クレジット
タイトル: 宇宙壁紙
必要素材
- 無地の壁紙(貼る部屋のサイズ次第で大きさも変わる)
- 神格をインストールする何らかのカラクリ
要旨: まず、芸術とはアーティストと受け手との相互作用によって生み出されるものだ。例えアーティスト側から見ればCoolな代物でも受け手からしてCoolでなければそれは真の芸術とはなり得ない。
そこで、俺は芸術を受け手側にも制作させても良いのではないかと考えた。この宇宙壁紙はそれが実現できる。
仕組みとしてはとても単純だ。まず壁紙にインストールした神格を通じて宇宙をそのまま無地の壁紙に投影させる。次に受け手側に視点を移動して貰うことで受け手の理想とする宇宙を映し出すというものだ。
これに必要な神格の調達は東弊重工社に外注する。奴らなら神格や悪魔工学なんかにも通じているだろう。ただ、手法は様々にあるため俺が多少指定する。悪魔工学はデメリットが大きいためあまり使わないとかそういうやつだ。ともあれ目的は壁紙に宇宙を投影することなので、他企業に頼めるのであればそちらでもいいだろう。
意図: 財団とGOCの共同声明に曰く「エイリアンが地球外に居ない可能性は99.9%」ということらしく、俺はこれに対してCoolではないと感じていた。人類の求めてきた宇宙にそのようなロマンがないということはとても嘆かわしい。
だが宇宙壁紙はそれを打破するひとつの手段になる。俺はこの0.01%の可能性を諦めたくはない。今一度ロマンを求める時なのだ。
追記01: 無事に用意しておいた10セットが完売したと聞いた。評判も上々らしいな。星空は我々に希望を与えてくれる。
さて、この商品を使った受け手から早速0.01%の希望が見つかったとの報告があった。曰くそのエイリアンはうさぎのようだったとのことだ。私はグレイのようなものを想像していたがともあれ奇妙なものだ。
本題はここからだ。私はこれを千載一遇のビジネスのチャンスだと捉えている。この壁紙そのものが売れるようになれば、それに調和するインテリアをデザインすることで大きな利益を得ることができるに違いない。居ないと思われていたエイリアンがこれを通して発見されたということですぐに爆発的な人気を獲得できるだろうから売れないという心配は皆無だ。
最後に、この芸術は私の権限により君の芸術ではなくAWCY?全体としての芸術に分類されることになった。なに、特に心配することはない。君の意志はしっかり継がせてもらう。
これへの返信は無用だ。
追記02: 世の金持ちはすっかりうさぎ捜しブームとなった。かつて居ただろううさぎ以外のエイリアンの遺跡や痕跡を探す者も大勢いる。だがこれの商品は壁紙という形態のままだ。インテリアも売れてはいるがいづれ敷居が高いということで頭打ちになるだろう。
そこでMC&D社にこれの販売や製造等を一任することにした。金は私たちにも入ってくるからそこに関しては心配ない。
ヴェール崩壊によって異常芸術の価値が暴落し、とても食っていけないような状況から一転、無事私たち全体が再び食えるようになったのもこれのおかげだ。ここに感謝を伝えたい。
返信は無用だ。
追記03: 壁紙でなくとももっと手軽に宇宙を楽しめる方法が何なのかということを考えてみた。その結果、壁紙という形態をやめ、個人個人の目に直接神格をインストールすることにした。今の技術ともなるとモードの切り替えも可能らしい。イメージとしては通常の目に加えて宇宙を見る専用の目を手に入れるようだといえば分かりやすいか。
次に計画していることとしてはアンドロイドに神格をインストールしうさぎ探しを自動化することが挙げられる。勿論既に宇宙を見る目を持っている人間に対してAIを埋め込んでもいいだろう。これが実用化されれば私たちは更なる利益を得られる。貧すれば鈍するというのは遠いものにできる。
君のアイデアがなければ私たちは今頃どうなっていたか分からない。今一度感謝を述べさせてもらう。
返信は結構。
上からの指示で俺はこの芸術の主導権を失った。俺は自分の芸術を表現できたからそれに関しては何の問題もないはずだった。だがいざエイリアンが見つかったともなるとなにか自分の中で何かが壊れた気がしてならない。
エイリアンを個人が見つけられるようになって近いうちには自動で見つかるようにもなる。0.01%が今や当たり前のものになるなんてな。皆から見れば素晴らしいんだろうが俺はどうにも喜べない。それどころかある種の怒りや失望を感じている。自分が単に頑固者だからだと言えば片付くことだが何かモヤモヤしたものがある。
技術の発展で夢だと思われてたエイリアンが見つかった。けど俺の求めてたものはエイリアンじゃなくてその過程の捜したり、追い求めたり、そういうロマンだったんじゃないかなと考える。今になって気づくことになるなんてな。技術で得た次元ショートカット移動の便利さとか情報の手に入れやすさとか、そういうのもクソほど便利だけど全部空虚なもんに思えてくる。
俺は今や世界の人気者だ。嫌な称号だ。今すぐにでも捨てたいがそんなこと許しちゃくれない。遁世して隠居しようもんならすぐ特定されて終わりだ。
芸術家は他の奴らとは合わせることはしないし、俺も現にそうだった。だがなんだかんだ言っても共感は欲しいし自分も共感したい。
俺は人類の求めるCoolとは程遠かった。こんなやつがちやほやされたところで結局なにも残らない。死んで詫びよう。
I wasn't Cool.
お前が俺たちの仕事をつくってくれたことには感謝してる。だがはっきり言って俺はお前が憎いよ。すごく妬ましいし羨ましい。何より腹が立つ。人気者になってその最期に無責任に自殺するだぁ?ふざけんじゃねぇ。俺らが死んでも手に入れられなそうな名誉をゴミ箱に捨てるようなマネしやがって。俺はお前に便乗するような形で仕事振り分けられた。間接的にはお前の使いっ走りなんだよ。そういう奴のこと何も考えねぇお前にはなお腹が立つ。
You were Cool.
俺からはCoolだって言ってやるよこのクソ野郎が。勝手に死んどけ。
追伸: 俺の権限でこの返信とお前のメールは非公開に設定しといた。頑張っといてよかったよ。
追記05: 私は今あの男の死にとても悲しんでいる。あの男がなぜこんな絶頂期に自殺してしまったのかは分からないが、私は精一杯弔おう。
さて、弔う方法だが私はあの男の遺体に神格とAI、そして彼の遺体の周りに残っていたエクトプラズムを埋め込もうと思う。防腐処理を施した後にこれをすれば、彼は永遠に彼の理想とした宇宙を見続けることができる。しかもAIによって彼の求めたエイリアンを自動で捜すことができるオマケ付きだ。これで彼も浮かばれるだろう。
話は変わるがこの事業が成し遂げられれば宇宙観測の完全な自動化が実現できるだろう。死体をアンドロイドに変えればそれは実行できるのだから。
これに伴う経済的な効果もまた素晴らしいものになるだろう。彼はAWCY?稀代の英雄となり生き続ける。彼が礎となった経済的基盤によりAWCY?は永遠のものとなるのだ。
You're so Cool Yet.
彼にこの言葉を贈らずしてどうする。