2020年3月
新型コロナウイルスの流行のもたらす研究や教育への影響
2020年03月26日 | 固定リンク
いまの世間の最大の関心事は,なんといっても,新型コロナウイルスの世界的な流行の問題です。現時点(2020年3月下旬)で,この先のこのウイルスの感染拡大がどのようになるか,予測がつきませんが,大学ではこんなことがあったということを書いてみます。
本学の場合,1月で授業は終わりで,1月下旬から2月上旬に定期試験や卒業研究などの発表会/審査会があり,そこまでは,とくに新型コロナウイルス流行の影響はありませんでした。4年生の場合,2月〜3月に研究室や部活動の仲間と就職前の卒業旅行に行く人が多いのですが,これは,予定通り行けた人,行くのをやめた人にわかれました。
3月は,大学の授業がない時期であることから,さまざまな分野の学会が開催されるシーズンです。私も「日本水環境学会」に出席予定で,私自身の発表に加えて学生の発表も予定していたのですが,大規模集会の自粛の一環で開催が中止されました。ほかにも,さまざまな分野で春休みに学会が予定されていましたが,3月に開催が予定されていたほとんどの学会が中止になったようです。
3月19日は卒業式でした。本学では,多人数が集合する全体の式典は行わないことにして,研究室ごとに卒業証書を授与しました。卒業式が中止になるのは,2011年の東日本大震災のとき以来になります。
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3月19日の研究室ごとの卒業式
感染症というと,空気感染や飛沫感染などを思い描いてしまいますが,水や食品を経由する感染症もたくさん知られています。私の専門とする上下水道もイギリスでの産業革命以来の感染症流行へのたたかいのなかで技術が進歩してきました。
物理学者かつ随筆家の寺田寅彦がいまから80年以上も前に「ものをこわがらな過ぎたり、こわがり過ぎたりするのはやさしいが、正当にこわがることはなかなかむつかしいことだ」と書いています。この言葉は,危機管理を専門とする研究者にしばしば引用されます。正体がつかめないリスクに対して,最初はこわがり過ぎて過剰に対処しますが,それが面倒になってくると,こんどは,怖がらな過ぎて痛い目にあうかも知れません。大学での学習(本学では「学修」という字をあてています)の究極の目標は,正当にこわがる力をつけることかも知れません。
水環境工学研究室 浦瀬太郎
食品の保存について
2020年03月16日 | 固定リンク
先日、新型コロナウィルスの影響で、カップ麺や冷凍食品といった保存食が買いだめの対象になったというニュースがありました。保存食はこういった時に買い込むのではなく、常日頃から準備しておくようにする必要があるでしょう。
このような背景から今日は保存食についてお話ししたいと思います。食品の保存方法の1つとして冷凍保存が挙げられます。冷凍保存は数ある食品の加工方法の中で最も加工前の状態に戻すことができる方法です。また、私は研究テーマとして、凍結解凍を取り扱っていることもあって、「冷凍こそ究極の食品保存法だ!」と声を大にして言いたいところです。しかし、「保存」という部分に着目すると、究極の食品の保存法は缶詰ではないかと考えます。ここで、冷凍と缶詰を比較してみましょう。
上の表を見ると、冷凍保存後に生の状態に戻すことができるという点においては冷凍に軍配が上がりますが、停電になると冷凍食品は使い物になりませんし、解凍しなければアイスクリーム以外は食べることができません。その点、缶詰は低温で保存する必要もないですし、基本的に缶を開けてそのまま食べることができることから、保存という観点では缶詰に分がありそうです。
なお、滅多にあることではありませんが、保存能力の高い缶詰であっても、缶蓋が膨らんだ缶詰は、殺菌不足により残存した微生物が保存中に増殖していることを示しているため、食べてはいけません。また、缶が錆びた場合も、腐食した部分から微生物が混入し、中身が汚染されている可能性があるため、消費は控えましょう。逆に言うと、缶に異常がなければ基本は消費可能ということになります。以前、私の出身大学で、数十年前に学生の実習で製造されたマグロのオイル漬け缶を食べた教授が「味が馴染んでいて美味い」と言っていました。恐るべし缶詰...。
実際に、私も学生時代に賞味期限間近のツナ缶を購入して数年置いて、味が馴染んで美味しいマグロ缶を食べようとしました。しかし、当時付き合っていた彼女に、賞味期限が何年も過ぎてたからという理由で、勝手にそのツナ缶を捨てられてしまいました。もちろん、喧嘩になったのは言うまでもありません...。
これを読んでいる皆さん、賞味期限が過ぎた缶詰は勝手に捨てないようにしましょう!
高機能性食品研究室 阿部周司
"ラクトフェリン"—脊髄損傷治療薬への挑戦—
2020年03月03日 | 固定リンク
アンメットメディカルニーズ (Unmet Medical Needs)という言葉をご存知でしょうか?未だ治療法が見つかっていない疾患に対する医療ニーズのことで、より具体的なものとしては、治療法が見つかっていない疾患の治療薬が含まれます。私の研究室ではこのアンメットメディカルニーズに応える治療薬の開発を目的として、大学院生や学部生が日々新しいバイオ医薬品の開発に取り組んでいます。特に我々の身体で我々の健康を保つために自然免疫で機能する"ラクトフェリン"というタンパク質に着目して研究を進めています。
ラクトフェリンはミルクに多く含まれるため、機能性食品としての開発が進んでいる分子ですが、医薬品としての開発実績はありません。えっ、食品が薬になるの?と驚いた方も多いのではないでしょうか?ここでは、私達の研究グループが見出した意外な?ラクトフェリンの機能をご紹介したいと思います。
上述したアンメットメディカルニーズの一つに、脊髄損傷治療があげられます。脊髄損傷とは事故などで、脳と身体を繋ぐ神経の束である脊髄が損傷することで、運動や感覚機能などに障害を生じる病態を指します。この治療薬として、ラクトフェリンが有望ではないかいう可能性を我々は見出しました。脊髄損傷の病態主要因は、脊髄損傷後に起こる活性化アストロサイトからのコンドロイチン硫酸プロテオグリカン (CSPG) の産生、分泌であり、CSPGを受け取った神経の成長円錐はその機能が崩壊して、神経軸索伸長が著しく阻害されることがわかっています。ラットの脊髄損傷モデルで、CSPGを消化する酵素コンドロイチナーゼABCを投与すると、その病態が著しく回復することから、CSPGは脊髄損傷の病態主要因であることが改めてわかります。したがって、CSPGは脊髄損傷治療の創薬ターゲットとして有望なことから、製薬企業はCSPGに結合して、その毒性を中和する分子を探索してきましたが、有望な分子は報告されておりません。
私の研究室では、中村真男助教を中心とする研究室グループが世界に先駆けてヒトラクトフェリン (hLF) が硫酸化グリコサミノグリカンに結合すること、特に脊髄損傷時の原因分子であるコンドロイチン硫酸 E (CS-E) に結合して、その毒性を中和することを見出しました(特許出願済み)。具体的には、ニワトリ胚脊髄神経節(DRG) 神経細胞を用いて、CS-Eによってもたらされた成長円錐の崩壊、並びにそれに伴う神経軸索伸長阻害がhLFにより回復できることを確認しました。さらに、研究室で開発した血中安定性が向上したヒト血清アルブミン (HSA) との融合製剤であるhLF-HSAは(特許出願済み)、hLF単独よりその効果を示しました。我々が狙っているアンメットメディカルニーズは、例えば、上述した脊髄損傷、敗血症(動物実験で病態発症後の治療効果を確認済み)、ガンなどで、製薬会社の知人らからはチャレンジングだねえ・・・とからかわれていますが、大いに本気です。何より嬉しいことは、この苦難を伴うチャレンジを学生がやりがいに感じてくれて、一生懸命に取り組んでくれることなのです。
留学のすすめ
2020年03月02日 | 固定リンク
皆さん、留学に興味はありませんか。しかも語学留学ではなく、海外で研究を行う留学です。
応用生物学部は令和元年に、アメリカのテキサス大学健康科学センターと人材交流・共同研究を行うための協定を結びました。同大学では、細胞分子生物学科の学科長を務められている池辺光男先生が、本学からの学生の受入も担当されています。池辺先生は筋肉収縮や細胞運動を担うタンパク質であるミオシンの研究をされていて、令和元年には本学で学術講演もされています。写真は、当日の懇親会後に撮ったものです(左側が池辺先生)。
英語のみならず研究の留学というと、とてもハードルが高そうに思うかもしれませんが、写真を見てわかるとおり、池辺先生は非常に優しい方で面倒見が良く、普通に日本語で(ここが大事かも!)研究や普段の生活のアドバイスをしていただけます。もちろん、研究室にはアメリカ人を始め多くの留学生がいますので、会話を楽しみながら英語も、バイオの研究も、そして国際感覚も身に付けられます。すでに私の研究室で今度4年生になる女子学生が、池辺先生の研究室に4月から留学することが決まっています。
私も大学院修士2年生のときに1年間アメリカに留学しましたが、そのときの経験がいまでも役に立っており、思い切って行って本当に良かったと思っています。実はそのときにお世話になったのが池辺先生でした。池辺先生は当時も、そして今でも、若い人が海外にどんどん出て、経験を積むことを強く勧めています。皆さんもぜひチャレンジしてはいかがでしょうか。
以下、池辺先生からのメッセージです。
「日本人は良くも悪くも、すこし控えめというか謙遜というか、国内では美徳なのですが、国際的にはそのように思ってもらえません。もっと楽観的にズーズーしいくらいに考えてよいのです。なにしろこちらには、1回DNAのアガロースゲル電気泳動をしたくらいで、Molecular Biology の経験がある!という人間が沢山いますから。
そちらの学生さんたちにもっと自信を持つように言ってください。そして、もっと、Challenging に。特に若いときに。
たくさんの学生さんがこちらに来て経験を積み、勉強もするように期待しています。」
生命科学コース 矢野和義