2010年11月
鯨・南の魚・鶴・鳳凰・兎 〜晩秋の夜の動物ウオッチング〜
2010年11月26日 | 固定リンク
行く末は空もひとつの武蔵野に草の原よりいづる月影
藤原良経が詠んだ歌です。仕事を終えて研究所棟の建物を出ると、秋の武蔵野の空にぽっかりときれいな月が昇っていることがあります。冬の到来を目の前にして、空気はいよいよ澄みわたります。
透明度の高い秋の夜空を見上げると、さびしい感じがします。夏にはこと座やはくちょう座、冬にはオリオン座やおおいぬ座といった、明るい星を従えた星座がたくさんありますが、秋の星座の中で、一等星はみなみのうお座のフォーマルハウトだけです。明るさも一等星の中ではやや暗い1.16等です。みなみのうお座の下にはつる座があります。最も明るいα星アルナイルは1.7等星、次に明るいβ星は2等星です。この二つが関東地方では地平線の上すれすれに見えます。南の方角には横浜や相模原といった大都市が夜も眠らず明々と光り輝いているので、これらの星座を見る機会はあまりありません。でも、久しぶりにフォーマルハウトやアルナイルを見つけられた時には、旧友に出会ったような嬉しい気持ちになります。
みなみのうお座の東に、ちょうこくしつ座という聞きなれない名前の星座があります。オリオン座などの有名は星座とは異なり、この星座は18世紀になって命名された星座です。明るい星もなく、全く目立たない星座ですが、この星座の方向に天の南極があります。私たちが住むこの地球は天の川銀河という小宇宙の中にありますが、天の川銀河は円盤のような形をしています。従って、円盤の面の方向を地球から見れば、たくさんの星が帯のように見えるのです。これが天の川です。この円盤に垂直な方向が天の北極と南極になり、天の川銀河を形成する星が少ないので、遠くの宇宙まで見渡せることになります。天の北極はかみのけ座の方角にあります。さて、天の南極ちょうこくしつ座の方角を見ると、遠くの銀河を見ることが出来ます。NGC253という小宇宙は双眼鏡でも比較的見やすい銀河です。この秋は、小型デジタルカメラでこの小宇宙を撮影しようと思っています。
この宇宙には、地球外生命体がいるのでしょうか?応用生物という、「やくにたつ」生物学を追い求める毎日の中で、時々考えます。目的の微生物を培養しようとしても、どうしても雑菌が入ってしまったり、あるいは滅菌をしたつもりでも、いつの間にか雑菌がふえてしまったりすることがよくあります。私たちの周りにはこんなに生物がありふれているのに、地球から離れてしまうと月にさえ生物を見つけだすことが出来ないということは驚きです。
ちょうこくしつ座の南にはほうおう座、北にはくじら座があります。くじら座のτ(タウ)星は、太陽と似た恒星であると考えられているため、地球外知的生命体探査(SETI)の標的となった最初の星です。残念ながら地球外生命が存在する証拠は得られませんでした。しかし、生命が私たちだけだったら、宇宙(スペース)がもったいないですよね*。くじら座にはもう一つ面白い星があります。ミラという名の変光星です。一年弱の周期で2等星から10等星まで明るさが変化します。膨張と収縮を繰り返していると考えられていますが、こんな星が近くにあったら近くの惑星に生命は住めるのでしょうか?
環境が周期的に変化する方が、生存に適することもあると思います。数万年前の人類の文明の発展のきっかけとして、冬の寒さをどうやって乗り切るかという切実な悩みがあったと考えられます。気温やpH、温度の周期的な変化があってはじめて、生物は様々な遺伝子を持つようになり、その後襲ってくる環境の変化にも適応できる子孫を残すようになったのではないでしょうか。ひょっとすると、周期的に環境が変化するところに住んでいる生命の方がたくましいのかもしれません。イタチとウサギのように、捕食者と被食者が存在する空間で両者の個体数がどのように変化していくかを計算する上で、非線形科学という学問が役に立ちます。コレラ菌のような病原菌が病原性を持つようになるのも、実は非線形科学を使って予測できるのではと私は考えています。モデル微生物として、光るバクテリアを用いた実験を行っています。星の光も、バクテリアの光も、人類が明りを発明するはるか昔からこの世に灯っていたものなのですね。周期的に変化する環境にすむ生物、あるいは生物が示す周期性を日々研究しながら、はるか彼方の天の南極に思いをはせる八王子の晩秋です。
イクメンササキ
*ある映画の台詞の受け売りです。すみません。
博物館めぐり
2010年11月08日 | 固定リンク
Photo1
ゼウスの大祭壇
Photo2
ミレトスの市場門
Photo3
ベルリンのボーデ博物館
国際会議で海外に行くと、休日を利用して博物館を巡ります。
ベルリンのシュプレー川中洲にあるペルガモン博物館では、ペルガモン王国(現トルコ)の遺跡から運ばれた「ゼウスの大祭壇」やエーゲ海の古代都市ミレトスにあった「ミレトスの市場門」、バビロニアの「イシュタール門」などのスケールの大きな建造物に圧倒されます。フンボルト大学の付属博物館であったフンボルト自然史博物館では始祖鳥やブラキオサウルス、ケントロサウルスなど古生物やアフリカで産出された恐竜骨格の実物標本を見ることができます。ロンドンのサウスケンジントン駅近くにはロマネスク風の建物の自然史博物館があります。そこには7000万点以上もの収蔵品からなる生命科学・地球科学のコレクションが展示されています。
博物館には収集した自然や人工の産物を分類整理して展示されていますが、手書きのラベルのついた標本を見ると、それを作った人の想いを感じます。貴重な物を展示するだけではなく、それらを収集したり整理したりした人が生きていた時代の博物館でもあるのです。
東京にもいくつかの博物館があります。上野駅近くの上野恩賜公園にある国立科学博物館には、ステゴザウルスやトリケラトプスの実物標本や、モルフォチョウなど地球の様々な生物の標本が展示されています。また、標本やディスプレイを使って、生物の進化の様子が科学的にわかりやすく説明されています。約40億年前に誕生した生命は、大きく変動する地球環境の中で誕生と絶滅を繰り返して進化を遂げてきたのです。
生命の偉大さと博物館のすばらしさに感動です。
(前田憲寿)
屋上緑化
2010年11月08日 | 固定リンク
こんにちは。応用生物の多田です。
わたしは、植物の機能を環境問題の解決や生活を豊かにするために利用する研究を行なっています。
今日は、その中で屋上緑化の研究を紹介します。
屋上を緑にするとどのようないいことがあるのでしょうか。
眺めているとなんとなく気分がいいという効果のほかに、葉から蒸散する水の力でビルの温度を下げたり、その地域の気温を下げる効果があります。打ち水をすると涼しいという効果と同じです。もちろん、植物が太陽光をさえぎる日よけの効果もあります。
今年の夏は暑かったですね。最近は寒くなって、夏のことはもう忘れてしまいそうですが、今年の夏のデータを一部紹介します。
下の図のように、私がいる研究所の屋上の一部にサツマイモとクズを栽培して、温度がどのくらい下がるか調べてみました。
下のグラフからわかるように、何もないコンクリートが50°C近くになっても、植物に覆われた部分は37°C程度でした。37°Cも結構高いですが、思い出してみてください。この頃の最高気温は35°Cくらいでした。
このように屋上緑化は屋上のコンクリートとその周りの気温を下げるのに効果がありますが、この研究のミソは、植物としてツル性のサツマイモやクズを利用することにあります。
長くなるのでここで詳しくは説明できませんが、屋上緑化を都市の気温を下げ、二酸化炭素を減らし、バイオ燃料の生産にもつながる一石三鳥の技術にしたいと思っています。
多田研究室HPへのリンク → http://www.teu.ac.jp/tada/
第4回 高校生のための応用生物実験講座報告
2010年11月02日 | 固定リンク
10月31日(日)に、第4回「高校生のための応用生物実験講座」が開催されました。当日は台風の影響が心配されましたが、台風は一足先に遠のいてくれて、予定通りの開催となりました。今回は5名の高校生と、1名の高校の先生が参加してくれました。実験のお題は「酵素反応を利用した糖尿病の診断薬を作ってみよう」!!
指導は、バイオセンサー関連特許出願数300件以上を誇るバイオセンサーの鬼?(とても優しい先生ですよ)本学、応用生物学部の後藤正男教授です(写真1)。
まず始めに、市販されている尿計測器と尿試験紙によるグルコース濃度測定を体験します(写真2)。今回、尿は使わずにグルコース水溶液を測定しました。これにより、糖尿病におけるグルコース測定のイメージを皆さんに持ってもらいます。
次は実際に市販されている血糖測定器と同じ原理で、グルコースセンサーを試作します。センサー(電極)を切り取り(写真3)、酵素(グルコースオキシダーゼ)をセンサー(電極)に固定します(写真4)。
その後、既知濃度のグルコースサンプルの測定を行い、検量線を作製します(写真5)。最後に未知濃度のサンプルを測定し、検量線からその濃度を算出しました。
当日は大学院生であるTAの丁寧な指導をうけ、楽しく実験を行うことができました(写真6、7)(報告 応用生物学部、佐藤 淳)。