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クレジット
超小型自己複製装置を用いた限定的空間を対象とする現実性供給システムのための認可計画
我妻 岳 プロメテウス・トウキョウ 第一研究室
問題
聖スクラントンとしても知られるジョージ・W・スクラントンの息子、珍品と過ぎ往く幻想研究の為の王立財団のロバート・スクラントン博士が局地的な現実維持方法の必要性を説いてから1世紀の間、SCP財団とスクラントン一族によって現実操作からの保護装置の研究が進められてきました。そうして、"プロトスクラントン・アンカー"、"ラング - スクラントン安定機"を経て完成した"スクラントン現実錨"は、現在の超常社会で広く使用されています。
しかしながらスクラントン型現実安定機器の普及は、局地的現実安定機器のシェアがSCP財団の独占状態になっている問題だけではなく、運用に際して重大なリスクと事故を発生させる可能性が指摘できます。
スクラントン型現実安定機器の特徴として、別宇宙から"吸い上げた"現実性によって周囲の現実安定化を行う点がありますが、この方法は無際限のマルチバースに対する現実全体の破壊、非線形時空間領域の急増、時系列異常、自発的な局所的現実の崩壊などの現実性希薄化事象をもたらします。加えて、こうした事象は使用する側の宇宙にも現実錨に基づく技術の不安定化など同様の悪影響を及ぼす恐れがあります。
ジェフスキー派の理論によれば吸い上げの対象となるマルチバースを熱的死を迎えた宇宙や生命体の生息していない宇宙に限定することが可能ですが、現在に至るまでその成功例は発表されていません。このため危険性の具体的解決策が不透明なままスクラントン現実錨は使用され続けている現状です。
解決策
この問題の根本的な原因は"不確定な宇宙から現実性を入手する"という方法であり、代替手段として、"限定的な空間を供給源とした現実性供給方法"が必要とされます。既知の供給源としては客観-現実独立人物("ORIs")を用いたヒューム係数調節機器が提案されていますが、ORIオペレーター入手経路の不安定な点などの問題、及び1943年のフィラデルフィア次元断絶事件のような事例から計画は中止となっています。
このため私が新たな問題解決法として提案するのが、超小型自己複製装置(以下ナノマシン)を用いた限定的空間を対象とする現実性供給システムの開発です。
基本的な原理
このシステムは0.1〜100nmサイズのナノマシンによる現実安定機器への現実性の供給によって、不確定なマルチバースではなくナノマシンが存在する確実な空間から現実性を入手・利用することを目的としています。
開発される予定のナノマシンは現実性運搬のための微小なポータルを備えており、従来のスクラントン型と比べて吸い上げ対象となる空間に対する現実性ダメージを軽減することが可能です。これは単純に対象となる空間が狭く、一台のナノマシンが吸い上げる現実性が少ないため対象空間へのダメージが分散されることに起因しています。「ダムによる水力発電」と「小川の水車」の違いという例えが適切かもしれません。
機器詳細
このシステムの根幹を担うナノマシンは無性生殖で自己複製可能な、機械部品の形状を備えた有機分子で構成されたものが望ましいでしょう。このタイプのナノマシンの利点としては以下が挙げられます。
- 素材が地球上にありふれたものであり、ナノマシンの自己複製が容易であること。
- 分子の分解・結合に必要なエネルギーが少ないこと。
- 無性生殖であることで、自己複製のエラーである突然変異を誘発しにくいこと。
- 有機的な現実性ポータルについて、先行研究の成功例が存在すること。(後述)
ナノマシンの基本的な構造は理外研ナノテクニクス社が1983年に発表したタニグチモデル自己複製装置に基づくべきです。このモデルは従来のトウワモデル自己複製装置をベースとして、よりナノマシンに適した形態に簡略化されており、有機分子の部品によっても問題なく動作することが証明されています。
現実性ポータルの構築については日本生類創研の千堂 渡氏が最近発表した論文が参考になるでしょう。論文において千堂氏は一部のORI存在が現実性を外部から取り込むプロセスの中で、その脳細胞が重要な"ゲート"としての役割を果たすことをORIの脳に対する実験を通して確認しています。この特性はクローンにも引き継がれ、微量ながら現実性の遠隔移動が可能です。開発予定のナノマシンにもこれを組み込むのに十分な余地が存在します。
事業例
このシステムは既存のスクラントン型現実性供給システムの代替、もしくは完全に互換性があるものとして開発されます。期待される顧客層としては、現在スクラントン現実錨を用いているSCP財団やGOCなどの基準現実の維持を目的とする組織が挙げられます。加えて現実安定機器を必要としながら、スクラントン型の危険性を踏まえて購入を踏みとどまっている消費者に対してもこのシステムに対する一定の需要が見込めます。この需要はスクラントン型に対するネガティブキャンペーンを実行することでより高まり、SCP財団が握る現実安定機器市場の新たなニッチを開拓することに繋がるでしょう。
また、ナノマシン自体を簡易的なヒューム係数調節に用いることも可能です。現在ナノマシンの散布場所として候補に挙がっているのはヒマラヤ山脈、シガスタンなど既知の高現実領域ですが、ORIへのナノマシン投与は、内部現実性の低下によりその現実歪曲をある程度阻害することが期待できます。ナノマシンの特性上この方法では低レベルなORIにしか対応できませんが、大型機器である現実錨に対して携行が容易であるという点で優位性があります。ナノマシンは人体に吸収されず排泄物として排出されるため、ORIへの健康被害もありません。
資金の使用
理外研ナノテクニクス社との間では、廃止されたアルゴス・プロジェクトと引き替えにタニグチモデル自己複製装置のライセンスおよび関連する特許を買収する取引がすでに成立しています。この取引に関する資産の使用を除き、このシステムの開発には5億2900万円を必要とします。資金は以下のように使用されます。
- ナノマシン製造ラインの構築 9000万円
- 現実性ポータルの構築とナノマシンへの組み込み 2億円
- プロトタイプ機器の設計と建造 7500万円
- ナノマシンの管理プロセスの構築 6400万円
- システム全体の検証実験 1億2000万円
既知の問題
このシステムにおいて懸念すべきはナノマシンのキルスイッチが存在しないことです。ナノマシンのエネルギー源はポータルに運搬できなかった余剰の現実性であり、周囲のヒュームレベルが一定の値を下回れば活動を停止するため無際限に自己複製を繰り返す、いわゆるグレイ・グーシナリオは発生しえないと考えられています。しかし、一度散布したナノマシンすべてを不活性化、もしくは回収する手段は現在まで開発されておらず、必然的に長期的な運用を前提としたシステムの実行が求められます。
From: 日奉 杠()
To: 我妻 岳
date: 1995年11月24日 13:43
件名:現実性供給システム認可計画について
例のナノマシンプロジェクトについて、上層部は中止の判断を下しました。いずれ正式な連絡が来るかと思います。
最近プロメテウスグループ全体が経営難に陥っていることは知っていると思いますが、ついにトウキョウも危うくなってきたようです。本社では次々とプロジェクト停止の指示が飛ばされています。もはやプロメテウスは沈みかかった船です。そろそろ身の振り方を考えた方が良いでしょう。
第二研究室はもう何人か室戸研究所に採用されているようです。私も華翼科技集団の方から声が掛かっています。貴方には悪魔工学の技術があるのでどこからも引く手あまただと思いますが、同期のよしみです、おすすめの企業を貼っておきます。
http://touhei-hi.com/top/
幸運を。
Prometheus Labs Employee Intranet Mailing System through hong kong data center. This mail was encrypted.
from:
件名:Re:新規プロジェクトの提案本文: 製造部企画開発室 我妻 岳 様。この度は「新規プロジェクト募集社内コンペティション」にご応募いただき、誠にありがとうございました。
選考の結果、貴方の提出した
旧プロメテウス・トウキョウで執筆された「超小型自己複製装置を用いた限定的空間を対象とする現実性供給システムのための認可計画」の提案書を基にした現実性供給システム
についての企画案は 残念ながら不採用 となりました。
この主な理由は、
「有機的ナノマシンの製造はウチでは専門外ということを考慮してナノマシンの材質を変更したのは良かったが、代替原料の一部として提示されたベリリウム青銅が高価であることは大きなマイナス。」
加えて、
「緻密なナノマシンの構築にはそそられるものがあるが、そもそもこのシステムの意義をあまり見いだせない。他次元からのエネルギーくみ取りはどこの組織でもやっていることであるし、現行の現実維持システムを使い続けた方がずっと安上がりだ。」
があります。今回は こうした残念な 結果となり大変 心苦しく 思います。またのご参加を心よりお待ちしています。
東弊重工本社総務部 白乃瀬 雲
from: Sk9??m55Mj@?mAAA6304
件名:Saigaへ本文:君がSaigaであるならば、このメールを読んでくれることを望む。
君にとっては、ひょっとすると突然のことで戸惑うかもしれない。私は君がいる世界とは別の次元、平行世界のSaigaだ。私は、私の世界のルールに則り、私の知る一般的な文法法則を活用して君にこのメールを書いている。メールの続きを読んでくれてありがたく思う。私は、君たちのいる世界を含めた、あらゆる世界を救済することを目的としている。自分だけが良ければいい、そんな思想は糞食らえだ。君が私であるならば、君もまた、形は違えどこの思想を抱いたことがあると思う。
君が私に興味を持ってくれているならば、返信をくれ。このメールアドレスを3時間だけ開けておく。私は、君の世界のことが知りたい。
犀賀
to: Sk9??m55Mj@?mAAA6304
件名:Re:Saigaへ本文: ありがとう。正直に言って、今も手が震えている。
私が15歳の夏、祖母が死んだ。急に倒れて救急車も間に合わず、そのまま逝った。だが彼女を殺したのはくも膜下出血なんかじゃない。自転車だった。私の家近くに無断駐輪された大量の自転車が道路を塞ぎ、救急車を遅れさせたことが治療の遅れに繋がったんだ。
私は後日、回収業者に依頼して自転車を全て撤去してもらった。そのすぐ後に自転車の持ち主と名乗る男が怒鳴り込んできたよ。曰く「俺の物を勝手に動かすな」と。どう考えても、その自転車は2週間は放置されていたのにも関わらずだ。今考えると、男は駐輪代金を惜しんでどうでもよい私の家に自転車を放置していたのだろう。それがどういう結果をもたらすかを想像せずに。
結局は、無関心が弱者を殺す。自分に影響が及ばないからという理由で、大勢が無関心に積み重ねた歪みが、姿の無い悪意として祖母に降りかかったのだ。
祖母は言っていた。「人にかける迷惑に、きちんと責任をとれて一人前」だと。自分の世界を維持するために、知らない他の宇宙を破滅させて良いのか?そんなエゴでしか存続できない世界など滅んでしまえ。私は、超常の技術を使うことでそんな現実を変えたかった。きっと私は、あなたのメールを受け取るために今まで生きてきたのだろう。
あなたとともに向かう先が、死出の旅路であろうとも構わない。協力させてくれ。私は、あらゆる世界を守りたい。
我妻 岳
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