一院制

一院制(いちいんせい、英: unicameral system)とは、一つの「議院」のみで構成される議会が政治的な議論を行い活動する制度である。対照的な制度は両院制。

「院」が複数あるのは、中世のヨーロッパの「身分制議会」であったことに起因する。フランスの三部会は、「貴族」「僧侶」「平民」の三つの身分階級から一つの院が構成されていた。この内、平民の議員のみ選挙で選出されていた^[1] 。中世のスウェーデンの議会の始まりは、「貴族」「聖職者」「富豪」「農民」の会合は19世紀に身分制度が廃止されるまで続き、1866年には二院制に再編して第一院の議員は県議会から適宜補充され、第二院は直接選挙で選ばれる制度であった。しかし、1971年に「高負担高福祉」の国家が既に貴族制度もなくなり、議員が増えると歳出が無駄に増える無駄な議院を二つも持つ必要はないとの理由から、二院制を廃止して直接選挙だけの一院制へと移行した。

フィンランド・ノルウェー・デンマークなどスカンデナヴィアを中心とした高負担高福祉の北欧諸国では1970年代に両院制から一院制に移行した^[2] 。他に先進国ではイスラエル・ニュージーランド・ポルトガル・ルクセンブルクなどが一院制である^{[3] [4] [5]} 。世界の主要国で両院制を採用している国では下院を「国民代表」の議会としている。上院については、連邦制の国家であるアメリカ・カナダ・ロシア・ドイツ・オーストリア・ベルギー・オーストラリア・インド・メキシコ・ブラジル・マレーシア・パキスタン・アルゼンチンなどように「連邦代表」の院を上院とする国と、イギリスの貴族院のように昔のまま上院を「階級代表」の議会として分けている。日本のように上院も下院も、双方が一般の国民の投票から「国民の代表」として選ばれるという議会を二つ置くという二院制の国は珍しい。フランスでは下院は有権者による投票の「国民の代表」の議会であるのに対して、上院では地方議員が占める選挙人団が投票する。当選者は地方議員や首長と上院議員とを兼任する。連邦国家であるドイツでは各州の人口に応じて上院議員数が決められており、下院議員と違って国民の投票による選挙では選ばれず、各州による派遣制となっている。同じく連邦制のアメリカの上院は任期6年で、2年に一度3分の1ずつ改選される全50州から各州2名の合計は100人の州の代表で構成されている^[6] 。

一院制をとる代表的な民主主義国としてスウェーデン・トルコ(トルコ大国民議会)・韓国(国会)^[7] ・台湾(中華民国立法院)などが挙げられる。ロシアはフィリピンのように一院制から両院制へ移行した国である^[8] 。ロシアは連邦構成主体の行政府と立法府それぞれの長を上院のメンバーにしていたが、2000年には任期4年でその代弁者らを上院議員とするドイツの上院議会の仕組みのようになった^[9] 。

パリ第二大学教授のピエール・アヴリルによると、フランスでは19世紀末から両院制がとられ、しばしば一つの主権に(上下両院)二つの議会はおかしいという批判を受けたが、1946年及び1969年の憲法改正の国民投票では賛成を得られず上院が維持されており、「強いて問題があるとすれば、更に近代化を進めるべき」と指摘している^[10] 。連邦国家であるベルギーでは2004年 8月に首相のヴェルホフスタットが上院を下院に吸収合併する一院制移行の提案をしたが失敗している^[11] 。欧州連合(EU)の立法システムは、欧州議会及び閣僚理事会双方の承認を要する方向に進んでおり、一種の二院制のような形になっているとされる^[12] 。

日本では、参議院(上院)について、衆議院(下院)と全く同じ意思を示すと「カーボンコピー」(英: Carbon Copy)と揶揄され、衆議院と正反対の意思を示すと「決められない政治」と言われる難しい存在であるという指摘がある^[13] 。そのため参議院不要論など一院制への移行が主張されることがある。一方、一票の格差が衆議院より大きい人口比例により大都市部の代表が増えて農村部ないし非都市部の代表が減ることへの危惧などから、衆議院とは異なり参議院については地域代表の院としての性格を持たせることで独自性を発揮させるべきといった意見もある^{[14] [15]} 。

1. 二院のねじれによる政治の行き詰まりがない^[16] 。
2. 立法の迅速化が可能となる^[16] 。
3. 審議の効率化が可能となる^[16] 。
4. 議会の開催のコストを低減できる^[16] 。

1. 議会が一院のみで独走を防ぐ機関がない^[16] 。
2. 審議の慎重さを欠き議案の拙速な処理が行われる可能性がある^[17] 。
3. 二院制に比べて代表の多様性の点で劣る^[17] 。
4. 一つしかない議会が解散されて総選挙が行われる前に、議会決議が必要な事態に対応できない恐れがある。

五十音順。★印は活動停止中。

• アゼルバイジャンの旗 アゼルバイジャン、アラブ首長国連邦の旗 アラブ首長国連邦、アルメニアの旗 アルメニア、アンゴラの旗 アンゴラ、アンドラの旗 アンドラ、イエメンの旗 イエメン、イスラエルの旗 イスラエル、インドネシアの旗 インドネシア、ウガンダの旗 ウガンダ、ウクライナの旗 ウクライナ、エリトリアの旗 エリトリア
• ガーナの旗 ガーナ、カーボベルデの旗 カーボベルデ、カタールの旗 カタール、ガンビアの旗 ガンビア、朝鮮民主主義人民共和国の旗 北朝鮮、ギニアの旗 ギニア、ギニアビサウの旗 ギニアビサウ、キプロスの旗 キプロス、キリバスの旗 キリバス、グアテマラの旗 グアテマラ、クウェートの旗 クウェート、クック諸島の旗 クック諸島、ジョージア (国)の旗 ジョージア、コモロの旗 コモロ
• サモアの旗 サモア、サントメ・プリンシペの旗 サントメ・プリンシペ、ザンビアの旗 ザンビア、サンマリノの旗 サンマリノ、シエラレオネの旗 シエラレオネ、ジブチの旗 ジブチ、シリアの旗 シリア、シンガポールの旗 シンガポール、スリナムの旗 スリナム、スロバキアの旗 スロバキア、セーシェルの旗 セーシェル、セネガルの旗 セネガル、セルビアの旗 セルビア、セントクリストファー・ネイビスの旗 セントクリストファー・ネイビス、セントビンセント・グレナディーンの旗 セントビンセント・グレナディーン、ソマリアの旗 ソマリア、ソロモン諸島の旗 ソロモン諸島
• タンザニアの旗 タンザニア、チャドの旗 チャド、中央アフリカ共和国の旗 中央アフリカ共和国、中華人民共和国の旗 中華人民共和国、チュニジアの旗 チュニジア、ツバルの旗 ツバル、トーゴの旗 トーゴ、ドミニカ国の旗 ドミニカ国、トンガの旗 トンガ
• ナウルの旗 ナウル、ニウエの旗 ニウエ、ニジェールの旗 ニジェール
• バチカン市国の旗 バチカン市国、パナマの旗 パナマ、バヌアツの旗 バヌアツ、パプアニューギニアの旗 パプアニューギニア、パレスチナの旗 パレスチナ★、バングラデシュの旗 バングラデシュ、フィンランドの旗 フィンランド、ブルガリアの旗 ブルガリア、ブルネイの旗 ブルネイ、ベトナムの旗 ベトナム、ベナンの旗 ベナン、ボツワナの旗 ボツワナ
• 北マケドニアの旗 北マケドニア、マーシャル諸島の旗 マーシャル諸島、マラウイの旗 マラウイ、マリ共和国の旗 マリ、ミクロネシア連邦の旗 ミクロネシア連邦、南スーダンの旗 南スーダン、モーリシャスの旗 モーリシャス、モザンビークの旗 モザンビーク、モナコの旗 モナコ、モルドバの旗 モルドバ、モルディブの旗 モルディブ、モンゴル国の旗 モンゴル
• ラトビアの旗 ラトビア、リトアニアの旗 リトアニア、リヒテンシュタインの旗 リヒテンシュタイン、ルクセンブルクの旗 ルクセンブルク、ルワンダの旗 ルワンダ、レバノンの旗 レバノン

数字は、一院制に移行した年。

• アイスランドの旗 アイスランド (1991年) 、アルバニアの旗 アルバニア (1928年) 、イラクの旗 イラク (1958年)^{[注釈 1]} 、イランの旗 イラン (1979年) 、ウズベキスタンの旗 ウズベキスタン(2005年)、エクアドルの旗 エクアドル (1979年) 、エジプトの旗 エジプト (1952年) 、エストニアの旗 エストニア (1940年) 、エルサルバドルの旗 エルサルバドル (1886年)
• ガイアナの旗 ガイアナ (1966年) 、大韓民国の旗 韓国 (1961年) 、キューバの旗 キューバ (1960年) 、ギリシャの旗 ギリシャ (1935年) 、キルギスの旗 キルギス (2005年) 、クロアチアの旗 クロアチア (2001年) 、ケニアの旗 ケニア (1966年) 、コスタリカの旗 コスタリカ (1869年)
• ジンバブエの旗 ジンバブエ (1989年) 、スウェーデンの旗 スウェーデン (1970年) 、スーダンの旗 スーダン (1958年) 、スリランカの旗 スリランカ (1971年)
• 中華民国の旗 中華民国(2005年)、デンマークの旗 デンマーク (1953年) 、トルコの旗 トルコ (1980年)^{[注釈 2]} 、トルクメニスタンの旗 トルクメニスタン (2023年) 、ニカラグアの旗 ニカラグア (1979年) 、ニュージーランドの旗 ニュージーランド (1951年)
• ハンガリーの旗 ハンガリー (1945年) 、ブルンジの旗 ブルンジ (1966年) 、ベネズエラの旗 ベネズエラ (1999年) 、ペルーの旗 ペルー (1992年) 、ポルトガルの旗 ポルトガル (1974年) 、ホンジュラスの旗 ホンジュラス (1866年)
• マルタの旗 マルタ (1936年)
• ラオスの旗 ラオス (1975年) 、リビアの旗 リビア★ (1969年)
• 海外領土: 米領バージン諸島、 英領バージン諸島、グアムの旗 グアム、グリーンランドの旗 グリーンランド、ケイマン諸島の旗 ケイマン諸島、ジブラルタルの旗 ジブラルタル
• 中華人民共和国における特別行政区:香港の旗 香港、マカオの旗 マカオ

数字は、二院制(≒両院制)に移行した年^[18] 。

• アルジェリアの旗 アルジェリア (1996年) 、エチオピアの旗 エチオピア (1995年)
• カザフスタンの旗 カザフスタン (1995年) 、ガボンの旗 ガボン (1991年) 、カメルーンの旗 カメルーン(2013年)、カンボジアの旗 カンボジア (1998年) 、キルギスの旗 キルギス (1994年) 、グレナダの旗 グレナダ (1983年) 、クロアチアの旗 クロアチア (1990年) 、コートジボワールの旗 コートジボワール(2016年)、コンゴ共和国の旗 コンゴ共和国 (1992年)
• スペインの旗 スペイン (1976年) 、赤道ギニアの旗 赤道ギニア(2012年)、セネガルの旗 セネガル (1998年)
• タジキスタンの旗 タジキスタン (1999年) 、ドイツの旗 ドイツ (1949年) 、ドミニカ共和国の旗 ドミニカ共和国 (1924年)
• ナミビアの旗 ナミビア (1989年) 、ネパールの旗 ネパール (1990年)
• ハイチの旗 ハイチ (1987年) 、パキスタンの旗 パキスタン (1973年) 、パラオの旗 パラオ (1981年) 、パラグアイの旗 パラグアイ (1967年) 、フランスの旗 フランス (1852年) 、ブルキナファソの旗 ブルキナファソ (1991年) 、ベラルーシの旗 ベラルーシ (1996年) 、ポーランドの旗 ポーランド (1989年) 、ボスニア・ヘルツェゴビナの旗 ボスニア・ヘルツェゴビナ (1998年)
• メキシコの旗 メキシコ (1874年) 、モーリタニアの旗 モーリタニア (1991年) 、モロッコの旗 モロッコ (1996年)
• ルーマニアの旗 ルーマニア (1991年) 、ロシアの旗 ロシア (1993年)

• 参議院憲法調査会事務局『参議院憲法調査会における海外派遣調査の概要』参議院憲法調査会事務局、2005年。 NCID BA72416733 。https://ndlsearch.ndl.go.jp/books/R100000002-I000007850712 。 
• 秋山和宏, 石川晃司『現代政治過程』三和書籍、2011年。ISBN 9784862510907。 NCID BB05824728 。https://ndlsearch.ndl.go.jp/books/R100000002-I000011189332 。 

• 議会
• 両院制
• 参議院不要論
• 参議院改革論

• 一院制議会
• 名数1