花のない花屋

そっけない態度を謝る前に旅立った母と、母に尽くしてくれた姉に

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2025年05月22日

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ペットと暮らすリノベーション【総集編】「ペットと人の共生を考える」

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フラワーアーティストの東信さんが、読者のみなさまと大切な誰かの「物語」を花束で表現する連載です。あなたの「物語」も、世界でひとつだけの花束にしませんか? エピソードのご応募はこちら

〈依頼人プロフィール〉

高田早紀子さん(仮名) 29歳
パート
埼玉県在住

私は母と、昔はよく一緒に映画やコンサートに行ったり、小説の貸し借りをしたり、お買い物をしたりしていましたが、私が就職で遠方へ引っ越すことになりその頻度は少なくなっていきました。

そんななか2年前のある日、母と同居する姉から電話で、「お母さんが難病の可能性があって入院して検査することになった。難病じゃなく、別の病気の可能性もあるそうだけど」と言われました。この時は、せめてお願いだから治る病気であってほしいと、祈ることしかできませんでした。

ところが願いもむなしく、母は筋萎縮性側索硬化症(ALS)と診断されました。原因不明で治療法もまだない難病です。症状は人によってさまざまですが、ほとんどの人は筋力がなくなって動けなくなってしまう病気で、母の筋力も少しずつ落ちていきました。

しばらくすると母は自宅で過ごすことを望み、家族としてもかなえたいと、自宅介護が始まりました。私は遠方に住んでいたこともあり、2カ月に1回、1週間から2週間ほど滞在するくらいで、つきっきりで母と過ごすことはできませんでした。代わりに姉が母の介護をしてくれて、母と共に病気と闘ってくれていました。

それまで介護経験のなかった姉は訪問介護のお医者さんや看護師さんに支えてもらいながら学び、母をコンサートにも連れていってくれていました。母の望みを実現してくれた姉には、本当に感謝しています。

一方私は、たまに帰って母の介護をすると、病状が進んで意思疎通ができないことを目のあたりにして心がささくれてしまい、母の方がつらいのはよくわかっているのに、優しくするより、そっけなく接してしまった自分がいました。そんな自分の態度を後悔しながら、「2カ月後来るからまたね」とだけ伝え、帰り道で「つぎに会う時は母に絶対優しくしよう。謝ろう」と心に決めていました。

ところがまもなく、母はあの世へ旅立ってしまいました。65歳でした。いずれ別れが来ることはわかっていたのに。今でもあるのは、後悔だけです。

引っ越す時に新幹線の改札で私の姿が見えなくなるまで見送ってくれた母。慣れない介護で優しくできなかった私にも、身体を大切にと心配してくれた優しい母。そんな母はお花も大好きでした。天国の母と、そして母のために尽くしてくれた姉に、お花を贈っていただければと応募しました。ごめんなさい。そして、ありがとう、と。

《花材》ダリア、ガーベラ、バラ、ラナンキュラス、オダマキ、ブバルディア、カンパニュラ、カランコエ、ユーカリ

花束をつくった東さんのコメント

いつも子どもたちを心配してくれた優しいお母様と、そのお母様の介護を引き受けてくれたお姉さん。そして弱っていく母を認めたくないという思いから、ときにそっけなく接していた自分をいつも後悔していた投稿者様。そんな三人三様の優しさが伝わるような、暖かな春色があふれるアレンジメントを作りました。

「次に会うときは母に謝りたい」という決心がかなえられる前にお母様は亡くなられましたが、温かい家族の形を、このアレンジと一緒に思い出してもらえればうれしいです。いつまでも。

そっけない態度を謝る前に旅立った母と、母に尽くしてくれた姉に

文:福光恵
写真:椎木俊介

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こんな人に、こんな花を贈りたい。こんな相手に、こんな思いを届けたい。花を贈りたい人とのエピソードと、贈りたい理由をお寄せください。選んだ物語を元に東さんに花束をつくっていただき、花束は物語を贈りたい相手の方にプレゼントします。その物語は花束の写真と一緒に&wで紹介させていただきます。

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