クレジット
活性化中のSCP-1498-JP
アイテム番号: SCP-1498-JP
オブジェクトクラス: Euclid
特別収容プロトコル: 非活性状態のSCP-1498-JPはサイト-8181の低脅威度物品保管庫にて収容します。実験の際はセキュリティクリアランスレベル2以上の職員2名の承認を得て、必ずDクラス職員を用いて行ってください。ただしSCP-1498-JPを4度以上同じDクラス職員に使用させる場合は、セキュリティクリアランスレベル3以上の職員1名の許可が必要です。屋外で実験を行うこと、活性化中のSCP-1498-JPに火気を近付けることは禁止されています。
未収容のSCP-1498-JPの捜索と回収は現在も実行中です。新しく発見されたSCP-1498-JPが活性化して30分が経過していた場合、サイト-8181への移送は行わず発見地点に臨時収容施設を適宜構築し、一般人からその存在を隠蔽してください。なお、SCP-1498-JPの影響と見られる行方不明者を捜索及び救助する必要はありません。
説明: SCP-1498-JPは陶製の香炉、その内部8分目まで満たされた香炉灰、及び中心に刺さっている1本のスティック状のお香(以下、SCP-1498-JP-A)の3物品から構成されるオブジェクトです。香炉と灰の材質に異常性はありませんが、SCP-1498-JP-Aを引き抜くことは出来ず、灰は香炉から回収しても不明な方法で香炉底部より補充されます。SCP-1498-JP-Aは異常な破壊耐性を有しており、燃焼させることは可能ですがその長さが変わることはありません。
SCP-1498-JPはSCP-1498-JP-Aに点火した後に火を消し、燻らせた状態にすると活性化します。SCP-1498-JP-Aから発生した煙を吸引した人物(以下、被験者)には、被験した回数に応じて以下のような現象が発生します。被験回数 | 発生する現象 |
---|---|
1〜3回 | 被験者は一様に強い多幸感及び高揚感を訴え、知能低下・無動機症候群・幻覚症状等の発現が見られる。脳内では中枢神経系の抑制が確認。 |
4〜9 | 被験者の服を除く全身の色素が薄くなり、「青白い」と形容される色味を帯びる。また体重が平均して10〜20kg減少していることを確認。 |
10〜19 | 被験者の身体が浮遊を開始する。被験者の身体は地上2m付近で留まり、SCP-1498-JPが非活性化するまでホバリングを行う。この時の被験者の体重は平均して0.1〜0.6kgであると推測され、重量の減少により空気に対する浮力を獲得していると推測。全身の色は「白に近い灰色」と形容される。 |
20 | 被験者は完全な白色となり、その場に屋根がない場合、上空300mまで浮遊し続けることが確認されている。この状態の被験者をSCP-1498-JP-Aより立ち昇る煙から隔離させる試みは全て失敗に終わっている。後の調査で、SCP-1498-JP-Aより発生している煙が被験者と結合しており、継続して吸引を行っていることが判明。またSCP-1498-JPを移動させると、浮遊中の被験者も付随して移動する。 |
SCP-1498-JP活性化中、被験者の記憶は一様に曖昧ですが、一定時間を置くと再度煙の吸引を強く要求してくることから、SCP-1498-JPは高い依存性を有していると見られています。SCP-1498-JPは通常3時間程度でSCP-1498-JP-Aの煙が自然に消失して非活性化し、同時に被験者も異常状態から脱却できますが、被験回数が20回に達していた場合、SCP-1498-JPは活性状態を半永久的に維持し、被験者も異常性を喪失することはありません。この状態のSCP-1498-JPを非活性化させる試み及び被験者を救助する試みは全て失敗に終わっています。インタビュー記録を参照してください。
SCP-1498-JPは主にカルト宗教団体の間で流通しており、20██年██月█日に財団がその存在を捕捉して以降、回収された数は計████に登ります。SCP-1498-JPを20回使用した被験者の完全な隠匿は困難ですが、被験者が自身に発現している異常性に自覚的でないこと、野外で空中に浮遊している被験者を民間人の殆どが雲と誤認していることが、SCP-1498-JPの異常性が公になるのを防いでいると見られています。SCP-1498-JPを販売している大元の企業は判明しておらず、現在も調査中です。
インタビュー記録1498-JP: 20██年██月██日、都内████の住宅にて男女2名の遺体が発見され、鑑識がベランダにて3つのSCP-1498-JPを発見したことから調査は財団の管轄に譲渡されました。遺体は損壊が激しかったものの、身元は当該住宅に居住していた佐野正雄氏と佐野香奈子氏であると特定され、事件発生当時に現場で発見・保護された、両氏の息子であり、当時中学1年生であった佐野誠氏にインタビューを実施しました。以下はその記録です。
対象: 佐野誠
インタビュアー: 枡研究員
付記: 発見時より対象は激しい錯乱状態と鬱状態に陥っていたため、インタビューにあたり鎮静剤を適量投与している。
<記録開始>
インタビュアー: じゃあ、インタビューを始めます。誠くん、おじさん今から幾つか質問するんだけど、答えられるだけでいいから、答えてくれると嬉しいな。
対象: [数秒逡巡した後、頷く]
インタビュアー: まず君のうちに置いてあった、線香がささってるお椀みたいなやつ。あれはいつから君のうちにあったの?
対象: あれは、あの、お椀は。パパとママがもらってきた。
インタビュアー: 誰から貰ったのか、分かるかな。
対象: ......知らないおばさん。毎週家に来て、黒いビー玉みたいなのが沢山ついた、ブレスレットをじゃらじゃらさせて、パパとママと話してた。
インタビュアー: そのおばさん、どんなこと話してた?お椀の他にうちに置いてった物とか、覚えてない?
対象: ......わからない。「お前はあっちで勉強してろ」って、叩かれるから。でも、あのおばさんと話してる間のパパとママはなんか、笑顔なんだけど、こわかった。......夜遅くにやってるゾンビ映画の話をしてる時の、タケちゃんみたいな、顔してた。
インタビュアー: ......そっか。パパとママがお椀を使ってる、ええと、線香に火をつけて煙を吸ってるのは見たことあるかい?
対象: うん。[口を震わせる]最初は、またおかしなこと始めてる、と思って見てたんだ。話し掛けても全然気づいてくれないで爆笑してるから、そっとしておいて、パパとママのお部屋の掃除をやって、テレビとか観ながら、気を紛らわしてた。しばらくしたら段々慣れてきたよ。あの煙を吸ってる間は、勉強しなくても、殴られないし。お昼のアニメ観終わったあたりに元に戻って、カップラーメン作ってくれたり、散歩に行くの、許してくれたりしてたから。でも。[俯いて押し黙る]
インタビュアー: でも?
対象: [30秒沈黙]
インタビュアー: ごめんね。話すのが嫌なら、止めてもいいよ。
対象: ううん、話す。煙を吸い始めて、2週間ぐらい経ってから、パパもママも、お化けになった。
インタビュアー: お化け?
対象: 2人とも、部屋の中で、笑いながら空中に浮かんでるんだ。天井と、テーブルの間を、ふわふわって。空を飛んでる間も、口でずっと煙を吸ってて、よだれがカーペットにぼたぼた落ちてて。
インタビュアー: [沈黙]
対象: 煙を吸うといつも、ご近所さんが「子どもの馬鹿笑いをやめさせろ」ってチャイムを鳴らしにくるの。ぴんぽんぴんぽん、って。僕は、僕は、パパとママが怖くて。そのチャイムの音も、怖くって。部屋で布団かぶって、静かになるまで、ずっと。[全身を震わせる]
インタビュアー: うん、うん。話してくれて本当に助かった、ありがとう。もう大丈夫、今日はここまでにしよう。
対象: [激しく首を振る]最後まで、話す。話させて、ください。そうじゃないと、僕。
インタビュアー: [暫し逡巡した後、上げかけていた腰を再び椅子に下ろす]
対象: 多分、それから1週間経ってないと思うんだけど、パパとママは煙を、ベランダに出て、外で吸い始めた。理由を聞くと、また怒鳴られるから、何でかは知らなかったけど。それで、僕は部屋でじっとしてたんだけど、その日はいつも聞こえてくる笑い声が、いつまでたっても聞こえてこなくて。
インタビュアー: それで、誠くんはどうしたの?
対象: こわかったけど、ベランダに行ってみた。そしたら、パパとママはいなくて、煙の出てる、お椀が2つだけ置いてあった。どこに行ったんだろうと思って探してみて、気付いたんだ。煙が真っ直ぐ空に伸びてて、そのずっと、ずっと上に、パパとママがいた。
インタビュアー: ......その時のパパとママの様子、詳しく聞いてもいいかな。
対象: パパとママは白くて、周りの雲とほとんど同じに見えた。よく見たら、お椀から伸びてる煙を、口に咥えてて。......タコみたいだな、って思った。
インタビュアー: タコ?
対象: お正月に、おじいちゃんとおばあちゃんが遊びに来てたとき、その間はパパとママも僕を叩かないでくれてたんだけど、おじいちゃんはいつもタコ揚げに連れてってくれたんだ。白い糸がぴんって張って、風に飛ばされるんだけど、タコは糸から離れずに、くっ付いて空に浮かんでて。パパとママは、あの時のタコみたいだった。
インタビュアー: そのパパとママを見て、誠くんはどうしたの?
対象: ......待ってた。いつもみたいに、アニメを観てるうちに戻ってくるはずって思ってた。でも、その日はアニメが終わっても、ドラマが終わっても、映画が終わっても、ニュースが終わっても、パパとママは雲になったままで。それから。
インタビュアー: ......それから?
対象: 朝になって、もうパパとママは戻ってこないんだ、って思った。それで、僕ももう、我慢の限界だったから、決めたんだ。パパとママのところまで、僕も飛ぼうって。
インタビュアー: ......ベランダには、お椀は3つあったけど、最後の1つは。
対象: 僕が、使った。おばさんは、僕の分もお椀を置いてあったから。ベランダに出して、ライターで火をつけた。[対象の身体が再び震え出す]煙を吸ったら、頭ががんがんして、でも身体は軽くならないし、空も飛べないから、「煙の量が足りないんだ」って思った。だから、もっと沢山、火をつけようと思って、そしたら。
インタビュアー: ......[インカムに向けて]医療班。誠くんを診る準備を。
対象: 間違って、パパとママの方に、火がついた。
インタビュアー: 何だって?
対象: [激しく痙攣しながら]真っ直ぐ伸びてた煙が、一瞬で消えて、それと一緒に、音が聞こえた。
インタビュアー: ......音?
対象: 「プツン」ていう、音がした。タコ揚げをしてた時に、風が強過ぎて、糸が切れちゃったみたいな、音が。それから、後ろに、[呼吸が荒くなる]僕の、すぐ後ろに、落ちてきた。
インタビュアー: 誠くん、もう、分かった。後は言わなくて良い。
対象: 背中に、びしゃって、ぬるぬるしたものが、かかって、後ろを見たら。僕は、僕。[机に嘔吐する]
インタビュアー: インタビューは中止だ!医療班!すぐに、いやいい、私が運んでいく!
対象: [えずきながら]どうして、どうして。僕の、せいです。ごめんなさい。ごめんなさい。殴らないで、ください。僕が、僕はただ。
インタビュアー: もう喋るんじゃない、今からお医者さんの所に連れて行くからね。
対象: 僕はただ、「おなかがすきました」って、言いたかっただけなんだ。
<記録終了>
終了報告書: 対象にはAクラス記憶処理を施し、財団傘下の児童養護施設へ移送されました。佐野正雄氏と佐野香奈子氏の死因は、高所からの転落死と見られています。佐野家の近隣住民と、佐野家へ毎月訪問していた児童相談所の職員へのインタビューも併せて、両氏の近辺を調査中です。