イベント報告
2014年11月8日開催特定秘密保護法施行直前シンポジウムのご報告
1 100人を超える聴衆
特定秘密保護法に対しては、国民から「知る権利」を侵害し、民主主義社会の根幹を揺るがす希代の悪法であるとの反対意見、危惧が多く聞かれ、日弁連また当会を含む全国の各弁護士会もこれまで同法の成立、施行に一貫して反対し、意見表明、街宣行動、シンポジウムなど様々な運動を行ってきました。
しかし、反対の声をよそに平成25年12月6日、同法は成立し、昨年12月10日、施行されてしまいました。その後の報道によると、外務防衛両省だけでも秘密指定が計6万件にも上る見通しとのことです。
さて、同法施行を目前にした平成26年11月8日、当会では秘密保護法について考えるべく「秘密保護法で社会はどう変わる?−この道はいつか来た道、とならないために−」とのシンポジウムを開催しました。会場の弁護士会館3階ホールは計100名を超える市民、会員、報道関係者等が来場し、熱気に満ちた雰囲気となりました。
2 田島教授の基調講演
三浦会長の挨拶の後、我が国のメディア法研究の第一人者で、同法に反対してこられた田島泰彦教授(上智大学)が「特定秘密保護法施行前に−問題点と課題を考える。」と題した基調講演をされました。
田島教授は、本法成立の経緯として約30年前の中曽根内閣時に構想され反対に遭い成立しなかったスパイ防止法、2006年の第一次安倍内閣におけるカウンターインテリジェンス(防諜活動)の強化、という流れがあったことを説明された上で、この法律の制定は、表現の自由規制、自衛軍創設、秘密情報機関(日本版CIA)、憲法改正と政府が構想しこれから展開していく流れの第一歩であると指摘されました。
同法は国家の情報の保管だけでなくその前の取得や取り扱う者の管理(適性評価制度)の段階から前のめりになって国家秘密を守ろうとするもので、これを土台として秘密国家化が増殖する。同法は原則情報の開示範囲を拡大し、例外の秘密とされる部分は最小限にしようとしている現代の国際的な民主主義の方向と逆行するものだと同法を厳しく批判されました。
また同法の予定する秘密指定・監視の仕組みについても、独立公文書管理監、内閣保全監視委員会は官僚同士が身内で監視するもので実効的な監視が期待できないこと、国会議員で構成される情報監視審査会もメンバーはほぼ与党で占められ、委員に罰則・懲戒のある守秘義務が課されるため、充分な監督が期待できないことを指摘され、いずれの監督機関も秘密指定にコミットすることができず、強制力もないため監視の実効性がないと批判されました。
3 西山太吉さんの基調講演
続いて、沖縄密約事件で有名な西山太吉さん(元毎日新聞記者)が「沖縄密約とは何であったのか−最高裁判決を経て−」と題した基調講演をされました。
西山さんは自身が原告となった沖縄密約文書に関する情報公開訴訟の最高裁判決(平成26年7月14日)までの経緯(第一審は歴史的勝訴、控訴審逆転敗訴、最高裁も控訴審を維持)を説明されました。
西山さんによれば90年代、米国政府から25年経過で開示を受けた公文書から沖縄返還交渉時日米間に密約があったことは明らかだったにも関わらず、日本政府は一貫してこれを否定し続け、文書を廃棄し、上記訴訟においても文書がないと主張してきたとのことです。上記の最高裁判決はそのような経緯から文書が廃棄された可能性が充分あると立証したにもかかわらず、原告側に現在の文書の存在の立証責任を負わせ、当時文書があったという証明ができないから敗訴となったとのことで、西山さんはこのことについて、「官僚が文書を廃棄すれば開示を免れられるという不当なことを最高裁が認めてしまっている。」と批判されていました。そしてこの判決について知る権利の重要性と秘密保護法施行後への示唆を含んだ重要なものだった。そういう観点からの報道が全くなかったとも言われていました。また、西山さんは「知る権利の保障の前提は知らせる側がいることだ。ウォーターゲート事件やベトナム戦争のペンタゴンペーパーもそうだった。この秘密保護法は知らせる側を規制するわけだから知る権利が成り立たなくなる」と警鐘を鳴らされました。
4 パネルディスカッション
その後、田島教授、西山さんに、浦川修氏(歯科医、福岡県歯科保険医協会理事)と武藤糾明会員が加わり、パネルディスカッションが行われました。浦川氏は同法が予定している秘密取扱者への精神病歴等を中心とする適性評価制度は、精神疾患者への偏見を助長し医療を受ける権利を侵害するだけでなく、医師に患者情報の提供を求めるもので医師の守秘義務という根本原則を破壊し極めて問題であるとされ、武藤会員は国際比較、歴史に照らして見て日本の秘密保護法の問題であること、立法事実もないことなどを説明しました。
更に、今回のパネルディスカッションではパネリスト以外に4つの新聞社の報道部長クラスの方々からの会場発言がありました。
ある新聞社の方は、同法に「8割賛成2割留保である」とされ、「我が国の安全保障環境は悪化しているから、勿論プライバシーや表現の自由との関係で運用に慎重さが求められるにせよ、立法は必要だと思う。必ずしも戦前に逆戻りというわけではないと思う。適性評価制度等については危険なものを取り扱う人にはそれ相応の規制があってしかるべきでいわばフグの調理師免許の様なものではないか」との意見を言われました。
他方、反対する立場の方からは、同法による規制について「メディアがチェックできず、歴史的な検証ができなくなる」「副作用が大きすぎる」「現場の取材経験では、取材対象である公務員が「秘密保護法があるからね」などと言い、施行前なのに既に萎縮効果に似た影響が出ているように感じた」などの意見がありました。
5 最後に
今回のシンポの会場の雰囲気は独特のものがあり、参加された方の多くは、「こんな重要な問題について、必要性についての国民的議論の展開も充分な説明もないまま、さっさと国会だけで決められてしまっていいのか」と怒りと危機感を感じ「何とかせねば」「何をすればよいのか」と切実な思いを持っておられたように思います。11月22日にも当会主催の集団的自衛権に関するシンポが開催されましたが、そこでも同じような雰囲気を感じ、近年あまりにも憲法の価値観が疎かにされていることについて、国民的な怒りの胎動を感じたように思いました。
しかし、その後示された民意によれば、田島教授がおっしゃっていた流れが更に加速していく可能性が高いものと思われます。しかし、このような状況であるからこそ、諦めることなくなお一層これからの展開を厳しく注視し、立憲主義的視点から市民に分かりやすく訴えていく必要性を感じています。
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