ボート搭載型の水中カメラを用いた浅海底観測システムの開発
(筑波研究学園都市記者会、環境省記者クラブ同時配布)
独立行政法人国立環境研究所
環境計測研究センター
環境情報解析研究室 主任研究員 小熊宏之
生物・生態系環境研究センター
生物多様性保全計画研究室長 山野博哉
本システムは、ハイビジョン水中ビデオカメラとGPS及び姿勢センサを小型フロートボートに搭載した観測システムと、新たに開発した画像解析手法によって構成されています。潜水による調査をせずに浅海域の海底地形やサンゴなどの立体的形状の計測と、海底の観測対象に地理座標を付与することを可能とした世界的にも珍しいシステムです。
これにより、浅海域を対象としたモニタリングなど反復調査が飛躍的に進展するものと期待されます。
1. 経緯
近年、サンゴの白化や死滅、藻場の衰退など浅海域の生態系の変化が観察されており、同域を反復して詳細に観測し、変化を定量的に明らかにして原因を究明する必要性が高まっています。従来、浅海域海底の詳細な観測は、スノーケリングや潜水調査により行われ、広域を対象とした調査には限界がありました。また、水中ではGPSなどの衛星測位システムが利用できないため観測対象の精確な測位が困難であり、これが反復調査の妨げとなっていました。よって、サンゴ礁や藻場など浅海域の生態系においては、海底地形やサンゴ・海藻の三次元形状と現存量の把握や、生息位置の特定および経年的な変化に関する情報が乏しいのが現状です。
以上から、1群体の判別を可能とする高解像度画像の撮影、2ステレオ解析による海底地形や生物の三次元情報と現存量の取得、3生物の生息位置を特定するための地理座標の付与、4撮影画像を接合することによる詳細かつ三次元的な浅海底の広域画像の作成などの、反復して調査を行い変化を定量的に明らかにできる観測システムの開発が必要とされていました。
2. システムの概要と特徴
本システムは、小型フロートボートの左右に配置した水中ビデオカメラで海底の撮影を行います(図1〜3)。フルハイビジョン(1920x1080画素)のビデオカメラを用いることで、水深5m程度での観測時には1cmよりも細かい解像度で撮影が可能です。また、同一の観測対象を左右のビデオカメラでステレオ撮影することにより、対象の三次元形状を数値化し、三次元モデル(DSM:Digital Surface Model)を作成することが可能となります(図4)。
次に、ビデオカメラの撮影と同期してGPSによる位置座標と姿勢センサ(ジャイロ)によるフロートボートの傾き情報を収録します。DSMに撮影画像を投影し三次元化(図5)すると共に、同時収録したGPS及び姿勢センサの情報に基づき、三次元化した画像に緯度・経度を付与します。
小型フロートボートにシステムを実装したことにより、小型漁船でも座礁する危険のある極めて浅い海域でも観測が可能です。
3. 今後の発展
これまで浅海底の反復調査では、GPSが使えないことから、調査対象を特定するために目印などを使う必要がありましたが、本システムによる撮影画像は全画素に位置情報を持つことから、精確な反復調査が容易になります。また、高さ情報も同時に得られることから海底地形やサンゴ・海藻等の三次元形状と現存量の経年変化の抽出も容易となります。
今後、地球温暖化で注目されるサンゴ礁の白化現象や再生状況のモニタリング、藻場をはじめとした浅海域の漁場評価、河川・湖沼の水底調査、更には水中構造物の点検等への活用が期待されます。
さらに、ナビゲーションシステムの搭載などにより自動航行と観測を行うシステムへと発展させ、手軽な調査やモニタリングを可能とすることが期待されます。
4. 問い合わせ先
小熊宏之(おぐま ひろゆき)
電話: 029-850-2983
e-mail: oguma(末尾に@nies.go.jpをつけてください)
山野博哉(やまの ひろや)
電話: 029-850-2477
e-mail: hyamano(末尾に@nies.go.jpをつけてください)
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