CSF JAPAN 脳脊髄液減少症ホームページ | ごあいさつ

[画像:ごあいさつ]

序文

国際医療福祉大学熱海病院 脳神経外科教授

日本脳脊髄液漏出症学会 理事
篠永正道

脳脊髄液圧が低下することによる頭痛は以前から知られていました。検査や麻酔のために施行される腰椎穿刺後にしばしば起立性頭痛が起こることはそのひとつです。特に原因がなく脳脊髄液が漏出し脳脊髄液圧が低下して激しい起立性頭痛やめまいなどの症状が生じる疾患は特発性低髄液圧症候群といい、神経内科や頭痛の教科書に載っていますが、人口10万ににつき数名程度の発症で極めて稀な疾患とされています。特発性低髄液圧症候群は起立性頭痛、低髄液圧、造影脳MRI検査のびまん性硬膜造影の3徴候が特徴です。
一方軽微な交通事故や転倒、スポーツなどの後に頭痛、頚部痛、めまい、目のかすみ、耳鳴り、倦怠・易疲労など多彩な症状が持続する患者は決して稀ではなく、外傷後症候群、むち打ち症後遺症、軽度外傷性脳損傷などと診断されていました。しかし診断がついたとしても適切な治療法がなく長期にわたり多彩な症状で苦しむ患者さんは少なくありません。従来言われていたこと以外に何か別の病態があるのではないかと模索をしていたところ、むち打ち症後遺症と特発性低髄液圧症候群の症状の類似性に気づき、軽度の外傷による脳脊髄液の漏れが多彩な症状を引き起こしているのではないかとの考えに至りました。2000年のことです。数名の患者さんに脳MRI検査とRI脳槽シンチグラフィーを行ったところ、脳脊髄液の漏出像が得られました。さらに多数のむち打ち症後遺症患者さんで脳脊髄液漏出像を確認しました。この発見をいくつかの学会に演題を応募しましたがいずれも不採用となりました。初めて発表できたのは2003年の日本脊髄外科学会です。追突事故で髄液が漏れることはありえないと批判されましたが、その後も学会発表、論文作成を行い、徐々に認知度がたかまり、テレビや新聞でも取り上げられるようになりました。この疾患に関心を寄せる医師があつまり2003年には低髄液圧症候群研究会まで結成され(2004年に脳脊髄液減少症研究会と改称)、今年第14回脳脊髄液減少症研究会がおこなわれました。

[画像:日本脳脊髄液減少症研究会]

また日本脳脊髄外科学会がよびかけ、関連学会等からのメンバーが集まって厚生労働省研究班(嘉山班)が発足しこれまでに6年間研究を続け、脳脊髄液漏出症画像診断基準が作成されました。


http://www.id.yamagata-u.ac.jp/NeuroSurge/nosekizui/organization/index.html

現在のところ治療の根幹となるブラッドパッチ治療が健康保険の適用外であることも一因で、脳脊髄液減少症の診断と治療を行える病院は決定的に不足しています。国際頭痛学会が低髄液圧性頭痛の新たな診断基準を公表してからこの疾患の診断がより的確にできるようになったとはいうものの多くの医師が情報を共有できる状態にはなっていません。脳脊髄液減少症の診療を行って、脳脊髄液が減少することにより神経系の機能不全がもたらされることがわかってきました。脳脊髄液の産生・吸収・循環や脳脊髄液の役割についても新たな知見がえられつつあります。
軽微な外傷後に脊髄液が漏出し多彩な症状が出現するのは日本だけの現象ではありません。国際学会での発表や英文論文のあるのですが残念ながら国際的には軽微な外傷後の脳脊髄液減少症は認知されていません。引き続き国際学会や論文発表は続けるべきですが、一日も早くこの疾患で苦しんでいる世界中の患者さんを助けるためにはインターネットを用いた情報発信が大変有用と思います。

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