてディープインパクト武豊、2番手であります。有史以来最大、直径120キロの彗星が何者かの誘導で地球へ向かっております。外目をつきましたパンデミッサが続いています。
さらにサミュエルロイドが4番手!騎手の容態悪化により、穴馬から対抗馬に上がりました。その外目をつきましてウィキドットチャンの方であります。小刻みに震えていますがコチラも大丈夫でしょうか。
そのやや後方、キングスカーレットが群れに食らいつきます。古豪の面目躍如といったところです。そしてそのアウトコース、ゼッケン6番モノクロの帽子、犀賀六巳です。犀賀、額に玉汗にじむ。いい加減この世界を切り離したいようです。
解説:
手ぬるい。
僕が現役なら30年で滅ぼせるのに、皆さん慎重に走りすぎですよねぇ〜。
さぁ4コーナーに入っていく57頭。財団、軍、PMC......各馬豪快に障害を蹴散らします。先頭は変わらずアトミックボム、続くは中団から追い上げアカイトリ。巧みな潜伏でまたも復活を果たしました。ピッタリ後ろにつくはキングスカーレット。緋色仲間に思うところがあるようです。
アカイトリ、見るからに肥えてきてましたもんね。こりゃあ相当コンディション高いですよ。やっぱりあかしけやなげですよねぇ〜。
ディープインパクトはやや落ちて6番手。宇宙艦隊の一撃を喰らい、先の彗星は塵と化しました。攻撃の黒幕・シンコウエイリアンも報復を受け、順位をガクッと下げております。生け垣障害から陽電子ミサイルが乱れ飛ぶ。アイアムツヨスギル、ここで蒸発し退場処分です。
あちゃ〜、残念。僕的には、ツヨスギルは短距離向きだと思うんですよ。石器時代なら余裕で滅ぼせましたが、ここんとこの技術革新には流石に追いつけませんでしたねぇ。来世に期待です。
おおっと、ここで動きがありました。後方ヒノマルツヨシが猛烈な追い込み!障害をどんどんスライムにしていきます!
アドマイヤディダルを抜き、メテオシャワーを抜き......ああっと!妨害!妨害です!失格済みのウンスカイが、ヒノマルツヨシの前を斜行しています!かの曇天が、障害サイドに回っております!ヒノマルツヨシ、雲に覆われ手も足も出ず!中団にまた沈んでいく〜!
う〜む、これはけしからんねぇ。フェアプレー精神に反しますよ。走るからには正々堂々滅ぼさんと。まったくけしからんねぇ。
波乱が続きます。放射能除去老婆が実用化し、核の価値が暴落。アトミックボム、ついに先頭から陥落しました。イマハネユルシタル、電撃和解により自ら馬場を去っていきます。2300年の場内総むせび泣き事件を彷彿とさせる大荒れ模様です。
現在の順位は先頭、パンデミッサ。2番手にウィキドットチャン、エーアンドアイが続き、キングスカーレット、アウトコースからイナミサン......イナミサン!?これは......ああ〜っと!後方に埋もれていたイナミサンですが、ポテイトーズとケイキフェトルを取り込み、増殖力に磨きがかかったようです。これは予想外だぁー!
いーや、僕は信じてましたよ。イナミサンはいくつも隠し球を持ってますからね。何が起きても不思議じゃありません。
あけましておめでとうございます!今年も大災厄をよろしくお願いします!
ところで、何か匂いませんか?
むむっ?このふんわり甘い匂いは...アップルパイ!リンゴニシテヤルノ、ようやく本気を出しました!イナミサンから放たれる彫刻が、次々とパイに変わっていきます!スクエナイ犀賀、宇宙の切り離しを諦め、平行次元へと離脱!そこもサミュエルロイドの射程圏ですが、果たして無事逃げ切れるでしょうか?
世界を救いたいのか滅ぼしたいのか、いまいちよく分かんないですよねぇ。
お、ちょっと待ってください。見てよアレ、ほらほら!
んん?どこでしょうか。おや...んんっ!?なんだこれは!何が起きた?何かが起きて、馬群の半分が消し飛びました!いったい何があったのか!レースはますます分からない展開になりました!
稀に見る異常事態です。現時点ではウィキドットチャン先行、エーアンドアイ、アカイトリともに失速しています。パンデミッサは万能薬の普及で沈没。キングスカーレット、シンコウエイリアン討たれました。中団にディープインパクト、メテオシャワー、シナノウツロオーおりますが疲れが感じ取れます。
未だ元気そうなのは中団後ろヒシリヴァイアサン。しかし相も変わらずフリーダムな走りで、一向に仕掛ける気配を見せません。ヘイトフルスター、ダメージは無いものの、トップから遥か1700馬身におります。ムムムムムムム、いるにはいますが依然として位置が分からず......。
いやぁ、その辺はコンプラとかありますのでね(苦笑)。しかし、確かにドラマに欠ける展開ではあります。何か一つ、起爆剤となるものがあれば良いのですが......
っと、おや......?ゴール前に見慣れない馬が走っております。途中参戦でしょうか?白毛に墨のような斑点、筆を思わせる尻尾、あれは......バドエンスキー!バドエンスキーだー!父にサッカーグループ、母にアクシュミホラーのエリートサラブレッドです!
オッ!
えー情報が入りました。バドエンスキーとゴールの距離は......100メートル!?いきなり現れて、ここまで人類を追い詰めるとは!疲れなどさらさら見えず、全速力で飛ばしていきます!なんという卑怯さ!なんというどんでん返し!悪いタイプのデウス・エクス・マキナだー!
本命来た、来たよ!
やったれバドエンスキー!地球人なんていてまえー!
横綱バドエンスキーの襲来で、災厄は一気に大詰めを迎えようとしています。ライバルはみな30馬身差で、もはや目じゃありません!
さぁバドエンスキー、残り10メートルだ!
あと10メートル!
追いつく者はいないのか!
武豊懸命に鞭を打つ!アイアムカミスギルが2足で駆け上がります。日本の星・チュウブウツロオー、肥大化で距離を稼いでいく!
だが、だが遠すぎる!あまりにも理不尽!それがバドエンスキー!"唯一抜きん出て並ぶ者なし"だ!対抗馬ウィキドットチャン、不運にも収益改善で鈍い走りです!
さぁ残り5メートル!残り5メートル!
バドエンスキー、舌を出し小躍りしています!余裕の進みです!
残りは3メートル!
2メートル!
1...
おお〜っと!?妨害!ここで!まさかの妨害!
あれは、あれは、最下位のダークホース!
前世に騎手から転向しました、"暗星豪"ことトワノダークホースです!
ゴールラインを逆走し、バドエンスキーに強烈タックル!失格覚悟の特攻だー!
何が気に入らないのか!態度が気に入らないのか!
こんな終わりが気に入らないのか!?
しまった、すっかり忘れてた...!
彼、財団とは何かと懇意なんですよ。つまりですねぇ、ダークホースは獅子心中の虫、"隠れ障害"だったんです...!
何でウシが参加してるのか、ずっと不思議ではあったんですよねぇ。
両馬、騎手ともに取っ組み合っています!がっぷり四つの大立ち回り!まるで騎馬戦の如き様相です。
あっ、ああ〜っと!ただいま、青ランプが点りました!審議です!審議の合図です!これより、批評委員から走行についての審議が行われます。
えー詳細来ました。議論の焦点は、"著者騎手の強引な締め方が妥当かどうか"に当てられるようです。すでにバドエンスキー、ゴールをハナ先に捉えています。人類の存亡は委員らの審判に委ねられました。
決着してくれないとご飯食べられないんですよねぇ。もうドッキドキですよ。
ちなみに、ココの穴場飯はイナゴのアバ丼です。
さぁお待ちかね、審議の結果が出ました!これより、内容を読み上げさせて頂きます。
『──拝読しました。人類はすぐには死なせず、できるだけ苦しませたほうが愉快と思います。例えば、物理的に死ななくなったオチはどうでしょうか?』
とのことです。
気になる、バドエンスキー著者騎手の反応ですが......これに同調!審議を受け入れる意向です!よって、直ちの滅亡は回避されました!レースは続行、続行されます!
[放送席にも届くほどの歓声・拍手]
うーん、お預けかあー。でもまあ、推しのウィキドットチャンがまだ踏ん張ってるのでね、ポジティブにいくとしましょう。災厄はまだまだ終わりませんよ〜!