クレジット
タイトル: SCP-2911-JP - 合衆国の一番長い日
著者: islandsmaster islandsmaster
作成年: 2020
財団サイト-311と連合ステーション-NA-019。
特別収容プロトコル
SCP-2911-JPの収容は、ハドソン川協定に基づき財団-世界オカルト連合の共同管理下にあります。世界貿易センター複合体(WTCC)のうち5、6WTCCビルディングが財団に割り当てられ、サイト-311に指定されています。境界線イニシアチブとサイト-311のホットラインは24時間体制で維持されます。
マンハッタン島の形而下的空間安定性を保つため、常時12基6セットのハウス-ニコラス神的平面真空ユニットを稼働状態に保ってください。いずれか2基のH-Nユニットが常時余剰エネルギーを上空に排出しているため、WTCC上空への侵入はいかなる物質的存在にも許容されません。
崩壊した旧・世界貿易センタービルのツインタワー北棟(1 WTC)は耐震補強され、外周を隔壁で封鎖した状態で維持されます。1 WTCの全域がSCP-2911-JP-Aであると考えられています。1 WTCへの民間人の立ち入りを禁止し、SCP-2911-JP-Bとの接触を防止してください。1 WTC外部へ進出するSCP-2911-JP-B実体はセーフゾーンに勾留されます。実体が意思疎通可能かつ基底現実への滞在を希望する場合、合衆国憲法ならびに国際法に従って滞在ビザを交付してください。
説明
SCP-2911-JPは、マンハッタン島の表面積のおよそ3%が基底現実から崩落する形で発生した異常次元です。2011年時点の次元物理学は、これらの異常次元のフリックポイントについて説明できません。SCP-2911-JPは不明な供給源から高密度のエネルギー供給を受けており、このエネルギーは次元外部からの観測では純粋アキヴァ放射に類似しますが、SCP-2911-JP内部においてはおよそ87%が物質化しています。それらは典型的には水蒸気、硫黄、卑金属、気化した低級アルコール、不明な生物の血液です。
SCP-2911-JPとの確立されたポータルはSCP-2911-JP-Aに指定されています。コンクリート、鉛、聖別済みのステンドグラス、スクラントン現実錨による複合封緘はポータルの半永久的な閉鎖に有効です。
SCP-2911-JP-B実例。
SCP-2911-JP内部に存在する悪魔実体群は、一括してSCP-2911-JP-Bに指定されています。SCP-2911-JP-Bはおよそ12の神学的・文化論的類型を有しますが、総じて外見上は人間に類似しており、身体の一部分が何らかのエネルギー発振器官に置換されています。SCP-2911-JP-Bは低レベルの知能を有するほか、奇跡論的な手法による形而下的現象への限定的な介入が可能です。SCP-2911-JP-B実体はSCP-2911-JP外部では急速にエネルギーを発散し無気力・不活性状態となりますが、一定の代価を提示して契約を結ぶことで、その行動をほとんど完全に制御できることが判明しています。
SCP-2911-JPは、2001年9月11日に発生したカオス・インサージェンシーによるニューヨーク・マンハッタン島への超常テロ攻撃に付随して出現しました。事件の初期展開において、航空機を用いた奇跡論的攻撃によってマンハッタン島南部が未知の異常次元に崩落し、不特定多数のSCP-2911-JP-Aがニューヨーク市の広域に展開しました。9月18日までの一連のタイムラインにおいて、財団-連合-境界線イニシアチブ-アメリカ合衆国軍の合同部隊は現在のSCP-2911-JP指定領域を除く全てのマンハッタン島地域を基底現実に復元し、市内のSCP-2911-JP-B実体群を排除しました。補遺を参照してください。
補遺.2911-JP.1 > 経緯
1998年のイベント・ペルセポネ発生以後、財団-世界オカルト連合-プロメテウスグループ-アメリカ合衆国政府の4者協議による北米大陸のアノマリー評価報告システムが速やかに確立されました。SUSEOCTの拡張的枠組みとしてメキシコ湾条約が締結され、財団・連合の特殊資産が集中する北米全域における衝突の防止、ヴェール・プロトコルの段階的廃止におけるモデルケースとして運用されました。
1999年2月、ランブイエ和平が世界オカルト連合監督下で成立して以降、カオス・インサージェンシーはメキシコ湾条約締結勢力への批判を本格化しました。デルタコマンドは不特定のチャンネルで攻撃を予告し、うち幾つかが実行されました。2000年末までに、東欧・中東・中央アフリカに跨る秘匿された超常犯罪ネットワークが確立されたと考えられています。これらの地域では闇資金と超常兵器の供給が急増し、概して紛争の激化を招きました。
2001年9月1日に開会した国際連合超常問題特別総会は、7.12事件から3年間の国際情勢を鑑み、これらの問題への対処方針を策定するためにニューヨーク市の国連本部ビルで開催されていました。カオス・インサージェンシーの本来の標的は特別総会に出席中の各国高官、プロメテウス社重役、異常領域国家の大使、パラヒューマン人権活動家、ならびに世界オカルト連合事務総長D.C.al Fineであったと考えられています。
補遺.2911-JP.2 > 事件発生 - 9月11日
2001年9月11日の午前8時20分頃、不明な数の工作員により、大陸横断路線の旅客機5機がハイジャックを受けました。このうち3機がニューヨーク市への進路を取りました。乗務員に対する精神操作には、プロメテウス社製の精神同調機器が用いられたと考えられています。
午前8時46分までの間に3機はマンハッタン島上空に達しました。民間の映像芸術家によって偶然撮影された記録によれば、3機は空気力学的に異常な飛行を行い、飛行軌道は赤熱して十数分に渡り空中に残存しました。未知の奇跡論的作用によってマンハッタン島全域の現実性が低下し、財団および世界オカルト連合による状況の発見に至りました。
以下はオーティス空軍州兵基地の管制室から回収された、事件初期の音声記録です。
Record 2001年09月11日 - AF0005
合衆国空軍 F-15C戦闘機による記録
メンバー:
- 合衆国空軍大尉 アンドリース・ムライ (Copper02)
- 合衆国空軍中尉 ヴィクター・ウェイン (Copper05)
- 合衆国空軍中佐 バーナード・ブレンダガスト (基地管制官)
- 世界オカルト連合物理部門員 アグリアス・オーディアン (航空管制官)
[06:22] Copper02より管制、訓練中止。ロングアイランド湾上空で待機中。
[06:34] こちら管制、マンハッタン島上空への進入許可が下りていない。引き続き待機せよ。
[06:49] Copper02より管制、当機の積載燃料からみて20分間の待機が限界だ。
[07:02] 世界オカルト連合はいかなる空軍機の国際連合本部上空への侵入も許容していない。状況は不明。上空待機の理由は我々にも伝達されていない。引き続き待機せよ。
[以後150秒間に渡り同様の応答]
[09:53] こちら世界オカルト連合、ステーション-NA-338管制。レドラン規定に基づき、マンハッタン島周辺の合衆国空軍機に即応を要請する。
[10:08] Copper02、即応可能。状況を伝達されたし。
[10:18] コード903、マンハッタン島全域が上空からの超常的予備攻撃に晒されている。現状は10分以内に致命的な現実性への損害に発展する可能性がある。
[10:28] クソ、上空進入の許可を乞う。
[10:32] 許可する。対象を発見し報告せよ。攻撃は許可されない。
[10:37] Copper02よりステーション、対象とはなにか。
[10:48] 不明である。状況を把握できていない。
[以後90秒間に渡り限定的な情報交換が行われる]
[12:22] Copper05、合流する。当機は訓練兵装しか有していない。
[12:28] Copper02了解。95号線上空より南へ転進、マンハッタン島へ侵入する。
[12:35] レーダーの乱れが酷い。不明な干渉を-あれは何だ?
[12:39] Copper05より管制、航空機-旅客機だ、赤い軌跡を-軌跡を描いて飛行してる。
[12:45] 管制よりCopper5、明確に述べてほしい。旅客機か? ハイジャック機に相違ないか確認を求める。当該便の使用機材はボーイング757か767と思われる。それ以上の情報はない。
[12:58] 区別できない、あれは-有り得ない、背面飛行をしている-異常な速度と軌道に見える。
[13:09] Copper02よりステーション、少なくとも2機の飛翔体が視認できる。対象とはハイジャック機に間違いないか? 明らかに異常な-航跡雲が赤く発光している。なにか異音が聞こえる気がするが、上手く判別できない。専門家の意見が聞きたい。
[13:32] 管制よりCopper05、当該機に接近せよ。内部の状況を確認したい。
[13:41] よせ! こちらステーション管制、接近は危険で-
[13:49] クソ、なんだ! 機体の温度が急上昇している、レーダーの反応が[通信途絶]
[13:55] Copper05がロストした! こちらCopper02、航跡雲に接触したCopper05のロストを視認! パイロットの脱出を確認できない!
[14:09] 対象の脅威度を更新。UTEと認定する。
[14:28] Copper02より管制、離脱許可を乞う。本機は攻撃手段を有していない。
[14:32] こちら管制、許可できない。状況を注視せよ。
[14:57] 対象は高速で飛行中、異常な反転機動を取っている-進路は不明。あんな機動では乗員の生存は絶望的だ。航跡雲への接触を避けるため、当機も進路を変更する。
[15:32] 現在ハドソン川上空、州立公園が見える。対象の進路は南方、グリニッジ方面に2機-いや、3機か? 3機の旅客機だ。湾上空で旋回している。航跡雲の発光が強まって-
[15:51] 進路を変えた-いや、急加速した。これは何だ? 耳鳴りが-機体の振動が強く-
[15:59] コード911、警報発令を確認。御苦労だった、Copper02。直ちに空域より離脱せよ。
[16:08] こちら管制、連合は空軍の命令系統に介入するな! Copper02は状況を報告せよ!
[16:10] 状況を報告-旅客機が加速して-あれはツインタワービルに向かってる。発光で視界が-
[16:17] クソ、何だこれは。機体の異常振動-操縦桿が利かない、制御不能!
[16:24] [通信途絶]
初期の状況把握の混乱により、財団、世界オカルト連合、アメリカ合衆国空軍はいずれもマンハッタン島上空における儀式陣構築の妨害に失敗しました。世界オカルト連合による呪術的迎撃措置が部分的に成功し、テロリストグループは国際連合本部への突入に失敗、目標を変更したと考えられています。旅客機の世界貿易センタービルへの突入は午前9時3分までに行われ、突入から5分以内に世界貿易センタービルを中心とした約4.5km2の領域が異常次元に崩落、連鎖的に周辺空間への侵食が始まりました。
マンハッタン島内の基幹物理回線喪失と電波障害による混乱から、財団の対応は遅延しました。スタテン島の研究収容サイト-310に仮設本部が設置されました。以下は収容委員会の保持していた記録の一部です。
Record 2001年09月11日 - 310101
研究収容サイト-310通信回線による記録
メンバー:
- 対応部隊連絡員 ルドルフ・パウゼマン
- 渉外担当調整官 アントニオ・バークレー
- 収容スペシャリスト アイリーン・キム
- サイト-310副管理官 オドネル・フィッシャーマン
[記録開始]
フィッシャーマン: それで、状況は?
パウゼマン: 悪くなる一方だ。サイト-28は完全に陥落したと思われる。マンハッタン区は異常空間と悪魔どもに飲み込まれるだろうな。
キム: 上空の到達点が判明するまでは偵察ヘリも飛ばせません。現地エージェントによる報告を頼りたいところですが、電波障害は深刻です。地下回線も寸断していますし──これで建造物の表象に依存するタイプの空間異常ではないことだけは分かりますが。
パウゼマン: 何の慰めにもならん。"シティ・スリッカーズ"が機能不全に陥った以上、ワシらが当面頼りにできる機動部隊は"バッカスの酒"と"螺旋階段"だけだ。
キム: ちょっと、何故2部隊しかいないのです?
フィッシャーマン: 連合への配慮です、特別総会への警備は彼らの管轄でしたから。30番街に規制線を張れば、少なくとも逆侵入は防げるでしょう。可能な限り群衆の退避を進めねば──
バークレー: [接続ノイズ] すみません、どうも。緊急事態です、管理官。
フィッシャーマン: これ以上何が緊急事態になりうるのか分かりませんが、聞かせてください、エージェント。貴方は国連本部ビルにいるのですよね。一体どんな情報を?
バークレー: かなり悪い事態ですね。たった今、ペンタグラムがダウンしました。どうやら4機めの目標は国防総省だったようです。
パウゼマン: 首刈り戦法か、的を射ておるな。
フィッシャーマン: 連合の出方はどうですか? こちらにはまだ彼らとの交渉権がありません。
バークレー: かなり混乱しています。複数の排撃班が動員されていますが、特別総会出席者の護衛と避難で手一杯です。施設は避難民で溢れていて、統制は望めません。
キム: どこも同じね。そちらにはまだ悪魔実体はいないの? 私のところに上がっている報告を信じるなら、島の南側は幽霊とか悪魔で一杯よ。放射エネルギーのせいでカント計数機は使い物にならないわ。
バークレー: 外の様子は何とも言えませんが、本部ビルの12階は聖職者で溢れ返ってます。ビルを霊的な要塞に仕立て上げるつもりみたいですから、こっちには寄りつかないかもしれませんね。今は広場にバリケードを築こうとしていて──
フィッシャーマン: ああ、それで少なくとも当面の方針は決まりますね。
バークレー: というと?
フィッシャーマン: 避難民の誘導先ですよ。国連本部にいる聖人候補の数は、少なくともニュージャージーの全財団サイトより多いでしょう。我々のシェルターより余程安全だ。
キム: イーストサイドから国連本部を経由してクイーンズまで誘導すれば、地図上は安全な退避路が構築可能です。グリッドロックがなければの話ですが。
パウゼマン: 銀弾の配備状況は微妙なところだが、聖水噴霧機なら一応用意できる。在庫切れまでの数時間は持ちこたえられるだろうさ。
フィッシャーマン: 決まりです。まずは市民を救いましょう。
[記録終了]
Record 2001年09月11日 - 310295
研究収容サイト-310通信回線による記録
メンバー:
- 対応部隊連絡員 ルドルフ・パウゼマン
- 渉外担当調整官 アントニオ・バークレー
- 収容スペシャリスト アルト・クレフ
- 報道担当臨時管理官 ジャック・ブライト
- 収容担当臨時管理官 チェルシー・イールズ
[記録開始]
ブライト: 俄には信じがたい、この私が報道担当だと? 何の冗談なんだ。
バークレー: 仕方がないんです、臨時管理官。なにせ区内でメディアが機能しているのは国連本部ビルだけで、ここにおける最高位の役職者は貴方です。クレフ博士は拘束されていますし。
ブライト: ああ、彼を引き合いに出されると、まるで私がやらなきゃいけないように思えてくるな。
パウゼマン: 2時間以内に市内の機動部隊は7つに増強される。市民の避難を優先していることだけでも伝われば、現場の混乱は多少収まるだろうて。
ブライト: よし。それじゃ、悪魔の対処方法は? 足のない煙を吐く連中について、市民からのヒステリックな報告が20も30も入ってるんだ。
イールズ: 聖水に銀弾、聖職者の祈祷。そんなところです。十字架の効果が薄いのは確認されています。悪魔実体だけならともかく、実存生命への憑依体を祓う簡単な方法はありません。霧に触れないこと、規制線の先に行かないことだけが対処です。
バークレー: カオス・インサージェンシーからの声明は出ていません。財団と彼らの関係は、メディア戦略上非常に不利に働きます。会見では監督評議会への責任論に向かないように注意が必要です。原稿はこちらで用意しますから──
クレフ: [ガラスの割れる音] クソ野郎ども──脳足りんの──忌々しい軍隊気取り──馬鹿にしやがって──
ブライト: 畜生、何なんだ。
イールズ: これは記録回線です、クレフ博士。連合の警備担当者がとりあえず貴方をふん捕まえておいたのが良い判断だったと我々に思わせないためにも、何かしらのアイデアを出してほしいものですね。今まさに少なくとも3000体の悪魔がエンパイア・ステート・ビルに向かって行進しているんですから。
クレフ: アー、お嬢ちゃん、まともに仕事をしてるふりがしたいだけなら、そのまま喋っていていい。本当に役に立ちたいなら黙れ。この上なくクソ最悪なニュースが聞ける。
イールズ: 何だって言うんです、これ以上最悪な状況があるんですか。
クレフ: 新鮮採れたてだぞ、精神部門のお偉方様の口をこじ開けて直接聞いてきたんだからな。脳ミソの茹で上がったアホどもはピチカートを検討してる。
パウゼマン: [不明瞭な唸り声]
イールズ: 確認させてください、クレフ博士。ピチカート手順ですか? 水爆とかミサイルとか原潜に関連付けられたあの、つまはじきのピチカート?
クレフ: 俺の耳が昨日のコニャックでイカレてなければ、それだ。
バークレー: おお、ジーザス・クライスト。まったく!
ブライト: 間違いなくこの街に一番求められてるね。
パウゼマン: その与太が確かなら、連合は100万人を飲み込んでる異常空間に対して、少なくとも核爆発かそれ以上の何かを叩き込もうとしてるってことになる。それで事態が解決するのかは知らんが。
イールズ: 根本的な解決ではありませんが、現状においてひとつの有力な方針ではあります。事後処理を完全に放棄しているという点を除けば。
ブライト: 監督評議会の対処指針が出る前にそいつに触れるわけにはいかないぞ、どうすればいい。
イールズ: 何とかして連合の意思決定を引き伸ばしてください。決断を思い留まるように。
パウゼマン: "ワルプルギス"が先程到着してウェストサイドの偵察に回っている。州兵も協力してくれるそうだ。空間内部の様子が判明したら、すぐにそちらに伝達しよう。ワシも現場に向かう。
クレフ: するってえと何か、俺はまた連中に捕まるのか? "予防拘禁措置"とやらのために? 折角黒服を5人ばかりトイレの便器に突っ込んできたのに。
イールズ: 貴方のコネをどう使ってもらっても構いませんが、まずは彼らに詫びるべきですね。
[記録終了]
Record 2001年09月11日 - 160002
機動部隊Ο-16("ワルプルギス")による記録
メンバー:
- 対応部隊連絡員 ルドルフ・パウゼマン
- 合衆国陸軍大尉 ジョナサン・ライデン
- 機動部隊Ο-16("ワルプルギス")部隊員
- ニューヨーク陸軍州兵第42歩兵師団("レインボー")選抜偵察中隊員
【2001年09月11日 22:45より再生開始】
[Ο-16と選抜偵察中隊の混成部隊はリンカーン・トンネルを経由してマンハッタン島に侵入し、ワシントン・ストリートを南下中。周囲には霧が充満しており、視界は悪い。散発的に悪魔実体による攻撃が行われる。避難民は少数]
ライデン: まさかまだ残っている民間人がいるとは驚きだ。こんなにも異常領域が近いのに、島に入ってからもう20人は見かけたぞ。
O16-デルタ: よくあることです、大尉殿。特定の宗教基盤に根ざした実体の場合、条件によっては認知とは無関係に攻撃しないことがありますから、レッドゾーンにおいても民間人が残っている可能性があります。
Ο16-ガンマ: つまりですね、悪魔が蔓延る紛争地帯だと思って銃を構えたら、銃口の前に子供がフラフラ出てくるかもしれないってことです。
ライデン: ぞっとしない話だな。
パウゼマン: とにかく、異常空間と接触し、内部の様子を探らねばならん。強行突入を思い留まらせるには、人質が生きていることを証明するのが一番だからな。
中隊員F: 銀行強盗のメソッドですか。
ライデン: 世界有数の人口密集地だ、生きていてくれなきゃあ困る。あと500m。
Ο16-シータ: いい感じですね。このまま何事もなく行ってくれれば──
[前触れなく左手の商店が破壊され、体高5m強の概して人型の存在が2体出現する。対象は複数の岩石を混合して構成され、非常に矮小な頭部には陶器のカバーが装着されている。第一撃を全員が回避したものの、部隊は2手に分断される]
中隊員B: なんだこれは、ゴーレムか!
ライデン: 総員、遮蔽を確保しつつ射撃!
[10秒間に渡る制圧射撃。対象に有効打を与えない]
Ο16-デルタ: 聖別銀弾、焼夷弾、徹甲埋没呪弾、効果なし。感覚共有型ではないようです。
パウゼマン: RPGがあったろう。
Ο16-ガンマ: あの機動力ですと誤射が心配です、向こう側にも味方がいる。
[ゴーレムの右手には大口径砲が埋設されている。断続的な砲撃で4名の人員が失われる。ゴーレムの後方から市民に偽装した複数の民兵が出現し、部隊に対して攻撃を開始する]
ライデン: クルツが被弾した。畜生、どう考えてもこいつらは悪魔じゃない!
Ο16-アルファ: ゴーレムの顔面に射撃を集中! カバーの中身は羊皮紙だ、破壊すれば止まる!
[3分間に渡る攻防。O16-シグマが狙撃によって頭部カバーを破壊する]
中隊員K: 対象の停止を確認!
ライデン: 街路を掃討、狙撃に警戒しろ! 敵は複数いるぞ。
Ο16-シータ: 見てください、カバーの中身はEmethの碑文です。えらく古い手法のゴーレムだ、300年は遅れてる。
Ο16-ベータ: 枯れた技術とイデオロギーを腐らせてる連中を知ってるぜ。それに火を付ける奴らも。
中隊員C: 民兵の遺体を確認しましたが、IDは見つかりません。見たところアラブ系とロシア系の混成部隊で、軽度の軍事訓練を受けています。厄介なことになりましたね。
パウゼマン: もしこれがインサージェンシーの攻撃なら、この辺りは連中のキルゾーンということになる。兵力を増強する必要があるだろうな。集合! 当初の予定を達成し次第撤退するぞ!
[部隊は集合し、遺体を収容してハドソンスクエアに到達する。悪魔実体は急速に増加しているが、攻撃の意思を見せない。霧は刺激臭を発し、真紅に染まっている。時折雷鳴が響き渡るが、稲妻は観測されない]
O16-アルファ: カント計数機が振り切れた。これ以上は進めない。
ライデン: ソーホーまであと少しなのに、無理なのか?
O16-エータ: 悪魔実体の撒き散らす異常なエネルギー周波と定期的なアキヴァ放射で現実性が滅茶苦茶になってるんです、大尉殿。沖合に船でスクラントン-アンカーを並べまくって中和してるそうですが、通りを一本入れば空気が存在するかも分かりませんよ。
Ο16-シータ: バックドア・ソーホーとの連絡が途絶えた以上、陸路でしか到達できないのだが、仕方ない。作戦行動に必要なだけの車載型アンカーとHazmatスーツが到着すれば現状を打開することも──
[突如として空間が振動し、カント計数機が警報を発する。暗褐色の霧が南方から押し寄せ、周辺の悪魔実体が急激に活性化し、破壊活動を開始する。ハドソン川に一定間隔で停泊する財団艦船は警笛を鳴らしながら退避しているように見える。カナル・ストリート駅の構造物が押し潰されるように歪み、映像から消滅する]
パウゼマン: おのれ、急に拡大を始めおったか。
O16-アルファ: 即時撤退する。このままでは異常空間に巻き込まれて全滅することになる。作戦失敗! 現地点を放棄する。4ブロック後退し、悪魔実体の追撃を排除する!
中隊員C: なんてこった、このままじゃソーホーどころか、グリニッジ・ビレッジあたりまで飲まれるぞ。
Ο16-ベータ: 悪魔実体がこっちをターゲットしています、すごい数だ! 300はくだりません、見たこともない奴らだ! 頭に魚のヒレがついてます!
中隊員G: 嫌な振動だ。まさかとは思うが連中、水を渡れるなんて言わないだろうな? 川を挟んだスタテン島とクイーンズは今、避難民で溢れ返ってるんだぞ。
O16-シグマ: 悪魔どもが泳げるってのは聞いたことないけどよ、泳げないってのも同じくだぜ。
O16-デルタ: こういう場合は悪い方になると相場が決まってるんだ。
パウゼマン: 言っとる場合か、1ブロック後退し制圧射撃! 聖水袋はここが使いどきだ! ライデン大尉、ここはもう無理のようだ。すぐに後退を──
ライデン: ああ畜生、パウゼマン殿、俺は気付いてしまった。
[ライデンが錯乱した様子でパウゼマンに縋り付く]
Ο16-ベータ: 大尉殿、どうされましたか。医務官!
パウゼマン: しっかりしろ大尉、今は遅れれば死ぬぞ!
ライデン: 違うんだ、聞いてくれ。あの音だ、さっきからずっとびりびり響いてくるあの振動、規則正しいあれは、俺には分かるんだ。お袋が助産婦だったから。
パウゼマン: 何だと?
ライデン: あれは──あれは、鼓動だ。母親の腹の中で聞こえる、赤ん坊の。
[振動が更に強固になる。ソーホー方面から複数の大型悪魔実体が出現し、他の悪魔実体を巻き込みながら炎を吐き出す。大型悪魔実体の頭部には湾曲した2対の角があり、尾部は異常に延長しているものの、典型的なTartareanクラス実体に見える。実体の接近に伴って霧の濃度が増し、視界は3m程度しかない。ライデンは失神し、部隊は撤退を開始する]
【中断】
異常事象報告の初版は15時までに作成され、財団北米統合司令部に転送されました。これに伴い、東海岸区域の全サイトにレベル3警戒態勢が発令され、増援機動部隊の編成が行われました。
異常事象報告
異常空間の遠景。近距離での撮影は不明な理由によるエージェントの喪失を招いた。
場所: ニューヨーク州マンハッタン
状態: 進行中
時刻: 9月11日 09:05 AM (現地時間) — 現在
脅威レベル判定: レッド ●くろまる
事象概要: マンハッタン島南部およびブルックリン西岸、ジャージーシティ近郊における侵入不可能な異常空間の生成。外縁地域におけるヒューム値の急落と、アキヴァ放射レベルの異常な上昇が確認されている。電波干渉により無線通信が途絶。複数の霊的実体ならびに不明なヒト型実体群が出現し、低レベルの破壊行為に従事している。一般市民は恐慌状態にあり、鎮静目的で広域記憶処理が展開された。赤色または暗褐色を呈するガス状実体が市街地に流入し、流入先の街区では異常空間が急速に伸張している。異常空間展開区域の人口はおよそ60万人であり、喪失したものと看做される。
補遺.2911-JP.3 > 初期収容 - 9月12日
9月11日の夕方から12日未明にかけて、マンハッタン島中部における一般市民の避難は概ね成功を収めました。散発的な避難民の回収と並行して、財団-世界オカルト連合は現場レベルの連携を確立しました。多数のSCP-2911-JP-B実体が出現したことを受け、マンハッタン区の南側は放棄され、タイムズスクエアに防衛線が展開されました。
33番街に集結しつつある悪魔実体の集団。周辺現実性の毀損により、カメラは短時間で破壊された。
国際連合本部ビル24階に財団機動部隊の仮設指揮所が設置され、以後の作戦展開を指揮しました。アルト・クレフ博士が作戦臨時顧問に就任しました。以下は仮設指揮所によって収集された記録の一部です。
Record 2001年09月12日 - 000309
収容スペシャリスト アルト・クレフによる記録
メンバー:
- 収容スペシャリスト アルト・クレフ
- 報道担当臨時管理官 ジャック・ブライト
- 収容担当臨時管理官 チェルシー・イールズ
- 正二位科学司祭 エルンスト・ヴェイガン
- 人心教導啓明者 アスタフ・レイ・ジャハナム
- 精神部門特任使節 "コヴァルスキ"
注記: 世界オカルト連合在籍者の役職は会合参加時の自己申告による。
[記録開始]
[財団-連合双方の部隊員による状況報告が行われる]
コヴァルスキ: 以上のような状況ですが、財団のお歴々のご意見は。
イールズ: [咳払い] まず初めに申し上げておきますと、財団はこの事態を収容できると考えています。
ジャハナム: ほう? 既に100万人を飲み込んだと思しき異界の使徒どもに対して、お主らは何ら効果的な手段を発揮していないと考えていたが。
ヴェイガン: 同じく。我らの教会はこのような事態の危険を常に訴えてきたが、貴様らは聞く耳を持たなかった。
イールズ: 見解の相違ですね。我々はここまで後手に回ってきましたが、それは装備と人員の不足によるものです、それも連合の強い要請が原因のです。既に対応は始まっています。
ジャハナム: 事務局の、だろう。我らバヴァリア啓明結社は関与していない。
コヴァルスキ: 失礼、今は責任の所在を議論する場ではないわけで。財団の機動部隊は苦戦していると理解していますが、違いますか? それとも前進できている?
イールズ: 踏み留まっている、と表現できます、Mr.コヴァルスキ。ごく少数の増援でこのような対処ができる以上、財団はマンハッタン島の放棄は適切ではないと──
ブライト: 話の途中ですまない、チェルシー。残念ながらノーホーは駄目だ。たった今"螺旋階段"は撤退を開始した。インサージェンシーの妨害が酷い上、大型悪魔には凍結聖水弾頭が効かないようだね。
イールズ: シット! ──あー、失礼を。
ヴェイガン: それ見たことか、と言いたいところだが、明日は我が身だな。
ジャハナム: 物理部門は排撃班を島外から動員している。哀れなる非典の民とて安全は確保せねばならん。すぐさま島に神の火を撃ち込むことは我等とて避けたい。
ブライト: 財団としては確約が欲しいところですね。つい先程もCNNにセントラルパークの動物たちは安全だと言ってきたばかりなんだ。
コヴァルスキ: 108評議会は現在も会合中ですから、結論はすぐには出ないでしょう。事務総長が意見の取りまとめにどれほど時間を掛けるか次第ですが、夜明けまでには──
クレフ: アー、お前ら、俺の話を聞く気はあるのか、それとも?
イールズ: 真面目に話す気があるなら、いつでも。
ヴェイガン: 誠実であるならば、意思あるものよ。
クレフ: どこぞのクソッタレのお陰様で特大のクソがこの街になすり付けられてるわけだが、そいつに関してのプロフェッショナルを俺は知ってる。この会議には居ねえが、このビルのあちこちにいやがる。ケツがむず痒くなるような祈りの言葉を暗記して、ワインを頭にふりかけて──それでもって、イカしたローブの下にハンマーを隠してる、分かるな。
コヴァルスキ: イニシアチブのことを仰っているなら、既に交渉は進行中です。
クレフ: それを待っている間抜けぶりを言ってるんだぜ。いいか、何をどうしようがこの小洒落た島の南側はサタンのひり出した屁の中にどっぷりだ。誰も中身を見られねえんだ、しかも毎時100メートルは広がってて、これからもっと駆け足になる。トイレのドアを早いところ見つけなきゃならんが、それはすぐさま出来ることじゃあない。とすると、俺たちは足元がクソまみれになるのを待ってるべきか、それとも全部焼いちまうのか? 家に誰一人住めなくなるように?
ブライト: 個人的な感想を言わせてもらうなら、綺麗に掃除したいところだね。
ヴェイガン: 適切な喩えとは思えんが、聖句よりは難解ではないな。
クレフ: 今は俺が喋ってるんだぞ、畜生め──それで、はっきり言って、財団は手詰まりだ、今はな。連合もそうだろう。頭でっかちなO5もやかまし屋の評議会も、この場には誰一人居やしない、とすると俺たちはできる範囲で、パイプと酒瓶をかき集めて馬鹿の脳天をかち割りに行くべきなんだ。
イールズ: それからショットガンもね。
クレフ: 黙ってろよお嬢ちゃん、今言おうと思ってたんだぞ。
コヴァルスキ: オーケー、非公式な同盟のお誘いと理解します。少なくとも公的には、我々と財団は3年前から常に一時停戦状態にあると考えていましたが、その延長であると。宜しいですか?
ブライト: それで構わないはずだ。少なくとも財団としては問題ない。
ジャハナム: 108評議会代表の判断とは異なる可能性があるが、現地における対応は私の手に委任されている。期限付きであれば共同戦線に否やはない。
ヴェイガン: サタンと科学者の統一教会は、あらゆる神格に反対する。悪魔を殺すに相違なし。
イールズ: 後からどうこう言うのは監督官に任せましょう。科学者たちが到着するまでの時間稼ぎが急務です。相互の連絡を密にして、悪魔どもを島に閉じ込める必要があるわ。
ブライト: 境界線イニシアチブへの呼び掛けはこちらでも行おう。今はとにかく時間が惜しい。霧が浸透してくる前に対処方針を固めて、避難民の再流入を防止しなければ。
ジャハナム: 改革神殿騎士団に知己がいる。経典の民と繋がりを求めるならば、協力できる。
コヴァルスキ: それでは、今後の連携を詰めましょう。どうせ橋頭堡として適切なのはこの本部ビルだけですからね。3者合同の対策本部になる可能性があります、調整が果てしなく面倒な──おや、クレフ博士、どちらへ?
クレフ: ちょっと野暮用を思い出してね。
[記録終了]
Record 2001年09月12日 - 100283
機動部隊Γ-10("バルムンク")による記録
メンバー:
- 報道担当臨時管理官 ジャック・ブライト
- ペンタグラム上席エージェント ブライアン・フェルナー
- "鉄槌計画"前線指揮官 アンリ・ド・モンフォール
- "鉄槌計画"戦闘員
- 機動部隊Γ-10("バルムンク")部隊員
"鉄槌計画"の戦闘エージェント。
【2001年09月12日 12:08より再生開始】
[Γ-10は国際連合本部ビル前面に展開し、州兵と共にバリケードを構築している。前線指揮所が設営され、境界線イニシアチブの戦闘員が物資を補充している。群衆は誘導され、バリケード中央の門を通ってクイーンズボロ橋に向かっている。戦闘は未明から断続的に続いている]
ブライト: あー、申し出に応じて頂き感謝の念に堪えません、モンフォール殿。
モンフォール: 世辞は不要だ、博士。この窮状において、イニシアチブは人間の魂と光のために戦う。他の何者のためでもなく。法廷は紛糾しているが、彼らの決定は常に遅すぎ、また世俗的に過ぎるのだ。
フェルナー: この緊急時に協力してくれるのはそれだけでも有難い、多少の手続き不備には喜んで目を瞑ろう。しかし、その......そちらの武装は問題ないのか? 気分を害すようであれば申し訳ないのだが、あー......明らかに、前時代的な装備に見える。
[フェルナーの指し示す方向では、境界線イニシアチブの戦闘員が整列している。戦闘員の多くはモーニングスターやパイク、サーベルで武装し、胸に十字架のアミュレットをかけている。複数の戦闘員は小版の聖書を武器に収納し、あるいは括り付けている]
モンフォール: 問題ない。我々とて銃弾の有効性を疑いはしないが、こと悪魔との戦闘においては板金鎧と十字架、そして聖句はライフル銃に勝る威力を発揮しうる。
フェルナー: 言わんとすることは分かる、しかし──
イニシアチブ戦闘員: ご歓談中に失礼いたします、司祭よ。南西の方角より不浄の者共が。
モンフォール: 構わん、武器を取れ。
[2番街方面から身長40mほどのピンク色の実体が立ち上がり、3本の腕で前線指揮所を指し示す。実体は一見してゴム製のように思われ、異常に長い中指以外が欠如した手からは炎が噴出している。実体の猥雑なジェスチャーに呼応して100体前後のTartareanクラス悪魔実体が赤い霧を伴って交差点に出現する]
ブライト: 正気の沙汰じゃない光景だな、まるでLSDをキメて見た夢だ。あれにオブジェクト指定がされていると思うか?
モンフォール: 不規則言動は聞かなかったことにしておこう、博士。経典を紐解かない人間であっても、涜神者でなければ我々は寛容だ。さあ者共、かかれ! 主の敵を打ち倒せ!
[戦闘が開始される。イニシアチブの戦闘員は悪魔実体に白兵戦を挑み、優勢である]
Γ10-シグマ: 信じられん、悪魔をハンマーで殴り殺してる。本当にあれが神父なのか?
Γ10-エータ: 口に気をつけろ、ありゃギリシャ正教会だぜ。よく見れば十字架が違う。
フェルナー: 工兵部隊は撤収! Γ-10は避難民の収容を優先しろ、完了後に支援を!
ブライト: 現場指揮に口を挟むつもりはないんだが、大佐? この混戦状態で支援なんて可能なのかな。ただでさえ微妙な関係の組織同士が協力してるんだ、味方撃ちは御免だよ。
フェルナー: 軍人としてそちらの組織事情にはコメントしかねますが、問題ありません。現状、我々の最も頼れる武装は水鉄砲なのでね。
Γ10-アルファ: 聖水投射開始! 射線上から離れろ!
[小型ポンプ車を改造した投射車輌が断続的に聖水を投射する。悪魔実体は困惑して立ち止まり、損傷を負っていた個体はそのまま消滅する]
フェルナー: 聖水の残弾が尽きたときはバリケードを放棄して籠城戦です。ただの弾丸では悪魔への効き目が薄いですし、避難民を殺しかねません。士気に関わりますし、ここにはメディアが多すぎる。
ブライト: 全く同意する。
モンフォール: 聖句を唱え、主を讃えよ! 槍兵投擲!
[数十名のイニシアチブ戦闘員が整列し、他の戦闘員は陣形を組んで列を防御する。モンフォールの点呼に応じて槍が投擲され、異常な軌道を描いてピンク色の実体に命中する。破裂音と共に実体は崩壊し、300体前後のTartareanクラス実体に変化する]
ブライト: おい、増えたぞ。何なんだアレは?
フェルナー: この街で生まれ育った人間として申し上げておきますと、あの区画にあったのはビール専門店にランジェリーショップ、それからジョークグッズ専門店です。
ブライト: 忠実で困るね、全く。
モンフォール: 堕落の象徴が来るぞ! 備えよ戦士、今こそ信仰を輝かせ給え!
[集団で進撃するTartareanクラス実体に対し、再度の聖水投射が行われる。Γ-10の側面支援に呼応してイニシアチブ戦闘員も十字陣形で前進を始める。両者は激突し、乱戦に移行する]
【中断】
Record 2001年09月12日 - UIU-NY
連邦捜査局異常事件課による聴取記録
聴取人員:
エレイン・ショット 異常事件課捜査員
ハワード・パッカード 財団-FBI連絡員
聴取対象:
デレク・オブライエン 容疑者 (アメリカ合衆国沿岸警備隊、兵曹長)
<記録開始>
ショット: では、聴取を始める。これは任意であり、貴方には通常の黙秘権、弁護士を立ち会わせる権利に加え、望むときに聴取を終えてこの場を離れる権利がある。
パッカード: 推奨はしかねるがね。確定していないとはいえ、君には13の罪状で逮捕状が請求されている。今この瞬間にもだ。君の自宅は既に特定され、原隊と家族の元に捜査官が向かっている。更に君の家の2km先は通行止めで、その向こうでは聖騎士と悪魔が殴り合いをしてるときた。逃げも隠れもできないぞ。
オブライエン: [容疑者は大量に発汗し、足を揺すっている]
ショット: 合衆国に対する背任行為は重罪だ。特に貴方の場合、軍属であり、マンハッタン島には沿岸警備隊も出動していた。貴方は休暇中のようだが、第一管区は貴方に出頭命令を下している。逮捕状が正式に発行されれば軍法会議にかけられる公算が高いな。
パッカード: 偶然にも私は財団に籍を有しており、君を重要参考人として財団の保護下に置くことができる。無論のこと罪人として扱われるが、少なくとも憲兵隊よりはマシな扱いを約束しよう。
オブライエン: [容疑者の顔面は異常に緊張している]
ショット: これが最後のチャンスだ、デレク。インサージェンシーは貴方に何をした?
オブライエン: [顔を上げる] 爆弾がある。
パッカード: ほう、君の巡視艇の中にかね? それとも倉庫?
オブライエン: 俺の頭の中。エーリッヒはそう言ってた。
パッカード: [舌打ち] キルスイッチか、インサージェンシーめ。
ショット: 心配しなくていい、この部屋は電波暗室だ。この部屋にいる限りは、遠くから突然頭を吹き飛ばされる心配はない。
オブライエン: 連中の名前も、何をするかも知らない。ただ、酒場で一杯やって、子供を見たんだ。うちの娘くらいの──その子に仕事の話をした、巡視艇で麻薬取引を見張る、それで──前後不覚になって、気付いたら路地裏で、そばに大男がいた。そいつは俺の頭の中に話しかけてきて、仕事があるって。
ショット: いつのことだ、それは。9月に入ってから?
オブライエン: よく覚えていない、たぶん8月の中頃か、もう少し後。記憶が曖昧なんだ。
パッカード: 即席の工作員とは胸糞悪い手を使いやがる。オーケー、それで、何をした?
オブライエン: 巡視艇で荷物を運んだ。人や物。中身を喋ったら死ぬと言われた。30回は運んだと思う。大きなタンクや保温容器、妙な模様の入った燭台やカーペットが山ほど、それに武器と、目を開かない人間たち。俺は怖いんだ、わけのわからない連中が街をうろついてて──
ショット: 人を運んだなら、その人相くらいは分かるだろう。何語を話したか、名前はどう呼ばれたか、その程度は。覚えているものを全て書き出してくれ。
オブライエン: [容疑者は20分間に渡ってメモを作成する]
ショット: 協力に感謝する。何か分かるか、ハワード。
パッカード: ああ、お先真っ暗って感じだな。所在不明のPoIリストが2、3ページは更新できそうだ。おっと、抜けがあるぞ、デレク。最初に酒場で会った子供のことを書いてない。
オブライエン: でも、本当になにも覚えてないんだ。煙がかかったみたいで。
パッカード: 分かるぜ、記憶処理なら私も受けたことがある。でもな、古い処理剤は意外と抜け道があるんだ。感覚刺激との関連付け、例えばそう、匂いとか......ケープコッドの酒場なら、葉巻の匂いがするだろう。私も丁度持ってるんだ。1本どうだね?
ショット: ここは禁煙だ、ハワード。
パッカード: 堅いこと言うな。それ、どうだね? 何か思い出したろう。
オブライエン: [葉巻を吸う] ああ、そうだ。何か言っていた。楽しそうに笑って、空を飛ぶ練習をしているとか、高いところが好きだと。あの子は......あの子の名前は何と言ったか。自分のことを、お姫様なんだと、笑って......
パッカード: なに?
オブライエン: 頭が痛い......そうさ、あの子は娘にそっくりなんだ。娘もパラグライダーをやってると言ったら、私はそんなもの要らないと。無敵のお姫様だからと、それで、ニューヨーク観光の話をした。彼女はツインタワーがお気に入りなんだ。悪夢のように双子だから──ああ、痛い! 頭が割れそうだ!
ショット: プロテクトでも仕込んであるのか!? 医療班!
オブライエン: [容疑者は気絶する]
パッカード: 畜生、どうやらこの街は派手にローストされかかってるぞ。
<記録終了>
連絡員注記: 当該記録は速やかに財団に通報され、容疑者は意識不明のまま勾留された。未知のミーマチック制御と血管拡張系の異常薬物が検出された。カオス・インサージェンシーの特殊工作員ならびに"人間爆弾"はニューヨーク市全域に浸透していると考えられる。調査リソースの増強が急務である。
Record 2001年09月12日 - CNN-US
CNNアメリカによる報道
【前略】
アナウンサー: ......大統領報道官による正午の発表は、マンハッタン島における一連の事件が"同時多発テロ"によるものであるとの見方を明らかにしました。ハイジャックを受けた5機の旅客機のうち、アメリカン航空77便の乗客は全員の死亡が確認されましたが、残る4機の乗客については未だ安否不明です。
アナウンサー: 時間になりました、間もなく国連本部にて、財団報道官による本日4度目の会見が行われます。現場にジェフリーズがいます。彼の意見を聞きましょう......ジェフリーズ?
[映像が切り替わる。国際連合本部ビルを背景にリポーターのマーティン・ジェフリーズが立っている。後方に見えるエンパイア・ステート・ビルから黒煙が立ち上り、夜間であるにも拘らず雲は赤く発光している。ジェフリーズは煤にまみれ、混乱しているように見える]
リポーター: こちらジェフリーズ、何をどう言ったらいいのか分からない......
アナウンサー: 何があったのですか? 中継が繋がっています。落ち着いて、状況を説明してちょうだい。全米の視聴者が貴方の声を聞いています。深呼吸して。
リポーター: すまないヨハンナ、深呼吸はできそうにない、ここはひどく空気が悪くて......あー、皆さん、CNNニューヨークのジェフリーズです。マンハッタン島は新たな局面に入っています。誤解のないように正確に申し上げますが、我々は......ええと、聖書におけるそれと同一ではありませんが近しい存在である、その......悪魔と対峙しています。
リポーター: 世界オカルト連合の発表によれば、これは少なくとも世界の終わりだとか、審判の日だとか、そういったものではありません。しかしながら、マンハッタン島は悪魔の侵攻に晒されています。少なくとも125万人が異常空間内に閉じ込められているか、それに近い状態にあります。
リポーター: 今現在も悪魔の攻撃に対し、勇敢な人々が反抗を続けていて、私は──私はそれを見ました。十字架を掲げる人々を。皆さん、これはフィクションではありません。陰謀論でも、企画番組でもありません。現実の問題です。国連本部ビルの1200フィート先の規制線が砦になっていて、その向こうは......戦場だ。
[ジェフリーズは首を振る]
リポーター: 時間になりました、財団報道官による会見にスイッチします。皆さん、くれぐれも落ち着いて、早まった行動に走らないでください。
[映像が切り替わる。国際連合本部ビルの会見場で、ジャック・ブライト報道担当臨時管理官が会見を始める。最初の約20秒ほどの間、臨時管理官は原稿を注視しているが、何度か首を振った後にそれを放り捨てる]
全米、あるいは全世界の皆さん、こんばんは。私はジャック・ブライト、財団の報道官です。ええと、このフレーズはもう6回目だな。失礼。
皆さんの抱える不安について、我々は十分に理解しているつもりです。端的に事実のみをお伝えするならば、マンハッタン島の南側は完全に制圧──いえ、勢力下にあります。不明な勢力です。我々には十分な情報がありません。異常空間の内部は未解明です。人々の安否についても、残念ながら不明なままです。
しかしながら、我々はカオス・インサージェンシーと名乗るテロ勢力による関与の証拠を入手しています。この勢力は、えー、非常に危険なテロリストであり、複数のアノマリーを保有しています。マンハッタン島への攻撃の大部分は、彼らによって引き起こされた可能性があります。詳しいことは何も......いえ、彼らは少なくともタリバンではありません。共産主義者でもありません。お静かに。
現在、財団と世界オカルト連合は協力して悪魔実体に攻撃、いや違うな、実体への対処を行っています。合衆国陸軍と州兵も協力体制にあります。避難所の設営と物資配給は滞りなく行われています。想定内の危険から、ニューヨーク市全域とニュージャージー州の東部は順次避難区域に指定されますが、警察と軍の指示に従ってください。財団にはそんな暇──いえ。適切な配置と優先順位があり、財団は十分に配慮しています。ご安心を。もし問題があるなら最寄りの教会か寺院に駆け込むと良いでしょう。悪魔は恐らく、教会には近寄りません。
ニューヨーク近郊にお住まいの皆さんは、悪魔実体の目撃情報をお知らせください。いえ、財団にホットラインはありません。クレムリンにも。FBIが情報の引受役です。画面に示されている番号のチャンネルに電話をかけてください。境界線イニシアチブがエクソシストを手配します、それか警察が。悪魔実体は危険ですが、接触したからといって一族郎党呪われるようなことはありません。連中は暴徒と同じか、それより少々危険です。十字架と祈りは多少有効ですが、まずは逃げたほうがいいでしょう。
最後に、状況は中々に困難ですが、我々はそれを乗り越えるだけの力を有していると自負しています。ですからどうか、大人しく状況を注視していてください。理性的で賢明な行動が大切です。あー、思いやりの心も......それと自制心も。我々は勝利するでしょう。それでは、会見を終わります。確保、収容、保護。
[ジャック・ブライト報道担当臨時管理官は駆け足で演台を下りる。複数の記者がメモを持って臨時管理官に群がり、警備員ともみ合いになっている。映像が切り替わる]
アナウンサー: 非常に短い会見でしたが、ジェフリーズ、財団の対応について現場からはどうですか? スタジオから会見を見ている限り、えー......対処が追いついていない印象を受けます。
リポーター: 恐らくその通りです、ヨハンナ。現場は非常に難しい判断を迫られ、一進一退の状況です。しかし同時に、限られた選択肢の中で最善を尽くしているとも感じ取れます。なぜなら──
アナウンサー: ジェフリーズ?
リポーター: ここは最前線です、皆さん。疑いなく。
[リポーターの後方で複数の悲鳴が上がる。カメラは小刻みに揺れ、ズームする。エンパイア・ステート・ビルが大きく歪みながら消失し、幾何学的な波紋が広がる。複数の武装ヘリコプターが雲塊内部に攻撃を加えている。ジェフリーズがカメラに何事かを呼びかけるが、音声は入らない。赤紫色の落雷が複数回あり、映像は途絶する]
【後略】
財団-連合-境界線イニシアチブによる合同対策本部が編成され、国際連合本部の敷地内は橋頭堡として概念的に拡張されました。インサージェンシーによる複数の自爆攻撃に続いてエンパイア・ステート・ビルが陥落し、前線はパーク街を保持しつつセントラルパークまで後退しました。
補遺.2911-JP.4 > 計画立案 - 9月13日
事態の長期化に伴い、SCP-2911-JP内部に取り残されたニューヨーク市民の救出遅延が致命的な問題に発展しつつある中で、財団空間工学部門は非常事態を宣言しました。非敵対的なGoI/PoIを含む空間工学の有識者リストが作成され、協力要請が送付されました。要請を受諾した個人および団体には、プロメテウス社の次世代移動能力研究委員会、ディア大学の異常構造数理学研究室、赤斑蛇の手のホヤ女史、理外研の超次元力学研究グループ、ICSUTマサチューセッツキャンパス教授会が含まれています。招聘は12日までに完了し、13日未明から研究収容サイト-310でSCP-2911-JPに関する共同研究が開始されました。
SCP-2911-JP内部との連絡が初めて行われたのは9月13日の午前8時頃でした。SCP-3216を通じた有線通信が確立され、通信回線を防衛するために機動部隊Π-7("ボタンプッシャー")、Z-9("メクラネズミ")が投入されました。不明な手段でSCP-3216内部に侵入したカオス・インサージェンシー工作員との戦闘は16日未明まで続きました。以下は異常次元内部の財団職員によって収集された情報の一部です。
異常空間調査記録 #211
臨時編成機動部隊F-15("ニューヨーカー") 作成
SCP-2911-JP-B分布図。
進入地点: ニューヨーク市、マンハッタン
領域: マンハッタン島南部、20.5km2~
状況: 拡大中 — 危険
概要: マンハッタン島南部に出現した異常空間。物理法則の大部分は基底現実に準じる。空間形質は次元的/空間的断絶による外界との隔離、空間ヒューム値の低下。周期的なアキヴァ放射レベルの急上昇に加え、多量のカック灰の降灰が観測されている。多様な文化基盤の悪魔実体がほとんど無際限に出現しているように思われ、探索には危険が伴う。
異常空間の拡大に伴って、多くの民間人ならびに少数の財団職員、GoI構成員、合衆国軍人が侵入している。異常空間は一方通行の拡大特性を有し、生物を含む接触した外部物質を内部空間に取り込んでいると思われる。負傷者が多数存在することと資源的問題から、コミュニティの維持及び継戦能力の確保は困難になりつつある。
悪魔実体の攻撃性に加え、複数の敵性存在が確認されている。GoI-003"カオス・インサージェンシー"の関与が強く疑われる。戦闘人員補充ならびに補給の目処が立たないため、交戦は可能な限り回避し、敵性存在が確認された区画からの速やかな撤退が推奨される。
異常空間調査記録 #392
臨時編成機動部隊F-15("ニューヨーカー") 作成
目的: 異常空間基点の決定、外部との連絡手段の確立、アキヴァ放射源の探索
場所: 世界貿易センタービル北棟(1 WTC)上層階
手段: ヘリコプターを用いた機動部隊による観測
[29:00] ヘリコプターはワシントン・スクエア公園上空を低空飛行している。公園休憩所の芝生が"SOS"の形状に刈り込まれ、数秒おきに"HELP"、"LOVE"、"ASAP"、"AWCY"などの形状に変形している。
[29:13] 異常に肥大した男性器を有する悪魔実体が多数、緩慢に公園の構内を歩行している。実体には視覚が欠如しているように見え、相互に衝突するたびに一歩後退して頭を下げる動作を繰り返している。
[29:25] 少数の飛行する実体がヘリコプターに体当たりする。実体は巨大な鴉のように見えるが、頭部は怒りの表情を浮かべた人間男性に置換されている。口からは絶えず"Colorado Bulldog"のイントロがモノラル音源で流れている。ヘリコプターは回避行動をとり、マクドゥーガル通りへ向かう。
[29:50] 画面は低空飛行するヘリコプターから市街地を映している。通りに面した建物の上部で複数の民間人が手を振っている。白旗が掲げられているほか、一部の建物の屋上にはペンキで十字架、スワスチカ、太極図等の宗教シンボルが描かれている。
[30:12] 交差点で民間人が複数の悪魔実体に襲撃されている。一体の悪魔実体が民間人を庇っている。この実体は節くれ立った手足と短い羽、巨大な頭を持ち、体表は灰色である。実体は街路の舗装を引き剥がして投擲し、他の悪魔実体を退ける。
[30:29] ハウストン通りの角に墜落した航空機の残骸が集積され、バリケードになっている。尾翼の形状はF-15戦闘機に類似している。バリケードは放棄されたものと思われる。複数の悪魔実体から威嚇的な火炎放射が行われ、ヘリコプターは高度を上げる。
[31:00] 濃赤色の低層雲の切れ目から上空が見える。画面に入れ子結晶構造の空間障壁とその向こう側の太陽が薄っすらと映る。ほぼ無風であるにも拘らず、カック灰は渦を巻きながら降灰している。ツインタワー上部は雲に隠れて確認できない。
[31:42] カナル・ストリート駅方面から複数のマズルフラッシュと断続的な砲声が確認され、カント計数機は能動的な現実改変の兆候を示す。ヘリコプターはソーホーに転進する。沿道の建築物からカオス・インサージェンシー戦闘員によるものと推定される奇跡論的攻撃が散発的に行われるが、車載型スクラントン-アンカーによって防がれる。
[32:09] 郡裁判所周辺の街路は荒廃している。歩行するマネキンや彫刻群と悪魔実体の集団が乱闘を繰り広げている。サイト-28の複数のオブジェクトの収容違反が確認される。戦闘中の実体群はヘリコプターに気付いていない。複数の民間人と思しき人影が、戦闘に紛れて物資の回収を行っている。一部の民間人は異常芸術家とみられ、路面や壁面に作出した絵画に指示を出して実体群を牽制している。
[33:41] 手を振りながら飛翔する複数のタイプ・ブルーらしき人影が接近してくる。人影のうち少なくとも3名は箒に乗っている。機動部隊員の威嚇射撃に対して人影はジェスチャーで意思疎通を試みるが失敗する。
[34:05] 半透明の巨大な実体が市庁舎上空に出現し、タイプ・ブルー群を攻撃し始める。タイプ・ブルー群は散開して回避行動を行う。周辺市街地から散発的な援護射撃が行われている。ヘリコプターは高度を上げ、海側に迂回しつつツインタワーにアプローチする。
[37:21] ツインタワーからの対空射撃を掻い潜りながら、ヘリコプターはタワー最上部と同高度に達する。多量のカック灰を含んだ雲によってスクラントン-アンカーに異常な負荷がかかり、機内のヒューム値が低下している。
[37:50] 赤色の雲が晴れ、タワー最上部に巨大な繭状の構造物が確認される。構造物は蛍光色に発光しながら下方に糸状の構造を拡張しており、同時に規則的なアキヴァ放射を行っている。タワー最上部に接近する試みは、カント計数機が異常値を感知したことで中止される。
[38:13] 繭状の構造物は周期的に振動/拍動しており、何らかの神格実体の幼体であると推測される。空間ヒューム値の分布予測は、異常空間の中核が神格実体であることを裏付ける。観測機材が限界を迎えたため、ヘリコプターは高度を下げ、雲塊に突入してタワーから離脱する。
[38:37] 画面は雲塊内部を浮揚する複数の直径4cm大の物体を映し出す。雲塊内部はこの物体でほとんど完全に埋め尽くされているが、ヘリコプターの進行には干渉しない。
[38:50] 機動部隊員がサンプルを回収する。物体は一見してカップケーキのように見える。
[39:12] カップケーキが炸裂する。映像は途絶する。
1 WTC最上部の観測映像。
SCP-2911-JP内部との通信確立に伴い、SCP-2911-JPの中核であると推測される神格実体(UE-1111に指定)の将来的な顕現に伴うXK-クラスシナリオの危険が明確化されたことを受け、世界オカルト連合は正式にマンハッタン島全域に対するピチカート手順の発令を通告しました。世界オカルト連合事務総長D.C.al Fineは午前10時に書簡を発表し、避難民に対する人道的配慮から48時間の猶予が設けられること、9月15日の午前10時までに神格の排除が完了しなかった場合、終結トリアージが執行されることを宣言しました。
O5評議会提言概要
提言: 108評議会決議925号-ピチカート(TC/RES/S-17/925/Pi)に関する第1回投票 — O5-12
評議会投票概要:
是 | 非 | 棄権 |
---|---|---|
O5-01 | ||
O5-02 | ||
O5-03 | ||
O5-04 | ||
O5-05 | ||
O5-06 | ||
O5-07 | ||
O5-08 | ||
O5-09 | ||
O5-10 | ||
O5-11 | ||
O5-12 | ||
O5-13 |
結果 |
---|
非承認 |
我々は諦めるべきではない。衆人環視の中で世界最大の人口密集地を焼き払う行為は、ただちに全世界的な正常性維持への直接的疑念に発展するだろう。その瞬間、財団が槍玉に挙げられないという見立ては楽観的にすぎる。幸いにして事態は未だ制御下にあり、必要な資源が確保できる。為すべきことを為し、破局を阻止することに総力を傾けるべきである。
- O5-12
Record 2001年09月13日 - 000657
収容スペシャリスト アルト・クレフによる記録
メンバー:
- 収容スペシャリスト アルト・クレフ
- 不明
注記: 当該記録は仮設指揮所内に残されていたクレフ博士の私的な携帯端末より回収された。会話相手は世界オカルト連合の高官であると推測されているが、2011年現在、素性の特定には至っていない。
[記録開始]
クレフ: じゃあ、本当にやるんだな?
不明: 最終手段が必要とされる時、行使しない理由を見つけるために難渋している時間はないのですよ。
クレフ: だが、多少は待っていただける、淑女のお情けで? そういう話か?
不明: それほど情緒的ならばどんなにか良かったでしょうね。
[受話器を取る音と推測される金属音]
不明: 私です。ええ、ええ......あと3分よ、チェレスタ。すぐに向かう。もう少しだけ評議会を抑え込んで。
クレフ: [笑い声] ひどい有様だな、おい。
不明: お互い様でしょう。私は良いのよ、ある意味ではこれは予定調和ですからね。ノルニルに言わせるまでもなく、いつか来たる反動。啓蒙への定められた敵意。むしろ想定の中では良い方です。
クレフ: マンハッタンどころか東海岸に永久に人が住めなくなっても?
不明: 私たちは世界の連合なのですよ、エージェント。合衆国のではなく。少なくとも地球も、人類も滅ぶことはありません。貴方達でいうところのSKも、CKも、XKも起こらない。国のひとつやふたつと代えても宜しい。
クレフ: 嫌になるね、清々しいほど楽しいじゃないか。
不明: 異議がおありかしら、エージェント?
クレフ: 俺は何でもいいんだが、上司どもは少しばかりね。
[ショットガンの装填音]
不明: コーンウォールでは私たちの多くが傷を負いました。今回はどうなるのでしょうね。
クレフ: どうにもならんさ。賭けてもいいが、俺たちは上手くやる。
不明: では、私は胴元です。多少の目溢しは期待しても良いですが、それ以上のことは自分でおやりなさい。穴蔵の中にまで届く目は用意できませんから。
クレフ: 白と橙の一握りくらいの情けは期待してもいいだろ?
不明: [吐息] 早く行きなさい、クレフ博士。
[記録終了]
ピチカート手順の発令までにUE-1111を排除するため、作戦臨時顧問のクレフ博士指揮の下、SCP-2911-JP内部への突入作戦が立案されました。作戦実行にあたっては、以下の要件が必要と考えられました。13日の日没までにそれぞれの対策が完了し、悪魔実体群との戦闘を経験した現地部隊を中核に突入部隊の編成が行われました。
既知の問題点 | 対策案 |
---|---|
突入経路 | バックドア・ソーホーの使用。SCP-2911-JPへの崩落に伴い基底現実側に出入り口が存在しないため、スリー・ポートランド内に違法に展開されていた一時的なポータルを拡張して初期人員を送り込む。 |
突入後の橋頭堡 | サイト-28。事前の交信により、機動部隊Π-1("シティ・スリッカーズ")を含むサイト-28駐留の財団人員の多くが生存し、市民と共に潜伏していることが確認されている。 |
カック灰 | 携行型及び車載型スクラントン-アンカーの持ち込み。物理的なカック灰への接触または吸入を継続することはアキヴァ被曝による重度の健康被害を招く恐れがあり、防塵マスクが別途配備された。 |
補給線/撤退経路 | 新規ポータルの開裂。有識者委員会による共同研究の結果、SCP-2911-JP内部と外部から同時に対応する座標への空間工学的操作を加えることで、短時間であれば比較的大型のポータルを作成可能である。 |
SCP-2911-JP-B実体 | 戦術神学部門に対する、北米地域の供給能力の上限付近までの聖水ならびに銀弾の供給要請。資材の一部はプロメテウス社によって提供される。 |
CI工作員/敵対存在 | 先制攻撃、大規模火力の使用。 |
神格実体 | N/A |
突入作戦の準備が行われる一方でSCP-2911-JP指定領域の拡大が加速し、セントラルパークを失陥した防衛部隊はコロンビア大学を拠点に抵抗を開始しました。境界線イニシアチブはハーレム区の教会を要塞化し、避難民の受け入れが行われました。日没までにマンハッタン島の75%が侵食を受け、ハドソン川の対岸にも被害は拡大しました。
補遺.2911-JP.5 > 突入作戦 - 9月14日
進入路の一例。
突入作戦は9月14日の午前0時から開始されました。作戦は以下の3段階から構成されていました。
- フェイズ1: 先遣隊によるバックドア・ソーホー経由での進入と橋頭堡の確立。
- フェイズ2: 補給線の確保、ならびに増援部隊の導入。
- フェイズ3: UE-1111の撃破または放逐、カオス・インサージェンシー主力部隊の排除。
事態対処の中核となる対神格攻撃部隊は財団機動部隊と世界オカルト連合排撃班の重装部隊で編成され、カオス・インサージェンシー主力部隊との交戦を意図してブルー・タブレットが支給されました。民間人の収容を担当する部隊は財団に、SCP-2911-JP-B実体の掃討を担当する部隊は世界オカルト連合と境界線イニシアチブに割り振られ、物資運搬は合衆国軍とニューヨーク市警察の選抜部隊が担当しました。プロメテウス社の資産が補給物資として広く提供され、マンハッタン島内の社有資産の所有権は放棄されました。
研究収容サイト-310の有識者チームによってSCP-2911-JPの多元空間軸ベクターが解析され、仮設ポータルが設定されました。バックドア・ソーホーへの先遣隊の進入は、間もなく多数のSCP-2911-JP-B実体による抵抗に遭いました。先遣隊は夜明けを待って反撃し、午前11時頃にサイト-28跡に橋頭堡が確立されました。続くフェイズ2はカオス・インサージェンシーによる攻撃と、複数の巨大実体(UE-1109、1110に指定)の侵攻に妨害されました。
一方、14日の間にSCP-2911-JP指定領域はマンハッタン島全土に拡大し、国連本部を除く全ての拠点が放棄されました。世界オカルト連合麾下の戦艦群による市街地への砲撃が行われ、一部の緩衝地域は戦略的に破壊されました。海棲悪魔の個体数増加によって水上防衛網が崩壊したため、ニューヨーク湾の全ての水路は封鎖され、ロングアイランド湾には機雷が敷設されました。
以下は戦闘終結後に回収された記録の一部です。戦闘は終日継続し、突入部隊における財団人員の損耗は18%に留まりました。
Record 2001年09月14日 - 130209
機動部隊M-13("ゴーストバスターズ")による記録
メンバー:
- 異常組織学主任博士 ジャスティン・エバーウッド
- 対応部隊連絡員 シルヴァー・クルーガー
- 機動部隊管理官 ティルダ・ムース
- 機動部隊M-13("ゴーストバスターズ")・Γ-10("バルムンク")部隊員
【2001年09月14日 01:17より再生開始】
[M-13・Γ-10両部隊はバックドア・ソーホーからマンハッタン島内への進入を完了し、サイト-28を目指している。スプリング通りには破壊された複数のバリケードの残骸が散乱している。濃赤色に発光する雲が上空を覆い、夜間でありながら視界は確保されている。路面には大量のカック灰が降り積もっている。通りに人影は見えない]
ムース: ちくしょう、これがマンハッタンですって? 聞いていた話の倍は酷いわね。ものすごい硫黄の臭いに趣味の悪い色の空、おまけに一面灰だらけとは。
クルーガー: ええ、ですが想定よりはマシですかね。私はてっきりベガス並だと。
エバーウッド: 残念ながら、ここの主人と家臣連中は契約悪魔の数十倍は悪辣です。専門家に聞く限り、悪魔は魂と引き換えに契約内容だけは遵守するようですが、インサージェンシーは違いますから。
M13-アルファ: お三方、歓談はその辺りで止めにしましょう。ポータルが不安定なせいか、予定地点よりかなり北に流されています。本隊と合流するにはここから500mは歩かねばなりませんし、そこら中が化物だらけです。
Γ10-アルファ: 総員、ガスマスクを再チェック。当初想定より降灰量が多い、吸い込めば体内EVEに無視できない悪影響がある。万が一にも負傷以外での脱落は許されんぞ。
[全員がガスマスクを確認する。部隊は前進し、南西のソーホー方面へ進む]
ムース: バックドア・ソーホーのポータルはあくまで人間大の物体しか運べない。工兵部隊がサイト-28の機能を復旧して大型ポータルを開くまで、我々はソーホー地区を防御し、陣地を構築しなければなりません。
クルーガー: 陣地といったって、この街はコンクリートの塊ですよ。
Γ10-デルタ: いざとなったら我々爆破解体業者の出番です、ご心配なく。
ムース: 願わくば、そのようなことが起こらないようにと......これは、警笛音?
M13-ベータ: 地下鉄駅方面から何か来る、放水用意!
[ブロードウェイ-ラファイエット・ストリート駅の出口から、半透明の霊的実体が赤い閃光を伴って高速で出現する。霊的実体の形状はニューヨーク地下鉄のR4型車輌に酷似しているが、2両編成であり、行先表示は"HELL"である。霊的実体は本来より数オクターブ高い警笛音を響かせながら停車する]
霊的実体: ヘルズ・キッチン駅、ヘルズ・キッチン駅、臨時停車。
[400体超の悪魔実体が密集した状態で出現する。霊的実体のドアは開かない。霊的実体は小刻みに振動した後、大量の黒煙を放出しながら地中に埋没していく]
霊的実体: ご乗車、ありがとうございました。
M13-デルタ: 不明車輌、反応消失! 悪魔実体群がこちらをターゲットしました!
M13-ファイ: 見たものに理解が追いつかない、何なんだアレは。
ムース: 先制攻撃を許可します! 考えるより先に撃ちなさい!
[両部隊は攻撃を開始する。悪魔実体群は統率が取れていないように見え、しばしば同士討ちを行う。10分弱の戦闘で悪魔実体群は撃破または逃走する。両部隊に負傷者はない]
クルーガー: ちくしょう、ヘルズ・キッチンは3kmも北なんだぞ。連中は地図も読めないのか?
エバーウッド: あれらが地図の読める敵なら今頃我々は全滅していたかもしれませんよ。それに、頭を使える連中とはこれから嫌というほど撃ち合うことになります。
M13-アルファ: 予想外に聖水を消耗した上、霧が濃くなってきています。異常次元外部での戦闘記録によれば、霧や雲が出てくると悪魔実体が活性化するようです。急がねばなりません。
[部隊はブロードウェイとウェスト・ヒューストン・ストリートの交差点に進入する。上空を鳥型の悪魔実体が複数旋回している。街路や建築物は焼け焦げており、チョークで複数の書き込みがある。部隊は周辺を調査し、バリケードを構築する]
Γ10-カッパ: 私、生まれて初めてブロードウェイを歩いてるんですよ。まさかライフルを構えて、悪魔を追いかけながらだなんて思ってもみなかった──ああ、ここに生存者の書き残しがあります。セントラルパーク駅に行くと。
エバーウッド: それはご愁傷様としか──しかし、避難先として公園はあまり良い選択ではありませんね。市街地ではああして空を舞っているしか能がない連中も、開けた場所では暴れ放題です。
Γ10-デルタ: セントラルパークが陥落したのは16時間ほど前、とすれば今はもう悪魔の巣も同然だ。助けに行ってやりたいが、我々の仕事はここを守ることだ。
クルーガー: 可能な限り素早く護衛の仕事をこなしたなら、それだけ救援部隊の進入も早まります。出来ることからやりましょうや。
ムース: 最低限、ソーホー全域を制圧下に置く必要があります。地下鉄構内の探索は後回しにして、大通りの安全を確保しましょう。既存のバリケードを再構築して、後から来るイニシアチブの聖職者に守らせれば多少は保つはずです。
Γ10-カッパ: 恐ろしい話ですね、我々がまさか神頼みとは。
ムース: 確実な効果が得られると分かっているならば、祈りは立派な手段です。我々は神とて収容するのですから、今回もやり遂げられます。さあ、始めますよ。そろそろ敵も痺れを切らした頃合いでしょう。
M13-ベータ: その通りのようです──北から来ます! 不明な実体、少数、ですが大きい!
[ブロードウェイの北側から、体高10m程度の石像・銅像が複数接近する。それぞれの像は実在の人物を模しているように思われるが、台座からは5-15本の節足動物様の脚部を生やし、頭部は一様にリンカーンのものに置換されている。実体群は小刻みに横移動を繰り返しつつ、像部分の指先で卑猥なジェスチャーを行っている]
Γ10-アルファ: おい、あれに聖水が利くと思うか。
Γ10-デルタ: 爆薬のほうがマシだと思います。それかミサイルだ。
クルーガー: リンカーン・ハイウェイのターミナルは2km北だぞ、どいつもこいつも!
ムース: 忙しい一日になりそうですね、まったく。
[部隊は装備を交換し、対物理兵装で攻撃を開始する]
【中断】
Record 2001年09月14日 - 119076
機動部隊Γ-119("制空権")による記録
メンバー:
- 機動部隊管理官 ティルダ・ムース
- 機動部隊M-13("ゴーストバスターズ")、Γ-119("制空権")部隊員
異常次元内部の不明な飛行実体群。
【2001年09月14日 06:41より再生開始】
[Γ-119はチャールトン・プラザに対空陣地を構築している。M-13は3ブロック西で戦闘中である]
Γ119-アルファ: サイト-28との通信確立を確認。喜べお前達、素晴らしき夜明けまであと一歩だぞ。
Γ119-デルタ: ようやくですか? 仲間が戦ってる間、銃声を聞きながら延々とベークライトを固めてるんじゃ頭がおかしくなりそうでしたが、少しは役に立てそうだ。
Γ119-アルファ: 土木工事とエクソシストの物真似のどちらがマシな仕事だろうな。あー、CP? こちらΓ-119。この通信はそちらで記録されているか?
ムース: こちらCP、管理官のムースです。よく聞こえています──ところで、火器を用意したほうがいいでしょう。北西からハドソンスクエア方面に降下しつつある多数の飛行実体を確認しました。M-13は完全に退路を塞がれていますし、貴方の隊も鼻面にパンチを食らうことになる。
Γ119-アルファ: つまりは、こっちから先に撃てってわけですか。
ムース: 少なくとも私はそれを望みます。郡裁判所方面が一向に片付かない上、アフリカ人墓地はどこからか蘇った300年物の死体で溢れています。信じ難いことに、あれだけの戦力を投入してなお我々はソーホーから南に2ブロックしか進めていないのです。この上西側で敗北すれば、もはや島ごと吹き飛ぶしかなくなります。
Γ119-アルファ: 全力を尽くします、マム。ベータ、デルタ隊は設営継続! 他は続け、邀撃任務だ!
[Γ-119は工兵2個小隊を残して西進する。ハドソン・ストリートに接近したところで、M-13の負傷した部隊員4名が路地裏から回収される。負傷者らはいずれも重篤な外傷を負っており、一見して非霊的な攻撃を受けたと推測される]
M13-ファイ: うう......ちくしょう、痛え。
Γ119-エータ: こんなことしか言えず申し訳ないが、気絶する前に敵の詳細を教えてほしい。何が起きている? 悪魔の与える傷はこんな風に削れはしないだろう。
M13-ファイ: ああクソ......これはアンタら向きだ。俺たちには歯が立たない。空は専門外だし、奴らは罠を張ってた。有り得ないことじゃないって分かってたんだ。それでも、賢い......悪魔なんかよりずっと。あの鳥たちにかかっちゃ、俺たちは虫みたいだ。
Γ119-アルファ: 鳥だと?
M13-ファイ: そうだ、奴らは集団だ。完全に統率されて......海を守ってるんだ。まるで地獄の三丁目だ。
[負傷者を後送し、Γ-119はハドソン・ストリートのバリケードに差し掛かる。街路は白化した羽と糞尿に汚染されている。複数の機動部隊員を含む10体以上の人間の遺体が発見される。遺体のうち少なくとも2体は早贄の形式で沿道の街灯に突き刺さっている。路上に凝固した血液によって判読困難な英語とオランダ語で"解放"と書かれている]
Γ119-イプシロン: カモメの羽。............まさか、事案659-A?
Γ119-アルファ: クソ最高だな、実に俺たち向きだ。連中が2000羽もいてみろ、突入部隊は半日と保たない。CP、管理官? 信じられないことに、この世界最高の島で特大の収容違反が起きてる。
ムース: 中々の状況ですね、アルファ。しかしやるべきことはシンプルです。M-13を救出し、策源地を洗い出し、地図にマーカーをつけなさい。それ以外の手出しは無用です。少なくとも今の所、ソーホーさえ守り切ればよろしい。
Γ119-エータ: 装甲服の防護機能じゃあ連中の嘴は防げませんが、火炎放射器の燃料があるうちは粘れます。M-13のメトカーフがなきゃ俺たちは早々に墓場送りです。
Γ119-アルファ: 正気の沙汰じゃあないな、前進! ナフサが尽きるまでの10分間で片付ける!
[Γ-119はカナル・ストリートまで進出し、分断されていたM-13の部隊員を回収する。南方のロックフェラーパークから多数の飛行実体が飛び立つ様子が確認される。10分経過の時点でM-13の損耗は2割に達していることが判明し、両部隊は撤退を開始する]
Γ119-シータ: 敵実体群、目視確認! 追いつかれます!
Γ119-アルファ: 対空棲実体戦闘用意! 首元を晒すな、死ぬぞ!
[数分間の戦闘において両部隊は多数の敵実体を焼殺するが、隊員5名を喪失する。敵実体群はSCP-659の亜種実体を中心にした異常な鳥型実体の混成群集である。群集は数種類の言語で"解放"と繰り返している。主な侵襲手段は小集団での空中突撃と、嘴または羽による急所への物理攻撃である]
M13-デルタ: [罵声] クソ、ランカスターが殺られた! 頸動脈を食い千切られてる!
M13-ベータ: 連中、鳥じゃねえものがだいぶ混ざってやがるぞ。人面鳥に白骨、粘土細工、俺の見間違いじゃなければ羽の生えたフライパンもいやがった。どういう了見だ?
Γ119-タウ: あいつらは集団でいると知能が人間並になるのさ、悪魔どもと交渉でもしたんだろう。何を対価にするのかは知らんがな。
M13-アルファ: 待て、奴らはそこまで知能が高いのか? 悪魔と取引ができるほどの知能と精神性があるなら、彼らは明らかに──
[フリーマン・プラザの上空で、実体群は規則正しい飛行行動に移る。同族殺害が行われ、およそ12体のカモメは空中で儀式的に消費されているように見える。実体群の飛行軌跡は発光し、幾何学的図形を形作る。少なくとも3種類の変形した五芒星が確認できる]
M13-アルファ: 言わんこっちゃない、奇跡論だ。全部は読めないが、おそらくは熱と衝撃に関わる術式だ。
Γ119-シータ: 鳥に爆撃される経験をするとは思いませんでした。総員対ショック姿勢! 遮蔽物に隠れろ!
[両部隊は路地裏に退避し、対ショック姿勢で待機する。複数の爆発によりシェラトンホテルは完全に倒壊し、2名の隊員が巻き込まれる]
M13-デルタ: 掩体喪失! 対象は接近しています!
Γ119-アルファ: ちくしょう、このままじゃサイト-28まで延々と更地にされてしまう。CP、増援がなければ救援計画はご破算だ。手の空いてる奴がいると言ってくれ。
ムース: 残念ながらどの機動部隊も手一杯です──しかし、思わぬ助力がありましたよ。そちらに向かっています。
Γ119-アルファ: 何を──この音は一体?
[上空を低速で上昇する超重交戦殻2機がカメラの前を横切る。小型砲による掃射が飛行実体群を壊乱させ、バックラッシュによって複数の実体は空中で崩壊する。2機は実体群に数度の機銃掃射を行った後、反転して北側に移動する]
ムース: 運び込むのにおそろしく苦労しましたが、その甲斐はあったようですね。ところで申し訳ありませんが、こちらには救助に割ける人手が皆無なのです。自力で戻れそうですか、アルファ?
M13-アルファ: そんなことだと思ったぜ。遺体を収容し次第帰投する。急いで聖別してやらないと、この現実性の低さではそのうち起き上がりかねん。
Γ119-アルファ: ソドムよりひどい有様だ、この街は。
【中断】
Record 2001年09月14日 - 284305
サイト-28前線指揮所による記録
メンバー:
- 対応部隊連絡員 シルヴァー・クルーガー
- 航空排撃班管制官 アグリアス・オーディアン
- 排撃班6350 "Hound Dog"部隊員
- 排撃班9999 "Max Damage"部隊員
注記: 当該記録はサイト-28内部に設置された世界オカルト連合前線指揮所より回収された音声記録である。世界オカルト連合との機密保持条項に基づき、映像記録は提供されなかった。
【2001年09月14日 11:53より再生開始】
[作戦立案当時に世界オカルト連合から提供された資料によれば、排撃班9999"Max Damage"は超重交戦殻16機を装備した装甲排撃班であり、フェイズ2における主要戦力として正面戦闘を担当していた]
ST9999-Able: エイブルよりステーション・コマンド。排撃班フォーナイン、エイブルからハウはバウリー上空に到達、どうぞ。
オーディアン: ステーション・コマンド了解、直ちに掃討を開始せよ。ただしサイト-28から3km以上離れるな。現状の通信環境では管制困難となる。
ST9999-Able: エイブル了解。イージーの第2小隊は地上、こっちは頭からだ。"マックス・ダメージ"、射撃開始。インサージェンシーの悪魔どもを駆逐せよ。
ST9999-Easy: イージー了解、第2小隊は地上降下完了。射撃開始。
[断続的な掃射が約30秒間継続する]
ST9999-How: 蟻みてえに湧いてくる、悪魔ってこんな奴らなのか?
ST9999-Charlie: セントラルパークはこんなもんじゃないって話だ、ブラックかそれに近い何かがうろついてるんだろうが。一度大きなハレーションがあって、財団の計測器は振り切れたらしい。
ST9999-How: こっちも似たようなもんだろ、VERITASが使い物にならねえ。見てみろよあの空、カック灰さまのお陰で真っ白にぼやけちまった。グランド・ストリート、制圧率50%。
オーディアン: 補給線確保のため、路面の破壊は可能な限り避けろ。ただし街路を塞がない限り、建築物は無制限に破壊して構わん。退避中の民間人は気にするな、我々はツインタワーへの道を開くのみだ。
ST9999-Baker: 酷い話だ。ステーション・コマンド、この会話も記録されるんじゃなかったのか? 公文書保存がどうこうで。後で査問会に連れ出されるのは御免だ。
オーディアン: 終結トリアージの執行まであと24時間もない。世界の正常性のために注力するべきはタイプブラックの排除であって、市民の保護は合衆国政府の責任だ。我々には我々の使命があることを忘れるな。カオス・インサージェンシーに対する世界オカルト連合の優位を示せ。第2小隊、状況報告。
ST9999-Easy: イースト・ヒューストン・ストリート、掃討完了。砲弾残余75%、VERITAS不調により目視照準での射撃になった。複数の脅威存在の逃走を確認、追撃の許可を乞う。
ST9999-Able: 許可しない、多少の取りこぼしは財団に任せておけ。このままディランシー・ストリートを掃討、FDRドライブを抑えてウィリアムズバーグ橋を爆破する。
ST9999-David: 歴史ある大橋も悪魔の進撃路になったんじゃあな、吹き飛ばすより他にない。今じゃあの橋伝いにブルックリンも悪魔で溢れ返ってるんだ。
ST9999-How: さらばイースト川ってな? こちらハウ、ディランシー・ストリートに進入。敵影少数、ありゃあ何だ? ゴーレムの親戚に見える。頭にカバーがあるぜ。VERITASが死んでるせいでコアの位置が分からん。
ST9999-Able: 全て破壊しろ、一体も残すな。敵が少ないのは突破作戦中のコリアタウンに集中しているからだ、いずれ足の早い連中が戻ってくるぞ。
ST9999-How: お安い御用。このままツインタワーまで一直線でも良いんじゃないか? 財団の連中は気張ってるけどよ、このスーツがありゃあ頂上までひとっ飛びだぜ。
オーディアン: VERITASがなければ我々にグリーンの生成物と環境構造は判別できない。航路の安全確保が最優先だ。命令に従え、ハウ。
ST9999-How: わかってるって。ディランシー・ストリート掃討完了、敵影は──
[一斉に警報音が響く]
ST9999-Baker: 警報発令! 高レベルアスペクト放射、1000m以内、トパーズ-フラット! 背景放射強度は──馬鹿な、1.5メガキャスパーだと?
ST9999-Charlie: おい、アタシの耳がおかしいんじゃなけりゃ、すぐ近くに小隊を丸ごとお月様までカッ飛ばせそうなブルーかグリーンがいることになる。今すぐ叩き潰すべきじゃないか、コマンド?
オーディアン: 確認した。たった今、西に800m地点の孔子広場で6350排撃班がUE-1109に指定された不明なエネルギー実体と交戦中。補給物資と民間人の回収作業中だった、財団の随行員から救援要請が出ている。急行せよ。
ST9999-How: おいおい、もうこれだよ。
ST9999-Able: 第2小隊はフライトユニットの暖気がまだで上がれない、フォックスとジョージは橋へ。イージーとハウは陸路で孔子広場に進行し足止めしろ! 第1小隊は北側から迂回して奴に仕掛ける。海側に押し出せ、決してソーホー方面に近寄らせるな。
ST9999-Baker: ウィルコ。側面援護しつつ敵実体をトゥーブリッジズへ誘導します。コマンド、財団とチャンネルを繋げてください──こちらストライク・フォーナイン。ファウンディー?
クルーガー: こちら財団連絡員、クルーガーだ! チャイナタウンのド真ん中で立ち往生してる、医療物資とポータルの予備触媒を満載した装甲車と、ついでに4ダースの避難民もだ! ホワイトスーツ4人じゃ保たない、急いでくれ!
ST9999-David: [舌打ち] 補給路が繋がった途端にこれだ、馬鹿どもめ。救うべきかどうかの判断もできねえのか。
ST9999-Easy: 目標確認。体高80-100m、高エネルギー実体。外形特徴は凡そ人型二足歩行、肥大した肩部と2対4本の腕部。背景放射は14200キロキャスパーで安定。
オーディアン: ステーション・コマンドより各機、敵実体の背景放射強度は周期的に変化している。ブラックチャイルドの可能性が排除できない。慎重に行動し、深追いは避けろ。
ST9999-Able: 了解。各機、決してエネルギー体に接触するな。離脱援護射撃、弾種ACFSDS、行進間、15秒!
[断続的な射撃が15秒間継続する]
ST9999-David: いいぞ、効いてる。このまま押し切れそうだ。
ST6350-W1: こちら"ハウンドドッグ"、支援に感謝する。総員退避!
クルーガー: 郡裁判所方面からゾンビ共が押し寄せてきてる、気を付けてくれ。連中には聖水が効かない!
ST9999-Charlie: 馬鹿みたいな過密具合だ、2ブロック進んだだけで別の脅威存在にぶつかりやがる。弾丸が何万発あったって足りねえぞ。もっと高度取れベイカー、ビルに背中から突っ込む気か?!
ST9999-Baker: 奴に軌道を誘導されている、まともに接近したらもぎ取られる──クソ、腕のリーチが予想より長いな。軌道を塞がれた、離脱します!
ST9999-David: あの野郎素早い、行動の予備動作が小さすぎる! しかも削った端から腕が再生しているぞ。
ST9999-How: ああ畜生、小せえ連中が纏わり付いてきてる、なんで航空型にはファイアストームがねえんだ。隊長、チャタム・ストリートの入り口はチビどもで溢れ返ってます、こっちには進めない! これじゃ退路が──
[一斉に警報音が響く]
ST-9999-Able: ッ、全機バックブースト、全速離脱。高レベルアスペクト放射だ! ハウ、離脱しろ!
ST9999-How: 了解──機体が重い、何だこりゃ馬鹿デカい腕が肩から生えて、掴んで──クソ、間に合わな [通信途絶]
[爆発音が複数回聞こえる]
ST9999-Easy: [罵声]
ST9999-Baker: この野郎、デカい図体のくせに隠し腕だと?!
ST9999-David: 馬鹿野郎ベイカー、高度を上げすぎるな! 雲が──
[警報音がベイカー機から響く]
ST9999-Baker: な──ダブルフラット変異、これは── [通信途絶]
[爆発音が約70秒間に渡って連鎖的に継続する]
ST9999-Charlie: ベイカーが堕ちた! 雲が弾薬庫みてえにブッ飛んでるぞ、何だありゃあ!
オーディアン: 2号機"ビューレン"大破、8号機"ハーディング"損失。敵性既知脅威、暫定発番UE-1109-A、神格分体と想定される高エネルギー実体の想定危険度を修正。全機後退し一斉射、速やかに離脱せよ。現状におけるこれ以上の超重交戦殻の損失は許容できない。
ST9999-David: ベイカーを回収します。ちくしょう、高度を上げて低層雲に触れた瞬間に爆発しやがった。
ST9999-Able: おそらくあの雲全体が敵のフィールドだ。現実改変で支配しているんだろう。一度引くぞ、我々はインサージェンシーのやり口に対して無知すぎた。
ST9999-Easy: ............次はこうはいかない。
[統制射撃の後、部隊は離脱する。ブースター音に混じって橋の爆破される音が聞こえる]
【中断】
Record 2001年09月14日 - 040516
機動部隊P-4("聖歌隊")による記録
メンバー:
- 対応部隊連絡員 シルヴァー・クルーガー
- "啓示されし者たちの軍"第4戦闘隊長 ウサマ・アル=カフタニ
- "啓示されし者たちの軍"戦闘員
- 機動部隊P-4("聖歌隊")部隊員
異常次元から脱出する避難民を載せた車輌。
【2001年09月14日 23:37より再生開始】
[P-4はカッサホテル周辺に展開し、避難民を載せた輸送車両の護衛を行っている。カック灰の降灰量が増加しているため、見通しは悪い。上空を覆う雲は赤く発光している。断続的な銃声と、不明な実体の咆哮が聞こえている]
P4-デルタ: 第21号避難便は出発します! あと2人なら乗れる、急いで!
P4-シータ: 島の外で避難民を降ろし次第バスは戻ってきます、まだ時間はあります! 必ず助かる、列を乱さないで! 歩ける人間は徒歩でトンネルへ!
P4-アルファ: 地獄の三丁目で良いことがあるとしたらこれだけだ。まさか数万人も生き残ってるなんて。
クルーガー: まだ増える可能性があるぞ、セントラルパーク方面で猛烈なEVE反応があるらしい。カック灰でイカれた計測機器でも観測できたそうだ。アッパー・イースト・サイドでは毎日信号弾が上がっている。俺たちの知らない誰かが、この空の下でまだ戦ってるのさ。
P4-アルファ: 頼もしい話だな、そして同時に歯痒くもある。たった500m先にすら悪魔どもの壁に阻まれて辿り着けない。レキシントン方面なら3kmも離れてる、見殺しにするしかないとはね。
クルーガー: そう言うなよ、俺たちは出来ることをやって──
[連続した破壊音と共に、タイムズスクエア方面の建築物が破壊される。体長20mほどの両生類と鳥類の特徴を備えた実体が3体出現し、車列に向けて突撃する]
P4-アルファ: 阻止攻撃! 足を狙え、これ以上殺させるな!
P4-シグマ: 手榴弾投入! 3、2、1、今!
[射撃と手榴弾によって脚部を破壊され、実体群は転倒する。青灰色の血液が流れ出す]
P4-アルファ: 今のうちだ、全車輌発車! いいから行け、走れる者はリンカーン・トンネルへ! ここの停車場はもう使えない、行け! シグマ、止めを刺したか? 負傷者は?
P4-デルタ: 足に掠った、移動が厳しい。それからケーが腕をやられてる。
P4-オミクロン: 雌なら卵を持ってるから腹を確認しろ。残らず潰すんだ。おいイプシロン、顔を覆ってから近付け! 血は酸性だ、揮発物を吸い込むと気道を焼かれる。
クルーガー: "ゴジラ"じゃねえんだぞ、インサージェンシーめ。スタジアムに生物兵器の巣なんか設置しやがって、お陰でマディソンスクエアには近寄れもしない。
P4-シグマ: こいつらに何人食われたか考えたくもないですね。どうします、ここから出ますか?
P4-アルファ: 無線が不通だ、負傷者もいる。一度トンネルへ退くぞ。補給を受けて態勢を立て直す。
[P-4は悪魔実体を撃破しながらリンカーン・トンネルへ進む。トンネル周辺に臨時の物資集積所が設置され、プロメテウス社の社員が仕分けを行っている。周囲には多数の避難車輌が列を作っている。警笛が鳴り響き、複数の銃声が聞こえる]
P4-デルタ: ああ、何かマズい。様子がおかしいです。
P4-シグマ: おい、ここで何があったんだ!
プロメテウス社員: わからない、さっきから急に人の流れが止まった。通信があちこちで寸断されていて、トンネル内の様子も不明なんだ。さっきまで電話回線が繋がっていたのに、今は雑音しか聞こえない。見に行った警備の傭兵部隊も戻らなくて──
[突如トンネル入り口から霧が吹き出し、周辺の照明が消灯する。多数の悪魔実体がトンネル内から出現する。実体の多くはピッケルや斧に類似した簡素な武器を持ち、鉱山労働者のような衣服を着用している]
P4-ベータ: 馬鹿な、トンネルの向こうは連合の勢力下だぞ!
P4-デルタ: 射線が通らない、この位置だと市民を巻き込みます。撃ちますか!?
P4-アルファ: クルーガー、近くの部隊から増援を呼べ。狙撃の腕に自信があるやつは車輌の屋根に上がれ、他は接近戦だ! ナイフがきちんと聖別されてれば刃は通る。呪われても構わないやつだけ付いてこい!
[P-4は周辺警備部隊と共に悪魔実体群に接近戦を挑む。約7分間、部隊は実体群を食い止める。トンネル内から出現する実体の数が増加し、撃破数が追いつかず部隊は押し戻されていく]
P4-エータ: クソ、血が止まらない。タウが意識不明! カバーの人員が足りない!
P4-オミクロン: マガジン残数1、こりゃあ駄目だな。エータ、バスの上に上がれ! 悪魔どもは木登りが下手だ、しばらくは時間稼ぎになる。
P4-シグマ: デルタ、ケー損失、クシー負傷。後ろに避難民がいます、撤退は無理筋だ。
P4-アルファ: 残弾は撃ち切っていい、自決用に残すくらいなら1匹減らすんだ。どうにもならないときは手榴弾が代わりになる、咥えてクズどもの真ん中に飛び込め。
P4-ベータ: 神なんていやしないってのがはっきり分かる展開だな──この音は何だ?
P4-イオタ: 失血で幻聴が聞こえてるんじゃなきゃ......隊長、これはアザーンだ。
[カメラは転回し、バスの上から10番街方面を映す。複数の車輌がバリケードを異常な速度で突破し、集積所に向かっている。車輌の多くは乗用車や小型のピックアップトラックである。先頭の装甲車から白い民族衣装を着た壮年男性が身を乗り出し、左手に銃を掲げている]
アル=カフタニ: かかれ、戦士たちよ!
[車輌は物理学的に異常な挙動で避難民の車列を回避し、悪魔実体群に突入する。小銃とサーベルで武装した兵士たちが戦闘を開始する。装甲車からは絶え間なくコーランの詠唱が響いている。各車輌の車体側面にはアラビア語で"アッラーの他に神はなし"と書かれている]
戦闘員: 悪魔よ去れ! 剣と槌のもとに頭を垂れ、罪を詫びよ!
戦闘員: 不浄の者共、啓典の民より裁きをくれてやる。
クルーガー: ちくしょう、本当にやりやがった。おい、無事か?
P4-アルファ: 部隊は半壊したが、どうにか終わらずに済んだ。ありがとう──ああ、どなたか知らないが高位の聖職にある御方とお見受けする。部下を治療してくれないか。
アル=カフタニ: お安い御用だ。貴様はアメリカ人ではないな? イラン人でもない? では良い。たとい異教徒だとしても、勇猛であればこの戦いにおいて肩を並べるに値する。
クルーガー: おいおい、頼むから内輪揉めは止してくださいよ。協定通り、歴史と信仰の問題はことここに限っては棚上げされる、そうですよね?
アル=カフタニ: 無論、聖戦のさなかにあって教義解釈を相争うべきではない。我らは銃を執り戦わねばならん。いずれ袂を分かつにしても、悪魔とカオスの脅威を討つまでは異教徒とも寝所を共にするに吝かではない。
クルーガー: そいつは良かった──それで、お望み通り増援を連れてきた。アラブの素晴らしき闘士たち。北の持ち場を離れてなぜこんな場所にいるのかは知らないが、とにかく援軍だ。
アル=カフタニ: "啓示されし者たちの軍"第4徒、同胞たるムスリムの息子たち。聖戦に参じ悪魔を殺し尽くすべく、境界線イニシアチブより馳せ参じた。啓典の民なれば脅威を払う価値がある。薄汚いジンどもはトンネルの中か?
P4-アルファ: そうだ、トンネルの反対側はGOCが守りを固めているはずなのに、何故か悪魔が湧き出ている。どうなってるんだか。
P4-イオタ: 痛え......ああ、そうだ。思い出した、リンカーン・トンネルには伝説があるんです、隊長。70年近く前の掘削当時、行方不明者が続出して、それで──地獄への道がトンネルの奥にあるって。
P4-アルファ: ああクソ、それでか。連合の給料泥棒共、調査を端折りやがった。
アル=カフタニ: ふん、やはり国連の狗には任せておけんな。砂漠の民のやり方で対処する。
P4-シグマ: あー、横からすみませんが、丸ごと爆破なんて言わんでくださいよ。トンネルはこのあたりの補給線なんだ、避難民の移送も武器弾薬の補充も全部ここからやってた。今この瞬間にも俺たちのケツを守ってる連中の残弾がどんどん痩せ細ってるんだ。
アル=カフタニ: 銃と爆薬で解決できぬからこそ聖戦が宣されたのだ。我々が直接向かい、悪魔を封じ、通路を閉じる。勇敢なる戦士たちよ、私は確かにアメリカを憎んでいるが、無用の破壊は慎む。怒りは制御され、必要なときに行使されねばならん、分かるな。
P4-アルファ: ああ、理解できる。助力に感謝する、あー......ミスタ、名前を伺っても?
戦闘員: アミール、準備が整いました。ジン共は逃げ散り、道が開かれています。
[装甲車が接近する。30名ほどの戦闘員が整列し、銃を構えている]
戦闘員: ご乗車ください、アミール。皆が指示を待っています。皆、貴方の声のみに従い、貴方の号のみによって殺します。ご教導を。
アル=カフタニ: うむ、今行く。礎の信奉者よ、私はウサマ・アル=カフタニ。これは3年前、イニシアチブへの参画にあたって取り戻した名だ......故郷、そして戦場においては、ビン・ラディンと名乗っていた。
[車列は高速で発車し、リンカーン・トンネルに突入する。コーランの詠唱と共に霧が晴れていく]
【中断】
補遺.2911-JP.6 > 戦闘展開 - 9月15日
度重なる作戦の遅延により、フェイズ3への移行は15日未明となりました。機動部隊N-7("下される鉄槌")を中核とした対神格攻撃部隊は午前4時15分までに1 WTC基部に到達しました。カオス・インサージェンシーによる頑強な抵抗とSCP-2911-JP内部の新たな異常次元の発生に伴う補給線の寸断によって部隊は打撃を受け、同時にサイト-28による管制を喪失しました。
以下は戦闘終結後に1 WTCから回収された記録の一部です。1 WTC内部における戦闘記録の大部分は損失しており、状況を包括的に把握する試みは失敗しています。事案委員会に提出された報告書は不完全な状況記録から作成されました。
Record 2001年09月15日 - 071497
機動部隊N-7("下される鉄槌")による記録
メンバー:
- 異常組織学主任博士 ジャスティン・エバーウッド
- 対応部隊連絡員 シルヴァー・クルーガー
- 排撃班6350 "Hound Dog"部隊員
- 排撃班9100 "Metal Buck"部隊員
- 機動部隊N-7("下される鉄槌")部隊員
【2001年09月15日 04:07より再生開始】
[戦闘開始から2時間弱が経過している。機動部隊N-7第2中隊は1 WTCまで800mの位置に接近している。前方400m地点の路上にバリケードが構築され、カオス・インサージェンシー構成員が籠城している]
N7-ファイ: ポイントデルタ、27-S-455-V6。"メタルバック"に支援要請。敵火力増大中、我前進不能。なんだありゃあ、連中は何を持ち込んでるんだ? 軽機関銃の火力じゃないぞ。
ST9100-H: ハンマーヘッド了解、前進して盾となる。援護を。
N7-デルタ: 了解、デルタ小隊前進。ハンマーヘッドを支援する。
[超重交戦殻"サマーオレンジ"が前進する。当該機は前面に装甲ユニットを増設した地上制圧装備である。前方からの集中射撃が行われるが、当該機の損傷は軽微である。後方からN-7の小隊が追随する]
N7-デルタ: 物凄い密度の火線だ、出ていけない。火力支援はどうなってる? これじゃあ一歩も進めないぞ。
クルーガー: 迫撃砲を積んでた先発隊はトリニティ教会で停止中。インサージェンシーの兵士による継続的な襲撃を受けている。連中は痛みを感じないらしい、腹の中には爆弾を埋められてる。そこら中が血塗れでひどい状況だ。
N7-デルタ: どこから出てきたかなんて聞くだけ野暮だな、クソどもめ。ゲリラ戦が得意で仕方ないらしい。
ST9100-H: こちらハンマーヘッド、目標まで180m。あれは何だ? VERITASには何も──
[衝撃とともに映像が暗転し、数秒後に回復する。サマーオレンジは膝を付き、防盾を構えてN-7を防御している。3本の歩行脚と大型の主砲を備えた複数の機械実体がバリケードを破壊して前進し、サマーオレンジを砲撃する。カーキ色の装甲には旭日章がペイントされている]
N7-ファイ: 頭が痛くなってきた、何なんだあれは?
クルーガー: ミズ・エバーウッド、もし見えているなら今すぐ見解が聞きたい。あのふざけたおもちゃは何だ? 俺たちは火星人の襲来でも見てるのか。
エバーウッド: IJAMEAの歩行戦車です、驚くには値しません。インサージェンシーは様々な要注意団体のはぐれ者を吸収していますから。どうせ碌な運用実績のないハリボテを引っ張り出してきただけでしょう、急いで迎撃を! 今は時間が惜しい。
N7-シグマ: 女王様は気安く言ってくれますね。ハンマーヘッド、どうですか? どうやらあちらはご同郷の方々らしいですが。
ST9100-H: あまり考えたくない事実だな──砲撃の威力は侮れんが、命中率は低い。前進する!
[サマーオレンジは前進し、射撃と盾による近接攻撃で歩行戦車を撃破する。バリケードは制圧されるが、インサージェンシーの歩兵による抵抗が激化する。中隊車列は前進し、掃討戦に移行する]
N7-ベータ: ベータ小隊、1ブロック後退しデルタ小隊と入れ替われ。デルタ、地雷の撤去を。ええと、博士? 信じられないことだが、今撃ち倒した敵はカニの親戚に見えたぞ。全身が甲羅みたいになっていて、ライフル弾を弾き飛ばした。
エバーウッド: あなたのヘッドカメラの画像に映っているものなら、おそらくヘモマンシー由来の甲殻を備えた改造兵士です。P部局の残党が収容中のSCiPの情報をどうにかして引き抜いて作った徒花のひとつですね、あれを再現できるはずもないのに。強固な骨格以外はさして脅威にはならないはずです。
N7-シグマ: 当然みたいに言いやがる、ここはサーカス会場かよ? 50年は時代遅れな馬鹿どもが揃いも揃って銃を握り込んでる。世紀が変わってもアメリカに復讐したいのか。
N7-デルタ: それと国連、ついでに財団にもだ。恨まれる要素ばかりの寄り合い所帯だからな。
クルーガー: クソ喰らえだ。こちらクルーガー、ワシントン通りを確保した。ツインタワー直下まであと1ブロック、ここを押し切ればその後はタワーになだれ込むだけだ。
ST6350-W1: 了解した。オレンジスーツの図体はタワー付近では邪魔になる、我々が援護しよう。と言っても、上層階にはホワイトスーツも入れないがな。
ST6350-W4: もう少し天井を高く設定してくれれば良かったんだが、ヤマサキめ。
エバーウッド: 無駄口を叩かないでください。何としても頭上で寝ている神格を──これは一体?
[カメラは移動し、上空を映している。赤く発光する雲の切れ間から、カック灰と共に5cm大の塊が大量に落下してくる。落下時の騒音で通信の一部が上書きされる]
N7-デルタ: 総員頭上注意! 屋根のある場所に移動しろ、頭を覆え!
N7-シグマ: 雹か何かですか? 気象条件的にそのような兆候は──
[カメラはズームし、路上に大量に落下している存在に焦点を合わせる。半ば砕けたカップケーキが路上に散らばっている]
クルーガー: ファック。
ST6350-W1: [罵声]
エバーウッド: 総員退避! 今すぐツインタワーへ突入、安全地帯はあそこだけです!
[車列は急加速し、ツインタワー敷地内に突入する。敷地外縁のバリケードと鉄条網によって数台が落伍する。インサージェンシー戦闘員の抵抗は散発的で、落下物に戸惑っているようである。衝角装甲車が1 WTCの1階ロビー壁面を破壊し、エバーウッド博士の乗車した指揮車両は遅れてロビーに入る]
エバーウッド: 停車! 今すぐ付着物を潰しなさい、急いで! 部隊の数は!?
N7-デルタ: 中隊の3割です、残りは──
[小規模な爆発がいくつか発生した後、一斉にカップケーキが起爆する。カメラは動作を停止し、音声のみが記録される。爆発音と悲鳴が連続して記録され、ガラスの割れる音が複数響く]
ST6350-W4: やられた!
N7-デルタ: おお、神よ──部隊の残りはあの炎の向こうです、博士。クソが。
ST9100-A: ハンマーヘッド、応答せよ。ハンマーヘッド! 反応なし、サマーオレンジ中破、バイタルパート損傷! ちくしょう。9100排撃班、U-HEC喪失!
クルーガー: ツインタワーの南側7ブロックが丸ごと爆撃された、生存者不明。機甲戦力がアスファルトごと掘り返されちまってる。状況の掌握にしばらくかかるだろう。ここで一番上位の役職者はあんたになったぜ、エバーウッド博士。
エバーウッド: ちくしょうめ、そんなことだろうと思いました。しかし、味方ごと吹き飛ばしにかかるとは──トリニティで足止めされていた本隊と連絡はつきますか、シルヴァー?
クルーガー: 爆発の余波で通信が混乱しているが、おそらく大丈夫だ。電波発信の多さから見て、クレフの隊は直前で離脱したらしい。
エバーウッド: 指揮官が生きていて兵士の頭数が揃うなら、やりようはあります。幸いなことにカップケーキ爆弾にはIFFがありません。PoI-9203──悪夢姫は味方と敵の区別もなく闇雲に爆殺していますからね。敵の頭数が少ないうちにロビーを確保し、焼け跡から本隊を呼び込みます。
N7-シグマ: この開けた場所で100人ばかりで粘れってことですか、成程ね。
エバーウッド: 他に選択肢がありませんから。連合の皆さんにも働いてもらいます──さあ、お客さんですよ。
[カメラの映像が回復する。ロビーのエレベーターシャフトが爆破され、30名程度の戦闘員がロビーに侵入している。戦闘員の顔と背格好は完全に均一で、一般的なシャツやジーンズにハーケンクロイツが縫い付けられている。戦闘員の顔面は蒼白で肉が削げ落ちており、一見して死体のように見える]
N7-デルタ: この世の終わりみたいな光景だな。
ST6350-W1: 背水の陣になる、なにせ後方は火の海だ。射撃開始! 奴らを通すな!
【中断】
Record 2001年09月15日 - 071866
機動部隊N-7("下される鉄槌")による記録
メンバー:
- マンハッタン救援隊 第1部隊長 アルト・クレフ
- 異常組織学主任博士 ジャスティン・エバーウッド
- 排撃班6350 "Hound Dog"部隊員
- 機動部隊N-7("下される鉄槌")部隊員
【2001年09月15日 04:52より再生開始】
[先遣隊は1 WTC44階のスカイロビーにおいてカオス・インサージェンシーの部隊と交戦中]
ST6350-C: 敵性存在ダウン! 残弾ありません、敵の射撃が途切れない!
N7-デルタ: こっちもカンバンだ、連中はどこから弾を補充してるんだか。
クレフ: 間違いなく連中は自前のポータルを持ってる。でなきゃあんな真似ができるもんかよ。
[銃撃戦が継続する中、カメラはスカイロビーのガラス窓から東側の空を映している。新たに発生した次元異常が隔壁のように作用し、先が見通せない。大量のカック灰が降灰している]
エバーウッド: クレフ博士、エバーウッドです。1階から13階までの制圧が完了しました。敵工作員が多数投降していますし、14階の均衡もすぐに崩れるでしょう。しかし南棟の狙撃手が厄介ですし、後続部隊の展開が爆撃によって阻害されているので、増援はもう暫くは不可能と思ってください。
クレフ: そいつはさっきも聞いた。
N7-アルファ: 1階のエレベーターホールが吹き飛んだ以上、先に登れるのは我々だけです。ここを制圧すれば、高速エレベーターで78階のスカイロビーまで一直線に到達できます。
N7-エータ: そこから先は徒歩ですがね。
ST6350-W4: 敵性存在撃破! 手こずらせやがって。
[ホワイトスーツを装備した排撃班員が、両腕に機関砲を装備した機械実体を大型ナイフで停止させている。実体が完全に沈黙したことが確認される。フロアの制圧に関して控えめな拍手が起こった後、被害状況の確認が行われる]
N7-アルファ: 人員はともかく、弾薬の消費が激しすぎる。これじゃあ最上階どころか、あと数階登るだけで全ての爆薬を使い果たすことになるぞ。
N7-デルタ: 聖水の持ち込みが仇になりましたね、まさかタワー内にほとんど悪魔がいないなんて。
ST6350-A: 2年前にランブイエの監視団にいたが、ここはコソボよりひどい。どの階にもゲリラが満遍なく詰まってる上に、馬鹿げた手品を抱え込んでまるで話が通じないときた。
クレフ: 図面上は78階までホワイトスーツで上がれる。やる気はあるか、ジャパニーズ?
ST6350-W1: 無論だ。急遽召集された身だが、ここまで来た以上はお付き合いしよう、隊長殿。
N7-シグマ: エレベーターシャフト確認、異常ありません。まともに動くことを祈りましょう。
N7-ベータ: どうせこの先で待ち伏せされてるだろうがな。
クレフ: エバーウッド? せめてヘリくらいは持ち込んでるんだろうな。ウスノロ共がわんさと待ち伏せしてる高層階に乗り込むんだ、タワーの外側からの支援なしじゃあ1人だってまともに息ができねえぞ。
エバーウッド: 武装ヘリコプターとフライトユニットなら例の異常次元に補給線を切られる前に運び込まれていましたが、PoI-9203を抑える手が必要です。あの忌々しいタイプグリーンが手を加えた雲が60階より上を覆っていますからね。カップケーキ爆撃は依然として最大の脅威です。
クレフ: クソが、そいつは循環論法だ。
N7-アルファ: 誤用に聞こえるな。
クレフ: いいか、シャフトを上昇途中で爆破されたら全てが終わりだ、何としても俺たちは最上階に辿り着かなきゃならん。かといって外からの接近は不可能だ、その上クソ爆弾魔がタワー全体に菓子爆弾を撒き散らした。タワー全体がTNTの塊なんだぞ、奴の気を引いて数十秒ばかり俺たちの命を守る盾になってもらわなきゃならん、分かるか?
エバーウッド: 理解していますが、その役を武装ヘリ部隊に担わせるのは困難です。彼らの仮想敵は脱走した生物オブジェクトであって、クラスIV現実改変者の終了におけるフィールド支援訓練など──
ST6350-W1: [咳払い] そういうことなら、我々にもできることがあるな。
クレフ: 何?
ST6350-W1: クライミング訓練なら、我が隊は成績が良くてね。
【中断】
Record 2001年09月15日 - 072251
機動部隊N-7("下される鉄槌")による記録
メンバー:
- マンハッタン救援隊 第1部隊長 アルト・クレフ
- 排撃班6350 "Hound Dog"部隊員
- 機動部隊N-7("下される鉄槌")部隊員
【2001年09月15日 05:45より再生開始】
[排撃班6350の隊長以下、ホワイトスーツを着用した隊員4名は1 WTCの外壁を登攀している。赤褐色の雲塊がタワー周辺に複数存在し、部隊は雲塊を避けて進んでいる。部隊は対異常生物特務排撃班であり、特化装備としてハウンド2はガスランチャー、ハウンド4は火炎放射器を装備している]
ST6350-W1: ハウンド1、現在73階。目標までほんの少しだ。
N7-ベータ: コマンド・スカイ了解。陽動作戦は順調に進行、部隊は49階で押し合ってる。現状、あんたらの不在には気付かれていないはずだ。
ST6350-W3: ビーコン設置確認。パワーレンジャーになった気分だ、彼らはこんなスタントはやらなかったろうが。地上400mの眺めは空挺以外じゃ中々拝めるものじゃないな。
ST6350-W2: 命綱なしはスリルがあって良いね。他人のスーツをフィッティングもなしに着たから違和感がずっとあったけど、大分慣れてきた。まだなの、隊長? クソ硬い外壁にガイドビーコンをひたすら埋める作業はもう飽きた。
ST6350-W1: もう少し我慢してくれれば特大のスリルをお届けできる。敵陣のド真ん中に飛び込むんだからな。ただし背後からだが。
[約5分間、部隊は登攀を継続する]
ST6350-W4: 76階。窓の向こうに動くものがあります。 戦闘員4名、床に横たわっていて動かない。連中の自爆兵士かもしれない。
ST6350-W2: ハウンド4、そこで待機。万が一にも気付かれないでよ。
ST6350-W1: コマンド・スカイ、これより突入する。増援は可及的速やかに送ってくれ、俺たちが全滅するより先に来てくれることを切に願う。
N7-ベータ: コマンド・スカイ了解、幸運を。
ST6350-W1: ありがとう、そちらにも。さあ行こう。
[無線封鎖が行われ、部隊は78階に到達する。第2スカイロビーには陣地が構築され、エレベーターホールに複数の機関銃と擲弾砲が設置されている。カオス・インサージェンシーの戦闘員が多数確認される。PoI-9203"悪夢姫"の姿は発見できない。4人は所定の位置につく。VERITASスキャンにより戦闘員の配置が特定される。ハウンド1は信号弾を打ち上げる]
ST6350-W1: EOC: C、全セーフティー解除。突入、突入!
ST6350-W2: EOC: C。動くものは全部撃て。
[ラウンジの強化ガラスを破壊し、4人はスカイロビーに突入する。最初の掃射でほとんどの戦闘員が撃破される。ハウンド2はエレベーターホールを確保し、複数のバリケードを破壊する]
ST6350-W3: 8時方向、対戦車火力、致死性。6時方向、フラット変異確認、致死性。
ST6350-W1: 後方注意だハウンド3、2を上でバックアップしろ。こっちは俺が抑える。ハウンド4、俺の後ろにつけ。射撃陣地を黙らせる。
ST6350-W4: アイ・アイ。
[2人は連携してスカイロビー端の陣地を破壊し、戦闘員を撃破して設置された対人地雷と可燃物質を無害化する]
ST6350-W1: ハウンド2、増援はまだか? ここは相当温まってる。すぐにでも上下階から敵増援が駆けつけてホールを火の海にするぞ。
ST6350-W2: エレベーターホール確保、安全確認中──よし、シャフトに爆発物はない。ピクニック籠は安全だ。コマンド・スカイ、すぐに第一便を出せ。
N7-ベータ: コマンド・スカイ了解、積み込み開始。そちらまで200秒だ、しばらく耐えろ。
ST6350-W3: 敵影なし、VERITAS反応なし。粗方掃除できたようだな。
ST6350-W1: それなら良かった。籠城したタイプグリーン相手では我々は常に不利だ、少しでも有利な地盤を作り上げねば──
[VERITASが警報を発する。部隊は警戒姿勢を取るが、ハウンド3は反応が遅れる]
ST6350-W3: 何だ? 変異の兆候が安定しない、一体── [警報音]
[ハウンド3の背後に突如出現したカップケーキが起爆し、ハウンド3は爆風の反動で西側の土産物店に突っ込む。VERITASは対象のEVEを感知できない]
ST6350-W4: ついにお出ましか、怪物め。EVE感なし、どうする隊長!
ST6350-W1: 炙り出す。一箇所に固まるな、ただし中央のエレベーターシャフトだけは守り抜け。ハウンド2、催涙弾! ハウンド4は聴音最大、呼吸音を聞き逃すな。
ST6350-W2: EOC: F4、催涙弾射出。ガス充満まで25秒。
ST6350-W4: 白馬の騎士が3人だ、このまま逃げて欲しいんですがね。
ST6350-W1: 既に何百人か殺してるグリーンがそう簡単に尻尾を巻いてくれるとは思えん。ハウンド3、生きてるか? 聞こえていたら返事を──
[複数の爆発が発生し、ラウンジの20%程度が崩落する。天井の構造材が破断して79階の床が落下し、エレベーターホールの壁面に穴が開く。崩壊した天井と床面から、SCP-3033実体が複数出現する]
ST6350-W4: ああ、耳が──聴音不可! センサーをやられた。敵性戦闘員多数、自爆兵だ!
ST6350-W2: バックラッシュ確認。これはアポートだ! 隊長、奴は空間跳躍してる。
ST6350-W1: 最悪だ。4、3を叩き起こして脅威存在を処理! 俺と2でグリーンをやる。
[断続的な射撃によって部隊は接近するSCP-3033個体を撃破し、エレベーターシャフトを防衛する。ハウンド4はハウンド3を助け起こす。ハウンド3のバイタルは安定している]
ST6350-W3: ちくしょうめ、スーツにガタが来てる。脚部関節が損傷してまともに走れない。
ST6350-W1: センサー系は生きてるな? 4、全員のVERITASを同期してバックラッシュの兆候を確認しろ。3、探知系のセンターに入れ。ガスの効果が切れる前に燻り出して片付ける。
ST6350-W4: コピー、今の所は雑魚しか見えません。奴らうずくまって吐いてやがる。催涙ガスが自爆兵にも効くのは驚きだ、カタログには五感を潰してるとありましたが。
ST6350-W3: ガスが切れたら連中も勢いを取り戻すぞ。この面積のホールじゃ有効濃度の持続時間は100秒。エレベーターの到着に45秒足りません。
ST6350-W1: 逆に言えば、そこを守り切れば勝機がある。クズどもを潰し切れ。
[部隊は交互に催涙ガス弾を射出し、SCP-3033個体を撃破する。攻撃中、ハウンド2のライフルは弾詰まりを起こす。ハウンド2はライフルを放棄し、腕部機関銃に切り替えて崩落地点に接近する。複数のSCP-3033個体がゆっくりと崩落跡からスカイロビーに侵入している]
ST6350-W2: ファック。こいつは昼飯のピザなみに埃に弱いな。トラブル発生、メインアーム射撃不能。サブに切り替えて続行する。
ST6350-W3: 援護は必要か、ハウンド2?
ST6350-W2: 必要ない、この程度の連中なら十分に──
[前触れなくハウンド2の足元の床が爆発し、ハウンド2は吹き飛ばされてエレベーターシャフト外壁に激突する]
ST6350-W3: 指向性爆発、転移──バックラッシュ捉えた、下の階! 発生源は奴の右手だ!
ST6350-W1: 標的受領。VERITAS連動、3の誘導に合わせて掃射。ワン、ツー、今。
[部隊は連携して階下を掃射する。VERITAS撮像によれば、床面を貫通した複数の弾丸はバックラッシュの発生源を正確に破壊している。部隊は迅速に退避し、爆発によってスカイロビー西側の広範囲の床が破壊され崩落する。VERITASは高出力のマラカイト-ナチュラル変異を観測している。崩落地点の中心部にうずくまる人影が確認できる]
ST6350-W1: 脅威存在を確認、殲滅する。即時射撃。
[部隊は統制射撃を行うが、実体は不明な手段で防御する。崩落時に放出された塵埃が吹き飛ばされ、盾状に整形された巨大なカップケーキが部隊と実体の間を遮蔽していることが明らかになる。カップケーキはライフル弾を完全に弾いている]
ST6350-W4: 防弾仕様とはね、馬鹿げた硬度と密度だ。
ST6350-W3: いや待て──色相が変異した、攻撃的な──作り変えてる、離れろ!
[ハウンド1と4は跳躍し、射線から逃れる。カップケーキの構造は有機的に変異し、表層が大量の針状に整形される。指向性の爆発によって針状構造は射出され、ハウンド3のスーツを破壊する。カメラは激しく振動し、数秒間映像が途絶する]
[映像復旧後、針状構造は全て着弾後に内部破裂したことが示される。ハウンド3のバイタルサインは消失している。PoI-9203はスカイロビー南側に立っている。右腕の大部分は多量のカップケーキを合成した巨大な触腕に置換され、接合部から出血している。催涙ガス濃度は低下している]
PoI-9203: まずは一人。右腕の礼を受け取ってくれ。
ST6350-W4: その腕ごと転移アイテムは吹き飛ばしたはずなんだがね、お嬢ちゃん。何だそいつは、サーカスの方がお似合いじゃないか?
ST6350-W1: 奴は物質変異型のグリーンだ、現実性に直接干渉できない以上、肉体は人間と変わらん。火力で畳み掛けて殺せ。
[ハウンド4は腕部機関銃で射撃を行うが、2個生成された盾状のカップケーキに防御される。ハウンド1の横手からの牽制射撃によりPoI-9203は数歩後退する。ハウンド4は跳躍し、接近しながら火炎放射器で盾状のカップケーキを焼却する。記録されていない時点でハウンド2が復帰し、部隊は3方向からPoI-9203を包囲している]
ST6350-W2: 合わせろ、今!
ST6350-W4: オーキードーキ。
[ハウンド2は煙幕弾を発射しながら突撃し、回り込んで盾の正面を回避し接近する。ハウンド4は火炎放射を、ハウンド1は牽制射撃を継続する。盾状のカップケーキが起爆し、ハウンド2は左腕を破壊されるが、前進して腕部機関銃でPoI-9203を至近距離から射撃する]
ST6350-W2: チェック。ハウンド4、私ごとこいつを焼いて──
PoI-9203: ジャンプ用のカエルごときのために死んでたまるか、馬鹿め。
ST6350-W4: ちくしょう、そいつはダミーだ2! 本物の反応はケーキの中にある!
[PoI-9203の全身が膨張し、カップケーキの集合体であることが確認される。続く起爆によってスカイロビー南側のタワー外壁が完全に破壊され、ハウンド4は爆風に吹き飛ばされてタワーから落下する。ハウンド2のバイタルサインは確認できない。1 WTCの構造に対する負荷は限界に達している。ハウンド1のVERITASはPoI-9203が崩壊した盾状カップケーキから排出される様子を捉えている。ハウンド1の狙撃はいずれも空中を自律浮遊している小型のカップケーキによって阻まれる]
PoI-9203: なんだ、もう1人なのか。案外と簡単だった。
ST6350-W1: 勝ち誇った顔だな、クソガキめ。そのやり方はうちのカタログに載ってないが、脳味噌をどれだけ弄ったんだ?
PoI-9203: 時代遅れだな、掃除屋? インプラント手術は必ずしも悪い方向には行かないんだよ。3年前からこっち、腕の良い脳科学者が大勢第三世界に流れているんだ。お陰で我々はこうして任務に駆り出されているが。
ST6350-W1: そうか? それにしては扱いが下手に見える。
PoI-9203: では試してみよう。
[PoI-9203は複数のカップケーキをエレベーターシャフトに向けて射出し、ハウンド1は間に入ってそれらを撃ち落とす。約15秒間、両者は拮抗している。カメラの映像は突如乱れ、視点が高速で移動して壁際で静止する。ハウンド1の後方から出現したSCP-3033実体がハウンド1に組み付き、カメラユニットを放り捨てた様子が記録される]
ST6350-W1: クソ、こいつらどこから!
PoI-9203: ガス切れに気付かない間抜けが。
[複数のSCP-3033実体がエレベーターシャフトに取り付き、直後に爆発する。エレベーターシャフトは完全に破壊されている。ハウンド1は爆風に吹き飛ばされ、PoI-9203の至近に落着する。ハウンド1は武装を喪失している]
PoI-9203: 射的は見事だったが、それだけだ。もう終わりにしよう。
ST6350-W1: シット。無邪気に笑いやがって、おい。お前は一体何だ、化物?
PoI-9203: どこからどう見ても人間だよ、貴様らみたいな役立たずとは違う。
ST6350-W1: そりゃどうも。
[ハウンド1は倒れ込んだまま脚部接地機構をバーストさせ、タックルを試みる。カップケーキの盾が出現し、ハウンド1は盾に激突しつつPoI-9203をスカイロビー南側に弾き飛ばす]
PoI-9203: ああちくしょう、痛いな。まさか私を突き落とすつもりだったのか? そんなことでは──
ST6350-W2: だからこうするんだ、馬鹿め。
[崩壊した外壁の瓦礫の中からハウンド2が這い出し、ナイフをPoI-9203の背中に突き立てる。直後にPoI-9203の右触腕がハウンド2の胸部を握り潰す。カップケーキの盾が起爆し、ハウンド1はスカイロビー中央に退避する。ハウンド1はハウンド2のガスランチャーを回収している。閃光音響弾と煙幕弾が発射され、カメラはホワイトアウトする]
[20秒が経過し、カメラの映像が回復する。PoI-9203は画面中央に立っている。背中に刺さったナイフの周囲をカップケーキが覆い、皮膚と癒着している。出血は少ない。ハウンド1のホワイトスーツは破壊されている。PoI-9203はホワイトスーツからハウンド1を引きずり出す]
PoI-9203: 痛みには相応の彩りを添えるべきだと私は常々感じてる。同意はしなくていい。
ST6350-W1: まだ存在するなら中指を立てるところだ。
PoI-9203: へえ、教えてくれ。この状況からどう反撃するんだ? 足元を掬われ続けたのに?
ST6350-W1: これから掬い返すんだ。お前こそ足元を気にするべきだった。
PoI-9203: 何を──
[破壊されたスーツ内で閃光音響弾が炸裂する。直後にスカイロビー南側の崩落跡からフライトユニットを装備した超重交戦殻"サマーオレンジ"が突入し、エレベーターシャフトに激突する。PoI-9203は破壊されたシャフトを通じて上階に退避する。サマーオレンジは大破し、完全に沈黙している。背面の輸送ユニットからN-7の小隊が、排出された制御ブロックからクレフ博士がスカイロビーに降り立つ]
クレフ: 騎兵隊のご到着だ、クソッタレ。
【中断】
Record 2001年09月15日 - 009152
収容スペシャリスト アルト・クレフによる記録
メンバー:
- マンハッタン救援隊 第1部隊長 アルト・クレフ
注記: 当該記録は1 WTC最上部の遺構から発見されたN7-アルファの記録用ビデオカメラから回収された。N7-アルファは記録内容に関与していない。事実上、当該記録はUE-1111に関して財団が保有する最も詳細な言及である。完全な分析の閲覧は戦術神学部門のクリアランスを必要とする。
[記録開始]
[カメラはおそらくクレフ博士本人によって保持されており、著しいぶれによって正確な像を結ばない。窓外のカック灰の莫大な飛散量から、撮影地点は1 WTC最上部であると推測されている]
クレフ: 喉が痛え。ちくしょう、本当にこんなことに意味はあるのか? 探索任務時に音声記録を残す大昔の優先規則があるせいで、俺はこのクソッタレカメラを直すのに15分も無駄にした。
クレフ: まあいい、こんな場所に長居はするものじゃない。俺はなんでかここで生きてる。チャールズの跳ねっ返り娘がわけのわからない贈り物をしてくれたお陰でな。俺は誰に感謝するべきだ? いや、誰にされるべきなんだ。クソが。
[クレフ博士は咳き込み、おそらく喀血する。カメラは窓外を映している。灰の隙間から陽光が見える]
クレフ: バカ騒ぎの中で王様になりたきゃあ、一番高いところに登れば良いんだ。それだけのことだ、連中は馬鹿だ。俺たちも。
クレフ: 島を地獄のド真ん中に沈める連中も、天国の端まで吹っ飛ばす連中も、揃って同じことを考えてる。ここに撃ち込めば良いんだ。一番高い。それだけで意味があるんだ。だから削るしかないんだ。簡単なことだ、ロースクールに行かなくたって分かる。
クレフ: あのガキはよくわかってたんだ。脳味噌はスポンジケーキみたいに穴だらけだったくせに、誰よりも楽しんでた。だから中身を丸ごとぶちまける瞬間まで笑ってやがった。甘ったるい匂いのクソ、死んだグリーンのクソ、何よりもクソッタレなメアリー・スー! 腹が立つ。
クレフ: ああクソ、そうだ──報告だ。アルファの隊は下で粘ってる。頭目はブチ殺したが、お仲間はまだやる気だ。エーリッヒとかいう特級のアホがクリスマスツリーみてえな銃で何人も殺してくれた。もうベータ隊は誰も残ってない。
クレフ: デルタ隊は残念だった。現実性ポケットがあんな場所にあるなんて予想してなかったんだ。予想? ああそうだ、法則性。規則性。そんなものはここにはない。あいつらは皆タブレットを飲んだよ。
[カメラが移動し、床に置かれた携帯型スクラントン-アンカーに接続されているカント計数機を映す。カント計数機の針は明らかに異常な増減を見せているが、平均して0.4Hm程度を示している]
クレフ: この有様だ。ただの低ヒューム空間とも違う。俺がHazmatスーツを願って万々歳になるような、誕生日のごちそうを切り分けるような、そんな楽しい状況じゃない。ここは異界になりかけてる。別の理論がある。タイプブラックが巣穴から何かを持ってこようとしていて、それは部分的に成功してるんだ。
クレフ: 俺はやらなきゃならない。クソ残業の時間だ。これを聞くのがレベル2かサイト管理官かO5か、はたまた連合の間抜け面か知らないが、コーンウォールの二の舞にはならない。俺はもうやり方を知っていて、ショットガンを持ってる。クソを終えた後みたいに身軽なんだ。あとは待つだけだ。
[約13分間、クレフ博士は携帯型スクラントン-アンカーを引きずりながら移動する。カメラ映像は不確実で限定的である。複数の不定形な霊的実体が出現し、クレフ博士の手を引いて上階に案内する素振りを見せるが、おそらく現実性の差異によってクレフ博士に接触できずに消失する。クレフ博士は霊的実体の誘導に抵抗しない。複数回の階段移動による上昇を経て、クレフ博士はオフィスの柱に背中を預けて座り込む]
クレフ: 聞こえるか、この鼓動が? どんどん大きくなってる、さっきから奴の糸を踏むたびに怖気が止まらない。魔女様様だ、ああクソ。こんなことを言わなきゃならないなんて思ってもみなかった。
[この後、クレフ博士は不規則に"鼓動"について言及する。記録データの解析によれば、該当する音声は確認できなかった。UE-1111に起因する何らかの精神影響であると考えられている]
クレフ: しこたま酔って玄関で寝たときみたいな感覚だ。何を見てるのかも分からねえが、体が動く。
クレフ: 悪魔どもが暴れ始めた時点でおかしいと思うべきだったんだ、俺たちは。何かが違っていた。俺には見つけられたぜ。
クレフ: なあそうだろ、おい? お前は誰なんだ。俺はお前がいなくてもここを登るぞ。レストランに何が残ってるか知ってるか? 4日間補充のないキッチンで何が作れるのか? ええ?
[クレフ博士は不明な人物または物体と会話しているように思われるが、対象はカメラの死角にあり特定できない。判別不能な短時間の口論が行われる。クレフ博士は数回唸り、不明な言語で20秒程度の連続した句を詠唱する。無人の室内に唐突に風が吹き、放棄されたオフィスの電灯が点滅する。発光は奇跡論的な技術行使の結果であると分析されている]
クレフ: 対価? 俺が払えるように見えるか。ジャック・ブライトに言え、どうせ首にされて暇を持て余してる。奴は首根っこの先の先までクソ財団にどっぷりだからな。あいつとなら話ができるだろう。間抜けで臆病でおまけに変態だ。取り入ってやれ。
クレフ: ああそうだ、そうしろ。美人にだ。誰だってそれに弱い。そうだ、いやそれは俺の好みだが、まあいい。胸はデカければデカイほど良いんだ、そうだ、シュガーティット。上手くやれ。折角ここまで面倒を引き受けてるんだ、後からご破産なんて有り得ない。
クレフ: なに? 知ってたさ。悪魔がそこにいるとき、俺はいつも知ってる。知ったふりもしているが、まあ別にいいんだ。繭から出てこないクソの塊みたいなブラックが英語とラテン語とペルシャ語の通じる悪魔を際限なく生み出すかどうか、よく考えなくても分かることじゃあないのか? 俺はいつだって誰よりも賢い。
クレフ: さあ行くぞ。退職金を満額受け取るまでは死ねない。
[クレフ博士はカメラを持ち上げ、歩き出す。右手の甲におそらく血で記された複雑な文様が確認できる。階段を登り、クレフ博士は展望フロアに入室する。階数表示によれば107階の展望レストラン"ウィンドウズ・オン・ザ・ワールド"である。レストランは拠点化され、スクラントン-アンカーに類似した設備を含む複数の異常な機材がカオス・インサージェンシーの儀式技術者と思しき少数の構成員によって運用されている。光源不明のピンク色の光がレストラン全体を照らしている。技術者たちはクレフ博士に気づいていない]
クレフ: ウィーピピー。ロックンロールの時間だ。
[ショットガンの装填音が響き、カメラの視界は高速で変化する。硬い衝撃音と共にカメラは落下し、直後に銃撃戦が始まる。インサージェンシーの技術者がカメラの視界に倒れ込み、以後映像は変化しない。22分後、異常な振動と共に画像全体が赤く照らされ、直後に映像は途絶する。ハム音が約30分間継続した後、大量のガラスが一斉に割れる音が響き渡る]
[記録終了]
2011年時点での検討結果は、アルト・クレフ博士と少数の機動部隊員が、不明な手段で1 WTC上層部およびUE-1111を基底現実およびSCP-2911-JPから完全に切除したと結論づけています。UE-1111およびアルト・クレフ博士の所在は不明です。
補遺.2911-JP.7 > 収束
9月15日午前9時45分、リバティ島観測基地はマンハッタン島外縁地域におけるヒューム値の回復と、周期的アキヴァ放射の消滅を確認しました。これを受け、世界オカルト連合事務局はピチカート手順の一時停止を通達しました。午前10時30分、神格実体の排除が確認され、財団と世界オカルト連合は共同声明を発表して事態収束を宣言しました。
SCP-2911-JP-B群は速やかに不活性化し、SCP-2911-JP領域が縮小していく中でその活動範囲も減少していました。9月17日、マンハッタン島に残存する全てのSCP-2911-JP-Aからそれぞれ1体のSCP-2911-JP-B実体が出現しました。それぞれの実体は全裸で、木の棒またはパイプの先端に白色の布を結び付け、それらを頭上で数回振った後に消失しました。この事案を受けてSCP-2911-JP指定領域に対する探査が行われ、領域最深部にて意思疎通可能な悪魔実体(SCP-2911-JP-B-Ωに指定)が発見されました。以下は探査記録の一部です。
異常空間調査記録 #774
臨時編成機動部隊F-15("ニューヨーカー") 作成
目的: SCP-2911-JP-Bの異常行動の原因特定
場所: 残存SCP-2911-JP領域
手段: 地上走行型遠隔探査ドローンを用いた機動部隊による観測
[67:00] ドローンはSCP-2911-JP内部を探索している。サラ・D・ルーズベルトパークのおよそ40%が崩落し、本来隣接していない区画同士が接合されている。空は赤く染まっているが雲量は少なく、快晴である。僅かに歪んだ太陽が緑色に輝いている。
[67:39] ドローンは直進しているが、計器に記録されている移動距離に反して遠景は明らかに変化していない。
[68:00] 大量の液体が歩行者用通路を覆っている。液体は不明な生物の血液とみられ、常温で沸騰している。ドローンは迂回する。
[68:23] 複数のJaheemクラス悪魔実体がカメラに映る。悪魔実体はドローンに興味を示さない。複数の悪魔実体はお互いの頬を叩き合い、大量の白い煙を吐き出している。オカルト部門の専門家によれば、実体群はひどく混乱しているようである。ドローンは後退し、4つ辻に侵入する。
[68:57] ドローンは突如5m程度落下し、凍結した湖面に着地する。高度計は海抜150mを示している。霧が立ち込めており、周囲は見通せない。サーマルスキャンが使用できないため、ドローンは待機する。
[71:23] 複数の特定できない霊的実体が湖面を漂流しているが、ドローンには干渉しない。遠隔探査チームによる協議の結果、短時間の探査継続が決定する。ドローンは探査を再開する。
[72:50] ドローンは湖岸に到達し、崩壊したハーラム・ミアーのゲストハウスを確認する。基底現実における対応地点はセントラルパークの北端である。SCP-2911-JP内部空間が極度にねじれ、5km以上離れた地点が相互に接合していることが確認される。ヒューム値が乱高下しているにも拘らず、現実性の変異は穏やかである。
[73:18] ドローンはゲストハウス内部に侵入する。破壊されたカウンターに判読し難い英語で『汝等此処に至るもの一切の望みを棄てよ』と記されている。床板には乾燥した血液で入り口から内部へ向けて矢印が描かれている。ドローンは矢印に沿って建物内部へ進む。
[73:39] 複数の空間が接続され、それぞれ数秒ずつカメラに撮影されている。いくつかの場面において、ドローンはタクシーの後部座席に載せられているか、地下鉄に乗車している。運転者の顔は赤色の煙で覆われ判別できない。いずれの場面でも、街は破壊されている。悪魔実体群はただ歩き回っているか、座り込んで顔面を覆っている。
[76:22] 異常な移動が終了し、ドローンは破壊されたタイムズスクエアの中央に出現している。遠隔探査チームのいかなる操作もドローンは受け付けない。対応が協議される。
[80:12] 突如数十m前進した後、ドローンは動作を停止する。ブラックアウトする寸前、複数のTartareanクラス悪魔実体の腕部がカメラに映り込む。カメラ中央に出現した実体は、両手の平を下に向ける"心配するな"のジェスチャーを繰り返している。
[80:15] カメラはブラックアウトするが、映像送信は継続されている。
[92:47] カメラは回復し、地下鉄構内と思しき広大な地下空間を映し出す。視界の向きからみて、ドローンは横倒しになっている。視界端に瓦礫を積み上げて構築された玉座のような構造が確認される。
[92:59] 何者かによって持ち上げられ、ドローンは平衡を取り戻す。カメラの視界中央に玉座が映る。拡張されたリクライニングチェアに腰掛けている人型実体(SCP-2911-JP-B-Ω)が映し出される。
[93:11] 実体は鉄パイプに巻きつけた白いシャツを掲げる。シャツには判読し難い英語で"Armistice"と書かれている。
[93:25] 実体は複数回鉄パイプを振り回し、後方に投げ捨て、カメラに向かって笑顔を作る。
[93:30] ドローンのバッテリーが切れ、映像は途絶する。
注記: ドローンは約12時間後、サイト-28宿泊棟のブライト博士に割り当てられた部屋の前で回収された。フードで顔を覆った、尻尾を有する不明な実体がドローンと手紙を置いて逃走する様子が監視カメラの映像記録から確認された。手紙には判読し難い英語で、SCP-2911-JP-A-47の座標とポータル内部の移動経路が記載されていた。一連の事象に関して、ブライト博士は関与を否定した。
Record 2001年09月18日 - 160429
機動部隊O-16("ワルプルギス")による記録
メンバー:
- オカルト部門主席研究員 ランドール・ハウス
- 報道担当連絡員 ジャック・ブライト
- 対応部隊連絡員 シルヴァー・クルーガー
- 機動部隊O-16("ワルプルギス")部隊員
【2001年09月18日 12:43より再生開始】
[部隊はSCP-2911-JP-A-47からSCP-2911-JPに進入し、地下鉄構内を進行中である。大量の水蒸気が地面の割れ目から噴出し、硫黄の臭気が漂っている。複数のSCP-2911-JP-B実体が周辺に存在しているが、いずれも敵対の意思を示さない]
ハウス: アキヴァ放射レベルは標準値以下。神は去った、ということでしょうかね。
クルーガー: そうだとしても、このクソ空間が残ったままじゃあ事案終了とはいかない。まさか戻ってくるなんて思ってもみなかった。
ブライト: ピチカートが取り消されていない以上、ここは馬鹿みたいな危険地帯だ。もしここにクソ繭が舞い戻ってきてみろ、ミサイルだか何だかの発射まで15分しかないのに──
O16-アルファ: 静かに! 前に何かいる。
[タキシード姿のSCP-2911-JP-B実体が出現し、礼をする。実体は両手を上げて非武装の意思を表明した後、鉄道整備用の横穴を指し示す。壁面に血で描かれた矢印が横穴を強調している]
ハウス: 案内しています。ここに入れと。
ブライト: 信用できるのか? 悪魔ってのは平気で嘘を付く連中のことだろうが。
ハウス: 馬鹿な、彼らは人間よりよほど信用できます──ええと、契約を結んでいる場合はですが。今回は違いますが、まあ大丈夫です。基本的には。
O16-デルタ: こいつの発言が一番信用できんな。
クルーガー: 仕方ない、悪魔との交渉は場数を踏んだやつに任せるに限る。行こう。
[部隊は横穴に侵入する。空間接続の兆候が確認され、突如として落下が始まる。数十mの落下の後、部隊は大量の液体の中に落着する。カメラの映像が途絶する]
ブライト: ファック! こいつは赤ワインだ、それもスパークリングの辛いやつだ。私の大好物なんだぞ、こんな時でなければ!
O16-アルファ: そこらへんにしておいてください、博士。親玉のご登場だ。
[カメラが拾い上げられ、映像が復帰する。瓦礫を積み上げて構築された玉座の上に、スーツを着崩した実体が出現している。実体が指を鳴らすと、部隊全員の背後に古びたリクライニングチェアが出現する]
SCP-2911-JP-B-Ω: ジャック・ブライト、そして使者の一行......ようこそ、謁見の間へ。汚らしくて済まないが、私の力ではこれが限界でね。
クルーガー: [口笛]
O16-ベータ: 肉眼で見ると、これまた随分な美人だな。
ハウス: 白旗にはいくつかの意味がありますが、我々は軍使と解釈しました。停戦または降伏の申し出とみて宜しいでしょうか?
SCP-2911-JP-B-Ω: [笑う] 財団は随分寛大なのだな、停戦を選択肢に含むのか? 私は条件付き降伏の意思を示したつもりだった。
ハウス: 条件の中身によるとしか言いようがありませんね。それに、我々は貴方の名前を知らない。何者ですか、この領域の主よ?
SCP-2911-JP-B-Ω: 私か? 私の名はイブリース。他にいくつもの名があるが、この場ではイブリースだ。
クルーガー: イブリース? まさか、サタンだと?
イブリース: サタンと呼ばれたこともあるが、その名にも複数の意味がある。私は地獄を統べたことはないが、ある領域では君主に等しい。
O16-ガンマ: ファッキン・ジーザス・クライスト......ああクソ、失礼。
O16-アルファ: 馬鹿野郎、口を慎め。
イブリース: 構わん、その程度の侮辱であれば甘受しよう。私は理解している、今やこの王国は風前の灯火に等しい。次元を超えて我らを焼き尽くす悪竜の炎が焚かれている。耐え難い、おぞましい祝福だ。
クルーガー: ピチカートのことも知ってるのか、耳聡いやつめ。
ハウス: オーケー、条件を聞きましょう。しかしその前に、貴方はなぜ降伏したいのですか? そもそも我々はつい昨日まで、悪魔実体に交渉可能な知能を有する個体がいるなど気付きもしなかった。
イブリース: 我が領域の住人たちは少しばかり頭が弱い、直属の部下でもなければ会話は覚束ないだろう。それに私は縛られていた、あの忌々しい異郷の神......何処とも知れぬ宇宙の使徒の繭に絡め取られ、我が領域を奪われ良いように使役されていた。
ハウス: UE-1111のことですか、成程。貴方もカオス・インサージェンシーの駒のひとつだったと。
イブリース: ふふ、何たる屈辱......第4圏の直接召喚が叶わぬからと、混沌の輩は異界の神の力で契約を歪めたのだ。私は成すすべなく領域と住人たちの支配権を剥奪され、逃げ延びた数少ない部下の目を借りてただ眼下の戦争を眺めるしかなかった。そして漸くすべてが手元に帰ってきたと思えば、滅びが牙を剥いている。召喚された以上は王国を守らねばならない。このまま祝福に焼かれるなど御免だ。
ブライト: だから財団に付くと? ピチカートを免れるために?
イブリース: その通りだ。たとい牢獄に閉じ込められるとしても、焼滅されるより価値がある。それに煉獄とさして変わらん、檻の種類が違うだけのことだからな。
クルーガー: 馬鹿を言うな、この局面でお前達を抱え込んでも、財団に利益がないだろうが。
イブリース: 利益ならば提供できる──それに、既に対価は支払っているだろう。
ハウス: というと?
イブリース: [ため息] ただの人間が、異界の神の微睡み子を次元の彼方に放逐できるだけのすべをその場で修得し得るとでもいうのか? それはまさしく悪魔の業であろうが。
ブライト: [舌打ち] あの野郎、クレフめ。
イブリース: 我が知識の限りを与え、あの男はその通りにやり切った。ジャック・ブライト、貴様に取り次げば悪いようにはしないと彼は言ったぞ。私は既に契約を結んでいる。神を放逐する代償は、私と私の領域の恒久的な安全だ。少々良心的に過ぎる取引だな。
O16-アルファ: 素晴らしい契約だな、ええ? 証文が存在しないことを除けば。
イブリース: 戦争のさなかに適切な証文が世に残るものか、定命の者よ。
ハウス: あー、まあ、いいでしょう。中々に興味深いお話でした。それで現状、悪魔実体群が不活性である理由は説明がつく。神格は去り、自由を取り戻した貴方は部下に命じて戦闘を止めさせ、そしてブライト博士にコンタクトした。目的は身柄の保証と財産の保護、というところですか。
イブリース: その通り。そして私は、我が領域の住人による労働力を提供できる。適切なエネルギーの補給さえあれば休みなく働き続ける、契約に忠実な悪魔たちをな。今最も貴様らが欲する、この島に不足しているものだ。
O16-アルファ: 労働力? そんなもの、悪魔に頼るまでも──
イブリース: 我が領域の色濃く残るこの島を直ぐにでも滅却したくて堪らない者は今なお多くいると推察するが、どうかな? 実際のところ、恭順の姿勢を見せておく必要はあると思うがね。人間というものの不見識さについて私はよく知っているつもりだ。折角守り抜いた街を仲間割れで喪いたくはあるまい。
クルーガー: ちくしょう、そう来たか。
ハウス: 流石にその手の機微には聡い、まさしく悪魔契約というわけですね、成程。しかし我々には悪魔との交渉に長けた人材が少ないのです。一人につき一体の古式ゆかしき契約では全く需要に見合いませんし、上層部を納得させられない。
イブリース: そちらの先進的な雇用契約制度は把握している、連邦法とニューヨーク州法もだ。すべて遵守させれば良いだけのことでは? 悪魔にとって契約内容は絶対だ。無論、法人格相手の契約であっても構わない。私はその手の新しい概念にも理解がある。
ハウス: おっと、これは驚いた──
ブライト: へええ、そういうことなら、私にも考えがある。
ハウス: ブライト博士?
ブライト: 要するにだ、悪魔の王国の主人は財団に降伏して、奴隷どもを説得材料に助命を嘆願してるんだろう? そういうことなら、契約書を書かせるのにうってつけの相手がいるんだ。イブリース、この交渉は私を窓口にしてるんだろうが、他所から助言を得ても構わないな?
イブリース: 無論だ、貴様が悪魔との契約の専門家でないことは承知している。
ブライト: よし──それなら、覚悟しておけよ。
[ブライト博士はO16-シグマから通信機器を受け取る。博士に許諾された最高優先度の呼び出し権限でコールが行われる]
ブライト: あー、サイト-19法務部門? ジャック・ブライトだ......シェルドン・カッツのオフィスに繋いでくれ。あいつにしかできない。大至急だ、この世界の命運がかかってるぞ。
【中断】
財団法務部門と事案審査委員会の合同審査の結果、複数の服従実験を通してSCP-2911-JP-B-Ωの供述の正確性が確認されました。包括的な契約手続きのために準備文書が作成され、収容手順は一部改訂されました。全てのSCP-2911-JP-B実体は契約に従って収容を受け容れ、地位協定文書のコピーが世界オカルト連合と境界線イニシアチブによって保存されました。両者からの公式及び非公式の抗議は現時点まで継続しています。
9月19日までに財団は被害状況の全貌を把握しました。最終的なSCP-2911-JPの侵食はマンハッタン島全域、隣接するブルックリンおよびクイーンズ、ブロンクス、ニュージャージー州ハドソン郡の計720.8km2に達し、関連して述べ1500万人が異常存在に直接的な影響を受けたと考えられています。北米大陸における財団および連合資産の有する処理能力を完全に上回るこれらの事態に対し、O5評議会は収容政策の転換を迫られました。9月20日、事後処理に伴う衝突防止のため世界オカルト連合との間にハドソン川協定が締結され、相互の協力体制の確認が行われました。
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ハドソン川協定
世界オカルト連合(以下、連合)と財団の両者は、世界の平和及び安全の維持に寄与することを目的とし、以下のとおり行動することに合意する。- 連合、財団の両者は以下の領域に関する全ての占有的主張を放棄する。
- マンハッタン島全域
- 財団は以下のアーティファクトの管理を全て請負し、これを管理する。
- SCP-2911-JP
- SCP-2911-JP-A
- SCP-2911-JP-B — 但し、SCP-2911-JP領域内に限る。
- 連合、財団の両者は以下の領域について相互の独立性を尊重し、非戦地帯とする。
- サイト-311
- ステーション-NA-019
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.- 連合、財団の両者は以下の存在についてその生来の権利を確認し、正常性ならびに現実性を毀損しない場合に於いて、可能な限りその生存と自由意志の存立を擁護する。
- 人間型異常/脅威存在
本協定は2001年9月21日より効力を持つ。
連合、財団の両者全ての構成員が本協定に則って職務に対する拘束を受ける。
財団監督評議会 1号評議員
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世界オカルト連合 事務総長
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協定締結に伴い、SCP-2911-JP-B-ΩによるSCP-2911-JP-Bの労役提供の申し出は承認されました。財団法務部門は1800ページに及ぶ基準契約書を作成しました。労役は1 WTCの隔壁建築作業から開始され、後にマンハッタン島全域に拡大しました。
以下はメディア戦略部門によって作成された非異常の広報プロパガンダの一部です。非侵襲的手段を用いた全世界的な大衆への認識誘導は概ね成功を収め、北米・欧州圏の一般社会におけるSCP-2911-JP-B実体への認識は当初予測を上回る改善を見せました。
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Record 2001年11月11日 - CNN-US
CNNアメリカによる報道
【前略】
アナウンサー: ......素晴らしいパフォーマンス、コロンビア=カヴン認定魔女による曲芸飛行をお届けしました。それでは次のトピック、復興著しいマンハッタン島からの中継です。皆さんお馴染み、マーティン・ジェフリーズに代わります。
[映像が切り替わる。リポーターのマーティン・ジェフリーズがブロードウェイの工事現場に立っている。背後では人間の作業員に混じって複数のSCP-2911-JP-B実体が働いている。実体は財団制式の作業服を着用し、胸部には契約書の最終ページが貼り付けられている]
リポーター: 皆さんこんにちは、こちらジェフリーズ、マンハッタン探訪のお時間です。本日は工事中のブロードウェイからお送りします。
アナウンサー: すごい音がしていますね、ドリルの響きがスタジオに伝わってくる。ジェフリーズ、今はどんな状況なの?
リポーター: マンハッタン島は急速に復興しています。市庁舎の復興対策チームによれば、市域の交通の87%が復旧しました。地下鉄も8号線を除いて運行を再開し、被害の少なかったセントラルパーク以北では住民も戻ってきています。
アナウンサー: それは良いことですね。ストライキは解決したのかしら。
リポーター: ええ、ヨハンナ。8日までの緊急ストは平和裏に解決し、世界オカルト連合は人間労働者に対する工賃の15%増加を約束しました。ニューヨーク・ニュージャージー港湾公社はまだ反対姿勢を崩していませんが、財団が間に入って仲裁を行っており、数日中にはエンパイア・ステート・ビルの復元工事は再開されるとみられています。
アナウンサー: 大統領は年内のマンハッタン完全復興を宣言しました。現在、下院では第3次復興予算の審議が始まっているところです。ジェフリーズ、大統領の公約は実現しそうですか?
リポーター: 1ヶ月ほど前まで、大統領の発言は時期尚早であり、国外投資家向けの過剰なパフォーマンスであると言われていました。しかし現在、財団建設部門と世界オカルト連合天地部門の全面バックアップを受け、マンハッタン島の主だった輸送経路が復活したことで、建設スピードが一気に上がっています。ニュージャージー州の建設業者は特需に湧いています。また......
[ジェフリーズは建設現場のSCP-2911-JP-B実体を指し示す。実体は山羊の脚部を有し、高所作業の準備中である。カメラに対して実体は小さく礼をする]
リポーター: マンハッタン・クライシス当時、敵対的存在とされていた悪魔集団ですが、現在は数万体がこうして復興作業に従事しています。財団によれば、悪魔との契約は完全に科学的・法律学的に制御されており、彼らは港湾公社とニューヨーク州法に基づく雇用契約を結んでいます。実際に、悪魔が関連した犯罪事案はこれまで確認されていません。労務局によれば、夜間作業の効率は悪魔作業員の導入によって前年比240%に向上しています。
[カメラはブルーム・ストリートに入る。SCP-2911-JP-B実体が隔離された休憩所に集まり、座り込んで硫黄の煙を吸っている。休憩所脇で境界線イニシアチブの聖職者が世界オカルト連合の警備員と会話している。通行人は実体群を気にしていないように見える]
リポーター: ニューヨーク市民は概ね悪魔集団を受け容れています。多くの市民にとって、近年の市内は夜間のとめどない治安悪化によって危険な場所と化していましたが、悪魔集団は契約を遵守しているようです。今の所、市内の犯罪率はかつてない低水準を保っています。悪魔集団の主な食料は硫黄とガスの炎で、雇用に回されるはずだった税金は医療費の補助と弔問金に充てられています。
アナウンサー: 憎悪犯罪は回避されているのですね、ジェフリーズ? 彼らは心強い味方になってくれるでしょうね。
リポーター: 無論その通りです、ヨハンナ。ニューヨーク市民は非常に抑制的で、誇り高く復興のために努力しています。各正常性維持機関の協力の下、マンハッタンはかつての姿を間もなく取り戻すでしょう。アメリカの自由と平等の精神は、この素晴らしい島に息づいています。
[カメラはソーホー市街地に掲げられたアメリカ国旗を映す。国旗の脇に財団旗とニューヨーク市旗が掲げられている。続いてサイト-28地上事務所の銘板が映し出される。市民バンドによる国歌演奏がバックコーラスに入り、映像が切り替わる。スーツ姿のSCP-2911-JP-B-Ωが財団職員の介助を受けて銅像の定礎に献花している]
リポーター: 先日の追悼式典の様子です。この日初めて公の場に姿を現した悪魔集団のトップは、厳重な警備の下でグラウンド・ゼロの慰霊碑に献花を行いました。境界線イニシアチブ法廷とニュージャージー州戦没遺族協会の抗議によって演説は中止されましたが、カオス・インサージェンシーによる強要の事実が明らかになったことで、市民からは悪魔集団を擁護する声も上がっています。
アナウンサー: 彼らもテロの犠牲者だとする見方もある、ということですね。
リポーター: マンハッタン・クライシスにおける悪魔集団の関わりについて、専門家の間でも意見が割れています。今後様々な事実が国連の特別法廷で明らかになるでしょう。現時点で明白なことは、社会の団結を破壊しようとするインサージェンシーの脅威に対して、アメリカは勝利したということです。マンハッタンは再び栄光を取り戻すでしょう。中継を終わります。
[国歌演奏は2周目に入る。復興中のマンハッタンの写真が複数合成されたポートレートが展開し、大統領と復興担当大臣のメッセージが挿入される。財団と世界オカルト連合の旗が翻るイメージ映像が数秒流れ、映像がスタジオに切り替わる]
アナウンサー: 大変素晴らしいことです。ありがとうございました、ジェフリーズ。マンハッタン島からの中継でした。
【後略】
マンハッタン島の復興事業が完了した後、契約は財団の監視統制下でニューヨーク・ニュージャージー港湾公社と市労働局に移管されました。SCP-2911-JP-B実体への半年間限定の雇用ビザ発給は2003年から始まり、続く2004年に改訂されたニューヨーク州法により、1 WTCはSCP-2911-JPの唯一の出入国管理区画として承認されました。契約に盛り込まれた収容政策としての移動制限条項により、SCP-2911-JP-B実体の移動可能な地区はマンハッタン島に限定されていましたが、2009年のメーデーを機にニューヨーク市全域に拡張されました。
2011年現在、ニューヨーク市はアメリカ合衆国唯一の合法的な悪魔実体の居住・就労が認められた都市です。財団統計部門の集計によれば、労働人口のおよそ15%がSCP-2911-JP-B実体を含む悪魔実体によって構成されています。この割合は年々拡大しつつあり、財団は状況を注視しています。
new-york-668616_1280.jpg2011年現在のマンハッタン島。