イベント報告
2017年12月19日開催犯罪被害者の支援条例制定へ!〜犯罪者支援シンポジウム「犯罪被害者支援条例を考える(第2回)」〜ご報告
1 犯罪被害者支援条例で支援が具体化!
2017年12月19日、アクセス良好の天神ビル会議室にて福岡県弁護士会主催シンポジウム「犯罪被害者支援条例を考える(第2回)」が開催されました。同年7月の第1回に引き続き、半年もしないうちに同じタイトルで第2回を開催するということからも、犯罪被害者支援条例が福岡県で制定される機運が非常に高まっていることがお分かりいただけると思います。ちょうどシンポジウムから1か月後の今年1月19日、西日本新聞朝刊一面でも、"早ければ今年3月に福岡県議会へ犯罪被害及び性被害の2本立てで被害者支援条例案が提出される"旨の報道もあったところです。
そもそも第1回のシンポジウムは、2004年に犯罪被害者等基本法(以下「基本法」といいます。)が制定され、2013年3月に「福岡県犯罪被害者取組指針(2017年4月改定)」が策定されたものの、未だ犯罪被害者及びその家族又は遺族(以下「犯罪被害者等」といいます。)に対する支援が十分であるとはいえない現状を踏まえ、充実した犯罪被害者等に対する支援のための福岡県条例制定に向けた啓蒙活動の一環として開催されたものです。
当日は、多数の市民や役場の被害者支援担当者のほか、当会会員も参加し、テレビ・新聞などのマスコミも多数参加する中、会議室は程良い緊張感に包まれました。
当会会長作間功弁護士の挨拶により開会となる予定でしたが、あいにく、急用で出席は叶わなかったものの、丁寧なメッセージを寄せていただき、当日司会だった私が代読しました。作間会長のメッセージは、第1回シンポジウムに引き続き、弁護士会が日本最大の人権NGOとして、立法活動を支えることは法律の専門家集団としても大きな意義があることに触れるなど、大変力強いものでした。
2 第1部 犯罪被害者支援条例の解説
第1回シンポジウムでも好評だった当委員会副委員長林誠弁護士の犯罪被害者支援条例についての解説は、基本法及び地方自治法から、地方公共団体が犯罪被害者等に対する具体化支援の役割を担うべきであることを確認したうえ、基本条例のみでは担当窓口が継続される保証はなく、担当者次第で支援が細切れになってしまい、現実には犯罪被害者等の方々が役所へ問合せに行ってもたらい回しにされ長時間待たされた挙句「分る者がおりません」と言われたとのエピソードも交え、犯罪被害者支援条例の必要性が指摘されました。
第1回シンポジウムパネリストの佐藤悦子氏の尽力により、大分県でも佐賀県に続いて犯罪被害者支援条例が制定され、内容としても市町村が支援金支給し、県が助成することを含めて制定されるなど、充実した条例が制定されたと報告がなされました。
特に、福岡県は性犯罪認知件数が全国第3位、人口割合では第2位と件数・犯罪率とも特に高いため、犯罪被害者支援条例制定が急務であるとのことでした。
また、神奈川県の犯罪被害者支援条例等の実例を交え、現実的で、かつ犯罪被害者等が求める条例モデル案を叩き台にして、あるべき福岡県の犯罪被害者支援条例について丁寧に講義がなされました。
3 パネルディスカッション
後半は、犯罪被害者遺族2名と当会会員で児童相談所常勤弁護士の久保健二会員、当委員会委員長の藤井大祐会員、同前委員長の世良洋子会員をコーディネーターとしてパネルディスカッションが行われました。
被害者遺族の古賀敏明氏から、婚約直前のご子息が大阪で通りすがりの男2名から暴行を受けて死亡したものの、犯人は分らず、懸賞金300万円をかけご子息友人達の協力を得て探し出し、2名とも刑事裁判では実刑となったこと、しかし、民事裁判で合計8900万円の損害賠償請求を認める判決が確定したのに、ほとんど支払いはなく、時効完成前に自費で再提訴を余儀なくされ、やはり支払いはほとんどなされていないと、なんともやるせないお話がありました。また、弁護士探しにも心当たりがなくて苦労したそうです。
久保健二会員からは、児童相談所に常勤する中での児童に対する性加害の実態、認知が困難であること、被害児童が何度も同じことを聞かれて疲弊すること等の対処の困難さについて報告がありました。特に、性加害を認知した大人の対応として気をつけるべきこととして、「親が実子に性加害をするわけない」「男子は性加害の被害者にならない」等との偏見から、被害児童が勇気を出して告白しても逆に疑われる等の二次被害が生じている等の指摘がありました。
被害者遺族のもうお1人は、前回シンポジウムでも事例報告をしてくださった山本美也子氏でした。山本氏は、飲酒運転で当時高校生の息子さんを亡くされ、福岡県の飲酒運転撲滅条例制定へ尽力され、報道等でもご存じの方も多いと思います。講演活動(既に約900回にもなるそうです!)や被害者等でつながりを持つなかで、様々な犯罪被害者の方々の状況を知るようになったそうです。特に性被害では、人には言えなくとも髪をむしったり学校に早朝から遅くまでいる等のSOSは出していたケース、幼少の頃の性被害について子育てするようになって苦しめられるようになった母親等、被害に終わりはないようです。また、犯罪被害者は犯罪の性質や状況により、様々であり被害者同士であっても安易に声をかけられず、地方自治体の専門窓口による継続的な支援の必要性を指摘されました。
藤井大祐会員からは、依頼者が犯罪被害者の場合に、無保険の交通事故など損害賠償の回収が難しいケースのほか、児童に対する性加害には社会資源として一般には重要な家族に期待ができないことの深刻さを指摘され、弁護士業務の視点からも地方自治体による支援制度としての犯罪被害者等の条例による救済が必要との指摘がありました。
様々な視点から、コーディネーターの世良洋子会員が、上記のような様々なエピソードを引き出し、犯罪被害者支援活動を継続してきた同会員だからこそ、「犯罪被害者支援条例は悲願です」との言葉には非常に重みがありました。
4 おわりに
犯罪被害者やその遺族の方々は、犯罪被害に遭うまでは普通の生活を送ってきた方々ばかりです。私が、あなたが、今日、被害者になるかもしれません。また、性被害の暗数の多さは想像に難くありません。犯罪者の権利擁護を率先してきた弁護士ですが、犯罪被害者に寄り添うことも少数者の人権擁護に不可欠です。
既に、福岡県議会でも犯罪被害者支援条例の制定に動きつつありますので、ぜひ当会会員の経験や意見を反映させ、より良い被害者支援へ役立てていきたいものです。どうぞ今後とも犯罪被害者支援条例制定へのご支援、ご意見をお寄せください。
活動報告一覧
- シンポジウム「LGBTと制服」報告(2017年10月14日開催)注目!
- 「人と動物が共生する社会の実現のために」シンポジウム開催のご報告(2022年8月27日開催)
- ジュニアロースクール2022春in福岡を開催しました(2022年3月30日開催)
- ジュニアロースクール2021春in福岡を開催しました(2021年3月30日開催)
- ジュニアロースクール2019春in福岡を開催しました(2019年3月26日開催)
- ジュニアロースクール2018春in福岡を開催しました(2018年3月27日開催)
- 天神地下街無料法律相談会を開催しました(2018年3月11日開催)
- 憲法学習会「自民党の『加憲』案を考える」報告(2018年3月2日開催)
- 精神保健当番弁護士制度発足25周年記念公開シンポジウム 「オープンダイアローグが日本の精神科医療にもたらすもの」〜地域精神科医療の推進に向けて〜ご報告(2018年2月24日開催)
- ライジングゼファー福岡とコラボしました!(2018年1月20日開催)
- シンポジウム「再生可能エネルギーの可能性(先進事例から考える九州の未来)」報告(2018年1月20日開催)
- 犯罪被害者の支援条例制定へ!〜犯罪者支援シンポジウム「犯罪被害者支援条例を考える(第2回)」〜ご報告(2017年12月19日開催)
- 筑後地区ジュニアロースクール2017−アリとキリギリスを題材とした主権者教育−ご報告(2017年12月2日開催)
- 憲法・自衛隊勉強会のご報告とご案内(2017年11月17日開催)
- 遺言セミナー・無料相談会ご報告〜どんな方が参加するのか・どんなセミナーにすればいいのか〜(2017年11月12日開催)
- 「創業応援セミナー〜創業時のお金のハナシ〜」報告(2017年11月10日開催)
- 「LGBTと制服」を終えて 〜小石を置いていませんか?〜(2017年10月14日開催)
- 福岡県信用保証協会との連携覚書の締結(2017年9月25日開催)
- 大連律師協会との交流会IN大連のご報告(2017年9月21日開催)
- 日本国憲法公布70周年記念講演の報告(2017年8月26日開催)
- 第60回人権大会プレシンポジウム 監視社会で失われる市民の自由を考える ―公権力から丸裸にされ、批判を封じられる主権者でいいか― に参加して(2017年6月19日開催)
- 九州北部豪雨に関する無料法律相談実施報告(2017年8月17日開催)
- 主権者教育から考える死刑制度問題「高校生向け企画(主権者教育)やってみよう『模擬国会〜死刑廃止法案は可決か否決か?〜』」報告(2017年8月6日開催)
- 18歳は大人ですか?〜少年法適用年齢引下げ問題シンポジウム〜ご報告(2017年8月5日開催)
- 犯罪被害者支援委員会 犯罪者支援シンポジウム「犯罪被害者支援条例を考える」報告(2017年7月30日開催)
- 「女性の権利110番」のご報告(2017年6月23日開催)
- 連続シンポジウム「地域で防ごう消費者被害in福岡」報告(2017年6月17日開催)
- 共謀罪法の問題を考える緊急シンポジウムのご報告(2017年6月15日開催)
- 専門職によるくらし・事業なんでも相談会ご報告(2017年6月3日開催)
- 子どもの日記念電話相談ご報告(2017年5月13日開催)
- シンポジウム「子どものいのちを守るために〜学校現場における自殺予防を考える〜」のご報告(2017年3月12日開催)
- 中小企業法律支援センター企画「中小企業経営者と若手弁護士の交流会」報告(2017年2月17日開催)
- 被害者支援は弁護士の責務 −明石市・泉房穂市長のご講演−ご報告(2016年11月15日開催)
- 『ジュニアロースクール2016夏 in福岡』報告(2016年7月22日開催)
- 「憲法違反の安保法の市民集会及びパレード」のご報告(2016年6月11日開催)
- わたしが起業?!夢をカタチにする秘訣、教えます!『女性新ビジネス応援セミナー』報告(2016年1月19日開催)
- 遺言・相続全国一斉相談会ご報告(2015年11月16日開催)
- 「国際仲裁セミナー」開催のご報告(2015年9月25日開催)
- シンポジウム「なくせ『女性の貧困』〜男女がともに豊かな社会を創造するために〜」報告(2015年8月29日開催)
- 「先生のための〈夏休み法教育セミナー2015〉」を開催しました!! 〜法教育委員会の皆で頑張りました☆〜(2015年8月10日開催)
- 憲法市民集会ご報告(2015年8月2日開催)
- シンポジウム「あなたの会社の『女性活躍推進』弁護士が手伝います」開催報告(2015年3月4日開催)
- 精神保健当番弁護士22周年記念公開シンポジウム「改正法における早期退院と弁護士の役割」報告(2015年2月21日開催)
- シンポジウム「自死をなくすために」のご報告(2015年2月7日開催)
- 武装より女装 〜集団的自衛権の市民集会に参加して〜(2014年11月22日開催)
- 特定秘密保護法施行直前シンポジウムのご報告(2014年11月08日開催)
- 裁判ウォッチングのご報告(2014年10月14日開催)
- シンポジウム「密保護法で社会はどう変わるのか」ご報告(2013年10月26日開催)
- 「RKBラジオまつり」のご報告(2013年10月19日開催)
- 中小企業法律支援センターだより 中小企業のための講演会「中小企業版M&Aのすすめ」及び全国一斉無料法律相談会開催報告(2013年9月12日開催)
- 憲法委員会市民講座 「自衛隊が国防軍に変わるとき」に参加してみて(2013年9月6日開催)
- 「労働の規制緩和が日本を壊す!?」シンポジウムのご報告(2013年8月30日開催)
- シンポジウム「福祉における弁護士とケアマネジャーの連携体制の構築に向けて」報告(2013年8月10日開催)
- 労働相談ホットライン実施報告(2013年6月10日開催)
- 日弁連人権擁護大会プレシンポジウム「「自死」をなくすために〜自死を防ぐための気づき・つなぎ・見守りとは何かを考える〜」のご報告(2012年9月3日開催)
- ジュニア・ロースクール2012報告(2012年8月18日開催)
- インターネット被害対策110番ご報告(2011年11月26日開催)
- シンポジウム「司法改革の光と闇 法曹人口大増員政策の行方」報告(2011年12月2日開催)
- 筑後部会・憲法講座実行委員会 第7回 市民のための憲法講座「君が代・日の丸と憲法」ご報告(2011年11月5日開催)
- 「裁判ウォッチング」のご報告(2011年10月19日開催)
- 講演会「いま、原子力発電を考える」のご報告(2011年9月29日開催)
- ジュニア・ロースクール2011ご報告(2011年8月20日開催)
- 修猷館高校での出前授業のご報告(2011年5月17日開催)
- 「精神科医療を動かすもの・・『社会的入院』の解消に何が必要か」〜精神保健当番弁護士制度発足17周年記念シンポジウム〜ご報告(2010年10月18日開催)
- 「高校生模擬裁判選手権九州大会」報告(2010年8月7日開催)
- 第24回司法シンポジウム・福岡プレシンポジウム「行政訴訟改革シンポジウム〜国民に真に役立つ行政訴訟制度を〜」報告(2010年7月24日開催)
- 高校生の熱き闘い!「高校生模擬裁判選手権九州大会」報告(2009年8月8日開催)
- 中小企業のためのシンポジウム報告(2008年3月8日開催)
- 春日西中学校 法教育・消費者教育授業ご報告(2007年11月29日開催)
- 取調べの可視化シンポジウム報告(2007年9月1日開催)
- 人権擁護大会プレシンポジウム「監視カメラとまちづくり」報告(2007年7月21日開催)
- 代監って知ってますか「代用監獄の廃止を求める市民集会」報告(2006年3月31日開催)
- 全国一斉先物取引被害・外国為替証拠金取引被害110番報告(2006年1月26日開催)
- 平野中学校 法教育研究授業ご報告(2005年10月24日開催)
- 「女性の権利110番」電話相談ご報告(2005年6月27日開催)
- 「こどもの日記念無料相談」ご報告(2004年5月8日開催)
- 取調べ可視化全国一斉集会・福岡会場ご報告(2004年3月25日開催)
- 福祉の当番弁護士発足3周年記念シンポジウム報告(2003年9月19日開催)
- 「すべての少年に付添人を!」 公的付添人制度実現に向けたシンポジウム報告(2003年5月30日開催)
- 裁判員ドラマ上映会報告(2003年5月24日開催)
- 「止めよう住基ネット・住基カード」シンポジウム報告(2003年3月28日開催)
- 大盛況の「ヤミ金シンポジウム」報告(2002年11月30日開催)
- 「女性の権利110番」実施報告(2002年10月26日開催)
- ヤミ金融根絶を目指す決議 〜九弁連定期大会にて〜ご報告(2002年10月25日開催)
- 『心神喪失者等医療観察法案に関するパネルディスカッション』報告(2002年9月27日開催)
- 「福祉の当番弁護士」2周年記念シンポジウム、プレ企画相談会報告(2002年9月12日開催)
- 「裁判員制度」について考えるパネルディスカッション報告(2002年8月5日開催)
- 『ゲートキーパー』問題に関する緊急講演会報告(2002年7月29日開催)
- ADRの可能性について 〜レビン小林久子氏をお招きして〜ご報告(2002年7月15日開催)