クレジット
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特別収容プロトコル: SCP-039の生きた個体はサイト-77の自然環境観察房(WOC)-2Bに収容してください。WOC-2Bの内装及び外装は2名の警備員により常時監視される必要があります。週に一度、WOC-2は収容妨害工作や密輸行為の検査が行われます。
死亡した個体は冷蔵保管されており、申請に応じて研究向けの利用が許可されます。
SCP-039-Aは[データ削除済]。
SCP-039のオス個体。
説明: SCP-039は極端な解剖学的改変が加えられた23体のテングザル(Nasalis larvatus)から構成されます。以下は改変の要約となります。
- 両目が除去されており、眼窩を埋めるように新奇の骨が発生している。まぶたと眉毛はなく、滑らかな皮膚のみが存在する。
- 口部の著しい変容。口裂はもはや存在せず、唇ではなく滑らかな皮膚のみが存在する。顎関節の間から新奇の骨が発生することで下顎骨は所定の位置で癒合している。歯・舌・歯茎・口蓋は存在せず、沈着した多量の脂肪組織で置き換えられている。
- 消化器官の除去。食道・胃・胆嚢・腸・膀胱はいずれも同等の形状と体積で構成された脂肪組織で置き換えられている。肛門外口は新たな皮膚で塞がれてその痕跡は存在しない。SCP-039の栄養摂取と排泄、またはそれらを不要として生命を維持できている機構は明らかとなっていない。
- 聴覚・触覚・嗅覚の増強。絶対閾と弁別閾の両方が改変元の種よりも有意に低く、これによりSCP-039は視覚を欠如しているにもかかわらず周囲を認識できていると言える。未知の環境に置かれた場合、SCP-039が物を弾いて音を立てる様子が観察されている。この行動は原始的なエコロケーションの一形態であると推論されているが、その証明はまだされていない。
- 知能の向上。実施された全ての認知テストで非異常の個体よりも一貫して高い得点をSCP-039は記録した。
SCP-039には生殖能力が備わっており、収容以来、本執筆時点で5体のSCP-039が生まれています。SCP-039は非常に緊密な種族間の絆を示し、育児経験のある全ての成熟個体により新生個体の世話がしばしば行われます。新生個体は親と同一の解剖学的異常を持って生まれます。この事実にもかかわらず、SCP-039には改変元の種からの遺伝的変異は1つも確認されていません。
SCP-039のコミュニケーションは物理的接触と一連の複雑な鼻息を通じて行われますが、それらの多くは非異常のテングザルでは見られないものです。また、初期に収容された個体は初歩的な口語英語を理解しています。この知識は新生個体に継がれませんが、財団職員との触れ合いにより自ずと英語を修得します。
SCP-039は機械的器具を操作する能力を有し、主に自動車の製造と整備に関連する種々の複雑な作業が可能です。この知識は生得のものではなく、新生個体は持ちません。
補遺SCP-039-1: 回収ログ
SCP-039は1998年、ネバダ州███████の北北東約25kmに位置するプロメテウス研究所の施設に財団部隊が突入した際に発見されました。その時期までは不明ですが、この施設はプロメテウス研究所の倒産以前に放棄されていたことが明らかとなっています。以下は特筆すべき回収物となります。
- 2台の自動車、施設外部の駐車場に放棄されていた
- 3台目の自動車、貨物室で部分的に解体されていた
- 一式の電動工具・予備部品・塗料・その他の自動車の整備用具
- 一式の動物用麻酔・手術用具・[データ削除済]、手術室に置かれていた
- 20個の小ケージ、SCP-039を収容するために使われたと思われる。いずれも空であり、ドアが取り外されるよう部分的に破損していた
- 2個の大ケージ、小ケージ同様に空で破損しており、チンパンジーの毛髪と糞便が残されていた
- 解剖されたSCP-039の冷凍死体、SCP-039に典型的な異常に加えて鼻および鼻腔が欠落している
- 3体の成人男性遺体、歯科所見によりアラン・██████、ダミアン・██████、コール・████と特定。3体とも重度の鈍的外傷により死亡しており、生前から死後に渡り被ったと見られる、チンパンジーの歯型に一致する咬傷跡が残されていた
- コール・████の日記(補遺2を参照)
- 18体のSCP-039
- SCP-039-A
補遺SCP-039-2: コール・████の日記
初期の試作段階にあたるSCP-039の開発について記述しています。以下は記述の複写であり、明瞭性のためにSCP-039に無関係な箇所は削除されています。
科学的なあれこれは全部ダミアンが記録しているから、これは不要なものなんだろう。けれど、僕にとっては必要なものだ。 "親愛なる日記帳へ"、僕はもっと読む本を持ってくるべきだったね。
施設からは科学的記録を一切回収できませんでした。
今日はサルを手に入れたよ。欲しかった種じゃないし、聞いてくれ、よりにもよって"テングザル"だった。サルどもを捕まえた時に何を考えてたんだってあのウェルナーって男に問い詰めたら、どんな種類が欲しいかを指定しなかったと肩をすくめながらぬかしてきた。"サル"と聞いて"そうだ、あのデカ鼻のデブを手に入れよう"と思うなんてどんな変人だよ?僕たちが欲しかったのはアカゲザルだ、この地球上のどの研究所でも同じだろうに。さて、想定していたより2倍ばかりデカい20匹のサルのためにケージをぜんぶ改修しなくちゃならなくなった。もしくは小さすぎるケージに押し込めるしかないね。
どうやってサルを手に入れたのか気になるけれど聞くのがためらわれた。自分は役者だって奴は言ってたけれど聞いたこともないよ。もしかしたらドイツ映画か何かに出ているのかも、それっぽい名前だったし。エキゾチックアニマルの密愉[原文ママ]を副業にしているのをイメージしてみてよ。なんたる変人であることか。
死亡した個体を含め、施設から回収されたSCP-039は19体だけでした。20体目の行方は不明です。1999年、SCP-1328から"赤き俳優劇団 Red Actors Troupe"が所有する廃屋に住み着いていた20体目が発見されました。
サルたちはうまくやってる。視界があったときよりも卓越した方法でどのテストもパスしてる。もしかしたらサルの記憶力が向上したことに起因してるかもしれないってダミアンは言っていたけれど、気が散らないことが少し影響していると僕は思う。目を閉じたほうが良い考えが浮かんでくるのは僕も知ってる。
今日は1匹のサルから鼻を取ったよ、何が起こるのかを目にしたかったから。窒息死するものかと思ったけれどそうはならなかった。餌と同じ部位から空気も取り込んでいるんだろう。どこまで取り除けるだろうか、そう疑問に思った。呼吸していないのなら心臓は本当に必要?現時点で残してる唯一の内蔵だ。心臓を取ったところで知能は向上しないだろうから、意味ないだろうけれど。けれど、興味がある。
鼻無しは全く動かない。最初は死んだと思ったけれど、脈が確認できた。かわいそうになんにもやる気が無くなっちゃったんだな。もしも見ることも友達にお話しすることもできなくなってただ周りの音を聞くしかできなくなったら、そう考えると、僕もとっても悲しい気持ちになる。彼の調子がすぐに戻ってくれないと何が起こったのか解剖して僕らは突き止めなければいけない。二度とこんなことが起こらないように残りのサルたちの鼻はそのままにしておこう。
ウェルナーに電話してチンパンジーを数匹注文した。僕が話している動物がどんなのかしっかりと彼がわかるようにしておいた。クソッタレヒヒと一緒にやってくるようなことはないと思う。
今日は鼻無しを解剖したよ。目に見えた異常は見つけられなかったし、脳には傷も欠損もなかった。まあいい。彼らの社会構造にとって鼻は非常に重要だからこの種特有の問題ではないかってダミアンは言った。それはどうだろう?口と目もとてつもなく大事と思うから、他の種でも試してみないことにはわかりはしないだろうね。
ウェルナーが2匹のチンパンジーを連れてきた。どちらもオス。想定してたよりもデカかった。
やることやった今、アランにテングザルを引き渡した。資金援助候補者をほだすためにサルに芸を仕込んでみるらしい。
アランから聞くにサルたちの物覚えは早いって。電動工具の使い方を学ばせるって知恵には疑問が浮かぶけれど、サルは"いたずら"モンキー・ビジネス(←笑える)には全く興味を示さないみたいだってアランが言ってた。手順ってやつだね。
今回は代わりに鼻から施術し始めてみる。サルの精神状態が激ワルになったのはコミュニケーション不可能になったからか、または鼻の有無で正気が左右されるからかを見たいから。テングザルで実験するべきだったんだろうけれど、エサやりをやめようとするので精一杯で科学的比較手法ではきっちりできなかった。追加資金の申請が通ってたらなぁ。そしたら試行錯誤に十分なだけの資金もできるし、僕らの被験体調達のためにあの役者の世話になる必要もなかったのに。
チンパンジーは好きじゃない。めちゃ笑える見た目なのは申し分ないけれど、僕にとってチンパンジーは毛深い人間にどうにも似すぎている。こちらを見つめるとき、何か意図があるって目で眺めてくる。皮ら[原文ママ]がより賢くなったのを知っているからといって気が軽くなるわけじゃない。彼らも僕のことが好きじゃないんだろう。明日、あの目玉を除去するのが待ちきれない。
他のニュースとしては、アランが自分の車のタイヤをテングザルにマジで交換させてた。毛むくじゃらの小さなピットクルーって感じ、サルたちも楽しそうにやってた。今の地球で一番に賢いサルだろうね、アランによればまだ学習途中なんだって。
現時点のテングザルたちは天才と言っていいよ。ワックスがけ、オイル交換、あと僕にはわからない車のあれこれをアランはやってもらった。うまくいけば上層部の連中を説得して資金援助を再検討してもらえるかもだし、人体実験をするために必要なものが与えられるかもしれない。それがうまくいかなくとも、本物代わりの安価でかわいい自動車整備士としてMC&Dかどこかに売り払うことはできるはずだよ。
今日はチンパンジーの1匹が僕を噛もうとしてきやがった。口が取り除かれるまではあそこに行かない。あいつらが飢えようと知ったこっちゃない。ダミアンが何とかするでしょ。ダミアンはまだ口を除去したくないみたいだ。口はチンパンジーの顔に残った最後の特徴だし、鼻無しと同じことが起きるのを恐れてるから。
今日はウェルナーから電話がかかってきたよ。もう1匹サルをくれてやると言ってきた。なんのことか聞くと彼は笑うだけだったし、明日連れてきますと言って電話を切られた。僕たちが既に経営難に陥ってることを知らないのか?サルをもう1匹飼うスペースなんてないし、ましてやエサなんてもっての他だよ。
SCP-039-Aに関する更なる情報はレベル3以上の職員にのみ制限されます。
補遺039-3: SCP-039-Aに関する情報
特別収容プロトコル: SCP-039-Aは、盲目であることを念頭に調整された標準的人型実体収容室に収容します。
説明: SCP-039-Aはジェイコブ・██████████という名の成人男性です。SCP-039と同様の開発プロセスを経て、SCP-039-Aの両目、鼻、口、およびそれらに関連する器官は全て除去されています。同様に、知能と残された感覚の増強、およびに精神面での改変が施されています。
以下はSCP-039-Aに関連するコール・████の日記からの抜粋となります。
人間だ。ウェルナーの言っていた"サル"?クソッタレ人間だよ、ジェイクという名の男だ。路地で集めてきたヤク中だ。おそらく山盛りのヤクにでも釣られてウェルナーが運転するあの気色悪い赤トラックに押し込まれたんだろう、それで僕たちに押し付けてきたんだ。
僕らの最終的な目標は人類の知性を向上させることだけれど、現段階で人体実験の準備はできていない。ダミアンはそう思っていないようで、これはビッグチャンスだと言った。試作をヒトで性功[原文ママ]させられたなら、次は資金援助も承認されるに違いない、そうだろう?って。彼は正しいけれど、これはかつてないレベルの社則違反に違いないし、口にするまでもなく危険だよ。上層部の承認が下りない限りはまだやりたくない。
ダミアンのクソ野郎
昨晩、あのクソは隠れてジェイクに施術しやがった。いっぺんに顔面全部が剥がされた。幸いなことにその場でジェイクがショック死することはなかった。まだ意識を戻していない、その内に目を覚ますだろう。今度やったらチンパンジーのエサにしてやるとダミアンに言ってやった。死体処分の用意なんてできてない!この砂漠のど真ん中では難しいことじゃないだろうけれど、まだね。
今日はジェイクが目を覚ましたよ。もう問題なく動いてる。回復の早さとやられたことへの冷静さには、ある種の不気味さすら感じる。自分が何されるかに同意してやってきたのだろうけれど、人間だったら多かれ少なかれ顔無しで目覚めたときに変な気分を示すものだろ。
気妙[原文ママ]だよ。ドラッグはもういらないってジェイクは言ってる。ここに連れて来られたとき、クラックとかメスとかよく知らないけれど彼はまだ少し持ってた。けれど捨ててくれって。彼が言うには、いつも通りなら今すぐにでも欲しがってるはず、でも手術以来そんな衝動を感じないらしい。顔を取り除くことでどうして麻薬中毒が治るのか僕にはわからない。知能が高まりはするけれど脳の化学的性質は変化しないはずだ。ダミアンも僕と同じように考えあぐねてる。この狂ったアイデアを思いつく元凶になった古クサい本にはまって、なぜかを理解しようとしてる。ちょっと見せてもらったけれど僕はラテン語がわからないからなぁ。
この記述に合致する書籍は施設から回収されませんでした。
今日はジェイクがサルに会いたいと言うから(僕はもっと賢明な判断をしてたのに)アランのところに連れて行ったよ。アランは車のエンジンの組み立てをサルたちにトレーニングさせてたし、驚くべきことにサルたちもうまいことやってた、その上でサルは新入りが部屋にいることを察知できてた。彼の匂いを嗅いだんだろう。寄ってきた数匹はしゃがんで彼を撫でた。普段はあまり友好的ではないことをダミアンが警告したけれどサルたちは気にも留めてない様子だった。彼の顔に触れようと手を伸ばすとサルの鼻息がひどく荒くなってた。興奮してるようだった、自分たちと同じような人間を見つけたからだろう。全てが本当に気味悪かった。
彼はチンパンジーに会いたいとも言ってるけれど、却下した。唯一のヒト被検体が噛み殺されたりしたら堪らないからね。ジェイクが鼻無しのようには気が触れなかったことを受けて、チンパンジーの鼻を取り除いても問題ないってダミアンは強く思ってる。ジェイクに変なことが起きない限りは明日施術することになるだろう。
ジェイクをチンパンジーに会わせてからじゃないと施術しないとダミアンは思っていて、いつもと違う鳴き声がしないか確認したいとも言ってた。何を期待しているのか僕にはわからないけれど、昨日のテングザルの振る舞いを踏まえて確認してみる価値があるかもって。まだ危険すぎだって言ったけれど、キミがチンパンを嫌ってるからチンパンも攻撃的な行動をとってるだけだとダミアンは不愉快そうな顔でぬかしてきた。来たくないなら来なくていいとも言われた。行くかよ。サルの糞でも食らってろ。
うん、気味悪いね。ジェイクとチンパンジーは本当に"コミュニケーション"してたってダミアンは断言してる。テングサルと同じように顔を触れあった後、チンパンジーの方がフーフー鼻息を立てたらジェイクは何かわかったみたいに頷いてた。ジェイクはダミアンの言ってることを知らないって言ってる。どう考えたものかな、クレイジーに聞こえるけれど、よくよく考えると顔のない男のことを信じるのもなんだかな。もうお手上げに思えてきてるよ。資金援助を待って人体実験を始めるべきだったんだ。クソウェルナーがあの男を連れてこなければ良かったのに。
おっと、それともうひとつ。アランが車を塗り替えさせてた(タダで自分の車を改造するための口実として色々やらせてたんじゃないかと思い始めてきたよ)サルのうちの1匹が工具を持ったまま逃げた。逃げ出したことに気づくまで少し時間がかかってしまったけれど、僕とアランはチンパンジーの檻の外をうろついていたおチビを簡単に見つけ出した。工具をどこに置きっぱなしにしてきたかまではわからないけれど探すのは明日できる。
機動部隊イプシロン-6が施設に突入した際、SCP-039と共有していた居住空間の内、自身のものだろう棲み処で生活しているSCP-039-Aが発見されました。SCP-039-Aが発話できないため初期の意思疎通は困難でしたが、筆談によるコミュニケーションが確立されると自主的に保護されました。
補遺039-4: インタビュー
以下はリー・ロイ・カールソン研究員により実施されたSCP-039-Aのインタビューです。SCP-039-Aはコンピュータにタイプすることで返答しました。
<ログ開始>
カールソン研究員: おはようございます、SCP-039-A。
[SCP-039-Aがカールソン研究員に手を振る。]
カールソン研究員: 私はリー・ロイ・カールソン研究員です。
[SCP-039-Aがカールソン研究員に握手を申し出る、カールソン研究員は受け入れる。]
カールソン研究員: プロメテウス研究所の施設で起きたことについて、いくつか質問させてください。
[SCP-039-Aが頷く。]
カールソン研究員: 初めに、ウェルナー・ガレスピーをご存じですか?
SCP-039-A: [肩をすくめる] 私はリノで彼に拾われた、彼は私の傍の路肩に赤のバンを停車させて、私に人間になりたいかを尋ねてきた。いったい何を言っているのかと彼に返した、私を治療できる男たちが砂漠のどこかにおり、加えて、食べ物も水も二度と必要としない体に、より聡明な頭脳にしてくれると彼は答えた。あなたも言った通り、あまりに都合が良すぎる話と思ったが、私には失うものも無かった。その上、彼はドラッグを持っていた。であるから、あのおぞましいバンに私は乗り込み、砂漠のあの場所に連れていかれた。
カールソン研究員: 彼について他に知っていることはありますか?
[SCP-039-Aが首を横に振る。]
SCP-039-A: 私たちは腹を割って話し合ったわけではない。
カールソン研究員: なぜこの研究に興味を抱いたのか、その理由を口にしていましたか?
SCP-039-A: いや。研究所のあの男たちが被検体を調達するのを手助けしていると言っただけだ。
カールソン研究員: なるほど。彼について他に知っていることはありますか?
SCP-039-A: 彼は自身を役者だと言った。それと、バンはフロリダナンバーだった。
カールソン研究員: 施設に連れてこられてからガレスピー氏に会いませんでしたか?
SCP-039-A: いや。
カールソン研究員: 確かですか?研究所からはいくつかの物品がなくなっていたようです。チンパンジー2匹もそうです。
SCP-039-A: 確かだ。チンパンジーは男たちを殺害した後、自分たちの意思で出て行った。ドアの開け方を知っていて、砂漠に逃げた。まだ飲食を必要とする状態だったから、そこで死んだのだろう。
カールソン研究員: それではなぜあなたは施設から出て行かなかったのですか?
SCP-039-A: 水が不要であることは熱射病にならないことを意味しない、ただそのためだ。食料探しを憂慮する必要も無い、だから残ることに決めた。いずれ誰かに見つかるとは理解していた。それがあなた方であったのは残念でならない。
カールソン研究員: んー、あなたを手術した科学者たちが所有していたと思われる書籍なり研究ノートなりについて、何かご存じですか?
SCP-039-A: [首を横に振る] ない。先ほど述べた通り、私は被検体に過ぎない。
カールソン研究員: 興味深いです。話のついでですが、チンパンジーはどのようにして檻から脱出したのですか?
SCP-039-A: [肩をすくめる] わからない。コールが鍵をかけ忘れた、そんな所だろう。
カールソン研究員: んー。
SCP-039-A: サルも木から落ちる。
カールソン研究員: その通りですね。
注記: 彼は嘘をついています。強化した化学的尋問手法の使用許可を要請中です。 -カールソン研究員
SCP-039-A: 私を信じていない、そうだろう?
カールソン研究員: 質問は続けますよ、よろしくお願いします。
SCP-039-A: そうしてくれるか?それとも、そこに腰かけて文字を書くだけか?
カールソン研究員: 書きたいだけ書くつもりですよ。
SCP-039-A: もういい、なら、ごゆっくりどうぞ。どうせ私には他に行くあても無い。これが終わったなら、あなたは私を独房に戻す、ただそれだけだろう?
カールソン研究員: その通りです。
[SCP-039-Aがキーボードから手を離し、頭の後ろで手を組む。カールソン研究員の書き留めが終わる。]
カールソン研究員: オーケイ、SCP-039-A。もう1つだけ質問します。
SCP-039-A: あなた方はその呼び方が本当に好きだな?その呼び方は私が人間であることを容易く忘れさせてくれる。
カールソン研究員: サルたちと意思疎通できますか?
SCP-039-A: なに?
カールソン研究員: 私たちが回収した日記によると、何らかの方法であなたはテングザルたちと意思疎通ができていた可能性が示されています、改造されたチンパンジーとも。
SCP-039-A: コールの日記に違いない。彼は馬鹿だ、知っているだろう?言うまでもなく間抜けだ。彼は私を嫌っていた、チンパンジーを嫌っていたように。
カールソン研究員: 他のSCP-039個体とは意思疎通できないって仰ってます?
SCP-039-A: つまりだ、あなたは犬との意思疎通が可能か?犬も賢い動物だ。
カールソン研究員: 可能です。可能ですが、私は犬に声を掛けることができますし、犬は私を見ることができます。そのどちらもあなたと猿たちにはできませんよね。
[SCP-039-Aが逡巡する。]
SCP-039-A: 部屋に戻りたい、すぐに。
[SCP-039-Aが腕を組む。]
カールソン研究員: このインタビューは終わっていませんよ。
[SCP-039-Aは反応しない。]
カールソン研究員: ご協力いただけます?
[SCP-039-Aが首を横に振る。]
カールソン研究員: もういいです。ですが、これで終わりじゃないですよ。
<ログ終了>
SCP-039-Aの生理機能、物質代謝、および精神状態は改変されており、記憶処理剤などの薬品による影響が予測困難であるためにカールソン研究員による化学的尋問の要請承認は倫理委員会で協議中となります。
以下は翌日にカールソン研究員によって行われた2回目のSCP-039-Aのインタビューの複写です。
<ログ開始>
カールソン研究員: またお会いしましたね、SCP-039-A。
[SCP-039-Aは反応しない。]
カールソン研究員: あなたの顔を取り除いた手術について、いくつかお聞かせください。
[SCP-039-Aはゆっくりとうなずく。]
カールソン研究員: それでは、どのように行われましたか?
SCP-039-A: どういう意味だ?
カールソン研究員: 外科手術でしたか?奇跡、あー、魔術的な儀式でしたか?遺伝的操作を受けましたか?
SCP-039-A: [肩をすくめる] 彼らは詳細を教えなかった、それに私は手術中の意識が無かった。
カールソン研究員: 尋ねたりは?
SCP-039-A: [首を横に振る] 科学のことは何も理解できなかっただろうから。頭が良くなる、食事の必要も無くなる、彼らはそれだけ教えた。何も見えなくなるが聞こえは良くなる、そう悪いものでもないとも言っていた。
カールソン研究員: それで同意したのですか?
SCP-039-A: [うなずく] あなたもそうするはずだ。
カールソン研究員: なぜそう言えるのですか?
[SCP-039-Aが少しの間考える。]
SCP-039-A: 概算で、あなたの毎月の食費はどれ程かかる?食料品、外食、全て含めて。
カールソン研究員: あーっと、数百ドル?月々によりますね。
SCP-039-A: では、その数百ドルを毎月貰っていると想像してくれ。1年で1000ドル以上だ。それで買いたいものは?金銭的な理由で諦めている、所望するが所有できていないもので。
カールソン研究員: …う、うーん、レアコインのコレクションを完成させようとしますかね。
SCP-039-A: クールだ。ではこう考えるわけだ、もしも食事の必要がなければ、その分をレアコインに向けるだろうと。
カールソン研究員: まあ、そうですね、でも食べること好きですよ、私。
SCP-039-A: そうだろうか?生物的欲求のせいで、食べることは楽しいものだ、それ以外の余地は無いものだと、あなたはそう思い込まされているだけではないか?
カールソン研究員: もちろん食べることが好きですよ!いやその、いつでもってわけではないですけど、高級レストランとかでは楽しんでます。
SCP-039-A: オーケイ、もういい。こう言い替えよう。あなたは痩せたい、そうだな?
カールソン研究員: なんて? [カールソン研究員が自分の体に目を落とす。]
SCP-039-A: 憶測に過ぎない。あなた方のような人々の大半はそう思っている。
カールソン研究員: 私たちのような?
SCP-039-A: 金銭的に食べる余裕のある人々。顔が取り除かれる以前、ホームレス施設に向かうなりゴミを漁るなりしないと私は碌に食べることもできなかった。しかし、あなた方は真逆の問題を抱えている、そうだろう?食べ過ぎだ。
カールソン研究員: あー、それには同意です。
SCP-039-A: では、食べ過ぎを憂慮する必要が一切無かったらと想像してくれ。ケーキだとか揚げ物だとか、もう1つ食べてしまおうと手を伸ばすとき、自分を律しようと試みる必要も、その試みに失敗する恐れもなかったら。食べられないから、食べたくないから悩まされることもない。手術後は直ぐに自然と健康的な体重となる、筋肉もつく。まったく、顔が無くなる前の私は棒のように痩せこけていたのに。今の私の姿を見てみろ!
カールソン研究員: えーと、ダイエットを続けようと思います。
SCP-039-A: では、こうだ。毎日の食事にどれくらいの時間を費やしている?
カールソン研究員: ちょっと待って、手術について詳しく知りたいんです。このやり取りは不要では?
SCP-039-A: 私が手術を受け入れた理由が知りたかったのではないか?それを説明しようとしている。それとも本当は知りたくはなかったか?
カールソン研究員: [溜め息] もういいです、続けて。
SCP-039-A: では、食事に費やす時間は?
カールソン研究員: さあ?1時間くらいじゃないですか?
SCP-039-A: それなら調理にどれ程の時間を費やしている?食材の買い出しには?買い出し場所への運転の往復、家への搬入、収納では?あるいはレストランに行くとき、行き先を決め、車を運転し、テーブルを待ち、注文を待ち、料理を待ち、会計を待つ、ここまででどれ程の時間を浪費していることか。加えて、食事が済んだ後、毎日の排泄にどれ程の時間を費やしている?便座に座り、尻の穴を拭き、獣のように糞の匂いを嗅ぐ、それでどれ程の人生を浪費する?根底にある生物的欲求を満たすため、人生の短い時間の内、どれ程が無駄になるかを理解しているか?こなすべき"義務"で日々が忙しすぎるせいで、叶えられることのない"願望"がどれ程あるか理解できるか?
カールソン研究員: [溜め息] それは分かりますけど、私はこの顔に愛着がありますよ。
[SCP-039-Aはゆっくりと首を横に振る。]
SCP-039-A: なるほど、あなたが私の立場にあったならばそうは考えないだろう。私がいた場所からすれば、顔は大した価値もないものだった。それは今でも変わらないが、箱に閉じ込められているから。
カールソン研究員: そのことについては申し訳ありません。しかし、顔の無い男が公然と歩き回ってるのを許したらどんな大騒ぎになることか、ご理解はなされますよね。
[SCP-039-Aはキーボードから手を浮かして、数秒間逡巡する。]
SCP-039-A: 他に質問があるのでは?
カールソン研究員: えっと、あなたに何か心理的変化が生じたのではと私たちは思っています。あのテングザルたちは手術されていない個体に比べてはるかに高い認知能力を持っていますし、同様のことがあなたにも起きたのと違いありませんか。
SCP-039-A: 違いない!ただし、単に賢くなるというよりはもう少し複雑なものだ。
カールソン研究員: それはどういう?
SCP-039-A: つまり、注意力が全てだ。私は前よりもよく聞くことができる。これのおかげで。 [SCP-039-Aが"顔"の上半分をジェスチャーする] 注意散漫になることがないため、この意味が通じるかわからないが、よく聴くことができる。以前の私は知りもしなかったし、おそらくはあなた方も同じだろう、顔がある時には気付けるものではないが、人間とはいつも気が散っているものだ。1000個の、別々の考えが浮かんでくる。仕事に頭を悩ませる。(私の場合は仕事が無いことだったが) 何を夕食とするか、どこで寝るか、どうやってクスリを手に入れるか、それが何であれ、考えを張り巡らせようと試みる。しかし、今の私には悩まされる必要が全く無い、であるからに聴くことに注意を注ぐことができる、"真"に注意を注いで、その全てを記憶することができる。思考しているとき、数学の問題などを解いているときには、集中できる。"真"の集中だ。シラフと酔っ払いの違いのようなものだ。
カールソン研究員: そういえば、私たちの発見した文書によれば手術前のあなたは薬物中毒だったのですよね。
SCP-039-A: 顔が無くなる以前はクラック常用者だった。しかし、手術後は少しも欲しいと思えない。離脱症状もなかった。これはあなたにとって興味深く聞こえる、そうだろう?
カールソン研究員: そうですね。なぜそのような状態に至るのかご存じですか?
SCP-039-A: 科学的ではない。ダミアンや他の男たちは予想だにしなかったようだ。しかし私にはわかる
[SCP-039-Aは暫くの間停止する。]
SCP-039-A: 元から備わっているもの?精神的なもので?私はそれを感じることができる。意味が伝わるか?
カールソン研究員: その感覚を説明できますか?
SCP-039-A: 本当にシンプルなものだ。食事の話に似ている。顔を無くして、内蔵の多くも無くして、どれがどれだか私にはわからないが、ほとんど全て無くして、私は切り離された。
カールソン研究員: 何から切り離されたのですか?
SCP-039-A: 衝動。根底に横たわる本能。サルの脳モンキー・ブレインだ。以前、私の体は多くの物を欲していた。食べ物、飲み物、セックス、ドラッグ、アルコール。思考するなんてほとんどできなかった。"真"の思考、今ではそれができる。そして、それ以外はする必要も無い。彼らによって私の顔が除去されたとき、サルの部分も取り払われた。今ここに入っているのが私というものだ。
[SCP-039-Aは額を指で叩く。]
SCP-039-A: 自身を完全に律することのできる、理性ある人間というものだ。
<ログ終了>
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Filename: monkey-new.jpg
Name: Proboscis monkey (Nasalis larvatus) male Labuk Bay 2
Author: Morbid Memories Morbid Memories
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